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組織再編と倒産|企業が注意すべき人事労務問題

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

組織再編や事業譲渡は、規模の拡大や資源の集中などを目指すときに検討するべき手段です。また、事業を自力で立て直すのが難しいときには、倒産も選択肢に入るでしょう。
これらの手段を考えるときに、労働者の待遇などが問題となります。余剰人員が生じるなどの問題に対して、会社がどのように対応するべきかを考えなければなりません。

本記事では、組織再編・事業譲渡・倒産についての概要や実行を検討するべき状況、必要となる労働者への対応等について解説します。

組織再編とは

組織再編とは、会社の事業構成や組織を編成しなおすことをいいます。主な目的としては、企業買収による競争力の強化、複雑化した企業グループの整理、不採算部門の分離、経営資源の集中などが挙げられます。

組織再編については、すべて会社法第5編で定められた法律上の行為です。
一方で、組織変更とは、会社の“法人格”は残しながら形態のみ変えることであり、組織再編と違って自社のみで行うことができます。

日本の会社形態は、
●株式会社
●持分会社(合同会社、合資会社、合名会社)
に分けられており、株式会社から持分会社(又はその反対)に形態を変える行為が組織変更にあたります。

組織再編の種類

会社法上、組織再編の具体的な手法として次の4つが定められています。

  • 会社分割
  • 合併
  • 株式交換
  • 株式移転

それぞれメリットや税務上の措置が異なるため、自社の狙いに合ったものを選択する必要があります。
これら4つの手法の違いについて、以下で解説します。

会社分割

会社分割とは、自社の事業を切り離し、他社に承継させる組織再編のことです。会社分割は次の2つに分けられます。

新設分割 新会社を設立してその新会社に自社の事業を承継させる
吸収分割 自社の事業を既存の会社に承継させる

会社分割は、次のようなときに適しています。

  • 特定の事業部門を子会社として分離独立させたいとき
  • 特定の事業や資産を新会社に引き継がせたいとき
  • 資金の豊富でない相手方に事業を譲りたいとき

会社分割の詳細は、以下のページで解説しています。

会社分割における労働契約の承継について

合併

合併とは、複数の会社を1つの会社に統合する組織再編です。合併は次の2種類に分けられます。

新設合併 統合した会社で新たに別の新会社を設立する
吸収合併 一方の会社を既存の会社に取り込む

合併は、次のようなときに適しています。

  • 新たな事業に手を広げたいとき
  • 既存の事業に有効な技術力やノウハウを入手したいとき
  • 許認可をそのまま活用したいとき

合併について、詳しくは以下のページで解説しています。

合併時の労務管理

株式交換

株式交換は、他の会社(子会社となる会社)の株主に対して自社(親会社となる会社)の株式を交付することで、他の会社を完全子会社化する手法です。

株式交換は、次のようなときに適しています。

  • 資金(キャッシュ)をかけずに他の会社を買収したいとき
  • 反対株主がいるとき

株式移転

株式移転は、単独又は複数で新たな会社を設立し、各々が保有する株式をその親会社にすべて移転することにより、自らその完全子会社となる方法です。持株会社を設立する際によく用いられる手法で、「新会社=完全親会社」となります。

次の状況に適しています。

  • 持株会社を創設してホールディングス化したいとき
  • それぞれが独立した会社のままで、それぞれの強みによる相乗効果を生み出したいとき

株式交換や株式移転について、より詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。

株式交換・株式移転における労働契約や従業員への対応について

組織再編における労務問題

組織を変えることは、労働者にも大きな影響を及ぼします。そこで、組織再編後の人員配置や労働条件については事前に検討することが重要です。
検討するべき特に重大な事項として、次の2点が挙げられます。

  • ①労働契約の承継
  • ②人員整理

これらの点について、次項より解説します。

組織再編について、なるべく詳細に知りたい方は、以下の記事で解説しているのでぜひご覧ください。

組織再編

労働契約の承継

労働契約が承継されるか否かは、選択した組織再編の手法によって異なります。

●会社分割
会社分割の場合、承継事業に従事する労働者のうち、分割契約等で定めがある者は、労働契約がそのまま承継会社に引き継がれます。ただし、主として従事していた事業から切り離されてしまう労働者は、異議を申し出ることで元の会社に残ることができます。

●合併
合併の場合には、すべての労働契約がそのまま承継されます。ただし、合併後の給与体系の統合等の必要性があることから、事前に労使で話し合いをすることが望ましいでしょう。

●株式交換
株式交換の場合には、基本的に労働者の異動は伴わないため労働契約の承継は生じません。通常であれば、労働契約にも変更はありません。

●株式移転
株式移転の場合には、基本的に労働者の異動は伴わないため労働契約の承継は生じません。通常であれば、労働契約にも変更はありません。

組織再編をしたときの労働契約の承継について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

組織再編における労働契約の承継について

人員整理

組織再編を行った場合には、同じ役割の労働者が所属すること等により、人員整理が必要となる場合があります。
しかし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、労働者を有効に解雇することはできません(労働契約法16条)。

そこで、解雇を回避するための方法として、次のような人員整理の手段を検討しましょう。

  • 配転
  • 希望退職の募集
  • 退職勧奨

組織再編を行うときの人員整理について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事を併せてご覧ください。

組織再編に伴う人員整理の手法や注意点

事業譲渡とは

事業譲渡とは、自社の事業を他社に譲渡(売却)することをいいます。個々の会社による“取引行為”なので、会社法上の組織再編には含まれません。特徴としては、手続きが簡便なことや小規模事業の移転に向いていること等が挙げられます。

事業譲渡に適しているケースとして、次のようなものが挙げられます。

  • 売り手側が法人格を残したいケース
  • 売り手側が特定の事業に集中したいと考えているケース
  • 売り手側に債務が多く、組織再編の相手方が見つからないケース

事業譲渡における労務問題

事業譲渡は、合併や会社分割のように権利義務を包括的に譲り渡す契約とは違い、労働契約を自動的に引き継がせるものではありません。そのため、次のような点が問題となります。

  • ①労働契約の承継
  • ②人員整理

これらの点について、次項より解説します。

また、事業譲渡について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。

事業譲渡における労働契約や手続き

労働契約の承継

事業譲渡に伴って労働契約を引き継がせるためには、労働者の個別の同意が必要です。そのため、労働契約の移転を拒否すれば、労働者は元の会社に残ることになります。
労働者が労働契約の承継に同意した場合には、次のような方法によって事業譲渡の相手と契約することが考えられます。

  • ①労働契約をそのまま引き継がせる
  • ②譲渡側の会社との労働契約を終了させ、譲受側の会社と改めて労働契約を結ぶ

労働契約を引き継ぐのであれば、勤続年数や退職金といったものも引き継ぐことになります。改めて労働契約を結ぶのであれば、従来の契約は引き継がれませんが、労働者が納得できるような契約にしなければトラブルになるおそれがあることに注意しましょう。

人員整理

事業譲渡による労働契約の移転を拒否した労働者について、会社は基本的に解雇することができません。まずは新たな部署に配転する等の対応が必要となります。また、労働者が知らないうちに譲渡先へ転籍させたとしても、労働者が訴えれば無効となるリスクが高いと考えられます。

倒産とは

「倒産」という言葉について、厳密な定義はありませんが、一般には、企業ないし個人が、債務の支払いができなくなる等してもはや経済活動を継続することができない状態を意味します。
倒産処理手続には複数のものがありますが、法定されたものとしては、大きく次の2種類があります。

  • 事業を終わらせる清算型倒産処理手続(破産・特別清算)
  • 事業を継続する再建型倒産処理手続(会社更生・民事再生)

それぞれ、以下のような状況で検討されることが多いです。

【破産・特別清算】
・事業が黒字になる可能性が低い
・債務の減額に多くの債権者が同意しない

【会社更生・民事再生】
・事業が黒字になる見込みがある
・債務を減額できれば経営を続けられる
・債務の減額に多くの債権者が同意している

会社が倒産したときの労務手続き等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

会社の倒産手続き│手続きの種類や流れ、従業員への対応について

倒産における労務問題

使用者が倒産すると、労働者への対応が問題となります。使用者が破産する場合、労働者は解雇されることになります。また、会社更生法や民事再生法によって再建を目指す場合であっても、リストラをしなければならないケースが多いでしょう。
そこで、破産する場合と再建する場合に必要となる労務手続きについて、以下で解説します。

破産時の労務手続き

会社が破産したときには、労働者は全員解雇することになります。30日間の解雇予告期間を置くか,その間の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

なお、破産するときの会社には資金が乏しいことが多く、会社からの給与の支払いが滞ってしまっている場合も考えられます。そのようなときには、労働者に「未払賃金立替払制度」を利用してもらうことによって未払賃金や退職金の一部を立替払いしてもらう方法が考えられます。

会社の倒産に伴う解雇では、失業保険を会社都合退職として受け取れるため、自己都合退職よりも早く受給できることも労働者に説明すると良いでしょう。

破産の手続きについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

会社を破産する際の労務手続き

会社更生・民事再生時の労務手続き

会社更生法や民事再生法により会社を再建するときには、労働者との労働契約は基本的に継続されます。会社が一方的な解雇を行っても無効となるおそれがあり、給与や退職金といった雇用条件も自動的に引き下げられることはありません。

他方で、労働者と合意ができれば、給与等の条件を引き下げることはできます。また、会社の経営が厳しいことから、破産などを防ぐために人件費の削減が必要となる場合が多く、整理解雇が認められる場合もあります。整理解雇を回避するために希望退職を募ることも考えられます。

会社更生手続きと民事再生手続きについて詳しく知りたい方は、以下の各記事をご覧ください。

会社更生手続開始による従業員への影響
民事再生手続き開始による従業員への影響
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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