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使用者がおさえておくべき一般先取特権の知識

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「一般先取特権」とは、債権回収を行う際に、債務者のすべての財産から一般債権者に優先して弁済を受けることができる権利のことをいい、例として、労働者の給料債権などが挙げられます。
先取特権の実行により、裁判を起こすことなく、債務者の財産を直接差押えて、債権の回収を図ることが可能です。

労働者側にとってはメリットのある制度ですが、企業側からすると、突然差押えられるおそれがあるというデメリットがあります。

この記事では、使用者なら知っておきたい雇用関係の先取特権について解説していきますので、ぜひ参考になさって下さい。

一般先取特権とは

民法には先取特権という権利が定められています(民法303条)。先取特権とは、法律で定められた特定の債権について、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利のことです。

通常、ある債務者に対して多数の債権者がいる場合、各債権者は平等に弁済を受ける権利を持ち、これを「債権者平等の原則」といいます。しかし、先取特権を持つ債権者は、この原則に関係なく、他の債権者に優先して、債権の回収を行うことが可能です。

先取特権は、さらに以下の2種類に分けられます。

  • ①一般の先取特権:債務者の総財産から優先して弁済を受けることができる先取特権(民法306条)
  • ②特別の先取特権:特定の動産や不動産について優先して弁済を受けることができる先取特権

一般の先取特権として、以下の4つが挙げられます。

  • ①共益の費用 :各債権者の共同利益のために使った費用。強制執行の費用やマンションの管理費など
  • ②雇用関係に基づき生じた債権 :労働者の給料や退職金など
  • ③葬式の費用 
  • ④日用品の供給 :水道光熱費など

これらの原因から生じた債権を有する者については、債務者のすべての財産から、他の債権者に優先して弁済を受けることが可能です。

債権の種類 目的物
共益の費用(1号) 債務者の総財産(土地、建物、現金、預金、自動車、債権や知的財産権などあらゆるものが対象)
雇用関係に基づき生じた債権(2号)
葬式の費用(3号)
日用品の供給代金(4号)

一般の先取特権の優先順位(どの種類の先取特権が先に弁済を受ける権利を持つか)は、次のとおりです(民法329条)。

①共益の費用 > ②雇用関係に基づき生じた債権 > ③葬式の費用 > ④日用品の供給代金

雇用関係の先取特権

給料その他債務者と使用人との間の雇用関係から生じた債権を有する者は、先取特権を有します(民法306条2号、308条)。
この債務者とは雇用主、使用人は労働者を指します。

したがって、例えば、未払い給料が発生した場合に、労働者はその全額について、雇用主から優先的に弁済を受けられることになります。(ただし、税金や社会保険料には劣後します)

雇用関係から生じた債権として、給料や立替金、解雇予告手当などが挙げられます。退職金については、給料の後払い的性格を有するならば、先取特権が認められると解されています。

ここで、雇用関係の先取特権の例を挙げてみましょう。

例えば、CがD社に勤めていたとします。D社は経営不振のため、A、Bから借金をしました。その後、Cの給料も支払えなくなり、倒産してしまいました。

この時、Aが500万円の貸金債権、Bが300万円の貸金債権、Cが200万円の給料債権をDに対して持っていたとします。仮にDには500万円しか返済にあてられる財産がない場合は、A、B、Cは5:3:2の割合で500万円を分配することになります。

しかし、Cの債権は給料債権であるため、一般の先取特権を持つことになり、A、Bに優先してCが200万円すべての弁済を受けられることになります。
労働者の給料は生活の重要な糧であり、優先的に弁済を受けないと、生活が立ち行かなくなるおそれがあるため、社会的政策考慮から先取特権が認められています。

「使用人」の範囲

民法308条が定める「使用人」とは労働者のことをいい、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員などの非正規社員も含まれます。

先取特権の効力

先取特権の効力には、以下のように4種類あります。

①優先弁済的効力
他の債権者よりも、優先的に弁済を受けることができる効力です。

②物上代位性
担保としていた物が無くなって別の価値ある物に変わった場合、その変わった物についても担保権の効力が及ぶ効力です。例えば、担保対象の家が火災で焼失して、火災保険が降りた場合は、その保険金に対しても担保権が認められることになります。

※物上代位性は特定の目的物が対象となるため、総財産を対象とする一般の先取特権には基本的に認められません

③対抗力
一般の先取特権は、特に不動産の登記をしなくても、他の債権者に対抗できます。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りではありません。

④追及力
担保物権の目的財産の所有権が第三者に移転したとしても、第三者に対して、担保物権の権利を主張できるという効力です。ただし、動産の先取特権については、公示がないため、追及力は認められていません。

先取特権の制度趣旨

通常、ある債務者に対して複数の債権者がいる場合は、それぞれ対等の立場で、平等に弁済を受けるのが原則です。
つまり、それぞれの債権者が行える債権回収の範囲は、各債権者が持ち合わせている債権額に合わせて按分した範囲に限定されるということになります。

しかし、社会的弱者が有する債権の保護や、債権者間の実質的な公平の確保、当事者の意思の推測等の理由から、特定の債権者を保護すべき場合もあります。

そこで、民法303条は、これらの目的を実現するため、法律の定める特定の債権を有する者が、他の債権者よりも優先的に弁済を受けられる権利、つまり先取特権を認めました。

先取特権は、優先的に債権を回収できるため、他の債権と比較すると、債権回収を実現する確率が高まるという特徴があります。

一般先取特権の実行

基本的に、債権を強制的に回収する場合は、裁判所の判決や和解調書、執行認諾文言付公正証書などの「債務名義」が必要となります。
しかし、先取特権が与えられている債権については、債務名義がなくとも、先取特権の存在を証明できれば、債務者の財産を直接差押えて、債権の回収を図ることが可能です。

例えば、労働者が未払い賃金を請求する場合は、裁判を経ることなく、直接企業の財産(不動産や預金、売掛金など)を差し押さえて、未払い賃金の回収を図ることができます。

ただし、雇用関係の先取特権の行使を認めるか否かについては、裁判所も慎重な態度をとっています。
実際には、未払い賃金を請求する権利があるということが、仮に裁判をしたとしても当然に認められるであろうほどに明らかな場合、つまり、有効な証拠が揃っている場合でないと、先取特権の行使が認められない傾向にあります。

雇用関係の先取特権の存在を証する文書

雇用関係に基づき生じた債権の先取特権を実行し、会社の財産を強制的に差押えるためには、「先取特権の存在を証明する文書」(民事執行法181条1項4号)を執行裁判所に提出する必要があります。

例えば、労働者が未払い賃金について先取特権を実行する場合は、以下の文書の提出が求められます。

  • 雇用契約書(採用通知書)
  • 賃金台帳やタイムカード
  • 雇用保険申請書
  • 過去の給与明細書、預金通帳
  • 源泉徴収票
  • 就業規則などの賃金規程
  • 出勤簿や勤務日程表、労働者名簿 など

これらの文書に基づき、雇用契約の存在や給料の定め、労務の提供などの事実を立証しなければなりません。
なお、労働者が退職金を請求する場合は、以下の文書の提出が必要になります。

  • 退職の事実を証明するための解雇通知書や離職証明書
  • 退職金の額を証明するための退職金規程
  • 過去の退職金明細書
  • 勤続年数がわかる書類など

雇用関係の先取特権が実行された場合の企業側の対応

仮に、未払い賃金等が発生し、雇用関係の先取特権が労働者より実行されて、企業の財産が差し押さえられてしまうと、企業としては、銀行預金凍結による資金繰りの悪化、期限の利益の喪失による借入金の一括弁済、取引先からの契約解除など、様々なリスクを受ける可能性があります。

差押えを行った労働者本人であれば差押えを取り下げできますが、本人が取り下げに応じることはまずないでしょう。
したがって、差押えを免れるためには、未払い賃金の全額を返済するか、差押え自体が不当であるという申立てを裁判所に行い、差押えを停止するための手続きが必要です。

具体的には、裁判所に請求異議訴訟の提起を行い、それと同時に保証金を法務局に供託し、強制執行の停止の申立てを行います。申立てが認められると、裁判が終わるまでの間、一時的に強制執行の停止を命じてくれることになります。

これらの裁判手続きには専門的知識が必要となるため、差押えが実行された場合は、早急に弁護士などの専門家に相談することを推奨します。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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