育児・介護休業法における時短勤務「短時間勤務制度」とは
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)には、子供を養育したり家族を介護したりしながら働く労働者が離職せずに就労を継続することができるよう、様々な制度が定められています。
そのうちのひとつに、所定労働時間の短縮措置「短時間勤務制度(時短勤務)」があります。
このページでは、育児や介護をしている労働者の時短勤務について、使用者の義務や講じるべき措置、把握しておくべきこと、いつまで時短勤務を認める必要があるのか等について説明します。
目次
育児・介護休業法の短時間勤務制度(時短勤務)とは
育児・介護休業法における短時間勤務制度(時短勤務)とは、幼い子供を育てている労働者や要介護状態の家族を介護している労働者が希望したときに、労働時間を短縮しなければならない制度です。
これは、「育児か仕事」「介護か仕事」といった二者択一の状態を解消して、育児や介護と仕事を両立できるようにすることを目指しています。
時短勤務をするための要件を満たした労働者から申し出があった場合には、その申し出を拒否することは基本的に違法となるため注意しましょう。
育児のための時短勤務の制度
育児休業を取得せずに3歳に満たない子供を養育する労働者が希望する場合には、労働者の申し出によって時短勤務としなければならないことが、育児・介護休業法23条1項に定められています。
具体的には、当該労働者の1日の所定労働時間を5時間45分から6時間までとする必要があります。
なお、「1時間だけ時短にしたい」などといった労働者の希望に応じて1日の労働時間を7時間としたり、隔日勤務で所定労働日数を短縮する措置を併せて設けたり等、労働者の選択肢が多くなるように柔軟な対応をとることを心がけることが望ましいとされています。
時短勤務の対象者
育児による所定労働時間の短縮措置は、次のすべてに該当する労働者が対象となります。
- 3歳未満の子どもを養育していること
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用される者(1日限りの雇用契約または30日未満の有期契約で雇われている労働者)でないこと
- 短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと
- 労使協定により定められた適用除外者ではないこと
これらの要件を満たせば、有期契約の労働者であっても時短勤務の対象となります。
労使協定による適用除外者に関しては、次項で解説します。
労使協定により対象外となる労働者
次の労働者に関しては、あらかじめ労使協定で定めることにより、所定労働時間の短縮措置の対象外とすることができます。
- その事業主に継続雇用されている期間が1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日が2日以下の労働者
- 業務の性質または実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
適用除外者への代替措置
労使協定により、育児による短時間勤務制度の対象外となる労働者について、育児・介護休業法23条2項では『育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないこととするときは、当該労働者が就労しつつ当該子を養育することを容易にするための措置を講じなければならない』と定められています。
3歳に満たない子供を養育しながら短時間勤務制度を利用できない労働者がいる場合には、次の措置のうち、いずれかを講じなければなりません。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度(始業・終業時間の繰り下げ・繰り上げ)
- 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与(ベビーシッターの手配や費用の援助等)
時短勤務制度の努力義務
育児による短時間勤務制度の対象期間は、基本的に労働者の子供が3歳に達するまでとされています。もっとも、小学校就学の始期に達するまでの子供(その子が6歳になる誕生日を含む年度の3月31日まで)を持つ労働者も制度を利用できるようにすることが事業主の努力義務とされています。
さらに、企業によっては子育てをしている労働者を支援するために、子供の小学校3年生の年度が終わるまで、あるいは子供が小学校を卒業するまで時短勤務ができる制度を設けているケース等もあります。
育児時間との併用について
1歳に満たない子供を養育している女性が、1日2回、少なくとも30分ずつ、子供の養育のために時間を使うことができる「育児時間」という制度が定められています。育児時間を利用している労働者が、同時に短時間勤務を取得する申し出をしたとしても、事業主はそれに応じなければなりません。
育児時間、そして育児のための短時間勤務については、主旨および目的が異なるので、別の制度として措置を講じるべきであるという行政解釈が出されています。
育児時間に関しては、下記の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
介護のための時短勤務制度
事業主は、子育てをしている労働者だけでなく、要介護状態の家族を持つ労働者が家庭と仕事を両立し働きやすくなるよう、介護休業を取得していない労働者に対して、さまざまな措置を講じなければならないことが、育児・介護休業法23条3項に定められています。
事業主は、労働者の申し出によって、次の①~④までの措置の中から1つを、④を除いて2回以上利用できる制度を設けなければなりません。
- ①所定労働時間の短縮
- 1日の所定労働時間を短縮する制度
- 週または月の所定労働時間を短縮する制度
- 隔日勤務や、特定の曜日のみの勤務
- 労働者に個々に勤務しない日または時間を請求することを認める制度
- ②フレックスタイムの制度
- ③時間差出勤の制度(始業・終業時間の繰り下げ・繰り上げ)
- ④労働者が利用する介護サービスの費用の助成、その他これに準ずる制度
時短勤務の対象者
介護のための時短勤務では、「要介護状態」の「対象家族」を介護している労働者を対象にした短時間勤務制度もあります。
