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退職金の算定方法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金の算定方法は、企業によってさまざまです。

退職金は労働者にとって大きな収入ですので、適切に算定することが重要です。また、未払いなどの事態が起きないよう、しっかり管理する必要があります。

さらに、退職金にも一定の税金がかかるため、労働者の退職時には必ず手続きを行いましょう。

本記事では、退職金の算定方法や企業に求められる対応について解説していきます。退職金制度の導入を検討している方や、見直しを考えている方はぜひご覧ください。

退職金の算定方法

退職金は、就業規則や退職金規程に基づいて支給されることになります。退職金を支給する場合は、支給条件だけでなく「算定方法」も明記されるのが一般的です。

さて、退職金の算定方法は企業によって千差万別ですが、パターンとしては、以下の4パターンに分けられるといえます。

  • 定額方式
  • 基本給連動方式
  • 別テーブル方式
  • ポイント制方式

どのような算定方法を採用するかは、企業が自由に決定することができます。

もっとも、上記のような方法で算定された退職金を、どのような方法で退職者に支給するかについては、「退職一時金制度」と「企業年金制度」の2つがあります。
本記事では、「退職一時金制度」の算定方法について解説していきます。

退職一時金制度 退職時に、一度に退職金が支払われる制度です。在籍中に就業規則が変更されない限り、企業の経営状況に関係なく支払いが確約されます。
企業年金制度 一定期間又は生涯にわたり、分割して退職金が支払われる制度です。毎回一定額が「年金」として支給されます。

定額方式

定額方式とは、勤続年数のみによって退職金額を決定する方法です。この方式では、個人の成果や企業への貢献度は考慮されません。

そのため、長く働けば働くほど、退職金も増えることになります。退職金規定では、「勤続年数10年:100万円、勤続年数20年:300万円」のように記載するのが一例です。

定額方式のメリットは、算定基準がシンプルであり、支給される退職金の額が一目でわかることです。安定志向の労働者にとっては、ライフプランや退職後の資金計画が立てやすくなり、魅力的な制度といえるかもしれません。

デメリットとしては、個人の成果や貢献度がまったく反映されないため、労働者への動機付けの効果が限定的であることが挙げられるでしょう。

勤続年数に端数がある場合

勤続年数に1年に満たない期間がある場合には、1年に切り上げて源泉徴収額を算定することが義務付けられています。例えば、勤続年数が9年1ヶ月の場合であっても、勤続年数10年として計算する必要があります。

また、長期の欠勤・休職期間も、勤続年数に含めなければならないとされています。

基本給連動方式

基本給連動方式とは、勤続年数に加え、退職時の基本給も考慮して計算する方法です。計算式は以下のとおりです。

退職金=退職時の基本給×支給率(勤続年数に応じて変動)×退職事由係数

各項目の数値は企業によって異なりますが、支給率勤続年数に応じて高くなるのが基本です。また、役職に応じて加算されることもあります。

退職事由係数は、“退職理由に応じた削減率”のことです。一般的に、自己都合退職だと会社都合退職よりも数値が小さく(削減率が高く)なります。

例えば、以下のような計算がされます。

〈退職時の基本給40万円、勤続年数20年、支給率8.0、退職事由係数0.8(自己都合退職)〉
 →【退職金=40万円×8.0×0.8=256万円】

基本給連動方式のメリットは、退職金の計算や管理が比較的簡単だということです。また、基本給が反映されるため、労働者のモチベーションアップという点でも、一定の効果が期待できます。

デメリットは、在職中の昇給により、退職金額が予想以上に高くなる可能性がある点です。想定を大きく上回ると、経営を圧迫しかねないでしょう。

別テーブル方式

別テーブル方式とは、勤続年数のほか、役職や等級を考慮して計算する方法です。計算式は以下のとおりです。

退職金=基本金額×支給率×退職事由係数

基本金額は、役職や等級に応じて高額になるのが一般的です。退職金規定などで、あらかじめテーブルを定めておく必要があります。
また、支給率勤続年数に応じて変動します。在籍期間が長いほど、支給率も高くなるのが基本です。

例えば、以下のように計算されます。

〈3等級の基本金額50万円、勤続年数20年、支給率8.0、退職事由係数0.8(自己都合退職)〉
 →【退職金=50万円×8.0×0.8=320万円】

別テーブル方式のメリットは、個々人の組織における役割の大きさに応じて退職金額を算定できることです。また、給与とは連動していないため、給与体系が変わっても退職金規定はそのまま維持することができます。

デメリットは、在籍期間全体が考慮されないということです。長く働いても等級が低い者や、昇格基準が厳しい部署にいる者は、不満を抱くでしょう。

ポイント制方式

ポイント制方式とは、労働者に付与したポイントの合計をもとに、退職金額を決定する方法です。計算式は以下のとおりです。

退職金=ポイントの合計×ポイント単価×退職事由係数

ポイントは、勤続年数・等級・貢献度などに応じて加算されます。
ポイント付与のルールは企業によってさまざまですが、「勤続年数1年ごとに10ポイント」「1等級昇格ごとに30ポイント」「ポイント単価は15,000円」などと規定されるのが一般的です。

例えば、以下のように計算されます。

〈勤続年数10年(ポイント100)、役職ポイント90、ポイント単価15,000円、退職事由係数0.8(自己都合退職)〉
 →【退職金=(100+90)×15,000円×0.8=228万円】

ポイント制方式のメリットは、組織への貢献度などの個々人の事情に応じたよりきめ細やかな退職金額を算定できるという点、それゆえ労働者のモチベーションアップにもつながりやすい仕組みだという点にあります。

デメリットは、ポイント付与のルールを複雑又は不明確なものにすると、事務的負担が大きくなったり、従業員に不満感が生じやすかったりするという点です。

役員の退職金の算定方法

役員の退職金は、「功績倍率法」で計算するのが一般的です。功績倍率法とは、退職時の給与額と、在籍期間や役員の職責に応じた功績倍率を組み合わせて算定する方法です。

計算式は、以下のとおりです。

役員退職金=退職時の報酬月額×役員在任期間×功績倍率

例えば、〈最終報酬月額150万円、在任10年、功績倍率2.5〉のケースでは、
役員退職金は、【150万円×10年×2.5=3750万円】となります。

なお、役員退職金は、経費として損益算入することができます。
また、功績倍率は役員退職金規程などで独自に定めることができますが、一般的な水準から大きく外れないようにしましょう(下表参照)。

功績倍率が極端に高かったり、退職直前に報酬を大きく引き上げたりした場合、役員退職金が「不当に高額である」と税務署に指摘される可能性があります。不当に高額な部分については、損金算入ができず、法人税が高額になるおそれがあるため注意が必要です。

功績倍率の一般的な水準
役職 功績倍率
社長・会長 3
専務 2.5
常務 2.3
取締役 2
監査役 2

公務員の退職金の算定方法

国家公務員の退職金は、「国家公務員退職手当法」によって定められています。また、地方公務員の退職金も各地方の条例によって変わります。
算定方法は通常の会社員と異なり、いずれも以下の計算式で求めることができます。

退職金=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続年数別支給割合)+調整額

退職時の基本給や勤続年数に応じて、退職金も増えることがわかります。
また、調整額とは、在職中の貢献度に応じた加算額です。在職期間中に属していた区分によって、具体的な金額が定められています。

退職金にかかる税金

退職金は、退職所得(退職により勤務先から受ける退職手当などの所得)として、「所得税」と「住民税」がかかります。

ただし、退職金は「長く働いたことに対する功労金」という意味があるため、税制上一定の優遇措置(退職所得控除)が設けられています。
退職所得控除とは、課税の対象となる退職所得から一定額を差し引くことで、税額を安く抑えられる制度です。

退職所得控除額の計算方法

退職所得控除を受けるには、「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要です。

この申告書は、退職時に労働者が企業へ提出するものです。法律上の提出義務はありませんが、提出しないと退職所得控除を受けられず、所得税が高額になってしまいますので、退職者に対してしっかり案内することが望ましいでしょう。

退職所得控除の具体的な計算方法は、次項でご説明します。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合

まず、所得税の課税対象となる「課税退職所得金額」を算出します。
次に、この「課税退職所得金額」に所得税率をかけ、控除額を差し引くことで、「所得税額」が決定します。

計算式で表すと、以下の流れになります。

①【課税退職所得金額=(退職金の総額-退職所得控除額)×2分の1】
②【所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額】

①で用いる「退職所得控除額」は、以下のとおり、勤続年数に応じて計算方法が異なります。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

また、②で用いる「所得税率」や「控除額」は、以下のとおり、①で求めた課税退職所得金額の区分に応じて異なります。

課税総所得金額 税率 控除額
195万円以下 5%
195万円超 330万円以下 10% 9.75万円
330万円超 695万円以下 20% 42.75万円
695万円超 900万円以下 23% 63.60万円
900万円超 1,800万円以下 33% 153.60万円
1,800万円超 4000万円以下 40% 279.60万円
4,000万円超 45% 479.60万円

ここでは、〈勤続年数15年、退職金の総額1000万円〉のケースで計算してみましょう。

 

①勤続年数は“20年以下”なので、「退職所得控除額」は、40万円×15(年)=600万円となります。
よって、【課税退職所得金額=(1000万円-600万円)×1/2=200万円】となります。

②課税退職所得金額が“195万円超330万円以下”なので、所得税率は10%、控除額は9.75万円となります。
よって、【所得税額=200万円×10%-9.75万円=102,500円】となります。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出してない場合

申告書を提出していない場合、退職所得控除等の計算は行われません。その場合、所得税および復興特別所得税は一律20.42%の税率で計算した金額が源泉徴収されることになります。

退職所得があった場合の源泉徴収票

退職金を受給した者には、使用者が退職所得の源泉徴収票等を作成・交付することとなっています。交付は、基本的に退職後1ヶ月以内に行わなければなりません。
また、退職者が法人の役員である場合、退職所得の源泉徴収票等を税務署と市区町村にも提出する必要があります。

退職金に確定申告は必要なのか

退職金の支払い時に「退職所得の受給に関する申告書」が提出されている場合、会社が所得税額を計算したうえで、退職金から所得税の源泉徴収を行います。そのため、労働者が確定申告を行う必要はありません。

一方、申告書を提出していない場合、退職所得控除等の計算が行われないため、そのまま所得税が課税されてしまいます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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