【最新版】社会保険の適用拡大とは?企業の対応と今後の改正について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2024年10月、従業員数51人以上の企業で、短時間労働者の社会保険加入が義務づけられました。
さらに2025年6月の改正により、加入対象は今後も拡大されることが決定しています。

2026年10月以降、106万円の壁が廃止され、企業規模による制限も2035年までに段階的に撤廃される予定です。パート・アルバイトの社会保険加入が必要となる場面が今後増えるため、企業は早めの準備が求められます。

この記事では、社会保険適用拡大の内容と、企業が取り組むべき対応について解説します。

2024年10月より社会保険の適用範囲が拡大

2024年10月から、従業員数51人~100人の企業で働くパート・アルバイトの方も、一定の要件を満たせば、新たに社会保険(厚生年金と健康保険)への加入が必要になりました。
これまでは従業員101人以上の企業に限られていましたが、改正により多くの中小企業に制度が広がっています。

この見直しの背景には、厚生年金への加入者を増やし、将来の年金受給額を増やすことで、老後の生活保障を充実させる狙いがあります。短時間労働者にとっては、早くから年金に加入できる安心感が得られ、企業にとっても人材確保や定着が期待できるのがメリットです。

自社が適用事業所となるかを早めに確認し、加入対象者の把握や必要な手続きを進めることが大切です。

適用拡大の対象となる企業

従業員数51人~100人の企業等で働く短時間労働者が、新たに社会保険の適用となりました。

ここでいう従業員数とは、単に雇っている人数ではなく、厚生年金保険に加入している被保険者数のことです。具体的には、フルタイムで働く従業員と、週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上ある従業員を合計してカウントします。雇用形態は問わず、条件を満たせばパート・アルバイトも含まれます。

従業員数は毎月確認することが必要です。直近12ヶ月のうち6ヶ月で基準を上回ると、社会保険の適用対象となります。法人は同一法人番号の全事業所を合計し、個人事業所は事業所ごとに判断します。要件を満たすか判断に迷う場合は、管轄の年金事務所にご確認ください。

適用拡大の対象となる労働者

従業員数51人~100人の企業等で働く短時間労働者であって、以下の条件をすべて満たす場合は、新たに社会保険の加入が必要になります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
  • 月額賃金が88,000円以上であること
  • 2ヶ月を超えて雇用される見込みがあること
  • 学生ではないこと(休学中や夜間学生は加入の対象)

これらの条件を満たす場合は、パートやアルバイトであっても、厚生年金や健康保険への加入が必要です。

従来の短時間労働者は、基本的にフルタイム労働者の労働時間・日数の4分の3以上働かなければ、社会保険に加入できませんでした。しかし、今回の改正により、4分の3未満の勤務であっても、一定の収入と労働時間があれば加入できる制度へと見直されました。

勤務時間・給与額の考え方

短時間労働者が社会保険の加入対象になるかどうかを判断する際は、勤務時間と給与額の基準を理解しておくことが重要です。ポイントは次のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
    契約上の所定労働時間を意味するため、残業時間は含まれません。
  • 月額賃金が8万8000円以上
    基本給と手当を意味し、残業代や賞与、臨時的な賃金などは含まれません。
  • 勤務時間が一定でない場合
    実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、今後も続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から保険加入となります。

【今後の改正】50人以下の企業はいつから適用対象になるのか?

対象企業規模(適用拡大) 運用開始時期
従業員36人以上 2027年10月~
従業員21人以上 2029年10月~
従業員11人以上 2032年10月~
従業員10人以下 2035年10月~

現在、短時間労働者が社会保険の加入対象かどうかを判断する際には「従業員数51人以上の企業に勤務していること」が一つの基準とされています。

しかし、2025年6月の改正により、この企業規模要件は2027年10月から2035年10月にかけて、段階的に撤廃されることが決まりました。最終的には企業規模にかかわらず、すべての企業が社会保険の適用対象となります。

あわせて、次のような重要な改正も予定されています。

  • 短時間労働者の賃金要件(年収106万円の壁)の撤廃(2026年10月施行)
  • 業種を問わず5人以上の従業員を雇用する個人事業所への社会保険適用(2029年10月施行)

これまで対象外であった中小規模の事業所も順次、社会保険制度に組み込まれていきます。事業主は早めの対応準備が必要です。

社会保険適用拡大において企業が取り組むべき実務対応

社会保険の適用拡大により、これまで対象外だったパート・アルバイトの方が、新たに社会保険へ加入するケースが増えています。企業は制度の内容を正しく理解し、計画的に実務を進めることが重要です。取り組むべき対応として、以下があげられます。

  • ①加入対象者の把握
  • ②社内周知
  • ③加入対象者への説明・意向確認
  • ④書類の作成・届出
  • ⑤労務管理の徹底

①加入対象者の把握

自社に新たに社会保険の加入対象となる従業員がいるのか、その人数を正確に把握することが重要です。雇用契約書や勤怠データを確認し、週の所定労働時間や月額賃金が要件を満たしているかを一人ずつチェックしましょう。

また、シフト制で勤務時間が変動する従業員については、直近の実労働時間の推移を確認し、今後も基準を満たす見込みがあるかを見極める必要があります。

②社内周知

新たに加入対象となるパート・アルバイト従業員に対し、法律改正の内容が伝わるよう、説明会、個人面談、社内イントラ、メール及び書面等を活用し、周知に努めることが重要となります。

③加入対象者への説明・意向確認

新たに加入対象となる従業員には、事前にわかりやすい説明と意向確認を行うことが重要です。

まず、社会保険の加入対象となる理由を丁寧に伝えましょう。そのうえで、メリットとして将来受け取れる年金額が増えることや、健康保険の保障が手厚くなる点を説明します。

一方、社会保険料が給与から天引きされ、手取り額が減るデメリットについても伝えることも必要です。あわせて、今後の労働時間や働き方についても話し合って、本人の理解を得ることは円滑な手続きにつながります。

