介護休業制度の正しい知識と会社が取るべき対応
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
介護休業制度は、労働者が、要介護状態にある家族を介護するために利用できる制度として育児・介護休業法に定められています。この法律は、労働者が介護のために離職しなければならなくなることを防ぎ、「介護離職ゼロ」を目指すものです。事業主としても、要介護の家族を抱える労働者が働きやすい環境を整えることは、優秀な労働力を確保することにつながるメリットがあると言えるでしょう。
ここでは、介護休業制度とはどのような制度なのか、対象となる労働者の範囲、休業できる期間等について解説します。
目次
介護休業制度とは
介護休業制度とは、労働者が、要介護状態にある家族を介護するために休業を取得できる制度です。休業できる日数は対象家族1人につき93日であり、その日数を最大で3回に分割して取得可能です。なお、93日の数え方としては、介護休業をしている期間の土日・祝日といった休日も含めてカウントします。
平成19年には介護離職の件数は約5万件でしたが、平成29年には約9万件と、倍近くに増えてしまっています。企業にとって、能力の高い労働者が親族の介護のために退職してしまうのは大きな損失であるため、人材を流出させないために介護休業制度を適切に運用していくことが重要です。
なお、要介護状態についての詳しい解説は厚生労働省のサイト(下記URL)でご確認ください。
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介護休業制度の対象労働者
介護休業制度を利用できる労働者として対象になるのは、要介護状態にある対象家族を介護する労働者です。
ここでいう労働者には、正社員だけでなく、アルバイトやパート、派遣社員、契約社員等の有期契約の労働者も含まれます。ただし、有期契約の労働者については、雇用されている期間や、労働契約が終了する時期によって対象者が限定されます。また、日々雇い入れられる労働者は対象から除かれます。
なお、介護休業は、女性だけでなく男性であっても取得できます。
契約社員等、有期契約労働者が介護休業を取得するための要件
有期契約労働者にも介護休業を取得する権利がありますが、次の二つの要件を満たしていなければなりません。
- ①入社して1年以上が経過していること
- ②介護休業開始予定日から起算して、93日を経過する日から6ヶ月経過する日までに、労働契約が満了し、雇用契約が終了することが明らかでないこと
つまり、有期雇用者についても、事業主は、当該有期雇用者が1年以上働いており、介護休業終了後6ヶ月以降も雇用を継続する予定であるならば、介護休業の申出は受理しなければなりません。
労使協定により対象外にできる労働者
事業主は、原則として労働者からの介護休業の申出を拒むことができませんが、次のいずれかに該当する者に関しては、労使協定で定められている限り対象外とすることができます。
- 入社してから1年未満
- 申出の日から93日以内に雇用期間が終了する
- 1週間の所定労働日数が2日以下
介護休業制度の対象となる家族の範囲
介護休業制度の対象となる「家族」とは、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫と定められています。このうち、子に関しては、法律上の親子関係がある場合(養子を含む)のみ制度の対象とされています。また、以前は同居と扶養が要件として定められていましたが、平成29年の改正で削除されており、現在は問われないこととなっています。
介護休業制度と介護休暇制度の違い
育児・介護休業法に定められている介護休業制度ですが、平成21年の改正で追加された似た名称の制度として、介護休暇というものもあります。以下に主な違いについてまとめました。
介護休業制度 | 介護休暇制度 | |
---|---|---|
取得可能日数 | 要介護者1人につき、通算93日を限度として3回まで分割取得可能 | 1年度に5日間、対象家族が2人以上ならば10日間 |
介護休業給付金の有無 | 雇用保険制度から休業前の賃金の67%が「介護休業給付金」として支給される | 企業によって異なる |
申請方法 | 開始日の2週間前までに事業主へ申し出る | 事業主への申出(詳細は企業によって異なる) |
介護休暇制度について、詳しくは以下のページをご覧ください。
介護休業給付金とは
介護休業給付金とは、雇用保険の給付金の一つであり、介護休業制度を利用した労働者が受け取ることができます。支給額は休業前の給与の67%であり、以下の条件を満たした労働者が受給できます。
- ①介護休業を開始した日前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あること。
- ②職場に復帰することを前提として休業すること。
申請は、介護休業を終えた後で、勤務先を経由してハローワークに申請します。
育児・介護休業法の改正による変更点(平成29年1月)
育児・介護休業法は、その制定以降、度々改正されていますが、平成29年1月の改正では介護休業制度についても大きく内容が改正されました。以下、簡単に変更点をまとめます。
①分割取得が可能に……
それまでは対象家族1人につき通算93日まで、原則1回に限るという内容でしたが、改正により93日を分割して最大3回まで取得できるようになりました。
②介護のための所定労働時間の短縮措置等……
事業主は家族を介護する労働者に対して、所定労働時間の短縮措置等を講じなければなりません。これについて、「介護休業と通算して93日の範囲内で取得可能」と定められていましたが、「介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能」と改正されました。
③介護のための所定労働の制限(残業の免除)……
改正以前は特に定められていませんでしたが、要介護の対象家族1人につき、介護の必要がなくなるまで、残業の免除を受けられるようになりました。
④介護休業給付金の引き上げ……
介護休業中は原則として無給ですが、雇用保険制度から給付金が支給されます。改正前は休業前の賃金の40%と定められていましたが、67%に引き上げられました。
労働時間の短縮に関して、詳しくは以下のページをご参照ください。
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介護休業の期間の数え方
介護休業は通算93日まで取得できますが、日数は土日や祝日といった休日も含めて数えます。
例えば、7月1日から介護休業を開始して93日を取得した場合には、8月に夏季休暇等があったとしても、10月1日までが休業期間となります。また、介護休業の期間中に、急用等により出勤した日があったとしても除外されないため、その日も含めて93日をカウントします。
理論上は、介護休業を夏季休暇の前後に分割して93日間取得することが可能です。
事業主が休業期間を指定することはできるのか
労働者が取得しようとしている、あるいは最中の介護休業の期間を、事業主が指定することはできません。ただし、労働者が介護休業の取得を申し出た日が、休業開始日まで2週間に満たないときに限り、2週間経過日まで事業主が開始日を繰り下げて指定できます。
介護休業が終了する事由とは
介護休業の期間は、次のとき、労働者の意思にかかわらず終了します。
- 対象家族を介護しなくなったとき……対象家族の死亡、離婚・婚姻の取り消し・離縁等により対象家族との家族関係の終了、労働者が負傷・疾病等により対象家族を介護できなくなった場合
- 介護休業中の労働者が、産前産後休業、育児休業、新たな介護休業を取得したとき
介護休業制度に係る手続きについて
労働者は、事業者に申し出ることによって介護休業を取得することができます。その申出は、労働者から事業主に対して、休業開始日の2週間前までにしなければなりません。基本的に申出書を提出するのですが、事業主が認める場合には、FAXや電子メール等で代替しても構いません。
申出書に記載しなければならないのは以下の事項です。
- ①申出の年月日
- ②労働者の氏名
- ③対象家族の氏名及び労働者との続柄
- ④対象家族が要介護状態にあること
- ⑤休業を開始しようとする日、及び休業を終了しようとする日
- ⑥申出に係る対象家族についてのこれまでの介護休業日数
このほか、事業主は労働者に対し、対象家族が要介護状態にあることを証明する書類の提出を求めることができます。
また、申出書の提出があった場合、事業主は速やかに労働者に対して介護休業取扱通知書を交付しなければなりません。この通知書は、交付することによって社員が安心して休業できるようにすることや、トラブルを避けることを可能にするものです。
この通知書に記載しなければならない内容は、以下の事項です。
- ①介護休業申出を受けた旨
- ②介護休業開始予定日、および介護休業終了予定日
- ③申出を拒む場合には、その旨およびその理由
こちらも、労働者が希望する場合にはファックスや電子メール等で代替することも可能です。
介護休業取扱通知書の交付は「速やかに」と定められていますが、これは労働者からの申出があった時点からおおむね一週間以内とされています。
介護休業期間の延長や変更があった場合
介護休業期間の延長に関しては、労働者が事業主に対し、本来休業の終了を予定していた日の2週間前までに申し出ることで、93日以内の範囲ならば、1回の休業につき1回に限り休業終了日の繰り下げが可能です。なお、93日よりも日数を延長できる規定はないため、93日よりも長期にわたっての介護休業期間を延長するためには就業規則に特別な規定があることが必要です。
一方、介護休業開始日、および終了日の繰り上げに関しては、法律による規定がありません。よって、開始日・終了日の繰り上げに関しては、事業主の裁量次第ということになります。
申出の撤回があった場合
一度申し出た介護休業でも、休業開始予定日の前日まで撤回することが認められています。
このため、労働者から介護休業撤回の申出があった場合、事業主はそれに応じなければなりません。
また、撤回の申出とは別に、介護予定だった対象家族を事情により介護しないことになった場合には、休業の申出はなかったことになります。事情としては、対象家族が死亡したケースや、離婚等による家族関係が解消したケース等が挙げられるでしょう。
また、同じ対象家族に対する介護休業の申出を、“連続で2回“撤回した場合、事業主はそれ以降の介護休業の申出について拒否することができます。
就業規則への記載義務
介護休業制度を導入したときには、必ず就業規則に記載しなければなりません。なぜなら、この制度は絶対的必要記載事項である「休暇」に当たる「介護休業」を設けるための制度だからです。
なお、仮に就業規則に介護休業について記載していなかったとしても、条件を満たす労働者から申し出があった場合には、介護休業を認めなければなりません。まだ記載していない場合には、就業規則の改正が必要になります。
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介護休業中の給与・社会保険料
【介護休業中の給与について】
介護休業中の給与に関しては、育児・介護休業法では定められていません。ノーワーク・ノーペイの原則に則れば無給ということになり、事業主に給与を支払う義務はありません。しかし、会社が給与の全部または一部を支給すると定めることは可能であり、そのような規定を設けたときには就業規則に記載する必要があります。
【介護休業中の社会保険料について】
育児休業と異なり、介護休業は社会保険料が免除されません。介護休業を取得した労働者が無給となっても、支払義務が発生します。会社による立替えが必要となる場合もありますので、ご注意ください。
介護休業と年次有給休暇の関係
年次有給休暇とは、本来は出勤しなければならない日に、労働者が休む権利を行使できるものです。介護休業中は出勤の義務がない期間となりますので、もともと休日である日に有給休暇を取得しないのと同じく、介護休業中に重ねて有給休暇を取得することはできません。
また、年次有給休暇は「労働日の8割を出勤した者」がその付与対象となっていますが、ここで計算される出勤率に、介護休業で休んだ日は影響しません。労働基準法では、介護休業中は出勤したものとみなすと定められています。
年次有給休暇について、詳しくは以下のページをご参照ください。
介護休業取得を理由とした不利益取扱いの禁止
事業主は、労働者が介護休業を取得したことを理由に、その労働者に対して不利益となる取扱いをすることを禁じられています。「不利益取扱い」とは、具体的には、解雇、降格、減給、不利益な異動・職務の変更、有期契約労働者の契約を更新しないこと、正社員から非正規雇用への変更を強要すること等です。
介護休業に関するハラスメントの防止措置
事業主は、労働者が介護休業制度、そのほか介護のための制度を利用したことによってハラスメントを受ける事態とならないよう、相談に応じ、適切な対応をするために制度の整備等、必要な措置を講じなければなりません。
このハラスメントの防止措置は、男女を問わず、またパートタイマーや有期雇用の労働者も対象にします。必要な措置とは、具体的には相談の窓口を設けること、被害者・行為者に速やかに適正な措置を行うこと、再発防止に努めること、プライバシー保護に努めること等です。
ハラスメントに関して、詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
介護中の労働者を支援するその他の制度
平成29年に改正された育児・介護休業法によって、介護を行う労働者にも所定外労働の制限が認められました。そのため、要介護状態にある対象家族がいる労働者が請求した場合、事業主は、残業を免除する必要があります。また、所定労働時間の短縮に応じる必要があります。
要介護状態の対象家族がいる労働者に対しては、以下の措置のうちの1つを講じる必要があります。
- ①所定時間労働時間の短縮
- ②フレックスタイム制度
- ③始業・終業時間の繰り上げ・繰り下げ
- ④介護サービス費用の助成
上記の措置は、連続する3年以内の期間で2回まで認められます。
なお、育児・介護休業の全体的な概要に関しては、以下のページをご覧ください。
介護休業を支援する企業への助成金
仕事と家庭を両立できる職場環境づくりのため、国が中小企業の事業主へ助成金を支給する「両立支援等助成金」という制度があります。「両立支援等助成金」には「介護離職防止支援コース」があり、労働者による介護休業取得時や職場復帰時等に一定の金額が支給されます。
「介護離職防止支援コース」の対象は中小企業事業主のみです。また、この助成金を利用するためには、「介護支援プラン」を作成する必要があります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある