派遣労働者における無期転換ルール|3年ルールとの関係
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2018年に、派遣社員に関する2つの重要なルールが適用されました。
まず、2018年4月から、労働契約法改正による「無期転換5年ルール」、2018年10月から、労働者派遣法改正による「派遣3年ルール」が、それぞれ派遣社員に適用されました。
いずれのルールも、雇止めや派遣切りなどの不安から派遣社員を解放することを目的に定められたものです。
この法改正により、派遣社員は、基本的に同じ職場で3年以上働けなくなる一方で、多くの有期雇用の派遣社員に無期転換権が発生している可能性があります。
仮にこれらのルールに反した場合は、行政処分を受ける、派遣の更新が認められない等のリスクがあるため注意が必要です。
本記事では、会社として知っておきたい、無期転換5年ルールと派遣3年ルールの概要や、無期転換に関する注意点などについてわかりやすく解説しますので、ぜひご一読下さい。
目次
派遣の無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、同じ会社との間で、有期労働契約が繰り返し更新され、トータル5年を超えた場合に、労働者からの申込みにより、期間の定めのない無期労働契約に転換されるルールです。5年ルールとも呼ばれます。
対象者は、派遣社員やパートなど、雇用形態にかかわらず、全ての有期契約労働者です。ただし、派遣社員の場合、無期転換の申請先は派遣元の会社となります。
無期転換申込権を持つ派遣社員から無期転換の申込みがあった場合、派遣元は拒否できません。
申込み時点で無期労働契約が成立し、申込時の有期労働契約の終了日の翌日から無期労働契約が開始されます。このように、派遣元と派遣社員との間で無期労働契約を結ぶことを、無期雇用派遣といいます。
無期転換ルールについて通知義務はありませんが、トラブル防止のため、雇用契約書等に記載しておくことが望ましいでしょう。
なお、派遣の働き方は、大きく「常用型」と「登録型」に分けられ、どちらに該当するかで無期転換ルールの適用可否が異なります。以下で詳しく見ていきましょう。
常用型派遣の場合
常用型派遣(無期雇用派遣)とは、派遣元と派遣社員が期間の定めのない「無期労働契約」を結び、それぞれの派遣先に派遣元の社員として勤務するスタイルをいいます。雇用形態は正社員や契約社員など会社ごとに異なります。
常用型の場合、派遣先の仕事が終了しても、派遣元と派遣社員との雇用契約が継続するため、次の派遣先に派遣されるまでの間も、給与や休業手当の支給が必要となります。
常用型派遣は、もともと無期労働契約であるため、無期転換ルールが適用されません。
また、後述する登録型派遣と異なり、派遣先の同じ職場で働ける期間を最大3年とする「派遣3年ルール」が適用されないため、派遣先での経験やノウハウの蓄積が可能です。長期のプロジェクトや技術系など専門性の高い業務に従事する派遣社員に向く雇用形態であるといえます。
登録型派遣の場合
登録型派遣とは、派遣元に登録し、派遣先が決まったら、派遣元と派遣社員が有期労働契約を結んで働くスタイルをいいます。
登録型派遣は有期労働契約であるため、派遣先と派遣元の間で派遣契約が生じ、派遣期間が終了すると、派遣元との労働契約も終了します。そのため、派遣先での仕事が終了し、次の派遣先に派遣されるまでの間の給与は発生しません。また、派遣期間については数ヶ月程度が多く、派遣先と派遣社員の合意により、最大3年まで派遣契約の延長が可能です。
登録型派遣では、派遣される度に有期労働契約を結ぶため、無期転換ルールの対象となります。
そのため、派遣先が変わっても、同じ派遣元との間で通算契約期間が5年を超えた場合は、無期転換申込権が発生します。また、5年の通算契約期間は、実際に派遣先で働いている期間のみをカウントします。単に派遣会社へ登録されているだけの期間はカウントしません。
クーリング期間について
無期転換ルールの通算5年には例外があります。
同じ会社との間であったとしても、有期労働契約を締結していない期間(退職していて、労働契約が存在しない無契約期間)が一定以上続いた場合は、それよりも前の契約期間は通算5年の対象から除外されます。このことをクーリングといいます。また、この無契約期間のことをクーリング期間と呼びます。
登録型派遣についても、無契約期間が一定以上存在すると、クーリングの対象となります。
クーリングされるケースとして、以下が挙げられます。
【無契約期間の前の通算契約期間が1年以上の場合】
①無契約期間が6ヶ月以上
無契約期間が6ヶ月以上ある場合は、その期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含まれません(クーリングされる)。
②無契約期間が6ヶ月未満の場合
無契約期間が6ヶ月未満の場合は、その期間より前の有期労働契約も通算契約期間に含まれます(クーリングされない)。
【無契約期間の前の通算契約期間が1年未満の場合】
無契約期間の前の通算契約期間に応じて、無契約期間がそれぞれ下表の期間に当たる場合は、無契約期間より前の有期労働契約は通算契約期間から除かれます(クーリングされる)。
この場合、無契約期間の次の有期労働契約から5年のカウントが再度開始します。
無契約期間の前の通算契約期間 | 契約がない期間(無契約期間) |
---|---|
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
2ヶ月超~4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
4ヶ月超~6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
6ヶ月超~8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
8ヶ月超~10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
10ヶ月超~ | 6ヶ月以上 |
派遣の3年ルールとは
派遣における、3年ルールとは、「派遣社員が同じ派遣先の同じ組織で働ける期間は最大3年まで」というルールのことをいいます。
派遣社員の雇用安定化やキャリアアップを目的として、2018年の労働者派遣法改正により設けられた制度です。対象となるのは、派遣元と有期労働契約を結んでいる派遣社員となります。
もっとも、この3年ルールは、同じ派遣先における事業所で派遣社員を受け入れられる期間は最大3年までという「事業所単位」による期間制限と、派遣社員が同じ派遣先の同じ組織で働ける期間は最大3年までという「個人単位」による期間制限と2つから成り立ちます。詳しくは次項で解説します。
なお、派遣元は、有期雇用の派遣社員が、同じ事業所の同じ部署で3年間継続して派遣される見込みのある場合は、派遣先への直接雇用の依頼や、派遣元による無期雇用などの雇用安定措置を講じることが義務付けられています(ただし、1年以上3年未満派遣見込みの派遣社員については、努力義務です。)。
派遣社員への雇用安定措置について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
では、以下で派遣の3年ルールについて詳しく見ていきましょう。
派遣先事業所単位の期間制限
「事業所単位の期間制限」とは、同じ派遣先の事業所において、派遣社員を3年超えて働かせることはできないという制限のことです。この事業所とは、本社や支店、営業所、工場、事務所、店舗など場所的に独立しているものを指します。
例えば、すでに他の派遣社員が2年前から働いている営業所に、新しい派遣社員を受け入れる場合、基本的にはその1年後までしか派遣社員を働かせることができないことになります。
ただし、派遣先が、派遣社員の受け入れ開始から3年を経過するまでの間に、事業所の過半数労働組合(又は労働者の過半数代表者)から意見を聴取すれば、さらに最長で3年間、派遣社員の受け入れが可能となります。
この派遣期間の延長は何回でも可能です(再延長の際には、改めて意見聴取手続が必要になります。)。
つまり、継続的に派遣社員を受け入れるためには、3年ごとに労働者代表の意見聴取をすることが必要となります。
個人単位の期間制限
「個人単位の期間制限」とは、同じ派遣社員は、同じ事業所の同じ組織(課など)において3年を超えて働くことはできないという制限です。
この組織とは「課・グループ・チーム」などを指し、業務とししての類似性や関連性があるか、組織の長が業務配分・労務管理上の指揮監督権限を有するかなどの観点から判断されます。
この制限により、過半数労働組合などへ意見聴取を行い、「事業所単位の期間制限」が延長された場合であっても、同じ派遣社員が派遣先の同じ課で3年を超えて働くことは基本的にできません。
ただし、同じ派遣社員が異なる課に異動すれば、通算で3年を超えて働くことが可能となります。
例えば、派遣先の総務課に2年間働いている派遣社員は、同じ総務課では残り1年しか働けませんが、途中で経理課に異動したならば、異動日から新たに派遣期間の通算がスタートするため、改めて異動日から最長3年間の勤務が可能となります。
派遣3年ルールの例外
派遣社員であっても、以下に該当する場合は、派遣3年のルールが適用されません。
- 派遣元の会社で無期雇用されている派遣社員
無期雇用の派遣社員は有期雇用ではないため、3年ルールの適用外です。 - 60歳以上の派遣社員
派遣で働き始めた時は50代でも、3年経過時点で60歳以上であれば、3年を超えて働くことが可能です。 - 日数限定業務に従事する派遣社員
派遣先のフルタイム社員の月の所定労働日数の半数以下かつ10日以下の業務に従事する者が該当します。 - 産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の代替要員として従事する派遣社員
対象労働者の業務を担う目的で派遣されている場合が該当します。 - 終期が明確な有期プロジェクト業務に従事する派遣社員
終期が定められたプロジェクトに従事する場合は、派遣期間3年を超えても、プロジェクトの終了日まで派遣を継続できます。
上記の者については、派遣期間3年の制限が適用されないため、派遣先の同じ事業所の同じ課で3年以上働くことが可能です。
派遣の無期転換に関する注意点
以下で、派遣社員の無期転換において注意すべき点についてご説明します。
無期雇用派遣の労働条件
無期転換ルールにより、契約期間は有期から無期に転換されますが、無期転換後の労働条件(給与や労働時間、職務内容など)は、基本的に、これまでの有期労働契約と同じ労働条件が引き継がれます。
ただし、就業規則や労働協約、労働契約等で「別段の定め」を設ければ、無期転換者の労働条件を変更することが可能です。
もっとも、職務の難易度や責任の程度が増えるにもかかわらず、待遇の改善が行われない場合や、職務内容等の変更がないのに、労働条件を引き下げるような「別段の定め」を設けることは、無期転換ルールの趣旨に反するため、認められないと考えられます。
また、有期雇用の派遣社員には通常定められていない定年などの労働条件を設ける必要がある場合は、あらかじめ明確に規定しておく必要があるでしょう。
なお、必ずしも無期雇用=正社員となるわけではありません。無期転換後の雇用形態を正社員にするのか、有期から無期へと転換するだけとするのか、職務や勤務地等を限定した社員にするのか等については、会社ごとに判断して決めます。
無期転換申込権が発生する前の雇い止め
会社側が有期労働契約の更新を拒否、つまり雇止めをした場合は、労働契約法19条の雇止め法理により、一定の要件を満たした場合には、当該雇止めが無効となる可能性があります。
また、もう間もなく通算契約期間が5年経ちそうな有期契約労働者(無期転換申込権が発生する前の労働者)に対して、無期転換ルールの利用を妨害する目的で雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に反するため、認められないと考えられます。
また、無期転換間際になって、会社側が更新年数や更新回数の限度などを一方的に規定したとしても、無期転換を避けるための不当な雇止めであるとして、違法・無効と判断される可能性が高くなります。
不当な雇止めを行うと、労働者より労働審判や労働裁判などを起こされ、損害賠償請求等を受けるリスクがあるため注意が必要です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある