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争議行為の手段・態様・開始手続等の正当性

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

本記事においては、労働組合法上の「争議行為」の正当性がどのように判断されるかという点について、詳しく解説致します。

争議行為の正当性は、主体、目的、開始時期・手続、態様の4つの側面から判断されますが、本記事においては、主として開始時期・手続の側面と、態様の側面にフォーカスして解説致します。また、争議行為に正当性がないと認められた場合に、労働組合や組合員個人にどのような法的責任が生じるかについても解説致します。

争議行為の「正当性」

争議行為は、労働者の集団が団体交渉において要求を貫徹するために、使用者に圧力を掛ける行為として、争議権によって法的に保障されています。そして、争議行為の正当性判断の重要なポイントは、①団体交渉のために圧力を掛ける行為であるか、②態様等において相当性を欠く行為ではないか、という2点にあると考えられています。

団体行動権 争議行為の正当性の判断基準

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争議行為の開始時期・手続による正当性

争議行為が正当性を認められるためには、争議行為が開始された具体的な時期や、適切な手続を踏んで争議行為に至っているかという点もポイントになります。具体的には、団体交渉を経ているか、争議行為を行う際に適正な予告を行っているか、争議行為が労働協約上の平和義務に違反しないかという点に基づいて、正当性が判断されます。

団体交渉を経ない争議行為

争議行為は、団体交渉における具体的な折衝を労働者に有利に進展させるために労働者に認められた行為であることから、正当な争議行為の開始には、前提として、使用者が労働者の具体的要求についての団体交渉を拒否したか、又は、団体交渉において要求を拒否する旨の回答をしたかのいずれかが求められます。

平和義務・平和条項違反の争議行為

一般に、労働協約上平和義務(協約の有効期間中は争議行為を行わない義務)や平和条項(労使間の紛争について協議等一定の手続を経なければ争議行為を行わないとする旨の規定)が定められている場合において、労働者が争議行為を行ったとき、争議行為が直ちに正当性を失うとは考えられていません。

平和義務に反した争議行為の正当性に関する判断は個別具体的に行われるものであり、具体的には、労使間の交渉や合意の積み重ねがあるにもかかわらず、組合が一方的に争議行為を開始することで、信頼関係が損なわれた場合には、団体行動の正当性は否定されると考えられる一方、使用者側が労使協定所定の事項に関して背信的な行為を行った場合に、その対抗措置として争議行為を開始した場合には、争議行為の正当性が肯定されると考えられます。

適正な予告なき争議行為

実務上、労働者が争議行為を行う場合には、労使協約又は慣行上争議行為の予告が必要とされていることがありますが、このような定めに反して争議行為が行われた場合には、労使関係における信義則に反するとして、正当性が否定される場合があります。具体的には、予告なしに争議行為が行われたことにより、使用者の事業運営上大きな混乱や麻痺が生じたなど著しく不公正な事態がもたらされた場合には、争議行為の正当性が否定される余地があります。

争議行為の手段・態様による正当性

消極的な労務不提供

労働者が団結して労務を提供しないことにより使用者に圧力を掛ける行為は、争議行為の本質的部分であり、原則として憲法28条により保障されていると理解されています。従って、労務の不提供(ストライキ及び怠業)は、通常、態様において正当性を有する争議行為であると理解されます。

なお、怠業と類似した戦術の労務不提供として、順法闘争や安全闘争があります。これは、道交法や安全衛生法規等の規定を厳格に遵守して労務を提供することで、通常時よりも業務の能率を低下させる争議戦術を指しますが、こうした行動は、法令に従って労務提供をしたに過ぎないものとして、正当な業務提供行為として、使用者の非難の対象にならないものと考えられます。

積極的な労務不提供

第一に、労働組合法1条2項においては、「いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない」と規定されており、暴力の行使に対する刑事免責の適用を否定しています。従って、暴力の行使を伴う争議行為には、正当性は認められないと考えられます。

第二に、労務不提供においても、労使関係の信義則から生じるフェアプレーの原則を遵守する必要があります。具体的には、争議行為の開始において、内容、開始時期及び期間を明示し、終了時期等についても、適宜使用者側に明らかにするべきであると理解されています。

第三に、私生活上の自由や平穏を脅かす行為は、正当な争議行為とは認められません。従って、経営者の私宅に押し掛ける行為などは、争議行為としての正当性を否定されると考えられます。

ピケッティング

ストライキを行っている労働者が、そのストライキを維持・強化するために、労務を提供しようとする他の労働者や業務を遂行しようとする使用者、出入構をしようとする取引先や顧客等に対して、出入構を阻止するための働き掛けを行うことを「ピケッティング」といいます。ピケッティングの正当性については、判例上、刑事及び民事のいずれにおいても、平和的説得の範囲を超えて実力を行使するような積極的行為に対しては正当性を認めない立場を取っています。

職場占拠

ストライキの参加者が、ストライキを維持・強化し、又はスト中の操業を妨害するために職場を占拠する行為は、職場占拠と呼ばれています。その正当性については、企業施設の入口ないし外側で行われるピケッティングとは異なり、企業施設内で行われる職場占拠は、使用者の企業設備の所有権と抵触する度合いが大きいことから、実力を行使して使用者の占有を排除し操業を妨害する職場占拠には、基本的には正当性が認められないと考えられます。

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正当性のない争議行為と法的責任

刑事責任

団体行動に正当性が認められない場合、刑罰規定の構成要件に該当する行為を実際に行った労働者又はそれを教唆(きょうさ)・幇助(ほうじょ)した労働者個人が、刑事責任を負う場合があります。

民事責任

損害賠償責任

正当性を欠く争議行為が行われた場合の民事責任(不法行為責任)については、現在では、争議行為の実際の行為者(組合員個人)と労働組合が、損害全体について連帯して責任を負うと考えられます(民法709条、719条)。

もっとも、誰が「行為者」として評価されるべきかは、争議行為の態様によって異なります。例えば、ストライキや怠業による労務停止の場合に、それが正当性を否定されたときは、ストライキや怠業を組織化した指導者が「行為者」と評価されると考えられる一方で、集団的労務停止以外の行為については、一次的には、実際に正当性のない行動を行った組合員個人が「行為者」として責任を負うと考えられます。

懲戒処分

懲戒処分は、企業秩序に違反した行為に対する制裁罰の性質を持つと考えられています。このような観点から、正当性のない争議行為を行った労働者に対して懲戒処分を科すことができるかという問題を考えますと、組合員個人が企業秩序を乱す行為を実際に行ったと認められる場合は、当該組合員に対して、懲戒処分を行う余地があると考えられます。また、幹部組合員についても、正当性のない争議行為を実際に指揮指導した者については、実際の行為者に比して重い制裁を科すことも正当化されうると考えられます。実際、幹部組合員の指導責任を肯定した裁判例は多数存在します。

ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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