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安全衛生教育とは?種類や注意点について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者が安全で健康的に働ける労働環境を作り上げることは、使用者の役割です。

特に、労働災害はあってはならないことです。現場での事故や、過重労働等による病気の発症は、労働者の心身を脅かし、企業にも多額の損害賠償責任が発生する等、重大なリスクとなります。
そのため、労災を防止するために、使用者は、労働者に安全衛生についての教育を実施しなければなりません。

本記事では、会社が実施すべき安全衛生教育の内容や注意点など、より安全で健康的な労働環境を実現するためのポイントについて解説していきます。

安全衛生教育とは

安全衛生教育とは、労働者に職場の安全・健康を確保するために必要な知識や技能を身につけさせるための教育をいいます。
労働安全衛生法では、使用者は、労働者に対して安全衛生教育を行うことが義務付けられています(労安衛法59条)。

労働災害を防止するには、すべての労働者が、安全・健康について理解をした上で仕事をする必要があります。

安全衛生教育の種類

労働安全衛生法で義務付けられている安全衛生教育は、以下のとおりです。
①~④は法律上実施が義務付けられており、⑤と⑥は努力義務となっています。

  • ①雇入れ時の教育
  • ②作業内容変更時の教育
  • ③特別の危険有害業務従事者への教育(特別教育)
  • ④職長等への教育
  • ⑤危険有害業務従事者への教育
  • ⑥安全衛生水準向上のための教育

①雇入れ時・作業内容変更時の教育

使用者は、新たに労働者を雇い入れたときや、労働者の作業内容を変更したときは、対象労働者に対し、その従事する業務に関する安全衛生教育を実施しなければなりません(労安衛法59条、労安衛則35条)。

新しい職場環境で業務をするにあたり、安心・安全な職場生活を送るためには、安全衛生教育が必要不可欠です。また、労働者の作業内容変更時においても、簡易的な変更ではなく、以下のようなケースにあたる場合は、注意すべき事項も通常変更されるため、改めて安全衛生教育を行う必要があります。

  • 部署異動などにより、以前と異なる作業に転換した場合
  • 機械や設備、作業方法等に大幅な変更があった場合

対象者

対象者は、業種や職種を問わず、作業者、安全衛生に関する管理者、社長や役員、安全衛生専門家、技術者等となります。また、正社員やパート、アルバイトなど雇用形態にかかわらず、対象となるすべての労働者に教育を実施する必要があります。

教育の内容

基本的な安全衛生教育の内容は、以下のとおりです。
事業者は、雇い入れ時・作業内容変更時に、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければなりません(労安衛則35条柱書本文)。

  • (1)機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
  • (2)安全措置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること
  • (3)作業手順に関すること
  • (4)作業開始時の点検に関すること
  • (5)当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
  • (6)整理、整頓及び清潔の保持に関すること
  • (7)事故時等における応急措置及び退避に関すること
  • (8)前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

②特別の危険有害業務従事者への教育(特別教育)

使用者は、一定の危険有害業務に労働者を就かせるときは、その業務に関する特別の安全衛生教育(特別教育)を実施しなければなりません(労安衛法59条3項)。ただし、すでに十分な知識・技能をもっていると認められる労働者については、特別教育を省略することができます(労安衛則37条)。

なお、技術は日々進歩しており、新たな機械設備や化学物質の増加により、職場における危険が高まったり、危険の内容が変化しています。そのため、使用者は安全衛生を向上させるため、危険有害業務に現に就いている労働者に対して、厚生労働省の指針などを踏まえて、安全衛生に関する教育を行うよう努めなければなりません(労安衛法60条の2)。

特別教育を必要とする危険有害業務

特別教育を必要とする業務については、以下のようなものが挙げられます。

  • 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務
  • 動力により駆動されるプレス機械の金型、シャーの刃部又はプレス機械もしくはシャーの安全装置もしくは安全囲いの取付け、取外し又は調整の業務
  • アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務
  • 対地電圧が50ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自転車の整備の業務
  • 最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転の業務
  • チェーンソーを用いて行う立木の伐木、かかり木の処理又は造材の業務 等

