無期転換申込権とは|発生する要件や無期転換ルールの注意点
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
無期転換申込権とは、
- 契約社員やパートなどの有期労働契約者に認められる、無期労働契約への転換を申し込める権利
- 2013年4月1日より、労働契約法が改正され、同じ会社との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合は、労働者からの申し出により、無期労働契約に転換されるというルールが適用される
- 社員が無期転換の申込みをした場合には、会社側は拒否することができず、無期労働契約が成立する
大きく上記のような特徴があります。
本記事では、無期転換申込権の内容や発生要件、行使の効果、無期転換ルールの特例や注意点、2024年4月から適用される無期転換ルールに関する改正などについて解説していきますので、ぜひご参照下さい。
目次
無期転換申込権とは
無期転換申込権とは、
- 一定の要件を満たした有期契約労働者に認められる、無期労働契約への転換を申し込める権利
- 2013年4月1日より、中小企業含めすべての企業に対し、無期転換ルールが適用(労働契約法18条1項)
無期転換ルールとは、
※2013年4月1日以降に開始された有期労働契約が対象
要件を満たす有期労働契約者に無期転換申込権が発生し、無期転換を申込みされると、会社は申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約がその時点で成立し、断ることはできません。
無期転換申込権の発生時期
無期転換申込権を有する有期労働契約者より、無期転換の申込みがあった場合は、その時点で無期労働契約が成立します。具体的な無期転換申込権の発生時期は、以下のとおりです。
・契約期間が1年の場合
1年更新の契約の場合は、5回目の更新後の1年間に無期転換申込権が発生します。
また、この1年の間に申込みをしない場合でも、次の更新以降で申込みが可能です。
・契約期間が3年の場合
3年更新の契約の場合は、1回目の更新後の3年間に無期転換申込権が発生します。これは契約期間が5年を超えなくても、1回目の更新後に通算契約期間が6年になるためです。
また、この3年の間に申込みをしない場合でも、次の更新以降で申込みが可能です。
無期転換の対象者
無期転換ルールの対象者は、2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が、同じ使用者(会社)との間で通算5年を超えるすべての有期契約労働者となります。
契約社員やパートナー社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用名称や雇用形態に関わらず、期間に定めのある有期契約労働者であれば、すべて無期転換ルールの対象者となります。
また、3ヶ月や6ヶ月ごと等に派遣契約を更新する派遣社員も有期雇用であるため、対象者です。ただし、無期転換の申込先は派遣元の会社となります。
派遣社員の無期転換について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
無期転換申込権が発生する要件
無期転換申込権は、以下の4つの要件をすべて満たした場合に発生します。
- ①有期労働契約の通算期間が5年を超えていること
同じ使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えていること。
ただし、5年を超えていなくても、例えば、契約期間3年の有期労働契約を更新した場合は、通算期間自体が6年になるため、4年目に既に無期転換申込権が発生します。 - ②契約の更新回数が1回以上
有期労働契約の更新が1回以上行われていること、つまり、同じ使用者との間で2つ以上の有期労働契約を締結したこと。 - ③現時点で同一の使用者との間で契約していること
通算5年を超えて契約をしてきた使用者との間で、現時点でも有期労働契約を締結していること。
なお、以前と同じ勤務実態であるのに、派遣や請負等に変更し、形式上他の使用者に変更したに過ぎない場合は、同一の使用者と判断されます。 - ④期間満了までに申し込むこと
現に締結している有期労働契約の期間が満了するまでに、無期転換の申込みをすること。
これらの要件を満たす労働者が無期転換の申込みをした場合は、会社が申込みを承諾したものとみなされ、「申込時に締結している有期労働契約の満了日の翌日から労務を提供する」という始期付き無期労働契約が成立します。
クーリング期間について
有期労働契約と次の有期労働契約の間に、契約がない期間が一定以上ある場合、この空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間のカウントから除かれます。除かれた期間をクーリング期間といいます。
クーリングの方法は、以下の通算契約期間ごとで異なります。
【無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合】
・無契約期間が6ヶ月以上の場合
→無契約期間より前の有期労働契約は通算期間に含まれません(クーリングされます)。
・無契約期間が6ヶ月未満の場合
→無契約期間が6ヶ月未満の場合は、前後の有期労働契約を通算します(クーリングされません)。
【無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合】
無契約期間の前の通算契約期間に応じて、無契約期間が下表の右欄の期間にあてはまる場合は、無契約期間より前の有期労働契約は通算期間に含まれません(クーリングされます)。
その次の有期労働契約から、通算契約期間のカウントが再度始まります。
無契約期間の前の通算契約期間 | 無契約期間(契約がない期間) |
---|---|
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
2ヶ月超~4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
4ヶ月超~6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
6ヶ月超~8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
8ヶ月超~10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
10ヶ月超 | 6ヶ月以上 |
無期転換申込権行使の効果
無期転換申込権を労働者から行使された場合、以下のような効果が生じます。
- 有期契約労働者が無期転換の申込みをした時点で、無期労働契約が成立
- 会社側が申込みを拒否したり、反対したりした場合でも、無期転換申込権行使の効果が当然に発生
- 実際に無期労働契約に転換されるのは、無期転換の申込時に結んでいる有期労働契約が終了する日の翌日以降
【具体例】
2018年4月1日に開始した有期労働契約を更新して、2023年3月31日に契約期間が通算5年となる労働者が、2023年4月1日から1年間の有期労働契約を結び、この1年の間に無期転換の申込みをした場合は、2024年4月1日から無期労働契約は開始することになります。
無期転換後の労働条件
無期転換後の労働条件は、契約期間が有期から無期へ変更される以外は、基本的にこれまでの労働条件と同じ条件となります。そのため、給与や各種手当、業務内容、労働時間などの労働条件は、これまでと同じものがそのまま引き継がれることになります。
ただし、別段の定め(労働協約や就業規則、労働契約など)がある場合は、それらに規定した労働条件を適用することも可能です。無期転換後、正社員の就業規則のルールがどの範囲まで適用されるのかといった問題が生じる場合もあるため、転換後の労働条件を明らかにした、無期転換社員用の就業規則を設けることが望ましいといえます。
なお、無期転換後の雇用形態が正社員となるのか、又は有期から無期に転換されるだけなのかは、会社ごとの判断に委ねられるため、ケースバイケースです。
無期転換の申込期限
法律上、無期転換の申込みは、申込時に締結している有期労働契約の初日から満了日までに行えば良いとされています。
ただし、転換後の手続きをスムーズにするためにも、契約期間満了の1ヶ月前などに対象者本人の意向を確認した上で、申込みさせるのが望ましいといえます。
また、口頭による申込みでも法律上有効ですが、後日トラブルにつながるおそれがあるため、会社側で無期転換の申込書を作成するなどして、書面で申込みさせることをお勧めします。
なお、申込時の有期労働契約期間中に申込みをしないと、無期転換申込権は消滅しますが、次の有期労働契約を更新したのであれば、その時点で再度新しい無期転換申込権が発生するため注意が必要です。
無期転換ルールの特例措置
基本的に、同じ会社との有期労働契約が通算5年を超える場合は、無期転換申込権が発生するのが通例です。
しかし、平成27年4月1日に施行された有期雇用特別措置法により、以下の対象者については、一定の期間、無期転換申込権が発生しないとする特例が設けられています。
- ①高度専門職
- ②継続雇用の高齢者
- ③大学等及び研究開発法人等の研究者、教員等
これらの労働者は雇用の安定が損なわれにくいため、特例として、無期転換ルールが除外されています。ただし、この特例を利用するためには、雇用管理措置の計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。
では、以下で各労働者に適用される特例の内容を見ていきましょう。
高度専門職と継続雇用の高齢者の特例
「高度専門職」と「継続雇用の高齢者」については、特例措置が設けられ、一定の期間、無期転換申込権が発生しません。
①高度専門職(5年超えの一定期間内に完了予定のプロジェクトに従事する、年収1075万円以上でかつ高度な専門知識を持つ有期契約労働者。医師や弁護士、税理士、特定の技術者、SE・デザイナーなど)
そのプロジェクトに従事している期間は、無期転換申込権が発生しません。ただし、期間の上限は10年となります。例えば、8年のプロジェクトの開始日から完了日まで従事する高度専門職については、その8年間は無期転換申込権が発生しません。
②継続雇用の高齢者(定年後に継続して雇用されている有期契約労働者)
定年後に継続して雇用されている期間は、無期転換申込権が発生しません。
ただし、これは定年までに無期雇用されていた者に限定されており、新たに雇用した高齢者や、60歳未満から有期労働契約が反復されている労働者には無期転換ルールが適用されます。
これらの特例の適用を受けるには、事業主が雇用管理措置の計画(高年齢者雇用推進者の選任など)を作成した上で、都道府県労働局の認定を受けることが必要です。
なお、無期転換ルールには、法律上年齢の上限はありません。そのため、年齢制限したい場合は、就業規則等に無期労働契約に転換した場合の定年を設ける必要があります。
年齢上限について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
大学等及び研究開発法人等の研究者、教員等に対する特例
2014年4月1日より、大学や研究開発法人等との間で有期労働契約を締結している研究者や教員、技術者などに対して、無期転換申込権発生までの期間を10年とする特例が設けられています(科学技術・イノベーション創出の活性化法)。
この特例の対象者として、以下が挙げられます。
- ①研究者等か、又は研究開発等に係る企画立案、資金の確保等の運営管理業務の従事者で、大学等や研究開発法人と有期労働契約を締結した者
- ②共同研究開発等の業務に専ら従事する研究者等か、又は共同研究開発等の運営管理業務に専ら従事する者で、当該開発等を行う大学・研究開発法人・試験研究機関等以外の者と有期労働契約を締結した者
- ③任期法に基づく任期の定めがある労働契約を締結した教員等
これらの専門家については、無期労働契約への転換が可能となる通算契約期間、つまり、無期転換申込権発生までの期間が10年に延長されます。通算10年のカウントは、2013年4月1日以降の有期労働契約が対象です。
ただし、学生として大学在学中に、TA・RA等として大学等と有期労働契約を結んでいた場合は、大学在学中の期間は通算10年のカウントから除外されます。
無期転換ルールの注意点
無期転換ルールにおける注意点として以下が挙げられます。
- ①無期転換申込権の放棄
- ②無期転換申込権発生前の雇止め
無期転換申込権の放棄
無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、事前に労働者に無期転換申込権を放棄させることは、無期転換ルールを認めた法律の趣旨に反するため、基本的に公序良俗に反し無効であると考えられています(平成24年8月10日 基発0810第2号)。
したがって、例えば、無期転換申込権が発生する前に、「高額な賃金を支払うことと引き換えに無期転換申込権を放棄する」といった特約を結ぶことは、無効となる可能性が高くなります。
一方、無期転換申込権が発生した後に、事後的に放棄できるかについては、見解が分かれていますが、労働者が誤った知識や情報、勘違い、詐欺、脅迫等によるものでなく、本心から同意して放棄したものと証明できるのであれば、有効となる可能性があると考えられます。
無期転換申込権発生前の雇止め
会社側が有期労働契約の更新を拒否した場合は、契約期間の満了により雇用が終わりますが、このことを「雇止め」といいます。雇止めについては、一定の要件を満たした場合は無効になるというルールが設けられています(雇止めの法理・労働契約法19条)。
厚生労働省は、無期転換申込権の発生を妨害するために雇止めを行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくないという見解を出しています。したがって、例えば、もう間もなく通算契約期間が5年になりそうな労働者に対し雇止めを行うことは、無効と判断される可能性が高いため注意が必要です。
また、有期労働契約の満了前に、更新年数や更新回数の上限などを一方的に設けて雇止めをすることも無効となる場合があるため、細やかな対応が求められます。
【2024年4月】無期転換ルールに関する改正
2024年4月より、労働条件明示のルールが変わり、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時に労働者に明示すべき事項が、以下のとおり、新たに2つ追加される予定です(労基法施行規則5条改正)。
明示のタイミング | 新しく追加される明示事項 |
---|---|
無期転換ルールに基づく、無期転換申込権が発生する契約の更新時 | ①無期転換申込の機会 ②無期転換後の労働条件 ※併せて、無期転換後の労働条件を決めるにあたり、勤務実態に応じて、正社員等とのバランスを考慮した事項につき、有期契約労働者に説明するよう努める必要があります。 |
この改正により、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換申込の機会、つまり無期転換を申し込めることを労働者に明示する必要があります。
また、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を労働者に明示することも必要です。
ただし、無期転換後の給与や諸手当など労働条件を決める際は、他の一般の労働者(正社員や無期契約労働者)とのバランス、つまり同一労働同一賃金を考慮する必要があります。
同一労働同一賃金では、職務の内容、責任の程度、配置変更の有無・範囲などにおいて、違いがなければ同じ待遇(均等待遇)とし、違いがあれば違いに応じた範囲内で待遇を決めること(均衡待遇)が必要となります。正社員等と待遇に違いがある場合は、その理由を有期契約労働者に説明するよう努めなければなりません。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある