年次有給休暇の出勤率の算定方法|8割未満の労働者への対応など
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
雇入れ後の6ヶ月間、次年度以降は前年度の1年間の出勤率が8割に満たない労働者には、年次有給休暇を与えなくても良いとされています。したがって、労働者が年次有給休暇の付与の対象となるかを判断するためには、この「出勤率」が大きくかかわってくることになります。
この記事では、年次有給休暇の付与の出勤率について、計算方法や休職期間の扱い等を解説します。
目次
有給休暇が発生する8割要件とは
8割要件とは、有給休暇の付与の対象となる労働者の要件であり、全労働日の8割以上出勤していることを意味します。
労働者が週5日勤務である場合や、週30時間以上の所定労働時間としている場合には、正社員であるか非正規社員であるかにかかわらず、最低10日が付与されます。この日数は、勤続年数が延びるにつれて増えていきます。
また、週の所定労働時間が30時間未満で、所定労働日数を4日以下としている労働者は、その日数に比例して付与されます。このような付与を「比例付与」といいます。
フルタイムでない労働者についても、勤続年数が延びれば、付与される日数は増えていきます。
非正規社員の有給休暇の扱いや、有給休暇の付与日数等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
有給休暇の出勤率の計算方法
年次有給休暇の付与において重要な出勤率は、全労働日で出勤日数を割って計算します。計算式は以下のとおりです。
出勤率(%)=出勤日数÷全労働日
ここで、「出勤日数」と「全労働日」は、それぞれ以下のような日数のことです。
●出勤日数:算定期間の全労働日のうち出勤した日数
●全労働日:労働義務が課せられている日のことで、就業規則等で定めた休日を除いた日数
出勤率算定における出勤日数・全労働日
出勤率を算定するために、計算式の「出勤日数」と「全労働日」の日数を把握しておかなければなりません。
算出する出勤率に大きく影響してくる、これらに含まれる日、除外される日、自由に定めることができる日を、次項以降で挙げていきます。
出勤日・全労働日に含まれる日
出勤率の算定において、以下の期間は、実態としては出勤していなくても、出勤したものとして“出勤日数”“全労働日”に含めます。
- 業務上の負傷又は疾病等による療養のために休業した期間
- 労働基準法65条による産前産後の休業期間(※出産が予定より遅れ、産前6週間を超える休業期間も含める)
- 育児・介護休業法による育児休業又は介護休業期間
- 年次有給休暇を取得した期間
なお、産前産後休業、育児休業、介護休業に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
出勤日・全労働日から除外される日
以下にあたる日は、“出勤日数”“全労働日”から除外して計算します。
- 休日労働させた日
- 使用者の責に帰すべき事由により休業した日
- 正当なストライキ、その他正当な争議行為により労務の提供がなかった日
- 公民権の行使のための休日
- 不可抗力により休業した日
- 休職期間
労使間で自由に定めることができる日
以下の休暇日については、労使間の合意で“出勤日数”“全労働日”に含めるか、除外するかを自由に決めることができます。
- 通勤災害による休暇日
- 生理休暇日
- 慶弔休暇等の特別休暇日
- 介護休暇日
- 子の看護休暇日
- その他会社が定める休暇日
なお、生理休暇、慶弔休暇、介護休暇、子の看護休暇に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
休職期間がある場合の出勤率
私傷病による休職期間は、労働者の労働義務を免除している期間であるため、出勤率の算定においては「出勤日数」「全労働日」から除外する扱いが適切だと考えられます。
また、休職制度がなく、付与した年次有給休暇をすべて消化してしまった労働者が休職した場合には、欠勤の扱いとなります。
ただし、労災によって休職した労働者については、有給休暇の付与について出勤したものとみなします。同様の扱いは、産前産後休業や育児休業、介護休業についても定められています。
なお、休職期間に関する詳しい内容は、以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
遅刻・早退がある場合の出勤率
遅刻・早退した日は、労働時間の一部について就労していないことになりますが、出勤率の算定において、欠勤の扱いとすることはできません。その日一部の時間でも出勤し、就労している場合には、出勤日に含めることとされています。
そのため、“遅刻・早退が一定回数あるいは一定時間数に達すると、1日分の欠勤扱いとする”といった規定や対応は、労働基準法違反となるリスクがあります。
フレックスタイム制を導入している場合の出勤率
フレックスタイム制、つまり、労働者が自由に出退社時間を決められる制度を導入している会社では、コアタイム(必ず勤務しているべき時間帯)とフレキシブルタイム(いつ出退社しても良い時間)とを設けている場合があります。
この場合に、労働者がコアタイムを欠勤し、フレキシブルタイムの一部の時間のみ就労したケースでも、出勤率の算定において、その日は出勤したものとして扱わなければなりません。なお、労働日と定めた日に出勤しなかった場合については、欠勤として扱うことができます。
フレックスタイムに関する詳しい内容は、以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
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出勤率が8割未満の労働者への対応
出勤率が8割未満である労働者については、有給休暇を付与する義務はないため、翌年の付与は0日としても問題ありません。しかし、付与することが禁じられているわけではないことから、労働者の病気等の出勤できなかった事情を考慮して、会社が独自に有給休暇を付与することは可能です。
ただし、長期間に渡って出勤できなかった労働者への付与は、出勤率が8割以上である労働者の不公平感につながるおそれがあります。
そのため、会社が独自に付与する日数は通常よりも少なくする等の調整ができるように、就業規則等に規定しておきましょう。
日数の加算はリセットされない
入社して勤続年数が延びると、最初の数年間は有給休暇の付与日数が増えていきます。そして、労働者の出勤率が8割未満であったため、有給休暇を付与しない年があったとしても、付与日数の増加がそこでリセットされるわけではありません。
そのため、出勤率が8割に達したら、翌年には勤続年数に応じた日数を付与しなければなりません。
ここで、次のような労働者の事例について確認します。
●2024年4月1日入社
●2024年4月1日~2024年9月30日は、出勤率8割を上回った
●2024年10月1日~2025年9月30日は、出勤率8割を下回った
●2025年10月1日~2026年9月30日は、出勤率8割を上回った
この事例では、以下の有給休暇日数が付与されます。
●2024年10月1日:10日(勤続6ヶ月)
●2025年10月1日:0日(勤続1年6ヶ月)
●2026年10月1日:12日(勤続2年6ヶ月)
出勤率算定に関する就業規則の策定
年次有給休暇に係る事項は、就業規則への記載が必須となっています。
その際、【出勤率】の算定方法についても記載しておくべきです。就業規則で算定方法の基準を明確にしておくことは、労働者の個別の年次有給休暇の状況を把握するうえで事務的な負担を軽減し、さらには労使間トラブルを防止するためにも非常に有用です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある