懲戒処分の種類や違法とならないための判断基準・手順について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
懲戒処分とは、服務規律に違反したことに対する制裁罰です。使用者は、一定の条件を満たせば懲戒処分を行うことができますが、比較的軽い処分であったとしても、従業員の出世や賞与に影響することがあります。
また、懲戒解雇などの処分は転職にも大きく影響します。そのため、従業員が懲戒処分を受けることの影響は大きいと考えるべきでしょう。
懲戒処分を行うときには法律上のルールを把握しておかなければ、処分した従業員から裁判等を起こされるリスク等があるため、適切な処分(内容及び手続面のいずれも問題となります。)なのかを慎重に判断しなければなりません。
そこで、本記事では、懲戒処分の種類や法律上のルール等について解説します。
目次
懲戒処分とは
懲戒処分とは、会社の秩序を維持するために定められたルールに違反した従業員に対して行われる処分です。
会社のルールそのものや、ルールに違反した従業員に対して懲戒処分を行うことは、就業規則に明記しておく必要があります。
使用者は、従業員に対して懲戒処分を行うことができます。しかし、適切な方法による必要があるのであり、使用者の気分によって処分できるわけではありません。
もしも、懲戒処分を濫用してしまうと、違法・無効と判断される場合もあります。そのため、処分を行うときには、慎重に検討することが必要です。
懲戒処分を行う目的
懲戒処分を行う目的には、問題行動を起こした本人に制裁を与えることで、企業秩序を維持し、企業活動を円滑に運営することにあります。問題行動を戒めることによって、会社として従業員を管理する体制を整えていることを明らかにします。
また、懲戒処分を受けた従業員の行為内容が、企業にとって好ましくない問題行動であることを社内に示すことも目的としています。懲戒処分によって、同様の行為が繰り返しされないように啓発します。
懲戒処分の種類とレベル
懲戒処分は、図のような処分が定められることが多いです。右に行くほど処分の重さのレベルが上がり、最も重い処分が懲戒解雇とされています。懲戒解雇は、裁判例上、労働者にとっては死刑に例えられることもある、極めて重い処分です。
戒告
懲戒処分である戒告は、労働者の将来を戒める処分です。
戒告は、口頭で注意をする、あるいは「戒告書」という文書を渡されるといった処分であることが多く、懲戒処分の中で最も軽い部類の処分だと位置付けられます。
しかし、あくまでも懲戒処分であるため、上司からの通常の注意とは性質が異なります。例えば、賞与の金額が減らされたり、昇進しにくくなってしまったりするおそれがあります。
なお、企業によっては「厳重注意」や「訓告」等の名称が用いられる場合もあります。
懲戒処分の中でも戒告・譴責について特に詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
譴責
譴責とは、従業員に始末書を提出させて厳重注意を行う処分です。
口頭の注意では済まないような言動(軽度のハラスメント等)があった場合や、注意しても遅刻を繰り返す場合等に用いられる処分です。
始末書とは、譴責処分を受ける原因となった言動について反省し、同じような言動を繰り返さないために提出する文書です。
一般的に、問題となった事実については簡潔に記載して、反省していることと、今後はどのように改善するのかを記載することが多いです。
減給
減給は、賃金を減額する処分です。労働者の経済的利益に直接影響する処分であるため、労働基準法は、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額以下、減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下のものでなければならないとの制限を定めています。
なお、減給について特に詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
出勤停止
出勤停止とは、一定の期間だけ、従業員が働くことを禁止する処分です。
出勤停止期間中は賃金が支給されないのが一般的であり、勤続年数にも算入されない場合が多いです。
また、期間の長さは1週間~2週間程度で定められることが多いでしょう。この期間が長すぎると、公序良俗に反するとして処分無効になるおそれがあります。
なお、特別に長い出勤停止として「懲戒休職」が定められているケースがあります。こちらは、1ヶ月~6ヶ月程度の期間が定められることが多いですが、あまりにも長期間の無給の休職は無効とされるおそれがあるため慎重に適用するべきでしょう。
出勤停止や懲戒休職について特に詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
降格
降格(降職・降級)は、従業員の行為に対して制裁を与えることを目的として、役職(職位)又は職能資格を引き下げる処分です。
懲戒処分でなくても、能力不足等の理由により、通常の人事権の行使として降格が行われることもあります。このときには、期待されている成績を達成できなくなった等の理由が必要です。一方で、懲戒処分を行う場合には就業規則上の根拠規定が必要です。
降格されると、役職手当や職務手当も減額されるのが通常です。しかし、それに加えて基本給まで減らすような懲戒処分は、重すぎる処分なので行うべきではないでしょう。
諭旨解雇
諭旨解雇とは、懲戒処分として、懲戒事由に該当することを理由として会社側が労働者に退職願又は辞表の提出を勧告し、退職を求める制度です。
懲戒解雇よりも軽い処分とされているものの、極めて重い処分であることは同様であり、本来は懲戒解雇に相当する場合において、情状酌量の余地があることや深く反省していること等に配慮して諭旨解雇となるケースが多いです。
また、所定期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に処する、という取扱いをする会社が多いです。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員を一方的に失職させる懲戒処分です。あらゆる懲戒処分で最も重い処分とされています。
懲戒解雇をするときにも、基本的には解雇する30日前までに解雇予告をするか、30日に足りない日数分の賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。しかし、解雇される原因が労働者にあり、かつ、労働基準監督署長の認定を受けた場合には、解雇予告等を行う義務が免除されます。
懲戒解雇について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事を併せてご覧ください。
国家公務員の懲戒処分
国家公務員の懲戒処分の種類と定義について以下表でまとめましたのでご覧ください。
戒告 | 口頭により、又は文書により行われる厳重注意です。 |
---|---|
減給 | 国家公務員の場合、1年以下の期間で、基本給の月額5分の1以下に相当する額を減給する処分ができます。地方公務員の場合、地方公共団体ごとの条例によります。 |
停職 | 国家公務員の場合、最長で1年間の停職が可能とされています。地方公務員の場合、地方公共団体ごとの条例によります。 |
降任 | これは懲戒処分ではなく、勤務実績が不良であるケース等において、職員の階級などを下げる「分限処分」です。「分限処分」は、人事の一環として行われます。 |
免職 | 公務員であっても、免職になれば職を失います。また、懲戒免職処分を受けた者の退職金は減額又は不支給になることが多いです。 |
懲戒処分の判断基準
懲戒処分を行うときには、次のような判断基準によって処分を検討する必要があります。
- ①懲戒処分の種類と事由が就業規則に明記されているか
- ②従業員の問題行動が就業規則上の懲戒事由に該当しているか
- ③行為の内容・性質に照らして処分が重過ぎないか
これらの基準によって、懲戒処分を行うことが妥当であるか、処分するとしても重さをどの程度にするかといったことを検討します。
就業規則の規定の有無
懲戒処分を行うためには、懲戒の種類と事由を就業規則に明示する必要があります。これは、労働契約を結んでいることによって行える手段(普通解雇、配転、損害賠償請求等)とは違い、懲戒処分が特別な制裁罰として位置付けられるためです。
なお、労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する事業場だけに就業規則の作成義務を課しています。しかし、就業規則がなければ懲戒処分を行うのが難しくなることから、作成義務が課されない事業場でも就業規則を作成するのが望ましいと考えられます。
また、就業規則は作成するだけでなく、所轄労働基準監督署への届出と、従業員への周知が必要になります。
懲戒処分に該当する事由について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
労働契約法15条の法的要件
労契法15条は、懲戒処分が「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当であると認められない」ときには無効とすることを定めています。
従業員による言動の内容や経緯などを考慮したときに、処分が重すぎると無効になるおそれがあります。そのため、従業員の言動の問題と処分の重さが釣り合っているのかについて、慎重に検討するべきでしょう。
なるべく専門家の意見を参考にする等、重すぎる処分にならないように注意しましょう。
懲戒処分に関する法律上のルール
懲戒処分を行うためには、労契法15条以外にも、罰則を与えるときには守るべき法律上のルールがあります。
具体的には、下の表に記載した原則に該当しない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となるおそれがあります。
原則 | 解説 |
---|---|
罪刑法定主義の原則の類推 | 懲戒処分を受ける行為と、どのような懲戒処分を受けるのかについて、事前に就業規則に明記しなければ懲戒処分を行うことができないという原則 |
適正手続の原則 | 懲戒処分を受ける行為があったと考えられる場合には、事実関係を調査し、処分の対象者に弁明の機会を与えなければならないという原則 |
相当性の原則 | 処分対象とした行為について機械的に処分するのではなく、行為に至った経緯や反省の程度等を総合的に考慮して、妥当な懲戒処分を行うべきであるという原則 |
平等取扱いの原則 | 過去の事例と比較して、同程度の懲戒処分を行うべきであり、処分の重さが大きく異なってはならないという原則 |
個人責任の原則 | 懲戒処分を受けるのは、対象となる行為をした者だけであり、同じ部署に所属している等の理由で無関係な者を処分してはならないという原則 |
二重処罰の禁止の原則 | 1つの行為に対して懲戒処分を行った場合には、同一の行為に対して再び懲戒処分を行ってはならないという原則 |
不遡及の原則 | 就業規則に新たに設けた規定により、その規定を設ける前になされた行為に対する懲戒処分を行ってはならないという原則 |
懲戒処分の手順
実際に懲戒処分は、就業規則に従い適切な手続きで進めます。就業規則で行うと定めた手続きを行わないと、懲戒処分が無効になるおそれがあります。
就業規則には、大まかに次のような手順を定めておくべきでしょう。
- 事実関係を把握するための調査を行う
- 当事者に弁明の機会を与える
- 懲罰委員会に意見を求める
- 処分の決定と告知を行う
それぞれの工程について、以下で解説します。
①事実関係を調査・確認する
懲戒処分を行うために、まずは事実関係を確認するための調査をして、勘違い等により処分することのないように注意する必要があります。
調査の際には、最初に被害者や通報者等の話を聞きます。このとき、被害者等の氏名を懲戒処分の対象者に明かしても良いかを確認して手続きを進める必要があります。
さらに、物的な証拠品(書類・録音・メール・SNSの記録等)などを収集してから、当事者ではない事情を知る者に対して聞き取りを行います。このとき、第三者の話であっても鵜呑みにせず、おかしな点がないかを注意深く確認するべきでしょう。
②弁明の機会を与える
被害者や第三者等から話を聞いてから、最後に当事者(懲戒処分の対象者等)の話を聞きます。
聴取を行うときには、担当者は2名程度にして、時間も2時間程度に抑える等、処分を受ける者への配慮が必要です。
このとき、当事者に「始末書」の提出を求めると、譴責処分との混同が起こり、二重処罰ではないかと言われてしまうおそれがあります。そのため、当事者に書面の提出を求める際には、「報告書」といった形式の書面の提出を求めるべきでしょう。
なお、弁明の手続きを就業規則に定める義務はありませんが、何らかの形で弁明の機会を付与しなければ、懲戒処分が無効になってしまうおそれがあります。
③懲罰委員会に意見を求める
就業規則に、懲戒処分を行うときには懲罰委員会を開催しなければならない旨を定めた場合には、懲罰委員会を開催しなければなりません。なお、懲罰委員会とは、会社が懲戒処分を行うときに設置して開催する委員会です。
懲罰委員会の設置は、就業規則に定める義務はありませんが、設置すると定めたときには就業規則に記載しなければなりません。メンバー構成や処分の決め方は法律に定められていませんが、弁護士等の専門家をメンバーに加えることを検討するのが望ましいでしょう。
④処分の決定と当事者への通知
懲戒処分を決定したら、その決定を対象者に通知します。通知の方法は法律で定められていませんが、「懲戒処分通知書」といった書面によって通知するのが望ましいでしょう。
通知書を渡すときには、なるべく本人に手渡しして、懲戒処分を行う理由などについて説明を行う等の配慮をするのが望ましいでしょう。また、通知するときの文面は、処分するまでの経緯や、就業規則上の処分の根拠等を明記する必要があります。
懲戒処分の決定までの期間は、調査などのためにある程度は必要ですが、半年以上に及ぶ等、処分の対象者が「処分はなさそうだ」と期待してしまうほどの長さにならないようにしましょう。
懲戒処分の社内公表と名誉棄損
懲戒処分を社内に公表すると、名誉棄損に該当するとして、損害賠償責任を負うリスクがあります。特に、懲戒対象者の氏名の公表は、当該労働者の名誉や信用を著しく低下させるおそれがあるため、事案ごとに妥当性を検討する必要があります。
懲戒処分の内容及び理由については、これを公表することにより再発防止等の効果が期待できるので、公表の必要性が認められると考えられます。しかし、仮に、懲戒対象者の氏名は公表しなくとも、あまりに詳細な内容を公表すると、処分を受けた個人が特定されてしまい、同人の名誉等を侵害するため違法となるおそれがあります。
また、処分対象者が所属する部署及び役職についても、これを公表することによって個人が特定されてしまうのであれば避けるべきと考えられます。仮に所属する部署及び役職を公表する場合であっても、個人が特定されない限度にとどめるべきでしょう。
懲戒処分時の退職金について
懲戒処分の中でも、従業員が懲戒解雇された場合には、退職金が減額されたり支給されなかったりすることがあります。
これは、懲戒解雇されると必ず退職金が減らされるといったものではありません。就業規則や退職金規程に、懲戒解雇の場合には退職金が減額・不支給となる旨が明記され、かつ、処分の対象になった従業員の行為が悪質であることが必要です。
また、従業員が退職した後で、懲戒解雇に匹敵する行為が発覚した場合等には、就業規則に記載しておくことによって、退職金の払い戻しを請求できる可能性が高まります。
なお、諭旨解雇の場合には、退職金を全額支給する等の優遇を行うことが一般的です。
処分を受ける前に退職の申し出があった場合
従業員が、懲戒解雇は避けられないと考えられるほどの不祥事を起こしてしまった場合には、自分から退職を申し出るケースがあります。従業員から退職を申し出れば、民法の規定により、2週間で退職が成立します。
そして、退職した元従業員に対しては懲戒解雇を行うことができません。そのため、「懲戒解雇された場合のみ退職金が減額又は不支給になる」と定めてしまうと、退職金を減額すること等ができなくなってしまいます。
そこで、退職する前に懲戒解雇に相当する言動をしていた場合には、退職金を減額または不支給とすることができると定めておくと良いでしょう。
懲戒処分に対する不服申し立て
会社による懲戒処分に納得できない場合には、従業員は書面の送付などにより不服を申し立てることができます。
会社が処分を変えるケースは少ないと考えられますが、従業員は裁判所の労働審判手続等によって不服を申し立ててくることもあります。
また、懲戒処分を行うことが不当である場合や、処分が重すぎる場合には、違法な懲戒処分が無効であることの確認請求や損害賠償請求を行うことも考えられます。
過度な懲戒処分を行うことや、就業規則等によって定めた手続きを踏まずに懲戒処分を行うことのないようにしましょう。
懲戒処分について争われた事例
【東京地方裁判所 令和3年9月7日判決】
本事案は、被告会社から譴責処分を受けた元従業員である原告が、被告会社へ慰謝料等を請求した訴訟です。
原告は、本件について弁明する機会が与えられなかったこと等から、懲戒処分の手続きが相当性を欠くものだと主張しました。一方で、被告会社は、原告の言動が企業秩序を乱したことから懲戒処分については妥当であると主張しました。
これらの主張に対し、裁判所は、被告会社が原告に対して譴責処分を行うときに弁明する機会を与えなかったことについて、些細な手続的上の不備にとどまるものではないと判断しました。
そして、裁判所は本件の譴責処分は懲戒権を濫用したものであるとして、原告に対する譴責処分は無効だと判断しました。くわえて、原告が譴責処分によって非常に大きな精神的苦痛を被ったとまでは言えないとしながらも、被告から原告への10万円の慰謝料支払いを認めました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある