監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
休職と復職を頻繁に繰り返す社員の取扱いは、使用者側にとって大きな悩みのタネの一つといえます。1人でもそのような社員が出れば対処に相当のコストを要しますし、適切に対処できなければ労務トラブルにも発展しかねないからです。
それでは、休職と復職を繰り返す社員がいる場合、会社はどのように対応していけば良いのでしょうか?詳しく確認していきましょう。
目次
休職・復職を繰り返す問題社員に会社はどう対応すべきか?
休職と復職を繰り返す社員については、度重なる休職に対処できるような休職制度を規定し、休職から解雇とするまでのプロセスを適切に経ること等で対応していきましょう。
そもそも休職制度とは何なのか、その概要は下記のページで解説しています。ぜひご覧ください。
メンタルヘルス不調による再休職について
適応障害等の精神疾患を理由とする休職は、職場に適応できていないことが最たる原因です。このように、メンタルヘルスに不調を来した場合は、復職してもまた症状が悪化して再休職となってしまうことも多いです。
休職・復職を繰り返す社員の特徴
普段、職場内で孤立しがちで、周りに溶け込めていない社員はいないでしょうか?
同僚との付き合い方がわからず、自分の思っていることを表に出せないような内向的な社員は、会社での居心地の悪さからメンタルヘルスに不調を来たし、最終的には休職と復職を繰り返すような事態に陥りがちです。
度重なる休職が他の従業員に及ぼす影響
一部の社員の度重なる休職は、会社全体の士気に影響するおそれがあります。
同僚が何度も休職しているというのは、他の社員にとって気持ちの良いものではありませんので、そのような状況を他の社員に見せること自体、会社全体の士気ひいては生産性を下げることになりかねません。
再休職させる場合の給与はどうなるのか?
休職させる場合、休職の理由が業務上の疾病にあたらない限り、休職期間中は無給としても問題はありません。
これは再休職させる場合でも同様ですので、再休職の期間中も、無給とすることができます。
休職期間中の賃金や賞与について、詳しく知りたい方は下記のページをご覧ください。
休職・復職を繰り返させないためにすべきこと
何度も休職と復職を繰り返されてしまうということは、他の社員との間で業務の分担調整が何度も必要になるということです。休職と復職を繰り返させないためには、就業規則の規定を含む制度の見直しをしておく必要があります。
休職・解雇に関する就業規則の見直し
身体又は精神の障害によって通常の労務提供を十分に行えないことは、労働者の労務提供義務の不履行を意味します。そのため、社員がこのような状態に陥った場合、人事権の行使として普通解雇権を行使できるように、就業規則に明記しておくべきです。
また、休職期間が満了する日までに、休職に至った事由が消滅していない事態に備え、復職できなかった場合に当然退職とする定めを置くことも有用です。さらに、同じような事由で複数回休職した場合に休職期間を通算してカウントするようにしておけば、度重なる休職にも対応できます。
下記のページでは、就業規則の整備による再休職の抑制について解説していますので、参考にしてください。
復職可否の適切な判断
休職していた社員の回復が完全かどうか疑わしい状態であるにもかかわらず、復職させることは避けてください。症状が悪化して再び休職に至ってしまうおそれがあるからです。
社員が復職に足りるだけ回復したといえるかどうかを会社が吟味するためにも、復職命令の前に医師の診断書を提出させるような規定を置くべきです。
度重なる休職を防ぐには、復職の見極めこそ重要です。詳しくは、下記のページをご覧ください。
また、休職後の復職については、下記のページで解説していますので、併せてこちらもご覧ください。
リハビリ出勤制度の導入
すぐには元の業務に復帰することができない社員に対応するには、リハビリ出勤制度の導入をご検討ください。これは、通常勤務と比較して量・質を減らし、期間の経過とともに徐々に通常勤務の業務内容に近づけていく、というものです。段階的にトレーニングし職場に慣らしていくことで、復帰への橋渡しをする、重要な制度といえます。
リハビリ出勤制度を導入する際には、リハビリ出勤の位置付け・期間・処遇について、休職制度の中に規定を設けておくことが賢明です。
リハビリ出勤についての詳しい内容は、下記のページをご覧ください。
復職後の業務内容等についての配慮
復職すれば必ず元の業務内容をこなせるとも限りません。慣れないうちに元の業務に服させることは、その社員に相当の負荷をかけ、最悪の場合、再び休職してしまうことも考えられます。その社員にとって無理のないラインを見極めることも重要です。
例えば、人との接し方がわからないような社員には、社外からかかってくる電話への応対を行わせないようにする等の配慮が考えられます。
復職後の業務内容等への配慮について、さらに詳しく知りたい方は下記のページをご覧ください。
休職・復職をめぐる裁判例
復職した従業員に対し、回復不十分で普通解雇とした会社の行為が解雇権の濫用にあたるとして、無効と判示した裁判例があります。
事件の概要
資材管理業務に従事していた従業員に躁うつ病の症状が見られたため、会社は休職命令を出しましたが、その約7ヶ月後、本人の復職希望及び医師の診断書提出があったことから、資材管理業務ではなく総務部勤務で復職させました。しかし、再び欠勤が目立つようになり、躁うつ病の症状も再び見られるようになったことから、会社が当該従業員を解雇したという事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、解雇に先立って会社が従業員の主治医に助言を求めた形跡がないこと、そして、従業員の治療の効果が上がっていたと考えられることからすると、従業員に対して自宅待機や再度の休職を含む適正な対応をとり、適正な治療を受けさせることによって、治療の効果を上げる余地があったと判示しました。
そして、会社の定める休職制度では、同じ理由による再度の休職も予定されていること、当該従業員について休職期間は最大2年となるところ、前回の休職期間が7ヶ月余りにすぎないことからすると、治療の効果が期待できるのであれば、会社において再度の休職を検討するのが相当であるとしました。(東京地方裁判所 平成17年2月18日判決)
ポイント・解説
裁判実務上、会社に休職命令を出す義務はないとされているものの、社員の具体的な回復状況や自社の休職制度を活用する余地等を考慮しない解雇が無効になる場合があることを判示した点で、本判決の意義は大きいといえます。
再休職の予防には社内規程の整備、復職可否の判断が重要となります。不明点があれば、まずは弁護士にご相談ください
休職する社員が1人であろうと、休職と復職を繰り返されればその社員への対応だけでも相当のコストがかかることになります。社員の度重なる休職には、就業規則といった社内規程を整備しておくことで一定程度対処できます。
そして、そのような社内規程に定めた制度を適切に運用することができれば、労務トラブルの発生を未然に防げる可能性が高まります。
社内規程の整備というハード面はもちろん、ハード面が最大限機能するように適切に運用する、ソフト面も重要です。多角的なアドバイスを得るためにも、休職と復職を繰り返す社員への対応についてご不明な点がある場合には、まずは弁護士までご相談いただければと思います。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある