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会社が貸与するパソコン等の利用に関する服務規律

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者が働きやすい環境を作るために、会社がパソコン等を貸与することは有効な手段です。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大以降は、テレワークが普及してパソコン等を貸与する機会は増えてきています。

ただし、パソコン等の貸与のときには、セキュリティなどに十分配慮しなければなりません。そこで、パソコン等の利用に関する服務規律を定めて、労働者に周知する必要があります。

このページでは、会社のパソコン等について設けるべき規定や、貸与する際の注意点等を解説していきます。

パソコン等の利用に関する服務規律の必要性

近年、業務で使用するパソコンや携帯電話、タブレット端末といった情報機器を労働者に貸与する会社が増えています。それと同時に、貸与された機器で私的なメールの送受信や、SNSを含むインターネットの私的な利用行為も問題視されています。

このような身勝手な行為が見過ごされると、作業の遅れや集中力の低下を招き、会社に大きな不利益を与えかねません。また、機密情報が外部に漏れ、会社の信用損失につながるおそれもあります。

そこで、パソコン等の利用ルールは、服務規律として就業規則で定めておくのが望ましいでしょう。就業規則に定めることで、労働者に一定の制約を与えるだけでなく、場合によっては懲戒処分とすることもできます。

ただし、就業規則を作成した場合や変更した場合には、所轄の労働基準監督署に届け出て、事業場に掲示する等の方法により労働者に周知しなければならないので注意しましょう。

なお、服務規律の概要から知りたい方は以下のページをご覧ください。

服務規律の策定と労働者の遵守義務

労働基準法における制限

労働基準法には「誠実労働義務」が定められています。誠実労働義務とは、労働契約上の債務を忠実に履行し、使用者の正当な利益を侵害しないよう配慮する義務です。

労働基準法には、貸与されたパソコン等の利用について、直接的に制限する条項はありません。しかし、誠実労働義務があるので、パソコン等の私的利用によって業務に支障をきたした場合、当該義務違反として処分の対象になりえます。

会社財産と施設管理権

施設管理権とは、会社が建物や設備等を管理する権利です。この権利は、会社のパソコン等のような備品にも及びます。
よって、会社はパソコン等の利用方法などを定めることができます。ルールが定められたら、労働者には従う義務があります。

たとえ勤務時間外であっても、労働者がパソコン等の会社の設備を私的に利用するのは好ましくありません。そのため、仕事以外の目的でパソコンを利用することは制限する必要があります。

会社の施設管理権については、以下のページで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

使用者の施設管理権

パソコン等の取扱いに関する規定

パソコン等の取扱いに関する規定例を、以下でご紹介します。

【遵守事項】

  • パソコン等の情報機器は丁寧に扱い、故障・破損・盗難がないようにすること

【禁止事項】

  • 無断で持ち出したり、社外の者に利用させたりしないこと
  • 保存されたデータファイルの使用や消去、第三者への提供をしないこと
  • パソコンの改造や機能の増設、システムの変更をしないこと
  • USBメモリ等の記憶媒体を使用しないこと

【報告】

  • パソコン等が故障又は破損したとき、盗難被害に遭ったとき、パスワードが第三者に漏洩したとき、不正アクセスやウイルス侵入があったときは、速やかに会社に報告すること

また、これらの規則違反を懲戒事由と定めることで、違反した者に懲戒処分を下すことが可能です。

パソコンの監視・モニタリングとプライバシー

労働者が会社のパソコン等を私的に利用している場合、使用状況を確認する目的で、メールの送受信履歴や閲覧履歴を監視することができます。労働者のパソコン等を確認するために、監視やモニタリングができる旨を就業規則に定めておきましょう。
規定なく監視した場合、その態様によっては、プライバシー侵害にあたるおそれがあるため注意が必要です。

また、合理的な理由がないのに監視やモニタリングをすると、違法性を帯びるおそれがあるため注意しましょう。

パソコン等の私的利用に関する規定

勤務時間中、労働者は誠実に職務を行う「職務専念義務」を負っています。つまり、勤務中に業務とは関係ない私的行為をしてはいけないということです。
パソコン等の私的利用はこの職務専念義務違反にあたるため、懲戒処分の対象となりえます。

就業規則には、職務専念義務の内容を具体的にかつ明確化するために、主に次のような規定を設けると良いでしょう。

  • パソコン等を業務以外の目的で使用しないこと
  • 業務に無関係な情報をパソコン等に入力しないこと
  • 私的なメールを送受信しないこと
  • 会社の許可なく、パソコン等を持ち出さないこと
  • 会社の許可なく、ソフトウェアをダウンロード又はインストールしないこと
  • 会社の許可なく、USBメモリ等によってデータ等を持ち出さないこと
  • パソコン等の不具合やウイルスの侵入等を発見したときは、すぐに会社に報告すること
  • 会社は、合理的な理由があれば、労働者に貸与したパソコン等を監視又はモニタリング等の方法により確認することができる

労働者の職務専念義務については、以下のページでさらに詳しく解説しています。

労働者が守るべき職務専念義務と服務規律

また、中でもSNSをはじめとしたインターネットの私的利用には特に注意が必要です。詳しくは以下のページで解説しますので、併せてご確認ください。

職場のインターネットの私的利用と服務規律

休憩時間中の利用制限

労働者の休憩中にも会社の施設管理権が及び、パソコン等の私的利用を制限することが可能です。

前提として、休憩時間には、その自由利用の原則が設けられています。これは、休憩時間を労働者の自由に利用させなければならないとするものです(労基法34条3項)。

しかし、休憩中も会社の秩序を守る義務から解放されるわけではありません。また、規律保持を目的とした合理的な行動制限は、休憩中でも認められると考えられています。
そのため、休憩中のパソコン等の私的利用を制限しても、違法ではないと考えられます。

パソコン等の私的利用への罰則

仕事中に私用メールを送るなど、パソコン等の私的利用が長時間に及んでいる場合には「職務専念義務違反」にあたるため、会社として何らかの処分を検討する必要があります。

ただし、パソコン等の私的利用については、黙認されている他の私的行為(業務中の私語や喫煙等)と同程度の比較的軽い義務違反行為もありますので、その場合は軽い処分とするのが一般的です。

パソコン等の私的利用を懲戒処分の対象とするためには、私的利用の禁止を就業規則で定め、かつ懲戒事由としておく必要があります。
懲戒処分を行うときには、私的利用の具体的な態様を考慮して、けん責や戒告など比較的軽い処分にするべきか、それとも重い処分にすべきか、慎重に判断すべきでしょう。

懲戒処分の可否判断

パソコン等の私的利用があったとしても、当然に懲戒処分が認められるわけではありません。以下の点を踏まえて、個別に判断するべきでしょう。

  • 私的利用の頻度や時間
  • 私的利用の悪質性(SNS等で会社の信用毀損や他の労働者を誹謗中傷していた等)
  • 業務に支障があったかどうか
  • 会社への影響
  • それまでの注意指導の有無
  • 業務と私的利用の関連性

例えば、会社のパソコンで転職活動をしたり、出会い系サイトにアクセスしたりしていた場合、悪質性があるとして懲戒処分が認められる可能性があります。また、度々注意しても一向に私的利用を止めない場合も懲戒処分の対象となりえます。

一方、会社のパソコンで私的なメール・チャットをしても、その頻度や内容によっては、懲戒処分とすることが困難な場合があります。

懲戒処分について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

懲戒処分とは|種類や懲戒処分の行う際の手順について

パソコン・社内データの持ち出しに関する規定

パソコンや社内データを持ち出す際は、機密情報の流出等さまざまなリスクを伴います。そのため、このような行為に対しては、特に厳しい対策が求められるでしょう。どのような規定を設けるべきか、以下で解説していきます。

情報漏洩への対策

社外でパソコンを利用してデータのやり取りを行う場合、機密情報や顧客情報の漏洩には、特に注意が必要です。外部からの不正アクセスだけでなく、パソコンの置忘れや紛失、誤操作といった人為的なミスによる漏洩も多いため、十分な対策が求められます。

具体的には、以下のような服務規律を設け、就業規則に定めておくことが重要です。

  • 会社の許可なくパソコンを就業場所から持ち出さない
  • 会社の許可なく、USBメモリ等の記憶媒体を使用しない

また、別途持ち出しに関する誓約書を提出させることも有効です。誓約書には、以下のような規定を盛り込むことが望ましいでしょう。

  • パソコンの私的利用をしない
  • 会社の信用毀損、他の労働者を誹謗中傷するコメントを記載しない
  • 国籍や宗教、障害者への差別にあたるような内容をコメントしない
  • パソコンを改造したり、不必要に周辺機器へ接続したりしない
  • 会社の許可なくアプリケーションやソフトをインストールしない
  • 機密情報を複製、謄写しない
  • IDやパスワードを厳重に管理する

刑法による処罰

許可なく会社の情報(データ)を持ち出した場合、「窃盗罪」にあたる可能性があります。

なお、窃盗罪は、「財物」の窃取が構成要件となっているため、「情報(データ)」はこれに含まれません。そこで、情報を会社が管理する用紙やUSBメモリ等に複製してこれを持ち出した場合に、窃盗罪が成立する可能性があります(これらの用紙やUSBメモリ等につき管理権限を有している者が行った場合には、業務上横領罪が成立する可能性もあります)。

他方、労働者が自己の所有する用紙やUSBメモリ等を使って情報(データ)を持ち出した場合、窃盗罪や業務上横領罪の構成要件に該当しないこととなります。

不正競争防止法違反への措置

持ち出された情報が「営業秘密」の場合、会社は不正競争防止法違反に基づく措置をとることができます。

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的とし、営業秘密の侵害や限定提供データの不正取得等を禁止しています。
違反した場合には、懲役や罰金といった罰則が規定されており、損害賠償請求も行うことができます。

なお、同法における営業秘密とは、秘密として管理されている技術上又は営業上の情報で、公然に知られていないものです。
具体的には、以下の3つの要件を満たすことが必要です。

  • 秘密管理性
    部外秘と記載されている等、秘密に管理されていると客観的に認識できること
  • 有用性
    顧客情報や実験データ等、客観的にみて、情報が事業活動に利用され、経費の節約や経営効率の向上に役立っていること
  • 非公知性
    社員しか知らない情報等、保有者の管理下以外では入手できないこと

不正競争防止法に違反した場合の措置について、さらに詳しく知りたい方は以下のページを併せてご覧ください。

不正競争防止法に違反した場合の措置

ID・パスワードの管理に関する規定

ID・パスワードが外部に漏れると、秘密情報の漏洩やデータ破損、社内システムの不正利用といった事態を招くおそれがあります。このようなリスクを防ぐため、以下のような規定を設け、管理を徹底することが重要です。

  • ID・パスワードを第三者に漏らさない
  • 1つのID・パスワードを複数人で使用しない
  • パスワードは定期的に変更し、過去に使用したものを繰り返して使用しない
  • パスワードは、氏名や生年月日など他人が容易に推測できるものを用いない
  • ID・パスワードを使用しなくなった場合、速やかに会社に報告する
  • ID・パスワードが外部に漏れた場合、速やかに会社に報告する
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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