労働基準監督署の調査とは?調査の流れや企業がとるべき対策

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働基準監督署は、職場の安全や労働者の健康を守るための重要な機関です。日頃から企業の労働条件等を厳しく監視し、強い権限を与えられています。
本記事では、労働基準監督署による調査や、その流れなどについて詳しく解説します。

目次

労働基準監督署の調査とは?

労働基準監督署は、企業が労働関係法令に違反していないか等を調べるため、調査を行います。調査の方法は、①予告なしに行われる立ち入り調査、②予告の上で行われる立ち入り調査、③労基署に出頭させて行う調査の3種類があります。

立ち入り調査を拒否することはできるのか?

労基署からの調査や出頭を拒否することは基本的にはできません。これらを拒否すると、労働基準監督官の心証を悪くするだけでなく、非協力的であることを理由に、強制捜査(捜索、差押など)に発展する要因ともなります。

労働基準監督署による調査の種類

労働基準監督官による監督には、主として、定期監督、申告監督、災害時監督、再監督があります。

定期監督

当該年度の監督計画に基づき、事業所(工場、事務所など)を選定し、定期的に実施される臨検監督です。予告なく行われることが多いですが、予告の上で監督が行われる場合や、労基署に呼び出した上での監督が行われる場合もあります。

申告監督

労働者から労働基準監督署に、労働法違反等についての申告(労基法104条1項)があった場合に実施される監督です。その性質上、予告なく行われることが多く、申告者の保護の観点から、申告監督であることも明らかにされないケースが多いです。

災害時監督

一定以上の規模の労働災害が発生した場合に、その原因究明及び同種災害の再発防止のために行われる監督です。

再監督

定期監督等で是正勧告を受けた事業所などに対し、改善状況を確認するために行われる監督です。一度是正勧告された場合に必ず再監督がされるというわけではなく、是正報告書を提出しない場合等に実施されるケースが多いです。

労働基準監督署の調査では何を調べられる?

定期監督や申告監督では、労働条件や安全衛生対策など全般について調査が行われます。

就業規則、労働者名簿、賃金台帳、各種労使協定、労働条件通知書、健康診断結果報告書といった書類での確認が中心ですが、企業や管理監督者、従業員等からの聴き取りが行われることもあります。

災害時監督や再監督では、発生した労働災害や是正勧告に関連した事項についてのみ調査が行われるのが一般的です。

労働基準監督署の調査が行われやすい企業とは?

規模の大きい会社、外国人や障害者を雇用している会社、重大な労災事故を起こしている会社、労働者からの申告を受けた会社などは、調査が行われやすい傾向にあります。

労働基準監督署の立ち入り調査の流れ

一般的な監督手続の流れは、以下のとおりです。

①予告

予告なく立ち入り監督が行われる場合もありますが、監督に先立って予告が行われる場合もあります。

②調査

事業場への立ち入り調査がされ、事情聴取や帳簿の確認などが行われます。

③是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付

監督が行われた際、問題点等が見つかったときは、労働基準監督官から企業の責任者に対し、是正勧告書、指導票、使用停止等命令書を交付します。

是正勧告書は、法令違反が見つかったときに労働基準監督官が違反事項を説明し、期日を指定して是正勧告をする際に交付される文書です。

指導票は、法令違反には該当しないものの改善すべき点がある場合や、法令違反のおそれがあり未然に防止する必要がある場合等に交付される文書です。

使用停止等命令書は、労働者の就労設備や原材料等について安全や衛生に関する基準に違反すると判断された場合に交付される文書です。

④是正(改善)報告書の提出

是正勧告書や指導票が交付された企業は、当該文書に記載された事項の趣旨に従い、期日までに是正措置を講じ、労働基準監督署長に是正報告書を提出する必要があります。

労働基準監督署の調査で準備しておくべき書類

監督の際に要求される資料や、法令上作成しなければならない書類については、調査の際に準備しておく必要があります。
一例として、以下の資料等が挙げられます。

  • 会社組織図
  • 労働者名簿
  • 就業規則
  • 雇用契約書(労働条件通知書)
  • 賃金台帳(賃金明細書)
  • タイムカード(出勤簿)
  • 労使協定
  • 健康診断個人票
  • 総括安全衛生管理者の選任状況や安全委員会・衛生委員会の設置・運営状況
  • 産業医の選任状況のわかる資料

労働基準監督署の是正勧告に従わないとどうなる?

是正勧告は行政指導であり、これに従わないこと自体を理由に罰則を科されることはありません。

もっとも、是正勧告がされるということは、法令違反が認定されたということになりますので、労働法違反の状態を放置したことによる罰則の適用を受ける可能性があります。法令違反が重大な場合等には、検察庁に送検され、刑事事件として起訴される可能性もあります。

また、非協力的であることを理由に強制捜査(捜索、差押等)に発展する場合があり、その結果として、是正勧告を受けていた内容以外の法令違反が見つかる場合もあります。

労働基準監督署の調査を乗り切るための対策

労働基準監督署の調査は予告なく行われる場合もありますので、日ごろから法令違反のないように意識する必要があります。また、調査の結果、労働基準監督官から問題点を指摘された場合には、誠意を持った対応を心がけることが重要となります。

調査前から改善に着手する

法令違反があることが発覚した場合には、放置せず、早急に改善に着手することが重要です。
法令違反を放置すると、定期監督の際に法令違反を指摘されるだけでなく、労働者から労働違反の申告がされ、申告監督が実施されやすくなるリスクが生じます。

誠意を持った対応を心がける

調査や是正措置について非協力的な態度をとると、強制捜査に発展する等のリスクが生じます。
また、労働基準監督官から問題点を指摘された場合は、労働基準監督官と緊密なコミュニケーションをとり、都度是正方法についてのアドバイスを受けるのも効果的です。

いつ調査に入られても問題のない体制づくり

日頃から法令違反のないように意識することが大切です。
また、労働者が意見を出しやすい環境を整えることができれば、企業が法令違反の可能性に気付くきっかけとなるだけでなく、労働者から労働基準監督署へ申告が行われるリスクを下げることが期待できます。

労働基準監督署の調査への対応で不安な点があれば、まずは弁護士にご相談下さい。

法令違反の有無や潜在的なリスクについては、確認すべき項目が多く、専門家によるチェックがないと気付くのが難しいものです。労働基準監督署の調査への対応で不安な点があれば、まずは専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

よくある質問

労働基準監督署の立ち入り調査は抜き打ちで行われますか?

労働基準監督署は、企業が労働関係法令に違反していないか等を調べるため、調査を行います。調査の方法は以下の3種類です。①の方法による場合は、抜き打ちで行われることとなります。

  • ①予告なしに行われる立ち入り調査
  • ②予告の上で行われる立ち入り調査
  • ③労基署に出頭させて行う調査

突然の調査に対応できない場合はどうしたら良いですか?

労基署からの調査を拒否することは基本的にはできません。調査に非協力的な姿勢を示すと、労働基準監督官の心証を悪くするだけでなく、強制捜査(捜索、差押など)に発展する要因ともなります。

もっとも、どうしても対応できない事情がある場合には、その内容や調査の目的に照らし、後日の調査とされる場合もあります。

労働基準監督署の調査にはどれくらいの時間がかかりますか?

資料の充実度や会社の対応等によっても前後しますが、調査時間は基本的には2~4時間程度となる場合が多い傾向です。

労働基準監督署から「出頭要求書」が届いたのですが無視しても良いですか?

労基署からの出頭を拒否することは基本的にはできません。理由なく無視する場合には、抜き打ちでの立ち入り調査が行われたり、場合によっては強制捜査(捜索、差押など)に発展する要因ともなります。

労働基準監督署の定期調査はどれくらいの頻度で行われますか?

定期監督は、都道府県の各労基署において月10回程度の頻度で行われており、1年間のうち、全国で2%の企業が定期監督を受けていることが明らかになっています。 10年以上定期監督の対象となっていない会社もあれば、前回調査から3~4年後に調査対象となる会社もあり、頻度は会社ごとに異なります。

労働基準監督署の調査の結果、是正勧告または指導となるケースを教えて下さい。

監督が行われた際、問題点等が見つかったときは、労働基準監督官から企業の責任者に対し、是正勧告や指導を受けることとなります。

是正勧告は、調査の結果、法令違反が見つかったときに行われます。
指導は、法令違反には該当しないものの改善すべき点がある場合や、法令違反のおそれがあり未然に防止する必要がある場合に行われます。

所定期日までに是正・改善ができない場合はどうしたら良いですか?

調査の結果法令違反があった場合、是正勧告書が交付されますが、そこには是正内容とともに是正期限も指定されています。そのため、企業は当該期日までに是正措置を講じ、労働基準監督署長に是正報告書を提出する必要があります。

万が一、当該期限までに是正内容の改善ができない場合は、事前に労働基準監督署に申し出て指示を仰ぐことをお勧めします。場合によっては期限の延長が認められる場合もあります。

是正勧告書や指導票に法的拘束力はありますか?

是正勧告は行政指導であり、従わないこと自体を理由に罰則を科されることはありません。

もっとも、是正勧告がされるということは、法令違反が認定されたということになりますので、労働法違反の状態を放置したことによる罰則の適用を受ける可能性があります。

退職者による申告でも申告監督の対象となりますか?

退職者による申告も申告監督の対象となります。

労働基準監督署の調査でやってはいけないことはありますか?

労働基準監督署の調査等に対して不誠実な対応をすることは高いリスクを伴うため、誠意を持った対応を心がけることが重要となります。また、いつ調査に入られても問題のない体制づくりも重要です。

法令違反の有無や潜在的なリスクについては、確認すべき項目が多く、専門家によるチェックがないと気付くのが難しいものです。労働基準監督署の調査への対応で不安な点があれば、まずは専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

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執筆弁護士

弁護士 合田 千真
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士合田 千真(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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