労働安全衛生規則36条には、危険又は有害業務としておよそ50種類以上の業務が挙げられており、上記の危険有害業務はごくわずかにすぎません。
詳しくは、労働安全衛生規則36条をご覧ください。

記録の作成・保存

使用者は、特別教育を行った際、受講者や教育の科目等の記録を作成し、3年間保存しておかなければなりません(労安衛則38条)。ただし、3年間は最低限の保存期間であって、その期間以上に保管している会社が多いのが実情です。

前述のとおり、既に受講した労働者には特別教育の省略等が可能であるため、それに備えておく必要もあります。

③職長等に対する教育

使用者は、政令で指定された業種において、新たに配属された職長や、労働者を直接指導・監督する者に対して、安全衛生教育を実施しなければなりません(労安衛法60条)。

職長教育の目的は、労働災害を防止するために、職長に、職場の安全衛生環境を整備し、労働者を指導・訓練するための知識等を身につけさせることです。

教育の実施時期は、初任時だけでなく、約5年ごと又は機械設備等に大幅な変更があったときに、職長と安全衛生責任者に再教育を受けさせることが望ましいとされています(平成3年1月21日基発第39号)。

職長等教育を必要とする業種

労働安全衛生法60条に基づき職長等の教育を受けるべき業種として、政令で指定されている業種は以下のとおりです(労安衛施行令19条)。

  • 建設業
  • 製造業(食料品製造業、繊維工業等を除く)
  • 電気業
  • ガス業
  • 自動車整備業
  • 機械修理業

教育の内容・時間

職長教育では、およそ2日間にわたって、様々な講習を受講することとされています。

職長は安全衛生責任者と兼任する場合が多いため、それぞれの内容をまとめた形で教育が実施されています。教育内容と実施時間はそれぞれ定められており、それに則り行われます(労安衛法60条、労安衛則40条)。以下がその教育内容と時間になります。

  • (1)作業方法の決定及び労働者の配置に関すること・・・2時間
  • (2)労働者に対する指導又は監督の方法に関すること・・・2.5時間
  • (3)危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置等に関すること・・・4時間
  • (4)異常時、災害発生時における措置に関すること・・・2時間
  • (5)安全衛生責任者の職務等(安全衛生責任者と兼任する場合)・・・1時間

④安全衛生管理者等に対する能力向上教育

使用者は、安全衛生業務担当者に対する能力向上を図るための教育・講習等を行うとともに、これを受ける機会を与えるように努めなければならないとされています(労安衛法19条の2)。

また、この法律に基づき、教育に関する方針(平成元年5月22日付け公示第1号)が示されています。そこで、本項において詳細を解説していきます。

労働安全衛生法

(安全管理者等に対する教育等)第19条の2

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の教育、講習等の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導等を行うことができる。

対象者

能力向上教育を受ける対象者は、以下のとおりです。以下に挙げる対象者が初めて当該業務に就く際に、実施が必要となります(「能力向上教育指針」平成元年5月22日付け公示第1号)。

  • 安全管理者
  • 衛生管理者
  • 安全衛生推進者
  • 衛生推進者
  • 作業主任者
  • 元方安全衛生管理者
  • 店社安全衛生管理者
  • その他の安全衛生業務従事者

能力向上教育を担当する講師について

能力向上教育をするにあたり、担当する講師が必要となります。しかし、誰しもが講師になれるわけではなく、当該業務に関する最新の知識と、教育技法に関する知識及び経験を有する者と定められています。

能力向上教育の実施については、該当する講師がいるのであれば使用者自身が行うこともできますが、多くの場合は該当者がいないことから、安全衛生団体等に委託して行うことも可能とされています。どちらの方法で実施した場合にも、実施責任者を定め、実施計画を作成することが必要です。

教育の種類

能力向上教育における教育は、3種類に分けられています。

  • (1)初任時教育…初めて当該業務に従事することになったときに実施する教育
  • (2)定期教育…当該業務に従事することになった後、一定期間ごとに実施する教育
  • (3)随時教育…事業場において機械設備等に大幅な変更があったときに実施する教育

