就業規則の周知義務とは│周知方法や周知義務違反について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
就業規則は作成しただけでは意味がなく、効力を発揮するためには周知することも必要となります。
使用者が就業規則を周知しないと、せっかく作成しても無効となってしまうおそれがあります。
そこで、この記事では就業規則を周知するタイミングや方法、周知しなかった場合のリスク等についてわかりやすく解説します。
目次
就業規則の周知義務
使用者には、就業規則を周知する義務が課せられています(労基法106条1項)。
就業規則とは、労働時間や賃金、休暇などの重要な労働条件について規定するものですから、労働者も内容を知る権利があります。
これは、労働者が必要に応じて就業規則の内容を確認できるようにする義務と言い換えることができます。しかし、労働者の全員が就業規則の内容を知り得る状態になっていれば、就業規則の内容を説明する義務まではないとされています。
周知するタイミング
就業規則を作成・変更したら、なるべく早く周知しましょう。就業規則は労働基準監督署への届出も必要ですが、どちらが先でなければならないという決まりはありません。しかし、労働者に周知しなければ効力を発揮しないため、後回しにしない方が良いでしょう。
周知する労働者の範囲
就業規則は、すべての従業員に周知しなければなりません。そのため、パート・アルバイトといった非正規雇用の労働者にも周知しましょう。
気心の知れた従業員にだけ就業規則を配布するなどしても、周知義務を果たしたことにはなりません。
もっとも、業務委託契約や請負契約に基づいて業務を行っている方については、労働契約上の労働者ではないため、基本的に周知義務がありません。就業規則に従わせることもできないので、個別の契約によって取り決めを行います。
就業規則が適用される労働者の範囲について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
派遣労働者への周知
派遣労働者に対しては、派遣元の就業規則が適用されるため、派遣元の使用者が就業規則の周知義務を負います。
派遣労働者は、通常は派遣先の職場で働いており、派遣元の事業場に立ち寄ることは少ないので、使用者としては、個々に就業規則を配布するか、就業規則をデジタルデータにして、常時派遣労働者がアクセスできるようにするといった対応をとることが望まれます。また、特に重要な事項を抜き出し、抜粋版を作成すること等も検討すると良いでしょう。
周知する内容の範囲
周知するのは就業規則だけでなく、別で設けた給与規程や、退職金規程などの内規も対象となることがあります。
また、会社内に明文化されていない慣行(習慣によるルール)があると、その慣行が就業規則よりも優先するものとして扱われる可能性があります。例えば、本来よりも長い休憩を取ることが慣行になっていれば、就業規則上の休憩時間を超過するものとして注意することが難しくなってしまいます。
トラブルを防ぐためには、その慣行を否定するルールを明文化して周知する方法が有効です。
就業規則の周知方法
就業規則の周知方法として、労働基準法106条1項及び労働基準法施行規則52条の2は、次の3つを挙げています。
- ①就業規則を常時確認できる状態にすること
- ②書面で交付すること
- ③デジタルデータとして記録し、共有すること
次項より、それぞれの方法について解説していきます。
①常時確認できる状態にする
常時確認できる状態にするとは、事業場の見やすい場所へ掲示し、またはいつでも見られるように備え付けることです。
見やすい場所とは、事務所の掲示板や休憩所、更衣室など、労働者が誰でも自由に出入りできる場所を指します。
複数の支店や店舗を有している等、事業場が複数ある場合は、それぞれの事業場ごとに「周知」する必要があります。
ただし、誰でも閲覧できる場所に備え付けられていた場合でも、許可がないと閲覧できないような取扱いでは、常時確認できる状態にあるとはいえません。このようなケースでは「周知」したと認められないため注意しましょう。
②書面で交付する
書面で交付するとは、具体的に、就業規則を紙媒体にコピーしたものを個々の労働者に配布する方法をいいます。
各労働者が必ず確認できるため、親切な方法ではありますが、印刷代や配布コスト等、使用者側に負担の大きい方法です。
だからといって、口頭のみで内容を伝える等の方法では、周知義務を果たしたとはいえないと評価されかねません。
また、この方法をとる場合、労働者が写しを外部へ持ち出すことも可能になるため、場合によっては外部への持ち出しを制限する等の対応が必要になるでしょう。
③データを共有する
データを共有するとは、パソコン等でデジタルデータとして記録し、そのデータにアクセスできる機器を各事業場に備え付ける等して、労働者がいつでもアクセスして閲覧できるようにする方法です。社内サーバーがある会社にお勧めできる方法で、近年多くみられるようになってきた周知方法です。
ただし、パスワード等で閲覧制限がかかっている場合には、誰もが閲覧できる状態とはいえないため、周知していることにならないので注意しましょう。
また、書面を交付する方法と同様に、労働者が外部へ持ち出すことが可能になるため、外部に情報を漏らしたくない場合等には、データにダウンロード制限や印刷制限をかけるといった対応が必要になるでしょう。
周知義務に違反した場合のリスク
就業規則の周知義務に違反すると、次のようなリスクがあります。
- 罰則を科されるおそれがある
- 就業規則が無効となる
これらのリスクについて、以下で解説します。
罰金を科されるおそれがある
就業規則の周知義務に違反した場合、管轄の労働基準監督署から、指導・是正勧告を受けることがあります。また、違反行為が悪質である場合は、30万円以下の罰金を科されるおそれもあります(労基法120条)。
就業規則が無効となる
労働者が就業規則について「知らない」「もらってない」といった認識であり、周知されていないケースでは就業規則は無効とされます。
もっとも、労働基準法106条などで定める方法によって「周知」されていなくとも、労働者の大半が就業規則の内容を知っている、または知り得る状態に置かれていていたのであれば、実質的に周知されていたとして、就業規則の効力は認められると考えられています(東京地方裁判所 平成18年1月25日判決、日音退職金請求事件)。
就業規則の周知義務違反とみなされた裁判例
【東京地方裁判所 平成22年6月25日判決、芝電化事件】
この事例は、経営状態が悪化した被告会社が原告らに退職を勧め、原告らはそれに応じて退職することになり、退職金を請求したところ、「退職金規程」の変更や廃止などを理由として退職金の支払いを拒否された事例です。
裁判所は、被告会社が主張する「退職金規程」の変更や廃止は、就業規則の不利益変更に該当するとしました。
さらに、就業規則の不利益変更に法的拘束力が認められるためには、「不利益変更の周知」が必要であること等を指摘しました。
そして、「退職金規程」の変更や廃止を周知していたとすれば、被告会社が原告らに退職を求めたときに「退職金規程」の廃止等が話題になるはずであり、実際にはそのような話題が一切出ていないことから、廃止等について十分な説明を行わなかったと判断しました。
そのため、「退職金規程」の廃止等は周知されておらず無効だと認定しました。
就業規則の不利益変更を行う際の周知について
就業規則の不利益変更とは、就業規則に規定された労働条件などを、労働者にとって不利になるように変更することです。例えば、会社が独自に設けていた休暇の廃止や、手当の廃止などが該当します。
就業規則の不利益変更を行うためには、次に挙げる要件を満たす必要があります(労契法10条)。
①変更に合理性があること
変更に合理性があると認められるためには、次の点に注意しましょう。
- 労働者にとっての不利益を最小限にする
- 不利益の緩和措置などを行う
- 必要な変更だけを実施する
- 労働組合などと交渉してから変更する
②変更後の就業規則を周知していること
不利益変更の周知についても、常時確認できる状態にする等の方法によって行う必要があります。
就業規則の変更による労働契約の変更については、以下の記事でも解説しておりますのでご覧ください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある