懲戒処分を行う場合の注意すべきポイント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

懲戒処分とは、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰をいいます。
もっとも、従業員が使用者にとって好ましくない行動をとれば、直ちに重い懲戒処分を下せるかというと、そういうわけではありません。
そこで、今回は、どのような場合に従業員に懲戒処分を下すことができるのか、懲戒処分を下す場合にはどういったポイントに注意すべきなのかといった点について解説していきます。

懲戒処分を行う場合の注意すべきポイントとは?

懲戒処分は、従業員に対して大きな不利益を与えるものですから、処分の内容や手続については、いくつか注意すべき点があります。

懲戒処分を行うための法的な要件とは?

懲戒処分を有効に行うためには、下記の要件を満たすことが必要です。

  • 周知された就業規則等に懲戒処分の合理的な根拠規定が定められていること
  • 当該懲戒処分事由に該当すること
  • 処分内容が相当であること
  • 手続が相当であること

懲戒処分の根拠となる就業規則

懲戒処分の根拠となる就業規則は、周知されており、そしてその内容が懲戒の種別と事由を明確に定めた合理的なものになっている必要があります。

「なぜ就業規則に懲戒処分について明記する必要があるのか」、「懲戒事由も必ず具体的に定めておかなければならないのか」等、疑問に思われた方は、下記の記事をご参照ください。

処分の相当性があること

懲戒処分の内容は、労働者の懲戒事由の程度や内容等に照らして、相当なものである必要があります。そのため、従業員が1分遅刻しただけで解雇処分を科すことは妥当でないと考えられます。なお、処分の相当性を判断する際は、懲戒事由とされた行動の態様、動機、業務への影響、損害の程度、労働者の態度、使用者側の原因等が考慮されます。

弁明する機会を与える

懲戒処分をする際に弁明の機会を与えることは法律上義務づけられていませんが、懲戒処分の相当性を判断する際には、「弁明する機会が与えられたかどうか」が重視されます。

そのため、弁明の機会を与えていない場合、懲戒権の濫用が疑われてしまうおそれがあるので、弁明の機会はできるだけ与えるべきだといえます。特に就業規則に「懲戒処分をする際には弁明の機会を与えるべき」と明記している場合には、必ず就業規則で規定するとおりに弁明の機会を与えなければならないので注意しましょう。

重大な規則違反でも与えるべきか?

懲戒処分には刑罰に類似した制裁罰という性質があるので、処分の適正性を保障するためにも、重大な規則違反を行った者であっても弁明の機会を与えることが望ましいでしょう。

そもそも従業員に処分の原因となった事実関係に関する弁明の機会を与える理由は、事実認定を適切に行うことにより、懲戒処分が適正な手続に則って行われたことを根拠づけるためです。そのため、規則違反の程度に関係なく与えられるべきだと考えられます。

社員に問題行為があれば懲戒処分できるのか?

社員に問題行動があり、それが就業規則で規定している懲戒事由に当てはまるケースでも、すぐに懲戒処分を科すことは望ましくないでしょう。次項以下で説明するように、段階を踏んでいくことが大切です。

まずは指導することで改善を促す。

社員の問題行動を改善させ、社員との関係を維持しつつ、今後の社内秩序を守るという観点からは、直ちに懲戒処分を科すよりも、社員に指導して、自発的な改善を促す方が効果的な場合があるといえるでしょう。

段階的な処分の実施

同種の規定違反行為が繰り返された場合、最初は軽い処分を科したとしても、労働者の態度に反省が見られないことから、2回目以降は徐々に重い処分を科すことになると考えられます。

懲戒処分に該当する問題社員の具体例とは?

懲戒処分に該当する社員の問題行動としては、職務懈怠(無断欠勤、遅刻早退、業務命令違反等)、職場規律違反行為(ハラスメント行為、横領収賄等)、経歴詐称等が挙げられます。

懲戒事由についてもっと知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。

私生活における非行は懲戒処分の対象か?

私生活上の行動は、通常であれば懲戒処分の対象になりません。ただし、企業がスムーズな経営をしようとするうえで支障が生じるおそれがある等、企業の秩序に関係ある問題行動をしている場合は、例外的に懲戒処分の対象になると考えられます。

問題社員を懲戒解雇とする場合の注意点

社員(従業員)に対して懲戒解雇処分を科す場合には、その問題行動が社員を会社外に排除しなければならない程の重大性を有しているかどうか、企業秩序侵害に現実的な危険性が生じているかどうかを見極めるとともに、適正な手続が採られるように気をつける必要があります。

問題社員への具体的な対応方法は、下記の記事で詳しく説明します。

退職金の減額・不支給は認められるか?

賃金規程や就業規則等に、問題行動をした社員の退職金について「支給しない」または「減額する」と定められており、その問題行動の程度と不支給・減額といった措置の重大さが釣り合っていれば、退職金の不支給や減額は認められると考えられます。詳細については下記の記事をご確認ください

懲戒処分の有効性が争われた判例

【最高裁 平成24年4月27日第2小法廷判決】

事件の概要

ある社員が精神的不調を患い、実在しない加害者集団が盗撮や盗聴等を通じて自らの日常生活に関する情報を取得し、職場の同僚らを通じて当該情報をほのめかす等の嫌がらせをしているとの認識を有していました。

その社員は、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており、自己の情報が外部に漏洩される危険もあると考え、会社に対して、当該被害に関する事実の調査をすること及び休職を認めることを求めましたが、認められず出勤を促されたことから、当該被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨を予め会社に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けました。

そこで会社が、その社員に対して、正当な理由のない無断欠勤であることを理由に懲戒解雇処分を科したところ、その社員が当該懲戒解雇処分の有効性を争ったという事案です。

裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断しました。

・精神的不調を患っているために欠勤を続けている労働者は、精神的不調が解消されない限り出勤しないと予想される以上、会社としては、精神科医による健康診断を実施し、その診断結果等に応じて治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき。

・こうした対応を採らずに、社員が出勤しない理由が存在しない事実に基づくことから、直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置をとることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。

そして、当該社員の欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解し、本件処分は、就業規則所定の懲戒事由を欠くもので無効であると判断しました。

ポイント・解説

精神的に不調な社員が欠勤している場合、その不調が解消されるまで欠勤することには正当な理由があると認められるおそれがあるため、社員の言動から精神的不調が疑われるときは、健康診断の実施及び休職制度の実施を検討する必要性が高いと考えられます。

問題社員の懲戒処分でトラブルとならないためにも、労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします

たとえ社員が問題行動を起こしたからといって、すぐに懲戒処分をすべきではありません。まずは問題社員を指導して自発的な注意を促し、それでも改善しない場合には段階的に処分を行っていくことになります。しかし、不当な処分であると主張され、トラブルに発展してしまうリスクを完全になくすことはできません。

そこで、問題社員への対応に悩まれている使用者の方は、労働問題に強い弁護士に相談されてみることをおすすめします。労働問題に詳しい弁護士であれば、リスクを最大限回避できるよう、問題社員への対応方法等についてアドバイスすることが可能なので、労働トラブルを未然に防止できる可能性が高まります。また、万が一トラブルが生じてしまった場合にも、すぐに相談できる弁護士がいれば迅速・適切な対応をとることができるので、被害を最小限に抑えることにも繋がるでしょう。

懲戒処分等、問題社員への対応についてご不安がある方は、ぜひ労働問題に精通した弁護士に相談することをご検討ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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