ここでいう「要介護状態」とは、負傷、疾病、身体上・精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいいます。
また、「対象家族」とは、労働者の配偶者(事実婚を含む)、父母、子ども、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫のことを指します。
この制度は、日々雇用される者(1日限りの雇用契約または30日未満の有期契約で雇われている労働者)を除く、すべての男女労働者が対象となります。有期雇用契約の労働者やパート・アルバイトの労働者も対象となるので注意しましょう。
労使協定により対象外となる労働者
介護のための所定労働時間短縮の措置は、日々雇用者以外のすべての男女労働者が対象となりますが、
- 事業主に継続して雇用された期間が1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日が2日以下の労働者
以上のいずれかに当てはまる労働者に関しては、労使協定であらかじめ定めておけば、対象外とすることができます。
時短勤務の対象期間と回数
事業主は、対象家族を介護する労働者に対して、所定労働時間の短縮などの措置を講じなければなりません。
これに関して、以前は「介護休業と通算で93日までの取得」と定められていましたが、平成29年1月施行の育児・介護休業法の改正によって、介護休業とは別に、「連続する3年以上の期間」で2回以上利用できるようになりました。
「連続する3年以上の期間」とは、労働者が短時間勤務等を利用すると申し出た日から起算します。また、制度において2回以上利用することが可能であれば問題なく、1回の期間制限も定められていません。したがって、3年以上の連続した期間について1回だけ時短勤務を行うことも認められます。
介護休業に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
時短勤務の申請手続きと就業規則への規定
短時間勤務措置利用の申し出の方法に関しては、育児・介護休業法では定められていません。よって、就業規則の定めによりますので、必ず記載しましょう。
また、労働者が措置を受けやすくするため、あらかじめ就業規則に短時間勤務措置の利用者に対する待遇に関する事項や、申し出の期限等について記載し、周知することが望ましいとされています。
時短勤務労働者の労務管理と注意点
時短勤務労働者がいる場合の労務管理について、次の点に注意しましょう。
- ①賃金・社会保険料の扱い
- ②有給休暇付与の扱い
- ③残業命令の可否
- ④不利益取扱いの禁止
これらの注意点について、以下で解説します。
賃金・社会保険料の扱い
【賃金】
短時間勤務中の労働者の賃金に関しては定めがないため、事業主に短縮された分の賃金を払う義務はありません。ただし、賃金については就業規則の絶対的必要記載事項とされているため、短時間勤務中の賃金の取扱いに関しては必ず就業規則に記載しましょう。
【社会保険】
労働時間の短縮措置によって賃金が下がってしまった場合には、標準報酬月額を改定し、社会保険料の負担額を変更することが可能です。これは、労働者から申し出を受けた事業主が、日本年金機構に書類を提出して申請しなければなりません。
【将来受け取る年金】
年金に関しては、賃金が低下した場合でも、短時間勤務利用前の標準報酬月額に基づいて将来の年金を受け取れる「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という制度があります。この手続も、事業主が日本年金機構に書類を提出して申請しなければなりません。
事業主が行わなければならない社会保険、年金等の手続については、以下の記事で詳しく解説しています。
有給休暇付与の扱い
時短勤務労働者であっても、全労働日の8割以上出勤していれば有給休暇は付与されます。このとき、時短勤務であっても有給休暇の付与日数に変わりはありません。
また、時短勤務労働者が年次有給休暇を取得した場合、短縮された後の労働時間分が免除になります。よって、賃金は時短勤務分のみ発生します。具体的には、時短勤務時の所定労働時間が6時間である場合は、有給休暇1日当たりの賃金も6時間分に換算することとなります。
なお、時短勤務労働者に有給休暇を付与する場合であっても、付与された時点ではなく、労働者が取得を申請したときの労働時間が基準となることに注意しましょう。
年次有給休暇については、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。
残業命令の可否
時短勤務労働者に残業をさせること自体は、育児・介護休業法で禁止されてはいません。ただし、毎日のように残業させてしまっては、短時間勤務を利用している意味がなくなるため望ましくありません。
そこで、育児・介護中の労働者を支援するために、次の制限が設けられています。
所定外労働の制限 | 所定労働時間を超えて労働させてはならない |
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時間外労働の制限 | 1ヶ月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはならない |
深夜業の制限 | 深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させてはならない |
育児・介護をしている労働者が求めた場合には「所定外労働の制限」が適用されるため、残業をさせることは禁じられます。
育児・介護休業法で定められている所定外労働等の制限について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事を併せてご覧ください。
不利益取扱いの禁止
事業主は、育児・介護休業法によって制定されている休業、休暇、所定労働時間の短縮等を労働者が申し出たこと、利用したことを理由に、労働者に対して不利益な取扱いをすることは禁じられています。具体的には、解雇、降格、減給等がこれに当たります。
不利益取扱いに関しては、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある