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休憩時間の自由利用について|制限の可否や留意点など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

休憩時間を労働者の自由に利用させることは、事業主の義務であり、雇用形態にかかわらず、適切に対応する必要があります。例えば、休憩時間中に電話対応のために待機させることは、労働基準法違反となる可能性があるため注意が必要です。

本記事では、休憩時間の自由利用の原則の内容、自由利用に対する制限の可否などについて解説していきますので、ぜひお役立てください。

休憩時間の自由利用の原則

休憩時間は、労働者が自由に利用できるようにしなければならないという原則があります(自由利用の原則)。
これにより、休憩時間は、労働者を仕事から解放し、休息させる必要があるため、過ごし方について会社が干渉することは基本的に禁止されています。

ただし、休憩時間は労働時間の途中に与える時間であるため、一定の制限はやむを得ず、職場の規律保持上必要な制限を加えることは可能です。
なお、以下のような時間は完全には労働から解放されているとは言えないと考えられ、労働時間とみなされるリスクが高いです。

  • 客がいない時間帯の店番
  • 休憩時間中の電話当番
  • 当直や宿直勤務に設けられた仮眠時間
  • ランチミーティングへの出席

休憩時間について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

労働基準法上の休憩とは

自由利用の例外

以下の職業の者については、休憩時間の自由利用の原則は適用なしとされています(労基法施行規則33条第1項)。

  • ①警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で、児童と起居をともにする者
  • ②乳児院、児童養護施設及び障害児入所施設に勤務する職員で、児童と起居をともにする者(ただし、労働基準監督署長の許可が要件)
  • ③児童福祉法第6条の3第11項に規定する居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者として保育を行う者(同一の居宅において、一の児童に対して複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除く。)

上記の者は、緊急対応が必要、児童から目を離してはならないなど、業務の性質上一定の場所にいることが求められるため、休憩時間の自由利用の制限が法的に認められています。

休憩時間の自由利用に対する制限の可否

休憩時間について、会社の規律保持のためならば、必要な制限を加えることが認められることがあります。
ケースごとの休憩時間の利用制限の可否について、次項より解説していきます。

休憩時間中の私用外出

休憩時間中の外出を許可制とすることは、事業場内において自由に休憩できる場合には、必ずしも違法とはならないとされています。

社内に労働者が休める休憩室や食堂などが整備されており、外出制限することにやむを得ない事情があるならば、外出を許可制とすることも認められる可能性があります。

ただし、休憩時間の自由利用の原則がある以上、休憩時間中の外出は基本的には労働者の自由です。
また、許可制を設けたとしても、休憩時間を外出禁止とするのは、実際には困難でしょう。
そのため、休憩時間中の外出に制限をかける場合は、許可制より届出制をとることが望ましいといえます。

なお、休憩時間中の外出許可制については、許可しないことの合理的理由や最小限の規制であることが求められるものと考えられます。

休憩時間を過ごす場所の指定

休憩時間を過ごす場所は、合理的な理由があれば制限することができます。例えば、来客が多いためにデスクで昼食をとったり、昼寝をすることが好ましくない場合には、それらを制限できます。
ただし、会社としてそれらを可能にするための配慮は必要となります。

休憩時間中の喫煙

労働者への受動喫煙対策や、接客におけるサービス品質の向上等を目的として、休憩時間中の喫煙に対して一定の制限を課すことは、認められる可能性があります。

例えば、休憩時間中に、顧客や他の労働者がいる店内や職場内において、全面的に喫煙を禁止したとしても問題ないものと考えられます。
また、企業には受動喫煙防止への努力義務(健康増進法25条)も課せられていますので、必要な範囲で禁煙させること自体、適切な措置であるといえます。

ただし、「休憩時間中、社内、社外、どこであっても喫煙してはいけない」などと全面的に禁止することは、過剰な制限として違法となる可能性が高く、喫煙者からも苦情がくるおそれがあります。

そのため、会社内では喫煙を原則禁止としたうえで、「休憩時に専用の喫煙室や、社内の特定の場所で吸うことは例外的に認める」など、喫煙場所の制限等で対応することが望ましいといえます。

休憩時間中の飲酒

休憩時間での飲酒を認めないことは、基本的には自由利用の原則に違反しないと考えられます。なぜなら、休憩時間中の飲酒は、その後の仕事における判断能力の低下や、他の労働者への悪影響につながるリスクが高いからです。

また、アルコールが入っていると誤認されるような飲料を飲むことについても、禁止できる可能性があります。職場の秩序を維持する必要があるため、誤解を招くような行動は控えるべきだからです。

なお、会社の制服を着用したままで飲酒することも禁止できると考えられます。労働者が制服を着用したまま飲酒すると、自社のイメージの低下等につながるおそれがあるからです。

休憩時間中の政治活動やビラ配布

休憩時間中の、職場内における政党の選挙ビラ配布等の政治活動については、就業規則等で禁止したり、許可制にしたりすることは、合理的な定めとして許されます(最高裁判所 昭和52年12月13日判決、目黒電報電話局事件)。
これは、政治活動が会社の施設管理を妨げたり、労働者間トラブルを引き起こしたりするおそれがあるためです。

ただし、例えば、食事中の労働者数人に一枚ずつ平穏にビラを配布する方法等、職場内の秩序を乱すおそれのない場合には、就業規則上の政治活動の禁止規定等に違反しないと解されています(最高裁判所 昭和58年11月1日判決、明治乳業事件)。

明治乳業事件では、ビラ配布の態様や経緯及び目的、並びにビラの内容を、政治活動の禁止規定等への違反を判断するときの考慮要素として挙げています。

休憩時間の自由利用を制限する場合の留意点

休憩時間に関する規定は、就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」にあたります(労基法第89条1号)。
したがって、休憩時間の自由利用を制限(禁止規定や届出制等)する場合には、就業規則に明記しておくことが求められます。

また、就業規則を作成したら、見やすい場所への掲示・備え付け・書面の交付等の方法により労働者に周知しなければなりません。

休憩時間中の労働災害(労災認定について)

基本的に、休憩中の事故は労災と認定されません。
労災と認定されるには、次の2要件を満たす必要があります。

  • ①業務遂行性(会社の管理下にあること)
  • ②業務起因性(仕事と事故との間に因果関係があること)

まず、社内で休憩している場合には、会社の管理下にあるため業務遂行性は認められますが、休憩中は仕事をしていないため、業務起因性が認められません。
ただし、休憩中の事故の原因が、職場の施設や設備、管理にある場合には、業務起因性が認められ、労災と認定される可能性があります。

次に、社外での休憩、例えば、休憩中に外出し、車に追突されケガをしたようなケースでは、社外での事故であるため、会社の管理下にはなく、業務遂行性が否定され、休憩中の行為は私的行為であることから、業務起因性も否定され、労災と認定されない可能性があると考えられます。

労災についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。

労働災害とは

休憩時間の自由利用の原則に違反した場合の罰則

休憩時間の自由利用の原則に違反した場合は、事業主に対して、6ヶ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金が科せられる場合があります(労基法第119条1号)。

また、休憩時間に業務に就かせると、その労働時間分の未払賃金の問題が生じ、請求されるリスクがあります。
さらに、労働者に休憩を与えない会社として、社会的信用を失うことにもなりかねないため、注意が必要です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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