確定給付企業年金制度(DB)とは|確定拠出年金との違いなどを解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
確定給付企業年金(DB)とは、企業があらかじめ支給する年金額を約束し、その分の老後資金を用意して従業員に支給する制度です。福利厚生の充実や採用力の向上につながる一方で、企業側にはコスト負担や運用リスクといった注意点もあります。また、企業年金には似た制度も多く、それぞれどのように違うのか混乱される方も多いでしょう。
この記事では、確定給付企業年金の基本やメリット・デメリット、導入方法などについて詳しく解説します。
確定給付企業年金制度(DB)とは
確定給付企業年金制度(DB)とは、企業が任意で導入し、退職金の一部または全部を年金として支給する制度です。あらかじめ将来の受取額が定められ、企業はその約束に基づいて従業員へ年金を支払います。
年金資産の運用は企業が行い、運用リスクも企業が負担するため、従業員は運用状況に左右されず、安定した給付を受けられます。退職時に一時金としてまとめて受け取ることも、分割して年金形式で受け取ることも可能です。
さらに、確定給付企業年金は安全性の面でも優れています。退職一時金は企業に積立義務がないため、万一の倒産時に満額受け取れないリスクがあります。一方、確定給付企業年金は掛金が外部機関に積み立てられるため、資産が守られやすく、従業員の保護に手厚い制度といえるでしょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 加入対象者 | 制度を導入している企業で働く厚生年金保険の被保険者(原則70歳未満)が対象となります。加入できる人の範囲や条件は、企業ごとの規約で定められます。 |
| 掛金 | 掛金は基本的に企業が負担しますが、本人の同意があれば、最大で2分の1まで従業員が負担することも可能です。運用は企業が行い、そのリスクも企業が負います。 |
| 受給方法 | まとめて受け取る一時金、老後の年金、障害時の給付(任意)、遺族への給付(任意)などの形で受け取ることができます。 |
| 税制面について | 掛金は損金として計上でき、運用益も非課税のため、企業の税負担を軽減できます。従業員にとっても、一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除が使えるため、税負担を抑えられます。 |
確定給付企業年金と確定拠出年金(DC)の違い
企業年金には、企業型確定拠出年金(DC)という制度もあります。DBもDCも掛金を拠出し運用する制度ですが、運用方法に大きな違いがあります。
| 確定給付企業年金(DB) | 企業型確定拠出年金(DC) | |
|---|---|---|
| 給付金額 | あらかじめ決定する | 運用成果によって変動する |
| 運用者 | 外部機関 | 社員(加入者)本人 |
| リスク | 元本保証あり (運用がマイナスの場合、企業が不足分を補填) |
元本保証なし (元本割れの可能性あり) |
| 拠出金 | 外部機関に委託 | 加入者(従業員)の専用口座(資産管理機関) |
| 運用商品の変更 | 不可 | 可能 |
| 給付金の支払い | 離職時に一時金の受取りや移管が可能 | 原則60歳以降 |
なお、DBからDCに制度を移行することも可能です。ただし、積立不足があればあらかじめ企業が補填しなければなりません。
また、DBとDCの併用もできますが、掛金の拠出額に上限があるため確認が必要です。
企業型確定拠出年金制度についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
確定給付企業年金と厚生年金基金の違い
厚生年金基金とは、国が運営する厚生年金の資金運用を一部代行し、運用益をプラスして年金額を増やすための機関です。加入者の年金をより手厚くすることを目的としています。
確定給付企業年金との違いは、「厚生年金の支給を代行するか」という点にあります。確定給付企業年金は、企業が掛け金を拠出して上乗せ給付する制度であり、厚生年金の支給を代行するものではありません。
厚生年金基金は現在、新規設立が認められておらず、既存の基金も運用悪化などを背景に確定給付企業年金へ移行が進んでいます。現在では役割をほぼ終えた制度といえるでしょう。
| 確定給付企業年金(DB) | 厚生年金基金 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 企業が任意で導入する私的年金 | 厚生年金(公的年金)の一部代行と、独自の上乗せを行う私的年金 |
| 運用者 | 企業(または委託された金融機関) | 厚生年金基金(母体企業とは別の独立した法人) |
| 加入の強制力 | 任意(制度がある企業の従業員が対象) | 任意(基金を設立・加入している企業の従業員は原則全員加入) |
| 給付額 | 規約に基づき、給与や勤続年数などに応じてあらかじめ確定 | 国の厚生年金の代行給付額 + 基金独自の上乗せ給付額 |
| 運用責任 | 企業が負担 | 基金および母体企業が負担(運用悪化時の不足分は企業が補填 |
| 給付金の支払い | 企業年金として支給 | 原則として厚生年金基金から代行部分と上乗せ部分を支給 |
確定給付企業年金と退職金の違い
退職金(退職一時金)は、従業員が退職するときに、企業から一括で支払われるお金のことです。一般的には社内で積み立てられ、支給額は勤続年数や役職などに応じて決められます。企業の経営状況によっては、必ずしも満額が支払われるとは限らない点には注意が必要です。
一方、確定給付企業年金は、企業が掛金を外部の金融機関などに積み立て、その資金をもとに退職後の年金として支給する制度です。あらかじめ給付額が定められているため、従業員は安定した給付を受けることができます。また、受け取り方は一時金と年金のいずれかを選ぶことが可能です。
| 確定給付企業年金(DB) | 退職金 | |
|---|---|---|
| 受け取り方 | 一時金または年金形式で受け取る。 | 退職時に一括で受け取るのが一般的 |
| 資産の積み立て・管理 | 企業が掛金を外部の金融機関などに拠出し、社外で積み立て・管理される。 | 主に企業内部で積み立て・管理されることが多い。 |
| 税制上の扱い | 一時金は退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となり、年金は雑所得として課税される。 | 退職所得として扱われ、退職所得控除の対象となる。 |
退職金制度について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
確定給付企業年金の種類
確定給付企業年金は、「規約型企業年金」と「基金型企業年金」の2種類に分けられます。
この2つは、運用の実施主体を企業外に置くか、企業内に置くかという点で異なります。
規約型

規約型企業年金は、企業が生命保険会社や信託銀行と契約を結び、母体企業の外部で年金資金を運用する制度です。
事業主は労使で合意した年金規約に基づいて掛金を拠出し、外部の受託機関が資金の管理・運用から年金給付までを行います。また、従業員から年金給付の請求があった場合、事業主は受託機関に対して支払指示を出す必要があります。
規約型企業年金の場合、給付・掛金や資産運用の決定を行う「代議会」や「理事会」を設置する必要がありません。また、加入者の人数要件もなく比較的簡単に導入できるため、大企業だけでなく中小企業にも多く採用されています。
ただし、規約型企業年金の場合、年金規約や資金の管理における企業側の負担が大きくなるというデメリットがあります。また、労働組合に対して定期的に状況を報告したり、意見を聞き入れたりするなど積極的な取組みも求められます。
基金型

基金型企業年金とは、会社が別法人として「企業年金基金」を設立し、そこで管理・運用・給付を行う制度です。独立性が高い機関なので、中立的な立場での運営が期待できます。
また、基金の運営には従業員も携わるため、より公平な制度といえるでしょう。
しかしこの制度では、給付や掛金について決定する「代議員」や、運用の判断を行う「執行機関」の設立が必要です(確定給付企業年金法第11条第1項第1号、2号)。これらの組織には、事業主だけでなく労働者も参画させる必要があります。
また、加入者が300人以上いなければ設立ができないため、大企業向きの制度といえるでしょう(同法第12条第1項第4号、第5号、同法施行令第6条)。
ただし、中小企業でも、複数の会社が集まって企業年金基金を設立することが認められています(複数事業主型)。厚生年金が適用される会社は加入できる可能性が高いため、検討するのも良いでしょう。
確定給付企業年金制度のメリット
企業が確定給付企業年金制度を導入すると、会社の運営や従業員の確保・定着の面でさまざまなメリットがあります。特に次のような点が大きな魅力です。
- 福利厚生を充実させることができる
- 拠出した掛金は損金扱いになり節税につながる
福利厚生を充実させることができる
昨今は公的年金だけで十分な老後資金を確保できるとは限らず、将来に不安を感じる人も少なくありません。こうした中で確定給付企業年金を導入すれば、従業員の不安を和らげ、安心して働ける環境を整えることが可能です。
また、一般的に勤続年数に応じて受給額が増えるため、長く働きたいという意欲の向上にもつながります。このような満足度や安心感の向上は、離職を防止するだけでなく、採用活動においても大きなアピールポイントになります。特に中小企業が導入していれば、他社との差別化を図れる可能性があるでしょう。
福利厚生について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
拠出した掛金は損金扱いになり節税につながる
確定給付企業年金制度の大きなメリットは、企業が拠出する掛金を全額「損金」として算入でき、税負担を抑えられる点です。損金として扱われることで法人税の課税対象が減り、結果として節税効果が期待できます。
一方、退職一時金のように資金を社内に積み立てて支払う場合は、基本的に課税対象となります。そのため、同じように退職金を準備する場合でも、企業年金を活用した方が、税制面で有利です。
このように、確定給付企業年金は、福利厚生を充実させつつ節税まで実現できるため、コストパフォーマンスの高い制度といえるでしょう。
確定給付企業年金制度のデメリット
確定給付企業年金制度は多くのメリットがある一方で、企業にとっては負担となる点もあります。導入を検討するときは、コストや運用面でのリスクについても正しく理解しておくことが重要です。主なデメリットとして、以下の点があげられます。
- 運営コストが高い
- 資産運用の責任を負わなければならない
運営コストが高い
確定給付企業年金制度は、多くの掛金を継続的に拠出する必要があるため、運営コストが高くなりやすい点がデメリットです。また、企業年金の維持には、制度管理や外部機関への委託費用なども発生するため、長期的にみてもコストがかさむ傾向があります。
事業運営と並行してこれらの資金負担を続けることは、企業にとって大きな経済的負担となります。年金を優先して経営が破綻するのは本末転倒ですので、金銭的な余裕がない場合は導入を慎重に検討すべきでしょう。
資産運用の責任を負わなければならない
確定給付企業年金制度では、年金資産の運用を企業が行うため、そのリスクも企業が負うことになります。
市場環境の変動などで運用成績が悪化した場合でも、あらかじめ約束した給付額は支払わなければなりません。そのため、積立金が不足したときは、企業が追加で掛金を拠出してカバーする必要があります。
さらに、安定した資産運用を行うためには、金融知識や専門的な管理体制も求められます。企業にとっては責任や負担が大きい制度といえるでしょう。
確定給付企業年金制度における事業主の義務
事業主は、年金規約等において年金の支給を約束し、その支給義務を果たすことが求められます。
また、確定給付企業年金法では、加入者の受給権を保護するため、事業主に対して以下の3つを定めています。
- 積立義務
- 受託者責任
- 情報開示義務
積立義務
事業主は、将来にわたって約束した給付が支給できるよう、年金資産の積立基準を設定する必要があります。また、毎事業年度の末日において、給付に充てるべき積立金を積み立てなければなりません(確定給付企業年金法59条)。
また事業主は、年金財政の長期的な安定を図るため、少なくとも5年に1度、運用利回り等の計算基礎率を見直したうえで、掛金を再計算することが義務付けられています(財政再計算)。
さらに、年度末の決算において、「年金資産が計画通り積み立てられているか」「積立不足額が一定以内に収まっているか」「仮に制度を終了した場合、加入者に適切な給付ができるだけの資産が積み立てられているか」といった点を検証することも必要です(財政検証)。
積立不足・積立剰余について
確定給付企業年金制度では、年金資産の積立状況に応じて、企業に一定の対応が求められます。
積立不足と剰余が発生した場合に取るべき対応は、以下のとおりです。
- 積立不足が生じた場合
年金資産の積立額が一定の基準値を下回った場合は、企業は不足分を補うために追加で掛金を拠出しなければなりません。この基準値には、制度を維持するために必要な「責任準備額」と、現時点で制度を終了した場合でも加入者への給付をまかなえる「最低積立基準額」があります。これらを下回ると、従業員への給付に影響が出るおそれがあるため、企業には確実な補填が求められます。 - 積立剰余が生じた場合
一方で、積立金が将来支払う予定の退職給付額を上回ると、積立剰余が発生します。この剰余金は今後の給付に備えて積み立てられるため、基本的に企業に返還されません。また、一定以上の剰余が生じた場合には、掛金額の引き下げや、一時的な拠出停止などの対応を行う義務があります。
受託者責任
事業主には、法令や厚生労働大臣の処分・規約を遵守し、年金加入者のため忠実な業務遂行が求められます(確定給付企業年金法69条)。
また、企業年金の管理・運営に関わる者の行動基準は法令等で明確化されており、加入者に対する忠実義務責任や注意義務責任、利益相反行為の禁止等が定められています。
情報開示義務
事業主は、従業員に対し、年金規約の内容を周知しなければなりません。
また、確定給付企業年金に係る業務の概況(掛金納付状況・資産運用状況・財務状況等)について、加入者へ情報開示及び厚生労働大臣へ報告をすることも義務付けられています(確定給付企業年金法73条)。
なお、業務の概況については、加入者以外であっても、事業主が給付の支給に関する義務を負っている者に対しては、同様の措置を講ずるよう努めるものとされています。
確定給付企業年金制度の導入方法
確定給付企業年金を導入するには、厚生年金の被保険者で構成する「過半数労働組合」または「過半数代表者」の同意を得て、確定給付企業年金に関する規約を作成する必要があります(確定給付企業年金法第3条第1項柱書)。
その後、「規約型企業年金」の場合は規約の内容について、「基金型企業年金」の場合は基金の設立について、それぞれ厚生労働大臣の承認・許可を得なければなりません(同条第1号、第2号)。
なお、会社によっては、厚生年金が適用される事業所が複数あることもあります。複数の事業所で確定給付企業年金を実施するには、それぞれの事業所で上記の手続きを踏むことが必要です。
そのほか、厚生労働大臣の承認・許可を得たうえで、規約型から基金型(またはその反対)に制度を移行することも可能です(同法第80条、第81条)。
また、確定給付企業年金から企業型確定拠出年金(DC)に移行する場合、積立不足があればあらかじめ不足分を補填しておくのが基本です。
確定給付企業年金制度の終了・他制度への移行方法
以下の条件を満たせば、確定給付企業年金を終了させることができます。
【規約型企業年金】
- 厚生年金の被保険者による「過半数労働組合」または「過半数代表者」の同意を得たうえで、厚生労働大臣の承認も得たとき(確定給付企業年金法第83条第1項第1号、同法第84条第1項)
- 法人の消滅や解散などによって、規約が失効したとき(同法第83条第1項第2号)
- 厚生労働大臣の承認が取り消されたとき(命令違反があった場合、経営が悪化し制度の継続が困難な場合など)(同項第3号)
【基金型企業年金】
- 代議員の4分の3以上の多数により議決したこと、または基金の事業継続が困難になったことを理由に、厚生労働大臣から解散の許可を得たとき(同法第83条第2項第1号)
- 厚生労働大臣が基金の解散を命じたとき(規約型の承認取り消しと同様)(同項第2号)
なお、確定給付企業年金から企業型確定拠出年金(DC)に移行する際も、労働者側の同意を得ることが必要です。また、積立不足があれば移行前に補填しておくのが基本です。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
