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労災民事賠償請求|労働災害における企業の損害賠償責任

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労災が発生すると、会社はさまざまなリスクを負うことになります。そのひとつとして、労働者からの「損害賠償請求」が挙げられます。たとえ労災保険から補償がなされていても、会社はすべての責任を免れるわけではないため注意が必要です。

そこで本記事では、労災によって会社が負う損害賠償責任について詳しく解説します。会社が問われる具体的な責任や、賠償金の内容についてご説明しますので、ぜひ参考になさってください。

なお、損害賠償請求がなされた場合の流れについて詳しく知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。

労災民事訴訟と示談の対応について

労災民事賠償請求

労災が発生した場合、会社は労働者から損害賠償請求をされる可能性があります。

被災した労働者の損害は会社が加入する「労災保険」で補償されるのが基本ですが、それだけですべての損害がカバーされるわけではありません。

そこで、労働者は、労災保険によってカバーされない部分を会社に賠償請求するのです。

なお、“労災が認定されるケース”や“労災発生時の対応”について知りたい方は、以下のページをご覧ください。

労働災害

労災保険と損害賠償の関係

労災が発生した場合、会社は労働者への「災害補償責任」を負います。しかし、労災保険法に基づく労災保険給付がなされるべきである場合、会社は補償責任を免れます(労基法84条1項)。

また、実際に労災保険給付がなされた場合、同一の事由については、給付額を限度として会社の損害賠償責任が免除されます(同条2項)。

ただし、労災保険によってすべての損害が補償されるわけではないため、労災保険でカバーされない損害や保険給付を超える損害については、会社が補償する義務を負います。

例えば、精神的苦痛を補償する「慰謝料」や、被災労働者にかかる「入院雑費」「器具・装具購入費」等は、労災で補償されません。また、「休業損害」も労災では全額補償されないため、基本的に会社が支払義務を負います。

また、労災保険からは給付金に加えて「特別支給金」が支払われます。ただし、特別支給金は“労働福祉事業”の一環であって損害を補填するものではないため、会社が支払う損害賠償金から控除することはできないとされています。

一方、障害年金や遺族年金といった年金給付については、“支給が確定した給付額”の限度で控除が認められるのが通常です。

使用者の損害賠償責任

企業が負う損害賠償責任は、「債務不履行」と「不法行為責任」の2つに基づいています。
それぞれどのような責任か、以下でご説明します。

安全配慮義務違反

会社は、労働者が安全に働ける環境を整備する「安全配慮義務」を負っています(労契法5条)。そのため、企業が安全配慮義務を怠ったことが理由で労災が発生した場合、労働者は会社の“安全配慮義務違反”に基づき、「債務不履行」による損害賠償請求をすることができます(民法415条)。

例えば、以下のようなケースで安全配慮義務違反が認められやすいでしょう。

  • 工場での業務中、会社が提供した機械に巻き込まれて負傷した
  • 作業効率を上げるため、法令上義務となっている機械の安全確認作業を省くよう労働者に指示をした
  • 教育体制が不十分だったために事故が発生した
  • 労働基準監督署の災害調査によって会社の法令違反が見つかり、是正勧告を受けた
  • 労災発生後の捜査により、事業主が逮捕・送検された

企業に求められる「安全衛生管理」については、以下のページで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

労働安全衛生法

不法行為責任

労働者は、企業の「不法行為責任」に基づく損害賠償請求もすることができます。

不法行為責任による損害賠償責任とは、「故意又は過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合、それによって生じた損害を賠償する」という責任です(民法709条)。

不法行為責任が成立するための要件は、以下の4つです。

  • 故意又は過失が認められること
  • 他人の権利や法律上保護される利益を侵害したこと
  • 損害が発生していること
  • 行為と損害の間に因果関係があること

また、この損害賠償請求は、会社の「使用者責任」に基づいて行われることが多いです。次項で詳しくみていきましょう。

使用者責任

使用者責任とは、不法行為責任の類型のひとつです。具体的には、「従業員が業務上で第三者に損害を与えた場合、会社が損害賠償責任を負う」と定められています(民法715条1項)。つまり、従業員が他の従業員や顧客に怪我・疾病を負わせた場合、使用者である会社が損害賠償責任を負うということです。

これは、「会社は従業員を使用して利益を得ている以上、業務上で発生するリスクも負担すべきだ」という損害の公平な分担の理念から説明されます。

使用者責任が成立する要件は、以下の3つです。

  • 使用、被用の関係があること
  • 被用者の行為が、民法709条における不法行為の要件を満たしていること
  • 損害が、事業の執行につき発生したものであること

例えば、従業員のミスで機械が誤作動し、他の従業員が負傷したようなケースが挙げられます。

なお、会社は「従業員の選任及び事業の監督について相当の注意を払ったこと」「相当の注意を払っても損害が生ずべき状況だったこと」を立証できれば使用者責任を免れるとされますが(民法715条1項但し書き)、実務上、会社が損害の発生を予期して予め損害発生を防止する具体的な措置を講じているようなレベルでない限り免責が認められることは難しいです。

運行供用者責任

労働者が交通事故などの“第三者行為災害”に遭った場合、会社は「運転供用者責任」に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。運転供用者責任とは、「自己のために自動車を運転の用に供する者(運転供用者)は、その運行によって他人の生命又は身体を害した場合、生じた損害を賠償する責任を負う」というものです(自動車損害賠償保障法3条)。

なお、運転供用者とは、当該車両につき「運行支配」や「運行利益」のある者だと考えられています。よって、労働者が“社用車”を運転中に事故に遭った場合、会社は運転供用者責任を負いますが、労働者が“マイカー”を運転中に事故に遭った場合、会社は責任を負わないのが一般的です。

また、事業主だけでなく、親会社や元請け会社も運転供用者にあたる可能性があります。

損害賠償の範囲

労働者から損害賠償請求された場合、会社はどんな損害について賠償責任を負うのでしょうか。
以下で具体的にみていきましょう。

財産的損害

会社は、労働者に生じた「財産的損害」を補償する必要があります。なお、財産的損害は以下の2つに分けられます。

  • 積極損害:労災が原因で実際に支出した費用
    治療関係費、付添費用、通院交通費、将来介護費、葬儀費など
  • 消極損害:労災が発生していなければ得られていたであろう利益
    休業損害、逸失利益など

それぞれの項目の詳細は、以下のページで解説しています。

労災民事賠償請求における損害論と賠償額

精神的損害

労働者は精神的損害(精神的苦痛)の補償として「慰謝料」を請求できますが、慰謝料は労災保険では一切補償されません。よって、会社が賠償責任を負うことになります。

また、慰謝料は「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つがあり、どれを支払うかは労働者の怪我の程度によって異なります。

労災の損害賠償額

では、労災における損害賠償額はどのように計算されるのでしょうか。この点、項目ごとに労災保険給付額との調整が必要になります。

損害賠償額の減額事由

労災保険給付がなされた場合、給付額の限度で会社の損害賠償責任は減免されます。ただし、損害賠償金から控除できる項目・控除できない項目があるため注意が必要です。

また、他にも損害賠償額を減額できるケースがあるため、把握しておくと良いでしょう。

損害賠償額の減額事由については以下のページで詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。

労災の損害賠償額における減額事由

遅延損害金について

遅延損害金とは、“債務の履行が遅れたことに対する損害賠償金”をいい、労災の損害賠償請求でも発生します。

また、遅延損害金の利率は“法定利率”であり、不法行為・債務不履行どちらも「年3%」となります(民法404条)。

かつて、安全配慮義務違反(債務不履行)については、労働契約に基づくことから商法上の商事法定利率「年6%」とすべきではないかとの考えもありました。しかし、令和2年4月の民法改正によって商事法定利率が廃止され、遅延損害金の利率は民法上の法定利率に統一されることとなりました。

ただし、不法行為と債務不履行では、遅延損害金の「起算日」が異なります。
不法行為の場合、「不法行為の日」の翌日から遅延損害金が発生しますが、債務不履行の場合、「請求を受けた日」の翌日から発生します。

※民法改正後の内容です。令和2年3月31日以前に発生した労災については、改正前の「5%」が適用されます。

労災民事賠償請求の時効

労災による損害賠償請求には時効があり、時効成立後は基本的に会社の損害賠償責任がなくなります。以下で具体的にみていきましょう。

安全配慮義務違反

安全配慮義務違反(債務不履行)による損害賠償請求権の時効は、「債権者が権利を行使できると知った時から5年」又は「権利を行使できる時から10年」です(民法166条1項、167条)。

安全配慮義務違反が問われるような事案では、多くの場合で労災保険給付の手続が先行していると思います。ですので、基本的には「労災が発生した日から5年」で時効が成立すると理解すべきでしょう。

※民法改正後の内容です。令和2年3月31日以前に雇用契約を締結した場合、改正前の「権利を行使できる時から10年」の時効のみが適用されます。

不法行為責任

不法行為責任による損害賠償請求の時効は、以下のとおりです(民法724条、724条の2)。

・被害者又はその法定代理人が、損害及び加害者を知った時から5年
又は
・不法行為の時から20年

したがって、債務不履行と同じく、基本的に「労災が発生した日から5年」で時効が成立します。

※民法改正後の内容です。令和2年3月31日以前に発生した労災については、改正前の「3年」の時効が適用されます。

民法改正前は、時効期間がより長い“安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求権”をされるケースが多くみられましたが、改正により、時効期間が統一されることとなりました。

示談による解決

労災の損害賠償請求は、労働者と会社の「示談」によって解決することも可能です。その場合、「労働者がどのような損害を負ったのか」「会社は損害の補償としていくら支払うべきか」等について当事者同士で話し合い、合意できれば示談成立となります。

訴訟せず示談で解決できるのであれば労働者にとってもメリットとなりますし、時間と費用をかけず紛争を解決することができます。

示談交渉の流れ・交渉が決裂した場合の対応等は、以下のページで解説しています。

労災民事訴訟と示談の対応について
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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