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障害者雇用促進法における相談体制の整備等について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

障害者の雇用率は年々増加しており、今後ますます増えると予想されます。
障害者の活躍の場が広がるのは良いことですが、その一方で、職場環境や人間関係に悩む障害者もいるのが現実です。
この問題を解決するため、会社は、「相談窓口の設置」など障害者の相談体制を整備することが義務付けられています。では、具体的にどんな措置を講じればよいのか、本記事で解説していきます。

障害者雇用促進法で企業が守るべき3つのルール

障害者雇用促進法では、企業に以下の3つのルールを定めています。

  • ①障害者差別の禁止
    障害者であることを理由に、それ以外の人との不当な差別的取扱いを禁止しています。
    例えば、「障害者だから」という理由だけで求人への応募を拒否したり、入社後に人事評価でマイナスにしたりする行為は認められません。
  • ②合理的配慮の提供義務
    障害者からの要望に応じて、社会的バリアを取り除くための対応をとることです。
    例えば、オフィスに車椅子のまま利用できるデスクを設置したり、音声読み上げソフトを導入したりするのが一例です。
  • ③相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助
    障害者からの相談に応じられる環境を作ること、また、障害者からの相談を自主的に解決するよう努めることです(具体的な内容は、次項から解説します)。

障害者を雇用する際の相談体制の整備

障害者の相談体制を整備する際は、以下のポイントを押さえる必要があります。

  • 相談窓口の設置・周知
  • 合理的配慮に関する相談があったときの適切な対応
  • プライバシー保護のために必要な措置
  • 相談を理由とする不利益な取扱いの禁止

それぞれ詳しくみていきましょう。

相談窓口の設置・周知

障害者の職場での不安を解消するために「相談窓口」を定め、社内で周知する必要があります。
具体的には、まず障害者からの相談に対応する部署や担当者を決定します。あるいは、相談対応を外部の機関に委ねることも可能です。

相談窓口を決定したら、障害者を採用した時点で、担当部署や担当者名・電話番号やメールアドレスなどを周知します。周知方法は、マニュアル・リーフレット・チラシなどに記載し、適宜の方法で配布するのが良いでしょう。

また、「相談窓口」の担当者が適切な対応ができるよう、運用の整備をしておくことも重要です。例えば、窓口担当者用に対応マニュアルを作成しておくこと等が考えられます。

合理的配慮に関する相談があったときの適切な対応

採用の決定後に、労働者から障害に関する合理的配慮を希望する旨の相談があった場合には、速やかに“支障となっている事情”を確認し、合理的配慮の手続きを行います。

例えば、車いす利用者から、「机が高すぎてキーボードのタイピングに支障がある、他の机を使わせてもらえないか」という配慮の希望があったときは、現在の机の高さが本当に合っていないのかを確認したうえ、車いす利用者の身体にあった高さの机を提供する必要があります。

プライバシー保護のために必要な措置

障害の内容や程度は社員のプライバシーなので、むやみに聞き出したり、他の社員に知らせたりするのは避けなければなりません。
厚生労働省のガイドラインでは、社員の障害を把握する際の注意点や禁止事項を定めているため、事業主は目を通しておきましょう。例えば、以下のような事項が定められています。

  • 利用目的を超えて情報取得をしてはならない
  • 本人の同意なく、利用目的を超えて情報を使用してはならない
  • 必要に応じて、本人だけでなくその家族にも情報の利用目的などを説明すること

また、プライバシー保護を徹底するには社内で以下のような措置も講じる必要があります。

  • 相談窓口の担当者に情報管理の教育を行う
  • 障害者とそれ以外の社員の個人情報を、別に保管すること
  • プライバシー保護の対策について、労働者に周知すること

相談を理由とする不利益な取扱いの禁止

事業主は、障害者が合理的配慮に関する相談をしたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをしてはなりません。また、その旨を記載した就業規則、社内報、社内ホームページなどを掲示・配布することによって、労働者に周知・啓発する必要があります。

苦情の処理

障害者から苦情を受けた際、まずは事業主と本人で自主的な解決を目指すことが定められています。例えば、「他の社員から差別的発言をされた」、「合理的配慮を希望したが聞き入れてもらえない」といった苦情には真摯に対応する必要があります。

処理方法としては、事業主と所属長などで「苦情処理機関」を構成し、当該社員と話し合うこと等が考えられます。

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紛争解決の援助制度

労使間で話し合っても自主的な解決が図れない場合、次のような機関の援助を受けられる仕組みになっています(障害者雇用促進法74条の6、7)。

紛争解決の援助制度

都道府県労働局長による助言等

「障害者に対する差別の禁止」・「障害者に対する合理的配慮の提供義務」に関する紛争について、紛争当事者から援助を求められた都道府県労働局長は、できるだけ自主的な解決に導けるよう、必要な助言や指導、勧告をすることができます。

なお、これはどちらか一方からの申し出でも利用可能です。

第三者による調停制度

「障害者に対する差別の禁止」・「障害者に対する合理的配慮の提供義務」に関する紛争の当事者が都道府県労働局に対して「調停」を申請し、必要があると認められた場合には、紛争調整委員会に設けられている障害者雇用調停会議によって、調停が行われます。具体的には、調停委員が当事者双方に対して調停案(改善策)を提示し、受け入れるよう勧告する流れとなります。

ただし、調停案の受け入れを強制するものではなく、調停が成立しなかった場合には、裁判手続を利用した解決に移行することも考えられます。

※「障害者に対する差別の禁止」のうち、募集及び採用に係る紛争については、雇用関係が発生する以前の問題であることなどから、障害者雇用調停会議の対象にはなりません。

援助を理由とする不利益な取扱いの禁止

事業主は、障害のある労働者が(1)都道府県労働局長による助言等、あるいは(2)第三者による調停制度の利用を求めたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることは禁止されています(障害者雇用促進法74条の6第2項)。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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