労働基準監督署の調査とは?流れや企業の対策などを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の健康や安全を守るため、労働基準監督署は定期的に企業の調査を行っています。
また、一般的な調査だけでなく、労働者からの通報によって調査が行われるケースもあるため、日頃から労務管理や安全対策を徹底しておくことが重要です。

本記事では、労働基準監督署による調査の流れやポイント、調査に向けた対策などを詳しく解説していきます。ぜひ参考になさってください。

労働基準監督署の調査の目的

労働基準監督署の調査は、企業が労働関係法令を遵守しているかチェックするために行われます。法令は労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法など多岐にわたるため、企業は漏れがないよう日頃からしっかり対応しなければなりません。

賃金や労働環境に問題があると、憲法25条で定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を維持できず、労働者の生活を脅かすおそれがあります。そのような事態を防ぐため、労働基準監督署は定期的に法令違反の有無を調査し、必要に応じて事業主に是正を求めています。

労働基準監督署の調査の種類

労働基準監督署の調査には以下の4種類があり、それぞれ実施の目的やタイミングが異なります。

  • 定期監督
  • 申告監督
  • 災害時監督
  • 再監督

なお、定期監督の対象企業は労基署の任意で選出されるため、法令を遵守している企業でも調査対象となる可能性があります。問題がなければ指導などは行われませんので、ご安心ください。

ただし、調査は抜き打ちで行われることもあるため、労務管理や安全衛生に関する書類はしっかり整理・保存しておく必要があります。

定期監督

労働基準監督署が対象企業を選定し、定期的に調査を行う方法です。

なお、事業場の選定は当該年度の「監督計画」に基づいて行われますが、この計画は最新の行政課題を踏まえて策定されています。
よって、例えば過労死の発生が問題視されているときは、長時間労働が起こりやすい事業場が選定される傾向があります。また、労災が多発している年度の場合、建設業など事故が多い事業場が選任されやすいと考えられます。

なお、定期監督は予告なく行われるのが一般的ですが、事前に日程を知らせてから行うこともあります。

申告監督

労働者から労働基準監督署に対し、企業の法令違反に関する申告(労基法104条1項)がなされた場合に実施される調査です。申告内容の真偽を確認し、違反が事実であれば指導や是正勧告が行われます。

申告監督は、証拠隠滅などを防ぐため、予告なく行われるのが一般的です。また、申告者保護の観点から、申告があった旨を明らかにしないケースも多いです。

災害時監督

一定以上の規模の労働災害が発生した場合に実施される調査です。
企業から提出された「労働者死傷病報告」をもとに、労災の発生原因そのものに法令違反が疑われる事業場をピックアップして調査を行います。

調査では、「作業手順は適切だったか」「機器のメンテナンスは行われていたか」「衛生対策は十分だったか」といった点を確認し、問題がある場合は再発防止のための是正勧告などが行われます。

再監督

是正勧告を受けた事業所について、状況が改善されたか確認するための調査です。
ただし、是正勧告されたからといって必ず再監督が入るわけではありません。是正報告書を提出しないなど、対応に問題がある場合に実施されるケースが多いです。

労働基準監督署の調査の流れ

労働基準監督署の調査は、以下の流れで行われるのが一般的です。

  1. 予告
  2. 立ち入り調査
  3. 是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付
  4. 是正(改善)報告書の提出

各ステップのポイントや注意点を押さえることで、冷静に調査に臨むことができるでしょう。

①予告

労基署の調査は、証拠の隠ぺいや偽装を防ぐため、“抜き打ち”で行われるのが一般的です。ただし、大量の書類や帳簿の準備が必要な場合や、担当者不在のおそれがある場合、事前に日程を予告して行われることもあります。

一方、現地調査の必要がないと判断された場合は、実地調査ではなく「呼び出し調査」が行われます。その場合、労基署から事業場に「出頭要請書」が届くため、指定された日時に必要書類を持って労基署に出向きます。
呼び出し調査は書類の確認やヒアリングがメインですので、想定される質問への回答をあらかじめ準備しておくと安心です。

なお、事業主が労基署の調査を拒否することはできません。調査日時の都合が悪い場合や、担当者が不在の場合、決して無視はせず日程調整ができないか労基署に相談するようにしましょう。

②立ち入り調査

立ち入り調査では、労働基準監督署の監督官2名が事業場を訪れ、以下の流れで調査を行います。

  1. 労働関係帳簿などの書類の確認
  2. 担当者へのヒアリング(書類の不明点などを確認するため)
  3. 現場の視察や労働者へのヒアリング(実態把握のため)
  4. 口頭での指導や改善指示

主な調査項目は、労働時間、休日の有無や日数、賃金の計算方法、安全衛生対策などがあります。
また、調査にかかる時間は1~2時間が一般的ですが、書類に不備があったり、違反が多かったりすると、さらに長くなる可能性があります。

③是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付

是正勧告とは、法令違反などが発覚した企業に対し、労働基準監督署が改善を求める手続きです。
立入り調査でも口頭の改善指示は行われますが、問題が重大だった場合、以下のような書面による指導も行われます。

  • 是正勧告書
    法令違反があった場合に発行する書面です。是正すべき点と、是正期限が記載されています。
  • 指導票
    法令違反とまではいえないが、改善が必要な場合に発行する書面です。
  • 使用停止等命令書
    問題が特に深刻な場合に発行する、法的拘束力のある書面です。例えば、設備に異常があり、事故や怪我のリスクがある場合などに発行されます。

また、以下の項目は是正勧告を受けやすいため注意が必要です。

  • 残業代未払い
  • 長時間労働
  • 36協定の未締結
  • 労働契約書の未締結
  • 就業規則の不備
  • 健康診断の未実施
  • 安全衛生対策の不備

労働基準監督署の是正勧告に従わないとどうなる?

是正勧告は“行政指導”なので、仮に従わなくても罰則は科せられません。
しかし、労基署には強制捜査を行う権限があるため、あまりにも悪質な場合は逮捕や差押え、送検などが行われる可能性はあります。企業名が公表されれば、社会的信用の低下も避けられないでしょう。

また、「是正勧告=法令違反がある」ということなので、放置すれば当該行為に対して罰則が科せられます。
例えば、長時間労働を放置した場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります(労基法119条)。ほかにも、健康診断の実施を怠った場合は「50万円の罰金」が科せられる(安衛法120条)などさまざまなリスクがあるため、是正勧告を受けた場合は速やかに対応しましょう。

④是正(改善)報告書の提出

是正勧告書や指導票の交付を受けた場合は、期限までに問題点を解消したことを証明する「報告書」を提出します。報告書には、主に以下の事項について記載します。

  • 指摘された法令違反の内容
    例:残業代の不払い(労基法37条違反)
  • 是正の状況
    例:不足額を計算し、別添のとおり支払った
  • 是正完了日
    例:〇年〇月〇日に支給

報告書に決まった書式はありませんが、上記の事項と会社名・住所・代表者名は必ず記載します(押印も必要)。
是正勧告を受けた場合、この是正(改善)報告書を提出した時点で調査がすべて完了となります。

労働基準監督署の調査対象は?

労基署の調査は、労働基準法や労働安全衛生法、最低賃金法などの“労働関係法令”に沿って行われます。
これらは労働者の最低限の生活を守るための法令なので、調査項目も以下のように細かく定められています。

調査対象 調査内容
労働時間
  • 36協定の締結、届出がされているか
  • 時間外及び休日労働の上限がまもられているか
  • タイムカードや出勤簿による労働時間の記録
  • シフト管理は適切か
労働条件
  • 労働契約書を締結しているか
  • 就業規則を作成、届出しているか
  • 就業規則が従業員にきちんと周知されているか
賃金
  • 最低賃金を下回っていないか
  • 残業代や休日手当の計算方法
  • 残業代や休日手当が支払われているか
  • 賃金台帳の管理
年次有給休暇
  • 「年5日間」の最低取得日数を守っているか
  • 取得日数の管理
  • 付与日数に問題はないか
安全衛生管理
  • 衛生管理者を選任しているか
  • 衛生委員会の設置と開催
  • 労働者のメンタルヘルスケア(長時間労働者への面談指導など)
  • 労災の防止措置
健康診断
  • 健康診断の実施状況
  • 健康診断結果の報告

事業主はこれらのチェック項目を把握し、日頃から法令遵守に努めることが重要です。

労働基準監督署の調査で企業が行うべき対策

労働基準監督署の調査は予告なく行われることが多いため、いつでも対応できるよう準備しておくことが重要です。
また、調査の結果、労働基準監督官から問題点を指摘された場合は、誠意を持った対応を心がけるようにしましょう。

確認される書類を準備しておく

調査では、以下のような書類の提出を求められます。

  • 組織図
  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 就業規則
  • 労使協定
  • 出勤簿
  • 36協定届
  • 雇用契約書
  • 有給休暇の取得状況
  • 衛生管理者や衛生委員会の実施
  • 産業医の選任状況
  • 健康診断の記録

これらの資料は、最長2年分の提出を求められる可能性があります。特に、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3つは、適切に保存していないと罰則を受けるおそれもあるため注意が必要です。

また、36協定や就業規則については、労基署に届け出た控えも用意しておきましょう。

調査前から改善に着手する

調査の有無にかかわらず、法令違反が発覚した場合は速やかに改善を図ることが重要です。法令違反を放置すると、調査で指導や是正勧告を受け、報告書の提出を求められる可能性があります。
また、労働者に法令違反を通報されると、「申告監督」の対象となるおそれもあります。

誠意を持った対応を心がける

調査や是正措置に従わないと、強制捜査の対象となる可能性があります。
調査で問題点を指摘された場合は、労働基準監督官とよくコミュニケーションをとり、是正方法についてアドバイスを受けるのも効果的です。

弁護士に相談・監査への立ち会いを依頼する

労働基準監督署の調査では、弁護士に立ち会ってもらうことも可能です。弁護士に立ち合いを依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  • 労働基準監督官の指摘が正しいか、法的に判断できる
  • 監督官への説明や交渉、反論などを任せられる
  • 問題点に対し、適切な改善方法を検討できる
  • 是正報告書の書き方についてアドバイスを受けられる

また、弁護士と顧問契約を締結しておけば、日常的に労務管理のアドバイスを受けることができます。例えば、契約書の内容をチェックしてもらえたり、法令違反にあたらないか判断してもらえたりするなど、多くのメリットがあります。
いきなり労基署の調査が入っても、焦ることなく臨めるでしょう。

労働基準監督署に指摘されやすい事項

労基署の調査では、労務管理や安全衛生管理、労働条件などについてチェックが行われます。そのため、以下のような点を指摘されるケースが多くなっています。

労働時間
  • 法定労働時間が守られていない
  • 時間外労働時間が上限を超えている
労働条件
  • 賃金や休日などの労働条件が法令の基準を下回っている
  • 年次有給休暇の付与日数が法定日数を下回っている
  • 雇入れ時や契約更新時に、労働条件が明示されていない
届出や報告
  • 36協定が締結されていない
  • 就業規則が整備・周知されていない
賃金
  • 割増賃金の計算方法に誤りがある
  • 未払い賃金がある
安全衛生
  • 安全衛生責任者や産業医が選任されていない
  • 健康診断を実施していない

労働基準監督署の調査に関するよくある質問

労働基準監督署の立ち入り調査は抜き打ちで行われますか?

立ち入り調査は、抜き打ちで行われることが多いです。
事前に日時を通知すると、その日だけ法令を守ったり、証拠を隠滅・偽装されたりするおそれがあるため、予告なく行われるのが一般的です。
ただし、書類の準備や担当者のスケジュール調整を考慮し、あらかじめ調査日時を通知することもあります。

要はケースバイケースですが、基本的には“抜き打ち”で行われると考え、労務管理を徹底しておくことが大切です。

 

労働基準監督署の定期調査はどれくらいの頻度で行われますか?

定期監督は、各都道府県の労基署で月10回程度行われています。厚生労働省の調査によると、1年間で全国の2%の企業が定期監督を受けているようです。
10年以上定期監督がない企業もあれば、前回調査から3~4年後に調査対象となる企業もあり、頻度はさまざまといえます。

労働基準監督署の調査でやってはいけないことはありますか?

調査を無視したり、非協力的な態度をとったりすることは控えましょう。あまりにも悪質な場合、強制捜査や逮捕・送検される可能性もあるため注意が必要です。

また、「調査なんて来ないだろう」と考え、労務管理を疎かにするのも危険です。調査は抜き打ちで行われることが多いため、書類などはしっかり保存し、いつ来ても対応できるよう備えておく必要があります。

労務管理の方法がわからない場合や、法令違反がないかご不安な場合は、一度弁護士に相談してみるのもおすすめです。

労働基準監督署の調査への対応で不安な点があれば弁護士法人ALGまでご相談ください

労働基準監督署の調査は、しっかり準備しておけば焦る必要はありません。しかし、いつ来るかわからない以上、日常的な労務管理が非常に重要となります。

弁護士であれば、労基署の調査への対応はもちろん、適切な労務管理のアドバイスや法令違反のチェックなど、幅広くサポートすることができます。仮に調査で問題が見つかっても、その後の対応までサポートしてもらえるため安心です。

弁護士法人ALGは、400社を超える企業と顧問契約を締結しており、豊富な知識や経験、ノウハウを有しています。
お悩みやご不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-336-709

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
弁護士法人ALG&Associates

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます