監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2022年10月より社会保険の適用範囲が拡大されます。従来であれば、社会保険が適用されなかった労働者にも、改正により社会保険への加入が必要となる場合があります。ここでは、社会保険適用拡大の概要や、企業が取り組むべき実務対応について説明します。
目次
- 1 2022年10月より社会保険の適用範囲が拡大
- 2 社会保険の適用拡大で想定される企業への影響とは?
- 3 社会保険適用拡大に向けて企業が取り組むべき実務対応
- 4 社会保険の適用拡大で活用できる「キャリアアップ助成金」
- 5 社会保険の加入義務に違反した場合の罰則
- 6 社会保険適用拡大への実務対応でお困りなら、労務問題に強い弁護士にご相談下さい。
- 7 よくある質問
- 7.1 「週の所定労働時間が20時間以上」には残業時間も含まれますか?
- 7.2 「月額賃金が8万8000円以上」には残業代や賞与、臨時的な賃金等も含まれますか?
- 7.3 週の所定労働時間が周期的に変動し、一定ではない場合はどう判断されますか?
- 7.4 従業員数のカウントに含まれないのはどのような労働者ですか?
- 7.5 社会保険へ加入する従業員のメリット・デメリットを教えて下さい。
- 7.6 社会保険の適用拡大による企業側のメリットはありますか?
- 7.7 加入対象者から「扶養内で働きたいため社会保険に加入したくない」と言われ場合、企業はどう対応すべきでしょうか?
- 7.8 副業している労働者の社会保険加入については、どのように考えればよいですか?
- 7.9 日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が届いたのですがどうしたらいいですか?
- 7.10 2024年10月からの社会保険適用拡大に向けて、企業がしておくべきことはありますか?
2022年10月より社会保険の適用範囲が拡大
まず、法改正により、どのような企業が新たに社会保険の適用とされるのかみてみましょう。
適用拡大の対象となる企業
従業員数101人~500人の企業で働くパート・アルバイトが新たに社会保険の適用となります。
【従業員数のカウント方法】
従業員数を数える際には、フルタイムの従業員数に、週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員の数を合計します。
新たに社会保険の適用対象となる労働者
従業員数101人~500人の企業で働くパート・アルバイトが新たに社会保険の適用となります。
社会保険の適用拡大で想定される企業への影響とは?
つぎに、社会保険の適用範囲が拡大されたことにより、企業へどのような影響が生じるのか解説します。
社会保険料の負担増加
令和4年9月末までは、従業員数が101人~500人の企業については、パート・アルバイトが社会保険の適用でなかったところ、今後は社会保険が適用されることになりますので、企業にとっては、社会保険料の負担が増加することになるものと考えられます。
雇用への影響
雇用への影響として労働力の減少が挙げられます。
もともと、扶養の範囲内で働きたい従業員が、新たに社会保険の適用となることを嫌がり、労働条件の変更やシフトの調整を申し出する可能性があります。会社として労働力の減少に繋がる恐れもあり、あらかじめ従業員の希望を聴取したほうが良いでしょう。
社会保険適用拡大に向けて企業が取り組むべき実務対応
では、具体的に、新たに社会保険が適用されることにより、実務上どのような対応が必要となってくるのでしょうか。以下で説明していきます。
①加入対象者の把握
まずは、社内に新たに加入対象となる従業員がいるのか、その人数等を把握することが重要でしょう。
なお、加入対象となる従業員は、以下の各項目すべてを充足する従業員です。
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
- 月額賃金が8万8000円以上であること
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと
②社内周知
新たに加入対象となるパート・アルバイト従業員に対し、法律改正の内容が伝わるよう、説明会、個人面談、社内イントラ、メール及び書面等を活用し、周知に努めることが重要となります。
③加入対象者への説明・意向確認
ポイントとして、以下の説明をすることが考えられます。
- 社会保険の新たな加入対象者であることについて
- 社会保険の加入メリット等について
- 今後の労働時間等について
④書類の作成・届出
社会保険の適用対象の企業には、2022年8月までに日本年金機構から新たに適用拡大の対象となることを知らせる通知書が届きます。
対象の企業は、届書を作成し、同年10月5日までに厚生年金保険の「被保険者資格取得届」をオンライン申請することが必要です。
⑤労務管理の徹底
労務管理に不備があった場合、労務トラブルに発展する可能性があるだけではなく、優良な従業員の確保も困難となる可能性があります。
したがって、弁護士等の専門家に相談をしつつ、労務管理を徹底することが重要となります。
社会保険の適用拡大で活用できる「キャリアアップ助成金」
短時間労働者の労働時間を延長した場合や、洗濯的適用拡大を行った場合等に助成金を申請することができます。申請をする場合には、都道府県労働局ハローワークに申請を行うことになります。
具体的には、以下のような助成金があります。
①社会保険労務士等の専門家を活用して従業員とコミュニケーションを取り、適用拡大を行った場合 | 19万円 |
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②さらに、パート従業員の社会保険加入の際に基本給も増額した場合 | 1万9000円~13万2000円 |
③さらに、短時間労働者に関する人事評価の仕組み・研修制度を整備した場合 | 10万円 |
また、金額は一定の要件を満たせば、更に増える場合があります。
社会保険の加入義務に違反した場合の罰則
社会保険加入義務の対象事業者であるにもかかわらず、社会保険への加入を行わなかった場合、経営者に罰則が与えられるおそれがあります。
具体的には、最大で6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられることになる可能性があります。
社会保険適用拡大への実務対応でお困りなら、労務問題に強い弁護士にご相談下さい。
社会保険加適用拡大への対応は、必ずしも簡単ではなく、また、不備があった場合には、労務トラブルに発展する可能性があるだけではなく、経営者に罰則が与えられる恐れもあるようなものです。
ご不安な点が残らないよう、労務問題の専門家である弁護士等にご相談ください。
よくある質問
「週の所定労働時間が20時間以上」には残業時間も含まれますか?
契約上の所定労働時間を意味するため、臨時に生じた残業時間は含まれません。
「月額賃金が8万8000円以上」には残業代や賞与、臨時的な賃金等も含まれますか?
基本給及び諸手当を意味し、残業代・賞与・臨時的な賃金等は含まれません。
週の所定労働時間が周期的に変動し、一定ではない場合はどう判断されますか?
実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から保険加入となります。
従業員数のカウントに含まれないのはどのような労働者ですか?
週労働時間がフルタイムの3/4未満の労働者は従業員数のカウントに含まれません。
社会保険へ加入する従業員のメリット・デメリットを教えて下さい。
メリットとしては、将来受け取ることのできる年金額が大きくなるというものがあります。
デメリットとしては、社会保険料が、給料から天引きされることになり、給料の手取り額が少なくなるというものがあります。
社会保険の適用拡大による企業側のメリットはありますか?
社会保険の適用が拡大されることで、従業員の定着率の向上などがあり得ます。
また、条件を充足することで、キャリアアップ助成金等の助成金を受給することができる可能性もあります。
加入対象者から「扶養内で働きたいため社会保険に加入したくない」と言われ場合、企業はどう対応すべきでしょうか?
週の所定労働時間を短くしたり、月額賃金を8万8000円以下としたりすることで、当該従業員を加入対象者ではないように調整することができます。
副業している労働者の社会保険加入については、どのように考えればよいですか?
副業先の会社でも社会保険加入が必要となった場合、双方で社会保険に加入することになります。
日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が届いたのですがどうしたらいいですか?
2022年10月5日までに届出書を作成し、厚生年金保険の「被保険者資格取得届」を届け出ることが必要になります。
2024年10月からの社会保険適用拡大に向けて、企業がしておくべきことはありますか?
加入対象者の把握、社内周知、加入対象者への説明・意向確認、書類の作成及び届出といった対応事項があります。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある