法改正により清算期間の上限が3カ月に延長された後の実務上の留意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2019年4月施行の働き方改革関連法による労働基準法の改正で、フレックスタイム制の精算期間が最長1ヶ月から最長3ヶ月に延長されました。本稿では、清算期間の上限が3ヶ月に延長されたことによる、実務上の留意点についてご説明します。

法改正によりフレックスタイム制の清算期間の上限が3カ月に延長

働き方改革とは、働く人々が、個々の事情に応じた働きやすい環境を自ら選択できるようにするための取組みです。この働き方改革の一環として、フレックスタイム制の清算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に延長されました。

働き方改革とフレックスタイム制については、以下のページで解説していますので、ご参照ください。

フレックスタイム制の清算期間とは

フレックスタイム制は、清算期間における総労働時間を定めておき、その範囲内で始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる制度です。そして、清算期間とは、労働契約上、労働者が労働すべき時間を定める期間であり、従来は1ヶ月以内とされていました。

フレックスタイム制において、対象となる労働者の範囲と精算期間について、以下のページで解説しています。

清算期間が延長されることのメリット

清算期間が1ヶ月以内とされていた従来の制度では、実際に働いた時間が所定労働時間より多かったり、反対に少なかったりした場合に、その時間の過不足分を1ヶ月ごとに清算(過剰時間分の割増賃金の支払い、不足時間分の欠勤扱い等)しなければならない仕組みとなっていました。

清算期間の上限が3ヶ月に延長されると、例えば4月から6月までの3ヶ月間において、4月は法定労働時間の総枠を超える過剰分があり、6月に実労働時間の不足分があった場合に、4月の過剰分を6月目の不足分に振り替えて充てることができ、3ヶ月の範囲内で過不足を調整することが可能となります。

清算期間の上限を延長する場合の実務上の留意点

フレックスタイム制の清算期間が1ヶ月を超える場合には、労働基準監督署へ労使協定届の提出が必要となる等、清算期間の上限を延長する場合には、いくつかの注意点があります。

労使協定の届出義務について

フレックスタイム制を導入する場合は、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨を就業規則で定め、事業場で導入するフレックスタイム制の内容を、使用者と事業場の過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)との協定で定める必要があります。

従来はこの労使協定を届け出る義務はありませんでしたが、今回の改正により、清算期間が1ヶ月を超える場合のみ、協定の有効期間の定めをするとともに、所定の様式で所轄の労働基準監督署長へ労使協定を届け出ることが義務づけられました。

フレックスタイムの導入に関して、手引きを以下のページに記しています。ご参照ください。

清算期間が延長された場合でも時間外労働は発生

清算期間の上限が3ヶ月に延長されると、その範囲内で過不足を調整することが可能となりますが、やはりこの場合でも時間外労働が一切生じないというわけではありません。

フレックスタイム制における時間外労働、また、割増賃金に関しては、以下の各ページで解説していますので、ご参照ください。

清算期間が1カ月を超える場合の時間外労働

フレックスタイム制は、清算期間における総労働時間の範囲内で、個々の日の労働時間の長短をつけられる制度です。このため、改正により清算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に延長されると、各月における労働時間の長短の幅が大きくなるケースが生じ、清算期間全体として法定労働時間の総枠の範囲内であっても、特定時期に集中して長時間労働になる場合も考えられます。

そこで、過重労働とならないように、清算期間が1ヶ月を超える場合に労働させることができる時間の範囲に、新たな規制が設けられました。

清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えた場合

清算期間として定められた期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えた分は時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要になります(清算期間が1ヶ月以内のフレックスタイム制においても同様です)。

1カ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合

清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制では、当該清算期間を1ヶ月ごとに区分した各期間(最後に1ヶ月未満の期間を生じたときには、当該期間)ごとに当該各期間を平均し、1週間当たりの労働時間が50時間を超えた時間は時間外労働時間となり、割増賃金の支払いが必要になります。

先に述べた「週平均40時間」の規制は清算期間のトータルで考えるのに対し、「週平均50時間」の規制は、清算期間を1ヶ月ごとに区分した期間で考えます。

法定労働時間の総枠計算の特例について

常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業については、週の法定労働時間が44時間となり、これを「特例措置対象事業場」といいます。ただし、フレックスタイム制の清算期間が1ヶ月を超える場合には、特例措置対象事業場であっても、週平均40時間を超えて労働させるときは36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要です。

法改正に伴い清算期間の延長をお考えなら、フレックスタイム制度に詳しい弁護士に相談することをおすすめします

清算期間の延長は、個々の労働者の様々な生活上のニーズと仕事との調和をより実現しやすくするメリットがある一方で、労使協定届の提出や週平均50時間規制など、新たなルールも設けられています。法律上のルールを守りながら労働者の働きやすい環境を実現するために、ぜひ弁護士にご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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