④書類の作成・届出

厚生年金の被保険者数が、6ヶ月以上にわたり常時51人以上となった場合は、「特定適用事業所該当届」を日本年金機構へ提出する必要があります。なお、年金機構において要件を満たすことが確認された場合には、事業主の届出がなくても、その内容を知らせる通知書が送付されます。

特定適用事業所となり、新たに社会保険へ加入する短時間労働者が出た場合は、「被保険者資格取得届」を日本年金機構や健康保険組合に提出しなければなりません。届け出は窓口だけでなく、オンラインでも可能です。

⑤労務管理の徹底

労務管理に不備があった場合、労務トラブルに発展するおそれがあるほか、優良な従業員の確保も困難となる可能性があります。
したがって、弁護士等の専門家に相談をしつつ、労務管理を徹底することが重要となります。

社会保険の適用拡大による企業の負担増加への備え

パート・アルバイトの社会保険加入が広がることで、企業では社会保険料の事業主負担が新たに必要となります。その結果、人件費の増加や事務対応の手間が生じるおそれがあるため注意が必要です。

こうした影響に備えるためには、日頃から加入対象となり得る従業員を把握し、条件に該当した場合の社会保険料を早めに試算しておくことが大切です。費用面や事務作業への影響をあらかじめ整理しておけば、予算管理や人員配置の見直しもしやすくなり、社会保険制度の変更にも落ち着いて対応できます。企業には、将来を見据えた計画的な準備が求められます。

社会保険の適用拡大で活用できる「キャリアアップ助成金」

短時間労働者が新たに社会保険へ加入する場合、労働条件を見直さなければ従業員の手取りが減り、企業の負担も増える可能性があります。こうした影響を抑える手段として活用できるのがキャリアアップ助成金です。

助成金を利用するときは、ハローワークを通じて申請を行います。代表的なものとして、以下があげられます。

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)(2025年7月新設)
社会保険への加入にあわせて、労働時間の延長や賃金引上げを行い、従業員の収入を増やす取組みを行った事業主を支援する制度です。一定の要件を満たすことで、社会保険に加入した短時間労働者1人あたり最大75万円の助成を受けることができます。

社会保険の加入義務に違反した場合の罰則

社会保険の加入義務があるにもかかわらず、社会保険への加入を行わなかった場合、経営者には罰則が科されるおそれがあります。具体的には、6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられる可能性があり、見過ごせないリスクです。

また、未加入が発覚すると、最大2年分までさかのぼって社会保険料の納付を求められます。納付期限を過ぎた分については延滞金が発生するため、未納額が大きいほど金銭的な負担は大きくなります。

さらに、社会保険に加入できなかったことを理由に、従業員から損害賠償を請求されるおそれもあるため注意が必要です。こうしたトラブルを防ぐためにも、自社に加入義務があるかを早めに確認し、必要な手続きを行うことが重要です。

社会保険の拡大についてのQ&A

社会保険の適用拡大による企業側のメリットはありますか?

社会保険の適用が拡大されることで、従業員の定着率の向上などがあり得ます。
また、条件を充足することで、キャリアアップ助成金等の助成金を受給することができる可能性もあります。

加入対象者から「扶養内で働きたいため社会保険に加入したくない」と言われた場合、企業はどう対応すべきでしょうか?

従業員から社会保険に加入したくないと言われたら、労働条件を見直すことで加入対象外とする対応が考えられます。具体的には、月収を8万8000円未満に抑える、または週の所定労働時間を20時間未満にすることで、社会保険の加入対象外とすることできます。

ただし注意が必要なのは、実際の勤務状況です。契約上の労働時間が20時間未満でも、残業を含めて週20時間以上の勤務が続いている場合には、社会保険への加入が必要と判断される可能性があります。

副業している労働者の社会保険加入については、どのように考えればよいですか?

副業をしている労働者の社会保険加入は、勤務先ごとに要件を判断するのが原則です。

片方の勤務先だけで加入要件を満たす場合はその勤務先で加入し、両方で要件を満たす場合は、本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出して主たる事業所を選びます。

保険料は、各勤務先の報酬を合算して決まった標準報酬月額をもとに、各社で按分して負担します。

加入対象となった従業員の保険料負担を軽減させる公的な支援策はありますか?

2026年10月より、短時間労働者の保険料負担を軽減する公的な支援制度がスタートする予定です。
対象は従業員数50人以下の事業所で働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険へ加入した短時間労働者であって、標準報酬月額が12万6000円以下の方です。

この制度を活用すれば、事業主が通常より多く保険料を負担することで、従業員の負担を軽くできます。さらに、会社が多く支払った分は、その全額が制度全体で支援されるため、企業側の負担も抑えられます。支援期間は最長3年です。

社会保険適用拡大への実務対応でお困りなら、労務問題に強い弁護士にご相談ください。

社会保険の適用拡大への対応は、加入対象者の判断や手続きの進め方など、企業にとって判断に迷いやすい点が多く、決して簡単ではありません。

対応を誤ると、従業員とのトラブルに発展したり、罰則を受けたりするリスクも生じます。こうした不安を抱えたときは、労務問題に詳しい弁護士へ相談することが有効です。

弁護士法人ALGには、労働法務に詳しい弁護士が多く在籍しており、社会保険を含む雇用に関する課題について、企業を支援してきた実績があります。法令を踏まえた的確なアドバイスにより、企業のリスクを抑えながら、制度対応をスムーズに進めることが可能です。社会保険適用拡大への対応でお悩みの場合は、ぜひ私たちにご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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