賞与の査定方法|評価基準や査定期間について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
【賞与】の査定について、減額を考えている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、賞与のカットが法的に許されるかは、貴社がどのような査定方法をルールとして定めているかによって変わります。
このページでは、どのようなことを基準に賞与を査定するのが良いか、また、賞与の査定にあたって使用者が注意すべき点はどんなことか、といった内容を中心に解説します。
なお、賞与の定義など基本的な知識や、賞与にまつわるその他の問題・お悩みのヒントを紹介しているページもありますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
目次
賞与査定とは
賞与査定とは、会社が労働者に支給する賞与の金額を決定するためのプロセスのことです。賞与が年2回支給される会社が多いため、賞与査定も年2回行われるのが一般的となっています。
賞与査定は、中小企業では社長が自ら行うケースも少なくありませんが、規模が大きくなるにつれて管理職等が行うケースが増えていきます。
賞与査定の重要性
賞与の金額が、在籍年数によって自動的に一定額だけ上がっていく等の方式にしている会社もありますが、なるべく査定によって差をつけることが望ましいでしょう。
このとき、賞与の額は社員同士で簡単に比較できることから、査定基準が不明瞭だと労働者から不満が出ることになります。
労働者の自己評価と、会社による査定結果の差が大きいと労働紛争になる場合もあります。なるべく客観的で公平・公正な査定を行うことが重要です。
賞与の査定方法と評価基準
賞与とは、「ボーナス」や「一時金」等と呼ばれることもあり、毎月支給される給与とは別に、臨時に支給される金銭のことです。
賞与を査定する際の評価基準として、多くの会社では以下のようなものを導入しています。
- ①業績評価
- ②能力評価
- ③行動評価
業績評価
賞与査定の評価基準の中でも、最も比重が置かれるのが「業績評価」です。「業績評価」は、賞与 の査定期間において労働者自身が設定した目標を、どの程度達成できたのかを評価するものです。
具体的には、以下のような観点から評価していきます。
《例》
- 目標設定(労働者の能力等に見合っているか)
- 数値的な目標達成率
- 目的達成のための上司、周囲との連携姿勢
- 企業への業績貢献度
能力評価
「能力評価」は、労働者個人のスキルや資格などを評価するものです。スキルの向上や資格取得は、業務への積極的な取り組みとして評価できるため、査定基準の一つにあげられています。
具体的には、以下のような事項が評価のポイントとなります。
《例》
- 資格取得(業務に必要な資格、会社が推奨する資格等)
- 外部セミナーへの参加
- 重要な役職・ポジションへの配置
行動評価
「行動評価」は、日々の出勤状況や勤務態度、仲間との協調性などを評価するものです。会社の行動指針等によって、重視するポイントが異なってくるのが特徴です。以下、項目として考えられる例をいくつかあげています。
《例》
- 遅刻や欠勤の有無
- 業務への積極性の有無(発言・姿勢)
- 上司や同僚、部下等、ほかの労働者とのコミュニケーションの取り方
査定を踏まえた賞与額の計算
労働者ごとの賞与額を算出する方法は、各会社によって異なります。
- 基本給をベースに支給額を決定める方法(給与連動型)
- 会社の業績に応じて賞与の総支給額を決定したうえで、各労働者の支給額を調整する方法(業績連動型)
- 勤続年数等に応じて一律一定額を支給する方法
- 人事評価を金額に換算し、個別に支給額を決定する方法
従来は、計算がしやすいというメリットもあり、「基本給の●ヶ月分」というような給与連動型が一般的でした。しかし、近年では、業績連動型を採用する会社が増加し、主流となりつつあります。業績が直接労働者の支給額に響くことから、モチベーションアップの効果が期待できます。
また、基準額に、業績・能力・行動評価を数値に割り当てて算出した係数を乗じるなどして、賞与額に人事評価を反映させることもできます。
賞与支給の目的を明確にし、会社規模等を含め、自社に合った計算方法を採用しましょう。
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賞与の査定期間
賞与の査定期間は、一般的には3~6ヶ月です。12月にボーナスが支給される場合には、4月頃から9月頃までに行われた査定に基づいて支給されます。
査定期間の直後にボーナスを支給しないのは、査定の結果をまとめる時間等が必要だからだと考えられます。
退職者・休職者・中途採用者の査定期間
■査定期間中に労働者が退職・休職した場合
労働者の退職等に備えて、賞与規程に支給日在籍要件を設けておきましょう。
支給日在籍要件とは、支給日に在籍している労働者のみに賞与を支給する規程のことです。賞与規程や就業規則等で「退職者又は休職者は査定の対象にはならない」と明記しておかなければ、賞与を支給しなかったときに不利益取扱いとみなされるリスクがあるため注意しましょう。
■中途採用者の査定期間
査定期間の途中に入社した労働者等は、査定期間の影響により賞与が支給されない場合があります。しかし、中途採用者は即戦力として入社していることがあるため、日割り支給等の方法によって、可能な限り公平に支給することが望ましいでしょう。
なお、支給日在籍要件について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
賞与の査定における注意点
賞与は、法律の定めではなく、会社の独自ルール(就業規則等で定めた賞与規程)に従って支給します。このルールが不明瞭であることが労働者の不満発生の要因になり得るので、どのように査定しているのかを労働者に周知するようにしましょう。
賞与規程は、次のように取り扱いましょう。
①就業規則へ明記しておく
②査定方法などを労働者へ周知する
③査定結果についてフィードバックやフォローをする
就業規則へ明記しておく
賞与の査定方法は法律などに規定されていないため、会社が独自に定めて運用する必要があります。このとき、作成した賞与規程は就業規則として規定しておくことが望ましいでしょう。特に賞与を減額するときには、根拠となる規程を設けておくことによってトラブルを防止することができます。
また、会社の業績が悪化したときに、自動的に賞与を減額又は不支給とできる規程も作成しておきましょう。
査定方法などを労働者へ周知する
労働者の賞与への不満を減らすために、査定方法や評価基準、査定期間等を労働者へ周知しておくことが有効です。ただし、詳細に周知する必要はありません。
査定結果についてフィードバックやフォローをする
査定結果について、従業員にフィードバックやフォローをする機会を設けるようにしましょう。査定対象者と面談をして、査定内容に納得できているか、できていないのであればどのような点についてか、など双方で話し合うことが望ましいでしょう。
従業員が業務目標を達成できていない場合には、達成できなかった理由を確認して改善に取り組む必要もあります。
賞与の減額と不当査定について
賞与を減額する場合には、就業規則等の根拠となる規定を示すなど、客観的に合理的といえる理由を説明・立証できるようにしておく必要があります。例えば、評価者の個人的な感情を理由に賞与を減額した場合などには、不当査定として【不利益取扱い】とみなされるおそれがあります。
特定の労働者について、他の労働者と比べて明らかに低い査定とし、減額する場合には特に注意が必要です。
賞与の減額と【不利益取扱い】については、以下のページでさらに詳しく説明していますので、併せてぜひご覧ください。
産休・育休取得者の扱い
賞与の査定期間中に出勤していた日があるなら、その日数に応じた賞与を支給する必要があります。産休・育休の取得を理由として賞与を全く支給しないことは、均等法9条3項及び育児・介護休業法10条の【不利益取扱い】にあたり、原則として違法となります。
ただし、就業規則等に、産休・育休期間に応じた日数を欠勤扱いとして出勤率を算定することができる内容の定めがあれば、減額が認められる可能性があります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある