監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2026年以降、労働基準法は大幅な改正が予定されています。約40年ぶりの大改正といわれており、改正点も多いため、事業者は計画的に準備を進めることが重要です。
人事担当者についても、新たな勤怠管理や給与計算の方法を早めに確認しておくと安心です。
本記事では、2026年以降の労働基準法改正のポイント、法改正によって企業が受ける影響、企業に求められる対策などをわかりやすく解説していきます。
目次
【2026年】労働基準法が40年ぶりに大改正される
2026年以降、労働基準法は約40年ぶりに大改正される予定です。
前回の改正(1987年)から長い年数が経っており、現行法では近年の多様な働き方に対応できないことから、大幅な見直しが行われることとなりました。例えば、テレワークの普及や副業・兼業の解禁、フレックスタイム制の導入などにより、労働環境は大きく変化しつつあります。
今回の法改正は、2019年に始まった働き方改革のルール(時間外労働の制限、多様な働き方の支援など)をより強化するものです。
具体的には、
- 過重労働の防止や従業員の健康確保
- 仕事と家庭を両立できる柔軟な働き方の実現
を軸として、誰もが働きやすい環境を整え、労働力を確保するのが大きな目的といえます。
労働基準法の改正はいつから?
労働基準法の改正案は、2026年1月時点ではまだ国会に提出されていません。
当初は2027年頃の施行が見込まれていましたが、政府の意向などから一旦見送りとなりました。
見送りとなった背景には、政府が「労働時間規制の緩和」を検討していることにあります。
簡単にいうと、「もっと働いて稼ぎたい」「人手が足りないから残業したい」といった従業員側の希望も考慮して、柔軟に追加労働などを認めようという考えです。
規制緩和は、“労働者保護”を軸とする法改正の趣旨とは方向性が違うため、現時点での取りまとめは難しいと判断されました。企業は、今後の議論や政府の動きに十分注意すべきでしょう。
2026年の労働基準法改正で検討される主なポイント
労働基準法改正のポイントは、以下の8つです。下表で現行法と改正案の違いをわかりやすく紹介していますので、ご覧ください。
改正法の施行時期は未定ですが、企業は今後の動きに注意しつつ、全体像を把握しておくと良いでしょう。
| 項目 | 現行制度 | 改正後(案) |
|---|---|---|
| 連続勤務日数 | 最大48日連続勤務が可能(4週4休) | 14日以上の連続勤務の禁止 |
| 労働時間の情報開示 | 公表義務なし | 社外への公表を義務化 |
| 勤務間インターバル | 制度導入の努力義務 | 制度導入を義務化 |
| 法定休日 | 特定義務なし | 就業規則などで特定を義務化 |
| 有給休暇の賃金算定 | 平均賃金、通常の賃金、標準報酬日額の3つから選択 | 通常の賃金で統一 |
| 多様な働き方の対応 | 副業・兼業やテレワークへの対応が不十分 |
|
| 「つながらない権利」 | 規定なし | ガイドラインなどを策定 |
| 法定労働時間の特例 | 週44時間の特例措置あり(一部の小規模事業所のみ) | 週40時間で統一 |
14日以上の連続勤務の禁止
改正案では、変形休日制を「2週2日」とし、14日以上の連続勤務が禁止される見込みです。現行法では、休日は以下のいずれかの日数を与えることが義務付けられています。
- 1週間に1日(原則)
- 4週間を通じて4日(変形休日制)
※シフト制など、週1日の休日がなじまない業種で適用されます。
4週4日の場合、理論上は48日連続勤務が可能なので、従業員の健康リスクが高まると懸念されていました。法改正によって連続勤務できる日数を制限することで、過重労働を防ぐのが主な目的です。
シフト制が多い以下の業種では、勤務体制の見直しが求められる可能性が高いため注意しましょう。
- 飲食業
- 宿泊業
- 医療や介護業
- 運送業 など
労働時間に関する情報開示義務
自社の勤務実態を、社内外に公表する義務(情報開示義務)が設けられる見込みです。開示する項目は、以下のようなものです。
- 時間外労働や休日労働の実態
- 有給休暇の取得状況
- 育児休業の取得率
- 勤務間インターバルの導入
勤務実態を社外に公表することで、求職者が就職先を選びやすくなったり、入社後のミスマッチを防止したりする効果が期待できます。従業員へのアピールにもなるので、事業者は積極的に労働環境の改善に取り組むでしょう。
情報開示を適切に行うには、自社の勤務実態を正確に把握しなければなりません。労働時間や有給休暇の取得日数をしっかり管理することで、新たな問題や課題に気付くきっかけにもなります。
勤務間インターバル制度導入の義務化
勤務間インターバル制度の導入が、従来の“努力義務”から“義務”に変更される予定です。
勤務間インターバル制度とは、終業から始業までに一定以上の時間を空けなければならないとする制度です。従業員に一定の休息時間を与え、リフレッシュや疲労回復を促すのが目的となります。
法改正後は、11時間程度のインターバル確保が義務付けられる見込みです。例えば、22時まで働いた場合、翌日の出勤は9時以降にしなければなりません。
夜勤や交代勤務のある職場、人手不足が深刻な業種などでは、あらかじめ以下のような対策を検討しておきましょう。
- 夜勤明けは必ず休みにする
- シフト体系を増やして勤務時間を細かくずらす
- 連続勤務を避けるため、人員を増やす
- 外部委託を検討する
- インターバル管理のため、勤怠システムを強化する など
法定休日の事前特定の義務化
法定休日とする日を定め、就業規則などで明示する義務が設けられる予定です。
現行法では、法定休日は「週1日または4週に4日」与える必要がありますが、いつを法定休日とするかまで定める義務はありません。そのため、「知らないうちに休日出勤していた」「割増賃金が不足していた」などのトラブルも起こり得ます。
法定休日を明示することで、労使間の認識のずれを防ぎ、賃金未払いなどのトラブルを防止するのが主な目的です。
企業は何曜日を法定休日にするのか決めたうえで、就業規則を変更する必要があるでしょう。
また、シフト制や変形労働時間制を導入している場合、シフト表や勤務表でそれぞれの法定休日を指定するなど対応が必要です。
有給休暇の賃金算定方式の統一
有給休暇取得時の賃金について、計算方法が統一される見込みです。
現行法では、従業員が有給休暇を取得した場合、企業は以下3つのうちいずれかの方法で賃金を支払う必要があります。
- 平均賃金
- 通常の賃金
- 標準報酬日額
「平均賃金」や「標準報酬日額」を選択した場合、日給制や時給制で働く従業員の受取額が大きく目減りしてしまうという問題点がありました。
計算方法を「通常の賃金」に統一すれば、出勤日と同じ賃金が支払われるため、一部の従業員が損をするリスクを回避できます。
パートやアルバイトが多い職場では、就業規則の変更や勤怠システムの見直しなどに時間がかかるおそれがあるため、計画的に準備を進めましょう。
多様な働き方に対応するルールの見直し
多様な働き方に対応するため、以下のような方法が提案されています。
●副業・兼業における労働時間や割増賃金ルールの見直し
副業・兼業時の労働時間の通算ルールが廃止される予定です。廃止後は、それぞれの職場で労働時間を管理し、割増賃金を支払えば良いため、企業側の負担が大きく減ると期待できます。
●部分的なフレックスタイム制の導入
現行法では、フレックスタイム制を部分的に適用することはできないため、出社日とテレワーク日が混在する場合、フレックスタイム制は適用できません。
部分的な適用が認められれば、テレワークの日のみフレックスタイム制を適用できるため、家庭との両立を図りやすくなります。
●テレワーク時のみなし労働時間制の導入
柔軟な働き方を促進するため、テレワークに特化したみなし労働時間制の導入が検討されています。自宅で実労働時間にとらわれずに働けるため、家事や育児とも両立しやすくなるでしょう。
テレワーク時の残業代の取り扱いについては、以下のページをご覧ください。
「つながらない権利」に関するガイドライン策定
「つながらない権利」とは、業務時間外は会社からの連絡への対応を拒否できる権利です。例えば、休日に上司から仕事の電話やメールがきても、応じる必要はないというものです。
日本の現行法では、つながらない権利に関する規定はありません。プライベートの確保やストレス防止の観点からも、今後は明確な規定が必要とされています。
改正案では、つながらない権利に関するガイドラインを策定し、労使間で社内ルールを検討することが提言されています。具体的には、「どのような連絡なら拒否できるのか」、「緊急時の対応」などについて協議が必要です。
綿密なコミュニケーションが必要な職場や、トラブルが発生しやすい仕事では、つながらない権利によって業務に支障をきたすおそれもあるため、社内ルールは慎重に取り決めましょう。
法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
一部の小規模事業所のみに適用されていた「法定労働時間週44時間の特例措置」が廃止され、一律で週40時間となる見込みです。
法定労働時間は「1日8時間、週40時間」ですが、飲食店や病院、卸売業など一部の業種では、仕事の特性を踏まえて「週44時間」まで延長できる特例措置が認められています。
改正によって特例措置が廃止された場合、業種や事業所の規模を問わず、法定労働時間は週40時間で統一されます。
廃止の理由は、特例措置を利用している事業所が少なく、需要が減っていると考えられるためです。
一方、特例措置を実施している事業所では、労働時間の削減や業務体制の見直し、人員補充などが必要になるため注意しましょう。
労働基準法改正による企業への影響とは
労働基準法が大幅に改正された場合、企業に求められる対応も大きく変わります。労務担当者は改正点をしっかり理解し、今後の対応を早めに検討することが重要です。
具体的には、以下のような影響が出ると考えられます。
- 労働時間の制約が厳しくなる
- 勤怠管理や給与計算が複雑になる
- 人件費や管理コストの負担が増える
労働時間の制約が厳しくなる
法改正により、労働時間の制約が厳しくなると考えられます。
例えば、連続勤務の日数が制限されることで、今までのようにスムーズに仕事が回らなくなる可能性があります。
また、労働実態の公表義務が課されれば、企業イメージ向上のためにも“時間外労働の削減”や“有給休暇の取得促進”といった対応が重要です。
限られた労働時間でより高い成果を出すには、業務体制全体の見直しが必要です。
例えば、以下のような対策は有効でしょう。
- 作業を自動化して効率アップを図る
- シフトパターンを増やして柔軟な勤務体系をつくる
- 労働時間を確認し、長時間労働が多い場合はすぐに改善策を検討する
- 優秀な人員を採用し、定着を図る
勤怠管理や給与計算が複雑になる
勤務時間や休日のルールが変更されるため、労務管理や給与計算が複雑になると考えられます。
担当者は、新たに以下のような対応が求められるでしょう。
- 勤務間インターバルの個別管理
- 勤務表やシフト表における法定休日の特定
- 連続勤務日数のカウント
- 副業・兼業している従業員の労働時間管理
基本的には勤怠システム上で管理できますが、新たな運用に慣れるにはある程度時間がかかります。
“違法な長時間労働”や“残業代の未払い”が発生した場合、罰則や損害賠償につながるリスクがあるため、準備は早めに整えておきましょう。
労働時間の把握義務については、以下のページをご覧ください。
人件費や管理コストの負担が増える
費用面でも、企業に以下のような影響を与える可能性があります。
●人件費や採用費がかかる
労働時間の制約が厳しくなり、従来の体制では仕事が回らないことも想定されます。新たな人員を確保する場合、人件費や採用費、教育費などが発生するでしょう。
●割増賃金が増える
法定休日の特定により、曖昧だった割増賃金の計算が明確になります。休日労働に該当する場合、必ず35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
●勤怠システムのコストがかかる
勤怠システムの導入やアップグレードには、一定のコストがかかります。自動計算やアラート機能を追加する場合、さらに高額になる可能性もあるでしょう。
労働基準法改正に向けて企業がすべき5つの対策
労働基準法の大改正に向けて、企業は以下のような対策を講じる必要があります。
- 就業規則や雇用契約書の見直し
- 勤怠管理システムの強化
- 業務プロセスの見直しと生産性向上
- 従業員への周知徹底
- 労務管理部門の体制強化
手続きに時間がかかる可能性もあるため、早めに行動することが重要です。
就業規則や雇用契約書の見直し
労働基準法の改正にあわせて、就業規則や雇用契約書の見直しが必要です。追加や変更が必要なのは、以下のような事項です。
- 連続勤務日数の上限
- 法定休日の特定
- 勤務間インターバル制度
- 有給休暇取得時における賃金の計算方法
- 副業・兼業における労働時間通算ルールの廃止
- 法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
あらかじめ労働者と協議し、同意を得たうえで追加・変更することが重要です。法令に反する部分はすべて無効となるため、注意しましょう。
勤怠管理システムの強化
改正後のルールにも対応できるよう、勤怠管理システムの強化が求められます。
例えば、勤務間インターバル制度を導入する場合、1人1人が十分な休息時間を確保できているか管理しなければなりません。法定休日や連続勤務日数についても、自動的に勤務表に反映・管理できるシステムを選ぶと安心です。
アラート機能も備わっていれば、上限を超える前に対策を講じることができます。
給与の計算方法も変わる可能性が高いため、必要に応じてシステムを改善しておきましょう。
労働時間の把握義務については、以下のページをご覧ください。
業務プロセスの見直しと生産性向上
労働時間の制約が厳しくなるため、今まで以上に効率よく作業を進めなければなりません。業務プロセスや人員配置、シフト体系などを見直し、作業効率のアップと生産性の向上を目指しましょう。
例えば、業務フローや作業内容を洗い出し、「無駄な作業はないか」「1つの作業に人員を割きすぎていないか」などを確認します。
業務を見直しても仕事が回らない場合は、機械の導入や人員補充なども検討すべきでしょう。
従業員への周知徹底
就業規則を変更した場合、以下のような方法で従業員に周知することが義務付けられています。
- 事業所での掲示
- 書面の配布
- 電子データによる公開・閲覧
周知だけでなく、社内説明会や研修なども行うと従業員の理解がより深まるでしょう。
例えば、「連勤は〇日を上限とする」「終業から始業までは必ず〇時間の休息を確保すること」「法定休日は日曜日とする」など端的に伝えると、認識のズレを予防できます。
特に管理監督者や責任者に対しては、部下の労働時間や勤務日数をしっかり管理するよう教育を徹底する必要があります。
労務管理部門の体制強化
労働基準法の大幅な改正に対応するには、業務体制の見直しと強化が重要です。
特にシフト制や変形休日制を取り入れている場合、現状の体制では業務が回らなくなるおそれがあるため、作業の効率化や事業計画の再検討が必要でしょう。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 業務量に応じた適切な人員配置
- 柔軟なシフト体系の導入(シフトの細分化など)
- 作業の機械化・自動化
- 新規採用の強化
- システム対応に特化した専門チームの設立 など
改正後の対応に不安がある場合、弁護士などの専門家に相談・依頼するのもおすすめです。
2026年の労働基準法の改正内容や企業対応については弁護士にご相談ください
労働基準法の大改正は、企業や労務担当者に大きな影響を与える可能性が高いです。
特に「連続勤務日数の制限」や「勤務間インターバル制度の導入」などは、業務体制を大幅に見直すきっかけとなります。今まで当たり前だった働き方が変わり、混乱する従業員も出てくるでしょう。
事業者は法改正による変更点を早めに整理し、計画的に準備することが重要です。
弁護士に相談・依頼すれば、改正後の内容をわかりやすく説明してもらえるだけでなく、実務上のポイントも効率よく把握できます。
弁護士法人ALGは、多くの企業と顧問契約を結んでおり、実務経験もたいへん豊富です。企業のニーズに応じて適切に対応しますので、ぜひ一度ご相談ください。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