教育の内容・時間

上項で説明したそれぞれの教育の内容については、以下のとおりです。

  • (1)初任時教育…当該業務に関する全般的な事項についての教育
  • (2)・(3)定期教育及び随時教育…労働災害の動向、社会経済情勢、事業場における職場の変化等に対応した事項についての教育

能力向上教育は、原則として1日程度とされています。なお、能力向上教育の内容・時間は、教育の対象者及び種類ごとの安全衛生業務従事者に対する能力向上教育カリキュラムに定められており、従事する業務の種類ごとに用意されています。

⑤労働者に対する健康教育

使用者は労働者に対して、健康教育や健康の保持・増進を図る措置をとるよう努めなければなりません(労安衛法69条)。

健康教育とは、健康の保持・増進を目的とし、労働者個人が健康を維持し、向上するために必要な知識や技能、行動を身につけるための教育です。代表例として、健康的な食生活や運動習慣などの生活習慣病予防教育、メンタルヘルス教育等が挙げられます。これらは医学的な専門知識を背景とするものであるため、産業医等に研修を依頼することも有意義といえます。

近年、仕事によるストレスや過重労働、不健康な生活により健康を害する労働者が増えているなか、健康教育は今後いっそう重要なものとなるでしょう。

健康保持増進措置(THP)とは

THPとはTotal Health promotion Planの略称で、厚生労働省が働く人の「心とからだの健康づくり」をスローガンに進めている健康保持増進措置のことを示しています。

健康保持増進措置内容としては、以下のような措置が想定されています。

  • (1)健康測定…健康診断とその結果に基づく産業医等による指導
  • (2)運動指導…運動指導担当者による、運動実践の指導援助
  • (3)メンタルヘルスケア…心理相談担当者による、ストレスに対する気付きへの援助やリラクセーションの指導等
  • (4)栄養指導…産業栄養指導担当者による、労働者個人の食生活や食習慣の評価と改善の指導
  • (5)保健指導…産業保健指導担当者による、睡眠や喫煙、飲酒等の指導及び教育

安全衛生教育に関する注意点

安全衛生教育を実施するにあたり注意すべき点として、以下のようなものが挙げられます。

労働時間内での実施と給与について

安全衛生教育は、労働安全衛生法上、使用者の責任において実施することが義務付けられているものであり、原則として所定労働時間内に行わなければなりません。したがって、安全衛生教育が実施される時間は労働時間にカウントされるため、仮に法定労働時間外に行った場合は、割増賃金を支払わなければなりません。

教育時間の確保と外国人労働者について

会社によっては、労働者にマニュアルを渡しただけで、安全衛生教育を終了させてしまうような所も少なくないようです。しかし、マニュアルを渡すだけでは本人が読まない可能性があり、どの程度理解しているのか判断することも困難です。

そのため、安全衛生教育を行うための時間をしっかり確保し、担当者が直接教育を行う必要があります。また、外国人労働者に対しては、確実に理解してもらうため、母国語を用いて教えるなどの対策も求められます。

派遣社員の教育について

派遣労働者に対する安全衛生教育は、教育の種類ごとに、派遣元、派遣先のいずれが教育実施の責任を負うかが異なります。
下表に詳細をまとめましたので、ご確認ください。

安全衛生教育の種類 実施先
雇入れ時の教育 派遣元
作業内容変更時の教育 派遣元と派遣先
特別の危険有害業務従事者への教育 派遣先

記録について

特別教育以外の教育記録に関しては、法的には保管する義務は課せられてはいませんが、残しておくことが望ましいでしょう。教育記録を残しておけば、労働災害が起きた際に、会社がこれまで安全衛生教育を尽くして、どれだけの安全配慮義務を果たしていたのか判断がしやすくなり、トラブル回避に役立つこともあるでしょう。

安全衛生教育を怠った場合の罰則

会社が法律上義務付けられている安全衛生教育を怠った場合は、労安衛法59条違反により、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科されるおそれがあるため(同法119条1号、120条1号)、注意が必要です。

実際に、特別教育を修了していない労働者に、フォークリフトを運転させ、大ケガを負わせたとして、大手家電会社が書類送検された事件も発生しています。
安全衛生教育を怠ると、重大な労働災害につながるおそれがあるため、確実に実施していくことが必要です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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