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転勤命令に従わない従業員への対応

事例内容 相談事例
人事 異動
就業規則 就業規則
問題社員 懲戒解雇
担当した事務所 ALG 東京法律事務所

事案の概要

16年前に入社したパート社員に対し、勤務地の変更をするように打診したところ、拒否されてしまいました。

異動対象の社員が入社した際に配属された事業所Aが、10年ほど前に近隣の事業所Bに統合されることとなった関係で、当該社員には一度事業所Bに勤務地を変更してもらったことがあるのですが、この度、統合されていた事業所Bにつき、改めて事業所Aと事業所Bに分割することとなりました。

統合していた事業所を元に戻した関係で、当該社員が担当できる業務は事業所Aにしかなくなってしまうので、当該社員には勤務地をまた事業所Aに戻してもらいたいと思っています。 ところが、事業所Aはもともと当該社員が勤務していたところであり、通勤時間も短くなるはずなのに、当該社員は「心療内科に通っており、精神的に不安定である。環境の変化にとても不安があるため、勤務地を変えたくない。」と主張し、勤務地の変更に同意しません。

会社として、勤務地の変更を命じることはできるのでしょうか。また、勤務地の変更を受け入れない場合、あてられる仕事がないのですが、解雇できるでしょうか。

弁護士方針・弁護士対応

業務命令として勤務地の変更を命じる場合には、原則として、就業規則などに「業務の都合により異動を命じることがある」等の規定を設け、貴社に勤務地変更に関する人事権があることを明示しておくことが必要となります。そのため、問題の社員に適用される就業規則・細則等に、貴社の業務命令権限を根拠づける規定がないかご確認ください。

仮に就業規則その他の細則等に貴社の業務命令権限を根拠づける規定がないとしても、貴社内で慣習的に人事異動が行われてきた場合や、問題の社員が黙示的にも人事異動に同意する場合には、例外的に貴社に業務命令権限が認められる可能性もあります。そのため、規定がない場合には、このような慣習・背景がないかについても確認する必要があります。

貴社に勤務地変更に関する人事権がある場合、社員が勤務地の変更を拒絶するときは、業務命令に従わなかったものとして、懲戒事由に該当する可能性があります。 もっとも、貴社の人事権の行使が権利の濫用であると判断される場合にはこの限りではありません。権利の濫用と判断されやすいケースの例としては、人事異動に業務上の必要性がない場合、人事異動の動機・目的が不当な場合、労働者が被る不利益が著しい場合、賃金の減額を伴う場合が挙げられます。

本件では、事業所の分割に伴う勤務地変更であり、当該社員にとっては従前の業務を継続するためには必要であり、元の勤務地に戻るもので、却って通勤時間も短くなるものとのことでした。そうすると、上記「権利の濫用と判断されやすいケース」には該当しない可能性が高いものと考えられますが、例えば事業所Bで当該社員が対応可能な業務を用意することが容易にできるにもかかわらず敢えてポストを消滅させたという背景があったり、問題の社員に過度な心身的な負担が生じる場合等には、業務命令に従わなかったことをもって懲戒処分をすることが違法であると判断される可能性があります。

加えて、業務命令違反が解雇事由に当たるとしても、それによって直ちに懲戒解雇できるわけではなく、解雇のハードルは非常に高いものと認識していただく必要があります。
裁判例の傾向をみるに、解雇対象者に十分に改善の機会を与えつつ、それでも改善されなかったといえるだけの事情があれば解雇が有効と判断されやすいものと解されますが、問題の社員について、これまでに何度も業務命令違反があったというわけではないのであれば、この度の勤務地変更に関する業務命令を拒絶したという一事をもって解雇とするのは、後に無効と判断される可能性が非常に高くなってくるものと考えられます。

以上を踏まえると、当該社員を解雇とすることは得策でないものと考えられます。
貴社に業務命令権限があるのであれば、勤務地変更を受け入れない場合に当該社員にあてられる業務がなくなってしまうこと、業務命令違反として懲戒処分の対象となることを伝え、それでも新たな配属先での業務に従事しない場合には、それに対する懲戒処分等を行っていくことをご検討ください。

そもそも、貴社に異動を命じる業務命令権限がないのであれば、原則として一方的に新たな配属先に勤務させることはできないので、勤務地変更の同意を獲得するしかないということになります。交渉をする際には、後に強要により得られた同意だったと言われないように留意する必要がありますので、同意をしないことに対する制裁を示唆することのないようご注意ください(同意しないと解雇する、等)。また、後に同意がなかったという話が出ないように、異動の必要性を十分に説明しつつ、説明内容や同意の取得について文書を取得する(覚書等のほか、メールや社内チャット等でも可)ことを意識していただければと思います。

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