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懲戒処分の判断基準とは|対象事由ごとの基準や7つの原則について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「問題社員を懲戒処分にしたい」と考える経営者の方は少なくないでしょう。しかし、懲戒処分は簡単に認められるものではないため、安易に処分を下すと以下のようなリスクが生じます。

  • 労働者から訴訟等を起こされて懲戒処分が無効とされる
  • 労働者に対して損害賠償義務が発生する

このようなリスクを回避するためには、法律上に定められた懲戒処分を行う基準について把握し、対象者に対して適切な処分を行う必要があります。
本記事では、懲戒処分の判断基準や、処分の対象にするべき行為、懲戒処分を行う際の注意点などについて解説します。

懲戒処分とは

懲戒処分とは、会社の秩序を乱したり、規律に違反したりした労働者に対する“制裁”のことです。

本来、労働者は会社の規律や秩序を遵守したうえで業務に専念することが義務付けられているため、これに従わない者に対しては会社が一定の懲戒処分を下すことが認められています。

なお、一般的な懲戒処分には以下の6種類があります。

戒告・けん責 注意を言い渡し、口頭や書面で反省を求める
減給 本来の賃金額から一定額を差し引く
出勤停止 一定期間、労働者の就労を禁止する
降格 役職や職位、職能資格等を引き下げる
諭旨解雇 労働者に退職を勧告する(退職届が提出されない場合は懲戒解雇とする)
懲戒解雇 労働者を一方的に解雇する

懲戒処分の有効性の判断基準

懲戒処分の有効性の判断基準は、「客観的合理性」および「社会通念上の相当性」の2つです。これらを欠いた懲戒処分は基本的に無効と判断されます。

労働契約法
(懲戒)第15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

具体的には、以下のような基準に沿って懲戒処分の有効性が判断されます。

  • 就業規則の懲戒事由に該当するかどうか
  • 懲戒解雇が社会的にみて妥当な処分かどうか
  • 適正な手続きがとられているかどうか

次項からそれぞれ深堀していきます。

就業規則の懲戒規定

懲戒処分を行うには、就業規則に「懲戒事由」を定めておく必要があります。例えば、「犯罪行為を行った者は、懲戒処分とする」等の記載が必要です。

就業規則の定めがないと、どれだけ重大な問題行為を起こした労働者でも懲戒処分とすることはできません。仮に処分を下しても、無効と判断される可能性が高いです。

なお、民間企業には公務員のような懲戒処分の明確な判断基準がないため、基本的には就業規則の定めに従うことになります。
大企業であれば特段問題ありませんが、中小企業や従業員数が少ない会社では就業規則の内容が不十分なケースもあるため、一度確認することをおすすめします。

また、適切な就業規則を作成しても、その内容が労働者に周知されていない場合は無効となるため注意が必要です。

就業規則の周知義務については、以下のページで詳しく解説しています。

就業規則の周知義務とは│周知方法や周知義務違反について

懲戒処分の社会相当性

社会通念上相当とは、「労働者の行為に対して懲戒処分が適切かどうか」ということです。重すぎる処分は相当性を欠くとして無効になるため、懲戒処分が妥当かどうか慎重に判断する必要があります。

例えば、服務規律違反はみられるものの、会社に経済的損害が生じていないような場合、懲戒処分は重すぎると判断される可能性があります。

なお、懲戒処分には戒告のような「注意を与える」程度の処分から、懲戒解雇のような「職を失わせる」処分まで幅広い種類があります。

懲戒処分の種類やそれぞれの処分の重さについて知りたい方は、以下のページもご覧ください。

懲戒処分の種類や違法とならないための判断基準・手順について

懲戒処分の正当な手続き

懲戒処分の有効性と認められるには、適正な手続きを踏むことも重要です。懲戒処分を下すまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 第三者も含めて事実確認の調査を行う
  2. 対象者に弁明の機会を与える
  3. 懲戒処分の種類を検討する
  4. 処分の内容を本人に通知する

なお、就業規則で「処分の内容は懲戒委員会で検討する」等と定めがある場合は、それに従って手続きを進めます。

ただし、懲戒委員会の設置は義務ではないため、必ずしも設置する必要はありません。懲戒委員会を経ずに懲戒処分を行う場合、トラブル防止の観点から弁護士に相談するのもおすすめです。

懲戒処分の対象となる事由と判断基準

懲戒事由に該当する行為としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 職務懈怠
  • 業務命令違反
  • 服務規律違反
  • 経歴詐称
  • 企業外の行動
  • 私生活上の犯罪行為
  • 企業内政治活動・組合活動
  • 施設管理に関する違反

具体的にどんな行為であれば懲戒処分が認められるのか、次項から解説していきます。

職務懈怠

職務懈怠(けたい)には、無断欠勤、出勤不良、勤務成績不良、遅刻過多、職場離脱等が該当します。
これらの職務懈怠があった場合には、当該労働者が職務懈怠に至った理由や使用者の対応等を考慮し、懲戒処分の有効性を判断します。

「職務懈怠に至った理由」については、例えば、労働者が精神疾患を発症していたために出勤できなかった等の正当な理由がないか、使用者が配慮するべき事柄がないかといった点に留意する必要があります。

また、「使用者の対応」については、職務懈怠に対する注意や警告等の指導を適切に行っていたかが問題となります。注意や警告を行わずに放置していると、使用者側が黙認していたとみなされたり、必要な指導を怠ったと判断されたりして、懲戒処分が無効となるおそれがあります。

業務命令違反

業務命令違反とは、就業についての上司の指示・命令に違反すること等をいいます。上司の指示・命令としては、時間外労働命令、休日労働命令、出張命令、配転命令、出向命令等が挙げられます。

これらの業務命令違反があった場合の懲戒処分の有効性については、「業務命令が有効か」「業務命令が重要であったか」「命令に服しないことについて、やむを得ない事由が存在したか」等が判断基準となります。

服務規律違反

服務規律違反とは、就業規則などに記載された服務規律に違反する行為です。服務規律違反に該当する言動としては、業務妨害行為、横領や背任等の不正行為、セクハラ・パワハラ等のハラスメントなどが挙げられます。

これらの服務規律違反に対する懲戒処分の有効性の判断基準は、「服務規律が明確であったか」「服務規律が公序良俗違反でないか」等になります。

なお、会社の服務規律について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

服務規律とは|定めるべき内容と記載例

経歴詐称

経歴詐称は、会社と労働者との信頼関係を壊すとともに、人事管理などが適切に行えなくなること等の理由から、懲戒事由になることがあります。
ただし、経歴詐称に対して懲戒解雇のような重い処分ができるのは、最終学歴や重要な職歴、犯罪歴などの、重大な詐称に限定されます。

経歴詐称に対する懲戒処分の有効性は、「労使間の信頼関係を破壊するようなものであるか」「企業秩序や運営に支障を生じさせるおそれがあるか」等の基準から判断されます。

なお、最終学歴を実際よりも低く詐称すること等についても、懲戒事由に該当する場合があります。

企業外の行動

労働者の二重就職や兼業についても、会社の利益を損なうことがあるため、懲戒処分の対象となることがあります。

もっとも、労働者の私生活の尊重や職業選択の自由の要請がはたらくため、懲戒事由該当性や懲戒処分の相当性は厳格に判断されることになります。

労働者の二重就職や兼業に対する懲戒処分の有効性は、「労務提供に具体的な支障が生じていたか」「所属企業への背信行為があると認められるか」等の基準から判断します。
例えば、長時間の副業の影響によって勤務時間中に居眠りをしていたり、同業他社で副業をして、所属企業の利益を不当に侵害するなどの背信性が認められたりする労働者については、懲戒処分の対象にできる可能性があります。

私生活上の非違行為

労働者による私生活上の非違行為であっても、懲戒処分の対象にできる場合があります。しかし、労働者の私生活の尊重の要請から、懲戒処分の有効性は厳しく判断される傾向があります。

例えば、労働者が「酒気帯び運転で逮捕されたケース」です。この場合、タクシー運転手やトラックドライバーなど、運送業を担う者であれば懲戒処分にできる可能性が高いですが、通常の会社員の場合は懲戒処分が認められないのが一般的です。

また、私生活上の非違行為については、「会社の社会的評価の毀損につながるか」「会社秩序に直接の影響を及ぼしたか」等も判断基準となります。
例えば、本人の名前だけでなく会社名まで報道されてしまったようなケースでは、懲戒処分が有効と判断されやすくなるでしょう。

企業内政治活動・組合活動

職場内での政治活動を禁止する規定に違反した場合も、懲戒処分の対象にできることがあります。
就業規則に、職場内での政治活動の禁止や、ビラ配布の許可制などを定めることは、企業秩序を維持するための合理的な定めとして許されると考えられているためです。

なお、職場内での政治活動に対する懲戒処分の有効性は、「企業秩序を乱すおそれがあったか」「事業場内での施設の管理に具体的な支障が生じたか」等の基準から判断されます。
ただし、常日頃から特定の政党を支持しているなど、政治信条を持つこと自体は労働者の自由であり、使用者がこれを制限することは許されないため注意しましょう。

施設管理に関する違反

使用者には、会社の施設を管理する「施設管理権」があります。これは、会社の建物や敷地などについて、企業の目的に合うように使用者が管理・保全する権限のことです。
施設管理権を侵害する行為としては、会社施設内での組合活動や政治・宗教活動、私的なイベントの開催、無断での録音・録画等が挙げられます。

施設管理に関する違反に対する懲戒処分の有効性は、「当該行為が許可された範囲内の行為だったか」「録音行為について、ハラスメントの証拠を得るなどの正当な目的があったか」等の基準から判断します。

例えば、労働組合の組合員が、使用者の許可なく施設内のロッカーに多数の賃上げ要求のビラを貼り付けた行為に対して行われた戒告処分は、有効であると判断されました(最高裁 昭和54年10月30日第3小法廷判決、国労札幌運転区ビラ貼り戒告事件)。

会社の施設利用を制限する必要性については、以下のページで詳しく解説しています。

会社の施設利用について服務規律を設ける必要性

懲戒処分を行う際の7つの原則

懲戒処分を行う際は、以下の「7つの原則」を遵守することが重要です。

  • ①罪刑法定主義の原則
  • ②個人責任の原則
  • ③二重処分の禁止の原則
  • ④不遡及の原則
  • ⑤平等取り扱いの原則
  • ⑥適正手続きの原則
  • ⑦合理性・相当性の原則

①罪刑法定主義の原則

懲戒処分は、刑事罰と類似の性格を有するため、「罪刑法定主義」という刑法における考え方が流用されます。よって、懲戒処分を行うには、処分の対象となる行為や処分の種類、処分の内容を事前に明らかにしておかなければなりません。

具体的には、懲戒処分の種類や要件、懲戒事由などが就業規則に明記されていることが必要です。

②個人責任の原則

個人責任の原則とは、処分の対象となる行為について、当該行為を行った者だけが責任を負うという原則です。

この原則により、個人が行ったことに対して、同じ部署の全員に懲戒処分を適用する等の連帯責任を負わせることはできません。ただし、責任のある上司等は、当該行為を防止すべき地位と責任があったという理由で、個別の懲戒事由が規定されていれば懲戒処分の対象にできる可能性があります。

懲戒処分を行うときには、処分の対象となる行為を行った本人であること、あるいはその行為について責任がある上司であることが、懲戒処分が適正であると判断する基準となります。

③二重処分禁止の原則

二重処分禁止の原則とは、同一の非違行為に対して2回以上処分をしてはならないという原則です。
よって、1つの行為について1つの処分となっていることが、懲戒処分が適正であると判断する基準となります。

例えば、懲戒処分を決めるまでの期間について無給の「出勤停止」にしてしまうと、それ自体が懲戒処分となり、その後の懲戒処分は二重処分になってしまうと考えられます。そのため、処分を決めるまでは「自宅待機期間」として、平均賃金の60%は支払うようにしましょう。

一方、懲戒処分が行われた後に同様に非違行為を行った場合、二重処分禁止の原則は基本的に適用されません。つまり、「二度目であること」を理由に、処分の内容を重くすることは問題ないと考えられます。

④不遡及の原則

不遡及の原則とは、処分の対象となる行為を新しく定めた場合、その規定を設けた後の行為についてのみ新しい規定を適用するというルールです。

例えば、無断で副業をすることが懲戒事由ではなかった期間に労働者が副業をしており、後に副業が禁止されるに至ったという場合を想定してみましょう。
この場合、当該労働者が、上記期間中に副業を行っていたことに対する懲戒処分を行うことはできません。つまり、過去に適法であった行為について、新ルールを適用して後から処分することは許されないことになります。

懲戒処分を行うときには、処分の対象となる行為について、行為があった時点で懲戒処分の事由になっていたことが、懲戒処分が適正だと判断する基準となります。

⑤平等取り扱いの原則

平等取り扱いの原則とは、同じような非違行為に対しては、同程度の懲戒処分を下さなければならないという原則です。これは、判断を下す者の主観的な要素を排除して、公平な処分を下すためのルールです。

よって、懲戒処分の内容については、行為の重さや行為者の地位、在籍年数といった「客観的な要素」に基づいて判断する必要があります。

⑥適正手続きの原則

適正手続きの原則とは、適正な手続きによって懲戒処分を下さなければならないという原則です。
適正な手続きのために、会社として慎重に調査を行い、本人に弁明の機会を付与しなければなりません。

また、就業規則において手続き(役員会で決議する、懲戒委員会を組織する等)を明記している場合には、その手続きに従わないと懲戒処分が無効となるおそれがあります。

つまり、事実関係を調査したこと、本人に弁明の機会を付与したこと、就業規則に定めた手続きを行ったことが、懲戒処分が適正だと判断する基準となります。

⑦合理性・相当性の原則

合理性・相当性の原則とは、懲戒処分を行うためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であるという原則です。この原則により、労働者の非違行為のレベルに応じた懲戒処分を選択する必要があります。

懲戒処分を行うときには、非違行為の背景や経緯、情状酌量の余地などを考慮して、必要のない処分や重すぎる処分になっていないことが、懲戒処分が適正だと判断する基準となります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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