団体交渉とは|進め方ややってはいけない対応など
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
団体交渉は、労使間の合意によるルール形成及びその運用という働きを有しており、労働者と使用者の意思疎通や組合員の苦情を処理する機能も担っています。
さらに、使用者は団体交渉に応じる義務があり、労働条件に関する労働者の交渉力が高められています。
本記事では、使用者の方へ向けて、団体交渉の法的性格や、団体交渉の際に使用者に課せられる義務等について解説していきます。
団体交渉とは
団体交渉とは、労働者が団結して労働組合を結成し、使用者等と交渉する行為です。
労働者が団体交渉を行う権利(団体交渉権)は憲法で保障されています。また、労働者にはストライキ等の団体行動を行う権利(団体行動権)もあることから、団体交渉を要求されたときには、日時や開催場所、そして具体的な交渉内容等について取り決めると良いでしょう。
団体交渉は、交渉が義務づけられる「義務的団体交渉事項」と、交渉が義務づけられない「任意的団体交渉事項」があります。それぞれ、次のような事項が該当します。
◆義務的団体交渉事項:給与・労働時間・休日・退職金・懲戒手続き・安全衛生等
◆任意的団体交渉事項:経営戦略・他社の動向・政治的な問題等
団体行動権(争議権)については、以下の記事で解説しているのでご覧ください。
団体交渉の対象事項については、以下の記事で詳しく解説しているので併せてご覧ください。
ユニオン・合同労組からの団体交渉
ユニオンとは、主に一定の地域において、中小企業の従業員や非正規社員等、企業別組合に所属していない労働者が加入する労働組合です。企業の枠を超えて団結しているため、合同労組と呼ばれることもあります。
ユニオンの特徴として、企業別組合との団体交渉よりも、交渉が激しいやり取りに発展するケースが多いことが挙げられます。その理由として、ユニオンに団体交渉の経験が豊富なメンバーがいることや、社内労働組合のように「労使協調」といったスタンスがないこと等が挙げられます。
団体交渉の拒否や無視は違法行為となる
団体交渉権は憲法で保障された権利であり、正当な理由のない団体交渉の拒否は違法となります。
また、使用者は誠実交渉義務を負っています。誠実交渉義務とは、労働組合との団体交渉に誠実に応じる義務のことであり、使用者が誠実交渉義務を果たさない場合には不当労働行為にあたります(労働組合法7条2号)。
誠実交渉義務に違反した場合には、労働委員会からの救済命令の対象になるリスクや、損害賠償請求を受けるリスク等が生じてしまいます。
不当労働行為については、以下の記事で詳しく解説しているので併せてご覧ください。
団体交渉の拒否が認められる正当な理由
団体交渉の拒否が認められる正当な理由として、主に以下のようなケースが挙げられます。
- ①直接的な暴力行為(殴る、胸倉を掴む等)や、脅迫、監禁、あるいは集団で押し寄せて不規則発言を繰り返す等の言動が行われたとき。
- ②交渉が繰り返され、極めて長期間に渡って行われているにもかかわらず、労働組合側に一切の妥協がなく交渉がまとまらないとき。
- ③弁護士等の専門家や会社側が依頼した第三者の参加を、正当な理由なく拒否されたとき。
- ④子会社の不当解雇等、自社に解決する権限のないことが明らかな事項だけを交渉の対象としているのが明らかなとき。
団体交渉の打ち切りが認められるケース
団体交渉を打ち切るのは難しいことです。
しかし、正当な理由があれば打ち切りは可能であり、いつまでも結論が出ない交渉を続ける義務はありません。
団体交渉を打ち切ることができるのは、主に以下のような状況が発生した場合です。
- 十分な説明を行い、資料等を提示しても、労働組合が一切の譲歩をしない場合
- 互いが可能な限りの譲歩をした上で、主張が平行線のまま長期間が経過した場合
- 事務所の閉鎖等の期限があり、そのことを事前に説明した上で、その期限が到来した場合
団体交渉の流れ・進め方
団体交渉では、主に以下のようなやり取りが行われます。
- 団体交渉の申し入れ
- 団体交渉前の予備折衝
- 団体交渉へ向けた準備
- 団体交渉
- 終結
このやり取りについて、次項より解説します。
①団体交渉の申し入れ
団体交渉の開始にあたって、組合は団体交渉申入書等によって、交渉の当事者、担当者及び交渉事項を明らかにします。
交渉事項については事実確認を行わなければならないケースがあります。
また、団体交渉申入書には、交渉の日時や場所、要求事項等が記載されています。日時や場所等に不都合があったときには、なるべく早い時期に代わりの日程を用意する必要があります。
業務時間内に交渉することや、会社の敷地内で交渉することについては、会社にとって不利になるリスクが高いため拒否するようにしましょう。
②団体交渉前の予備折衝
予備折衝とは、団体交渉の出席者等について決めるために事前に行う話し合いのことです。事前に決めておかなければ、労働組合から多数の参加者が押しかけて騒ぐ等の事態が生じるおそれがあるため、話し合って取り決めます。
初回の団体交渉を行う前に行い、必要であれば団体交渉を行った後にも話し合います。
予備折衝では、主に次のような事項について話し合います。
- 出席者
- 交渉場所
- 交渉日時
- 費用負担
これらの事項について、以下で解説します。
出席者
会社側の出席者としては、実質的な権限のない者だけを出席させると誠実交渉義務違反となるおそれがあるため、ある程度の権限のある者を参加させなければなりません。
ただし、社長が出席すると即決を迫られるリスク等があるため、社長はなるべく出席しないことが望ましいでしょう。
また、会社側の出席者として弁護士が同席することは可能です。法的な意見を述べることができるので、弁護士が出席することは望ましいと考えられますが、交渉事項について権限のない弁護士だけが出席することは誠実交渉義務違反となるリスクが高いため注意しましょう。
交渉場所
団体交渉は、労使双方の出席者が参加しやすい場所で行われるべきとされています。
使用者は、合理的な根拠がなければ、企業外の会場での開催に固執することはできません。
一方、労働者が役員等の自宅を訪問し、その場での団交を要求した場合には、特段事情のない限り、使用者側は交渉を拒否することが可能です。
交渉日時
交渉日時は、基本的には労使の合意により決定されるべきです。
労働組合が団体交渉の申し入れのときに要求した交渉日時に対して、使用者が準備の都合等の理由で、合理的範囲内で延期を申し入れることは団体交渉拒否とはいえませんが、使用者は、申込時から一定期間内に交渉に応じる義務を負うと考えられています。
仮に使用者が、労働者側担当者の参加しにくい時間帯での開催に固執する場合、団体交渉拒否とみなされるリスクがあるので注意しましょう。
費用負担
団体交渉のために貸会議室等を利用すると費用がかかります。そのような費用は基本的に会社が負担することが多いでしょう。労働組合に支出させると、費用のかからない社内の施設を使わせるように求められる等、新たな紛争の原因になるおそれがあります。
③団体交渉へ向けた準備
団体交渉にのぞむ前に、話し合いに向けた準備をしておく必要があります。
具体的には、次のような準備をしておくべきでしょう。
- 労働組合から指摘された事項についての事実確認
- 想定問答集の作成
- 労働組合に開示できる資料の準備
- 労働組合に開示するべきでない情報の確認
ただし、多くの情報を隠してしまうと、労働組合から誠実交渉義務違反だと指摘されるおそれがあります。
労働組合に開示したくない情報がある場合等、判断が難しい場合には労務問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
④団体交渉
団体交渉の場では、交渉について会社側として発言する者は、なるべく1人に限定しましょう。発言する者を増やしてしまうと、主張に齟齬が生じてしまうリスクがあります。
また、交渉内容については録音しましょう。議事録を作成することも可能ですが、労働組合が作成した議事録にはサインや押印をしてはいけません。
交渉は粘り強く続けるようにしましょう。労働組合から譲歩が示唆された場合には、それが譲歩の限界か否かを見極めるように努めましょう。
会社からの譲歩はなるべく1回を限度として、なるべく効果的なタイミングを見定めるようにしてください。繰り返し譲歩することは、労働組合からさらなる譲歩を迫られる原因となるため注意しましょう。
⑤団体交渉の終結
団体交渉で話し合いがまとまり、終わりとするときには、必ず「合意書」等の書面を作成しましょう。そのとき、労働組合の署名押印だけでなく、労働者の署名押印も必要となります。
また、「合意書」には紛争が完全に解決したことを証明する「清算条項」を設けましょう。「清算条項」がないと、紛争が蒸し返されるリスクが生じるため注意しなければなりません。
また、労働組合や労働者による会社への批判・中傷を禁止する規定や、合意事項を口外しない規定も必要です。
団体交渉が決裂した場合
団体交渉が決裂した後の労働組合の行動として、以下の3つのパターンが考えられます。
①法的手段に訴える
労働委員会への救済申立てや裁判所への提訴といった手段を用いることが考えられます。
②会社に対して圧力をかける
街宣活動やビラ配り、立て看板の設置等を行うことが考えられます。
③団体行動を行う
ストライキ等を行うことが考えられます。
これらのパターンについて確認して、労働組合がどの手段を用いても良いように準備を整えておくようにしましょう。
不当労働行為の救済申立てについては、以下の記事で詳しく解説しているので併せてご覧ください。
団体交渉時にやってはいけない対応
団体交渉では、やってはいけないと考えられる対応を行ってしまうケースが少なくありません。
例えば、次に挙げるような対応は行うべきではありません。
- 組合の上部団体役員の出席を拒否する
- 訴訟中であることを理由に団体交渉を拒否する
- 交渉の場で労働組合が用意した書類へサインする
- 労働組合員が明らかになるまで団体交渉を行わない
- 関係会社の団体交渉に親会社が参加する
これらの対応について、以下で解説します。
組合の上部団体役員の出席を拒否する
労働組合の上部団体の役員が出席していることを理由として、団体交渉を拒否してはいけません。なぜなら、労働組合が誰に対して交渉を委任するかは基本的に自由であり、会社や従業員とは無関係な者に委任することも可能だからです。
会社としては、無関係な者が交渉の場に出席すると、重要な情報が流出するのではないか等と考えてしまうかもしれません。また、ユニオンの上部団体の役員は、団体交渉の経験が豊富な人物であり、手強いケースもあります。
しかし、無関係な者が出席していることだけを理由に団体交渉を拒否すると、不当労働行為とみなされてしまうリスクがあります。
訴訟中であることを理由に団体交渉を拒否する
労働審判等の手続きによって労使が争っているときに、並行して団体交渉の申入れを受けることがありますが、争いが生じていることを理由として団体交渉を拒否することはできません。
しかし、団体交渉においても、労働審判等における主張を変更する必要はありません。会社としての主張や方針を貫くようにしましょう。
交渉の場で労働組合が用意した書類へサインする
使用者側は、労働組合が作成した書類について、団体交渉の場で署名してはいけません。なぜなら、書面に労使双方が署名又は記名押印してしまうと、それは名称にかかわらず労働協約になってしまうからです。
労働協約は、法律の範囲内の内容であれば労使双方を拘束します。そして、その効力は労働契約や就業規則よりも優先されるため、よく検討して作成しなければ経営等に支障をきたすおそれがあります。
団体交渉では誠実交渉義務はありますが、要求されたことを全て受け入れる義務はありません。そのため、議事録等へのサインを求められたとしても応じる必要はありません。
必ず、一旦持ち帰って署名するか否かを決めるようにしましょう。
労働組合員が明らかになるまで団体交渉を行わない
使用者側は、「労働組合から組合員が明らかにされるまで団体交渉を拒否する」といった対応をするべきではありません。なぜなら、団体交渉について、組合員が誰であるかを常に明らかにする必要があるとは言えないからです。
特に、ユニオンが団体交渉の相手方であるケースでは、ユニオンに加入した労働者が報復を恐れており、自身の加入について明かしたくないと考えている場合があります。そのような状況において、加入した労働者を明らかにするように求めて交渉を拒否すると、不当労働行為だとみなされてしまうおそれがあります。
関係会社の団体交渉に親会社が参加する
子会社等の労働者から団体交渉に応じることを要求されることがありますが、基本的に応じる義務はありません。ただし、親会社が子会社の労働者の雇用条件を決めているなど、通常の親子会社よりも密接な関係がある場合等には団体交渉に応じる義務が生じるケースがあります。
通常の親子会社であれば、子会社に影響を及ぼしていたとしても当然のことだと考えられるため、子会社だけが団体交渉に応じれば問題ありません。親会社が団体交渉に応じてしまうと、今後も団体交渉に応じることを求められるおそれがあるため注意しましょう。
団体交渉の当事者と担当者について
団体交渉の当事者とは、団体交渉を自らの名において遂行し、その成果としての労働協約の当事者となる者です。一方で、団体交渉の担当者とは、団体交渉を現実に担当する者で、その中には、交渉権限のみを有する場合、妥結権限までを有する場合、協約締結権限を有する場合があります。
使用者側の団体交渉担当者については、使用者の代表者が対応することももちろん可能ですが、職務権限の内容に応じて、団体交渉の事項につき、判断・決定できる立場にいる者であれば担当することができると考えられます。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある