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割増賃金の消滅時効

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

未払賃金について、使用者に支払義務があるのはいうまでもありません。
しかし、未払賃金も期間の制限なく請求できるわけではなく、他の債権と同様に時効によって消滅します。

未払賃金の消滅時効に関しては近年法改正があり、2020年4月1日以降に発生したものについては、従来の2年から3年に延長されています(後述のとおり、将来的にさらに5年に延長されることが予定されています)。

本記事では、未払賃金、その中でも特に「割増賃金の消滅時効」について、解説していきます。
最後に、割増賃金を請求された場合の対処法についても記載していますので、ぜひご覧ください。

割増賃金の消滅時効について

割増賃金とは、労働者が法定時間外労働等を行った際に、使用者が労働者に対して支払う賃金のことです。

また、消滅時効とは、権利者が法律で定められた一定の期間、権利を行使しないことにより、その権利を失うという法律効果が生じる制度のことをいいます。

法定時間外労働が月に60時間を超えた場合の割増率や、割増賃金を計算するときに除外される費目など、割増賃金についての詳細は以下のページを参照してください。

割増賃金の計算方法や割増率の改正、請求されたときの対処法

消滅時効となる期間が経過しても、使用者が時効を援用しなければ賃金請求権は消滅しません。時効の援用とは、時効によって請求を免れる利益を生じさせる意思表示のことです。

2020年4月1日より、労働基準法の一部が改正されて、賃金請求権の消滅時効期間も改正されました。これにより、消滅時効期間が「2年」から「3年」に延長されました。
より正確にいうと、消滅時効期間は「5年」に延長されましたが、当面の間は経過措置として「3年」とされているのです。

消滅時効期間延長の対象は、割増賃金のほかに次のものが挙げられます。

  • 金品の返還
  • 賃金の支払
  • 年次有給休暇中の賃金
  • 未成年者の賃金

消滅時効が延長された背景

未払賃金の消滅時効が延長されたのは、民法改正により、債権の短期消滅時効が5年に統一されたことに起因します。

もっとも、未払賃金の消滅時効をいきなり2年から5年に延長することについて、使用者側から反発があったため、折衷案として、当面は3年とする経過措置が設けられました。これにより、未払いの割増賃金は3年の時効により消滅します。

なお、経過措置が廃止される時期は未定とされています。

また、賃金請求権の消滅時効とともに、次の期間についても延長されています。ただし、いずれも当面は3年が期間とされています。

  • 賃金台帳などの記録の保存期間の延長
  • 付加金の請求期間の延長

消滅時効の起算日

消滅時効の起算日は、本来であれば給与が支払われるはずだった日の翌日です。そのため、一般的な場合には給料日の翌日が1日目として扱われます。
それぞれの給与は独立しているため、基本的には3年が経過すると1回分の給与だけが時効で消滅します。

割増賃金の消滅時効が適用されないケース

労働者から未払いの割増賃金を請求されたときに、3年が経過していれば自動的に消滅時効が適用されるわけではなく、時効を援用する旨の意思表示が必要です。
また、使用者側に問題があれば、時効の援用が認められないおそれがあります。

●割増賃金の未払いが不正行為に該当する場合
悪質な割増賃金の未払いについて不法行為が成立すると、労働者が損害を知ったときから3年は損害賠償請求が可能となるため、給料日から3年以上が経過しても時効を援用できないおそれがあります。

●労働者の請求を妨害した場合
会社側がタイムカードを隠す等した場合には、労働者の請求を妨害していることになるため、時効の援用が権利の濫用に当たることから認められないおそれがあります。

●未払いの割増賃金を承認した場合
消滅時効を援用できるだけの期間が経過した後で未払いの割増賃金があることを承認すると、その後で時効を援用するのは信義則に反するため認められません。

労働者による「時効の更新」

労働者が消滅時効により賃金請求権が消滅するのを防ぐ方法として、「時効の更新」という制度があります。これは、それまで進行していた消滅時効の期間がリセットされて、翌日から改めて3年の時効のカウントを始める制度です。

時効の更新の方法と、時効の完成を停止するための方法について、以下で解説します。

●催告
催告は、一時的に時効を停止して、完成を猶予してもらうための制度です。労働者から未払賃金の催告を受けたとしても、それから6ケ月以内に「時効の更新」のための手続きをされなければ時効の援用が可能です。

●承認
承認は、未払賃金があることを労働者に対して認めることです。未払賃金を支払う予定であるものの、金額を引き下げることや分割払いを提案したいといった事情があるならば、承認をして交渉に臨む方法が考えられます。

●裁判上の手続きによる請求
裁判上の手続きによる請求は、訴訟の申立てや労働審判の申立て等のことです。これらの申立てによっても、時効が更新されます。

割増賃金を請求された場合の対処法

労働者から未払いの割増賃金があるとして請求を受けた場合には、その労働者に請求権があるのかを確認しましょう。未払いの割増賃金など存在しないこともあり得ますし、消滅時効を援用すれば請求を免れることができるケースもあります。

労働者側は時効の更新をしていたと認識していても、実際には時効の更新をしていなかった場合も考えられます。その場合には、消滅時効を援用できる可能性が高いでしょう。

ただし、労働者の請求が正当なものであれば、支払いを遅らせると遅延損害金や付加金によって、支払額がより高額になってしまうおそれがあります。また、会社の悪評が広まってしまうリスクもあるため、未払いの割増賃金がある場合には早期に対応しましょう。

遅延損害金や付加金について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

未払い割増賃金に付される遅延損害金・付加金について
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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