従業員の無断欠勤・無断退職における企業の対応
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
無断退職は、会社にも周りの社員にも大きな影響を与えます。特に、社員やアルバイトが入社数日後から来社しなくなったケースや、長期の無断欠勤を続けるケースには頭を抱えることでしょう。
そのような問題社員はすぐにでも解雇したいと思われるかもしれませんが、解雇には厳しい法的規制が置かれており、容易に認められるものではありません。また、適切な手順を踏まないと、労使トラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。
本記事では、無断退職者が発生した場合の対応方法や注意すべき点について解説していきます。できるだけ穏便に、また迅速に解決できるよう、ぜひお役立て下さい。
目次
無断欠勤が生じた際の対応
無断欠勤とは、労働者が何の連絡もなく会社を休むことです。
無断欠勤が続くと、会社は大きな影響を受けるため、「早く辞めさせたい」と思われるでしょう。この点、一定期間以上の無断欠勤は解雇事由にあたり、懲戒解雇が認められる可能性があります。
無断欠勤が2週間以上続く場合、即時解雇が可能とされることがあります。
とはいえ、解雇は必ず認められるものではありません。労働者の事情や解雇に至るまでの経緯を踏まえ、解雇が客観的に合理的であり相当といえる場合にのみ認められます。
また、いきなり解雇するとトラブルになりやすいため、まずは退職勧奨を行い、合意退職を試みるのが賢明といえます。
退職に関する法律
退職を勧めるにしても、最終的に退職するかは労働者の自由です。よって、執拗に退職を迫ったり、退職届に無理やりサインさせたりする行為は違法となります。
雇用期間の定めがない労働者は、退職日の2週間前までに退職を申し出なければなりません(民法627条)。
また、雇用期間の定めがある労働者は、やむを得ない事情がない限り、期間途中で退職することはできません(民法628条)。
なお、無断欠勤などの事情があれば、解雇が認められることがあります。
無断退職扱いとする方法
無断欠勤が続く場合は、就業規則等の規定をもとに、本人から退職の申し出があったものとみなして自然退職、又は懲戒解雇の手続きを進めます。懲戒解雇は手続きが煩雑でハードルが高いため、できれば自然退職で進めるのが望ましいでしょう。
なお、自然退職とは、労働者や会社の意思表示なく、自動的に労働契約が終了し退職扱いとなることです。例として、本人の死亡、定年退職、長期の無断欠勤、休職期間満了などが挙げられます。
また、懲戒解雇とは、社内の規律違反への制裁として行われる解雇です。違反理由として、犯罪行為、金銭の横領、2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合、ハラスメント、経歴詐称等が挙げられます。
無断欠勤を自然退職とする場合
自然退職扱いにするには、就業規則にその旨が規定されていなければなりません。具体的には、以下のような規定が考えられます。
- 正当な理由がない無断欠勤が1ヶ月以上続いた場合、退職の意思表示があったものとみなし、退職扱いとする
- 本人と連絡が取れなくなり、勤労の意思が確認できないまま1ヶ月が経過した場合、退職とし、労働者としての身分を失う
ただし、本人に連絡し続け、状況を確認しようとしたことが前提となります。何もせずただ自然退職が成立するのを待っていた場合、退職の効力は認められないことがあるためご注意ください。
無断欠勤を懲戒解雇とする場合
懲戒解雇するには、客観的に合理的であり、社会通念上相当であることが必要です(労働契約法16条)。
無断欠勤の場合は、「本人や家族に連絡をとり、出勤を促し続けたか」、「欠勤の原因について、会社に責任はないか(パワハラやセクハラ、長時間労働はなかったか)」などを考慮し、解雇の正当性が判断されます。
また、懲戒解雇を行う場合は、あらかじめ就業規則等に「無断欠勤が2週間以上続いたときは、懲戒解雇とする」などの懲戒規定を設けて、社員に周知しておくことが必要です。
なお、いきなり重い制裁の懲戒解雇を行うと、裁判等で不当解雇と判断される場合があるため、まずは譴責や減給等の軽い懲戒処分による警告を行ったうえで、懲戒解雇するのが望ましいでしょう。また、懲戒解雇をする場合でも、労基法で定められた解雇予告が必要となります。詳細は次項でご説明します。
懲戒解雇の手続きについては以下の記事で詳しく解説していますので、ご確認下さい。
無断退職者への解雇予告
労働者を解雇する場合、解雇日の30日前までに本人に解雇を予告する必要があります(労働基準法20条)。もっとも、無断欠勤者に直接解雇を言い渡すのは難しいため、通常は郵便で解雇通知書を送付します。
なお、30日以上の解雇予告期間を置かずに解雇する場合は、賃金額に応じた解雇予告手当を支払う必要があります。例えば、解雇日の20日前に解雇を予告したならば、【1日あたりの平均賃金×(30日-20日)】の金額を支払います。
ただし、労基署より解雇予告除外認定を受けた場合は、30日置かずに即日の解雇が可能となり、解雇予告手当の支払いも必要ありません。
解雇予告除外の認定基準の一つに「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」があるため、これに該当すれば、除外認定を受けられる可能性が高くなります。
解雇予告についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
内容証明郵便
解雇通知書は、普通郵便ではなく内容証明郵便で送りましょう。
内容証明郵便は、送った日時や内容が記録されます。また、相手方に直接手渡しされるため、「そんなもの受け取っていない」と言い逃れされることもありません。
また、解雇通知は、相手に書面が到達した時点で効力が生じます(民法97条1項)。
よって、「効力発生日に即日解雇する」とした場合、解雇通知書が相手に届いた日に解雇が成立します。また、同居の家族が受け取った場合も、同様に効力が生じるとされています。
もっとも、即日解雇で解雇予告除外認定を受けていない場合、30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
公示送達
解雇するには、会社からの解雇の意思表示が、従業員に到達することが必要です。
ここで問題となるのが、無断欠勤を続ける従業員が行方不明の場合です。この場合、公示送達で解雇を通知する方法があります。
公示送達とは、自治体の掲示板や官報に相手に通知したい内容(ここでは解雇通知書)を掲載し、相手に意思表示が到達したとみなす手続きです。
掲載後2週間経つと、解雇の意思表示が従業員に到達したとみなされ、この到達日から30日の解雇予告期間を経過した日に解雇が成立します。解雇予告をせずに解雇する場合は、公示送達の際に解雇予告手当相当額を供託し、その旨も併せて公示します。
公示送達を行う場合は「相手方の住所地を管轄する簡易裁判所」に住民票や経緯書等を提出し、申請します。準備に手間がかかるため、上記のように従業員が行方不明など内容証明の効果がない場合に利用するのが通例です。
無断退職の給料・退職金の支払い
無断退職者に対しても、働いた分の給料は全額支払わなければなりません(労基法24条)。
例えば、新入社員が入社5日目から無断欠勤した場合、入社後4日間の給与は必ず支払う必要があります。給与の未払いがあると、労基署から指導を受けたり、債務不履行に基づき遅延損害金を含む損害賠償請求されたりする可能性があるため、注意が必要です。
ただし、無断退職者の場合、就業規則に規定があれば、減給処分できる場合があります。
また、退職金については、法律上支給義務がないため、就業規則に従うことになります。詳しくは後述します。
賃金の支払い方法について詳細に知りたい方は、以下のページをご覧ください。
給料の支払い方法
無断退職者への給料の支払いは、給料日に銀行口座に振込むのが基本ですが、普段から給与を手渡ししている場合や、口座振込みについて労働者の同意がない場合は、以下のような手順で支払います。
①本人に連絡して、給与を直接取りに来るよう催促する。
②本人の住所に現金書留で給与を送る。
本人が会社に来るのを拒んだ場合は、本人の住所宛てに現金書留で給与を送ります。
③-1 賃金請求権の消滅時効である3年間、給与を保管しておく。
本人が給与を受けとらない場合は、社内で給与を保管しておきます。
給料支払日から3年経過しても、本人が給与を受け取りに来なければ、消滅時効を援用することにより給与支払い債務が消滅します。
または
③-2 法務局に供託する。
従業員が給与を受け取りに来るまでは、会社は給与支払い債務を負担し続けることになります。この債務を免れたい場合は、未払い給与を法務局に「供託」すれば、給与支払い債務が消滅します。
制裁としての減給処分
無断退職者を減給処分とするには、あらかじめ就業規則で定めておく必要があります。具体的には、減給事由に「無断欠勤」の旨が含まれていることが必要です。
ただし、減給幅には以下の制限があるため注意しましょう(労働基準法91条)。
- 1回の減給額が、平均賃金1日分の半額を超えてはならない
→「1回の事案」につき、平均賃金1日分の半額までしか減額できない。 - 減給の総額が、賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない
→一賃金支払期に「複数の事案」に対する減給を行う場合、減額幅は当期の賃金総額の10分の1以内に留めなければならない。10分の1を超えて減給する必要がある場合、次期に繰り越す。
なお、無断欠勤した日の賃金を支払わないことは、減給の制裁にはあたりません。
減給のルールについては、以下のページでも詳しく解説しています。
退職金の支給義務
法律上、退職金の支給義務はないため、会社の就業規則に従うのが基本です。
また、無断退職で退職金を減額・不支給にするにも、就業規則に定めておく必要があります。例えば、「無断退職した場合、退職金の一部又は全部を支給しない」などの規定が必要です。
なお、具体的な減額幅はケースバイケースですが、労働者の勤続年数や貢献度も考慮されます。
実務上、長く勤めていれば、よほどの事情がない限り全額不支給は認められない傾向があります。
退職金の減額・不支給については、以下のページもご覧ください。
無断退職者への損害賠償請求
無断退職者には、労働契約の不履行(債務不履行)に基づき、損害賠償請求できる可能性があります(民法415条)。
ただし、損害賠償請求をするには、以下の点を立証する必要があります。
- 無断退職によって会社が損害を被ったこと
- 損害の程度を客観的に証明できること
なお、損害と無断退職との因果関係の立証は難しいという現状があります。
例えば、損害の例として、労務不提供による売上の減少が挙げられますが、通常は他の社員が業務を引き継ぐため、大きな損害は生じないと考えられます。損害として認められるには、当該労働者にしかできない特殊業務であったため、売上が大幅に減少したなど特段の事情が必要となります。
また、無断退職者の後任の採用費用については、会社の採用の労務管理ミスと判断され、損害として認められない可能性が高いです。
途中解約に対する損害賠償
契約社員やパートなど、「期間の定めのある労働者(有期雇用労働者)」は、やむを得ない事情がない限り、期間途中に退職することはできません(民法628条)。
やむを得ない事情とは、例えば以下のようなものです。
- 使用者が、労働者の生命や身体に危険が及ぶ業務を命じた
- 賃金が支払われない
- 労働者がケガや病気によって就労不能となった
- 家族の介護
- 妊娠や出産
- 配偶者の転勤
ただし、契約期間の初日から1年経過した場合、労働者はいつでも退職を申し出ることが可能です(労基法137条)。また、労働条件が当初の契約と違った場合は、期間途中であっても、いつでも退職を申し出ることができます。
なお、労働者が期間途中に辞めたために取引先を失ったなどの損害が生じたのであれば、会社は従業員に対して損害賠償請求することが可能です。
ただし、上記のやむを得ない事情により辞めた場合は、基本的に損害賠償請求できません。
有期雇用労働者の取扱いについては、以下のページでも解説しています。
有給休暇の取扱い
無断欠勤日について、会社が有給休暇を充てる義務はありません。
基本的に有給休暇は事前申請が必要であり(時季指定権)、会社は業務に支障が出ると判断すれば取得日を変更させることができます(時季変更権)。
事後的に有給休暇を充てることはこのルールに反するため、会社が応じる必要はありません。
一方、あえて有給休暇を消化させ、早く退職させたいと思うこともあるでしょう。
しかし、有給休暇は本人からの申請が必要なので、会社が無理やり取得させる(無断欠勤日に充てる)ことはできません。
未消化分の有給休暇の取扱いは、以下のページで詳しく解説しています。
退職手続きにおける注意点
ここからは、労働者が退職したときの手続きを具体的に紹介していきます。
離職票の発行
会社は、退職日の翌日から10日以内に、ハローワークへ必要書類を提出する必要があります。これは、労働者が失業保険を受け取るための手続きです。主な流れは以下のとおりです。
- ハローワークに離職証明書を提出する
- 離職票が発行される
- 労働者に離職票を交付する
- 労働者が失業保険を申請する
離職証明書には従業員本人の署名・捺印が必要ですが、無断欠勤で連絡が取れない場合、事業主の押印で足ります。ただし、離職理由の書き方には注意が必要です。
基本的に、連絡が取れず退職の意思を確認できない場合は、自己都合退職にできないため、懲戒解雇で対応することになります。
もっとも、解雇には相当の理由が必要であり、本人への解雇通知も必要となるため手間がかかります。そこで、就業規則に「無断欠勤が〇日以上続いた場合は、本人に退職の意思があると判断し、退職とする」と規定しておきましょう。そうすれば、本人と連絡が取れない場合でも、自己都合退職として処理することが可能です。
社会保険等の脱退手続き
会社で社会保険に加入している場合、脱退手続きが必要になります。
【健康保険・厚生年金保険】
退職日の翌日から5日以内に、管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」と、労働者本人及び被扶養者から回収した健康保険証を提出します。本人と連絡がとれず保険証を回収できない場合や、労働者が保険証を紛失した場合は、健康保険組合又は協会けんぽにその旨を申告する必要があります。
なお、入社後すぐに退職した場合、たとえ1日でも在籍していれば社会保険料は発生します。
【雇用保険】
ハローワークに離職証明書を提出し、離職票を発行してもらいます。その後、労働者に離職票を送付すれば、労働者は失業保険を受給できるようになります。
なお、雇用保険の手続きを行うと、労災保険の手続きも自動的に完了します。
会社貸与品の回収
労働者に貸与している備品は、速やかに返却するよう依頼しましょう。備品としては、以下のようなものが挙げられます。
- パソコンやスマホ
- 社員証
- セキュリティーカード
- 制服や社章
- 事務用品
労働者と連絡がつかない場合や、一向に返却してくれない場合、内容証明郵便を送るのが有効です。貸与物の内容や返却されていない事実、返却期限などを明記して送りましょう。
特にパソコンやスマホなど個人情報を含むものは、返却されないと会社に大きな影響を及ぼす可能性があります。その場合、本人や身元保証人への損害賠償請求も検討すべきでしょう。
また、貸与物の返却拒否は業務上横領罪にあたる可能性もあります。労働者の対応があまりにも悪質な場合、警察に相談してみるのもひとつの方法です。
退職者の私物の処理
退職者の私物が残っている場合は、速やかに引取ってもらいましょう。
まずは「私物が残っているので、〇月〇日までに引き取りに来て下さい」と文書で通知します。トラブルを避けるため、内容証明郵便で行うのが望ましいでしょう。
催促しても私物を引き取りに来ない場合は、「〇月〇日までに引き取りに来ない場合は、自宅に送付します」と文書で通知し、それでも返答がない場合は、退職者の自宅に私物を郵送します。
なお、退職者の私物を勝手に処分することは認められません。無断で処分すると、不法行為にあたり、退職者から損害賠償請求されるおそれがあります。
私物を処分するには、本人に所有権を放棄してもらう必要があります。所有権放棄について退職者と合意書を取り交わすか、口頭で同意を得てその内容を録音するなどの方法が挙げられます。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある