平均賃金の計算|必要なケースや計算方法について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
平均賃金は、会社が従業員に「休業手当」や「年次有給休暇中の賃金」などを支払うときの基準となる金額であるため、正しく計算することが重要です。
ただし、平均賃金の計算方法は、労働者の雇用形態や勤務状況によって異なり、最低保障額も定められているため、著しく低い金額は認められません。
本記事では、平均賃金の計算方法や注意点について、具体例を織り交ぜながら解説していきますので、ぜひご一読ください。
平均賃金とは
平均賃金とは、労働基準法で定められている年次有給休暇中の賃金、休業手当や解雇予告手当、災害補償などを算定するときの基準となる賃金のことです。
平均賃金は、労働者の生活を保護するために支払う賃金であるため、通常の生活賃金を反映させて計算することを基本とし、「労働者の直近3ヶ月間の賃金の1日あたりの平均額」となるのが通常です(労働基準法12条)。
平均賃金を用いるケース
平均賃金の計算は、以下のような場合に用いられます。
- ①解雇予告手当
- ②休業手当
- ③年次有給休暇の賃金
- ④労災補償等
- ⑤減給制裁の限度額
- ⑥転換手当
以下で、一つずつ確認していきましょう。
解雇予告手当
解雇予告手当とは、会社が30日前までの解雇予告を行わずに、労働者を解雇するときに支払う手当です。
会社が労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前までに解雇予告をしなければなりません(労基法20条1項)。ただし、30日前までの予告が間に合わなかった場合は、30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります(同法20条2項)。
例えば、3月31日に労働者を解雇する予定の場合、3月1日までに解雇予告を行えば、解雇予告手当の支払いは必要ありません。一方、3月13日に解雇予告を行った場合は、予告日数が12日不足しているため、12日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
なお、解雇事由があることが前提ではありますが、解雇を通告したと同時に、30日分の解雇予告手当を支払えば、即日解雇が可能となります。
平均賃金を計算するときは、「労働者に解雇の通告をした日」以前3ヶ月を算定期間とします。
休業手当
休業手当とは、会社の都合により労働者を休ませた場合に支給する手当のことです。
具体的には、その休業日数に応じて、1日につき平均賃金の60%以上を休業手当として労働者に支払う必要があります(労基法26条)。
なお、会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)とは、主に以下のようなケースが挙げられます。
- 使用者の故意または過失による休業
- 経営不振による休業
- 設備や機械の不備や検査等による休業
- 資材不足による休業
- 親会社の経営不振による休業
- 作業に必要な人員不足による休業・電力や燃料不足に伴う休業
ただし、台風や地震などの自然災害により、会社の建物が被害を受けたり、電車やバスが利用できなかったりする場合は、不可抗力による休業とみなされ、休業手当の支払いが必要なくなる場合があります。
平均賃金を計算するときは、「休業最初の日」以前3ヶ月を算定期間とします。
年次有給休暇の賃金
年次有給休暇とは、一定の要件を満たす労働者に対して与えられ、賃金が支払われる休暇のことをいいます。そこで、会社は有給休暇を取得した日数分の賃金を労働者に支払う必要があります。
有給休暇中の賃金の算出方法として、以下の3つが挙げられます(労基法39条9項)。
- 平均賃金を支払う
- 所定労働時間働いた場合に支払われる通常の賃金を支払う
- 健康保険の標準報酬月額を日割りにしたものを支払う
この中から、平均賃金を選択した場合は、有給休暇を取得した日数分の平均賃金を支払わなければなりません。
なお、平均賃金を計算するときは、「有給休暇を与えた日(2日以上の場合は最初の日)」以前3ヶ月を算定期間としますので、ご注意ください。
災害補償
労働災害とは、労働者が仕事や通勤が原因でケガや病気をしたり、死亡したりすることをいいます。労働者が労災による療養のため仕事を休んだ場合、会社は以下の労基法上の休業補償を支払う必要があります(労基法76条〜82条)。
休業初日から3日目まで(待機期間)
休業補償 = 平均賃金の60%以上 × 休業日数
ただし、通勤災害の場合は休業補償責任を負わないため、支払う必要はありません。
なお、休業4日目以降については、労災保険が以下の休業補償を支払います。
・休業(補償)給付 = 給付基礎日額(平均賃金)の60% × 休業日数
・休業特別支給金 = 給付基礎日額(平均賃金)の20% × 休業日数
なお、平均賃金を計算するときは、「事故が発生した日又は診断によって病気の発生が確定した日」以前3ヶ月を算定期間とします。
減給制裁の限度額
労働者が、素行不良など職場の規律に違反したり、重大な過失により会社に損害を与えたりした場合の制裁として、減給という形で懲戒処分をすることがあります。
会社が労働者に対して減給処分をする場合、以下の限度額が法律上定められています(労基法91条)。
・減給処分1回の金額は、平均賃金の1日分の50%を超えてはならない。
・1ヶ月の減給総額は、月給の10%までとする。
例えば、月給が30万円であれば、平均賃金の1日分が1万円となるため、半額の5000円が1回の減給の限度額になります。
ただし、減給の総額は月給の10%を超えてはならないため、複数回問題行動を起こした従業員であっても、1ヶ月あたり、30万円 × 0.1 = 3万円が減給の上限額になります。
なお、平均賃金を計算するときは、「制裁の意思表示が相手方に到達した日」以前3ヶ月を算定期間とします。
転換手当
じん肺管理区分に基づき、地方労働局長から勧奨又は指示を受け、粉じん作業から他の業務へ労働者の業務内容を変更した場合は、会社は平均賃金をもとにした転換手当(平均賃金の30日分または60日分)を支払わなければなりません(じん肺法22条)。
平均賃金の計算方法
それでは、具体的な平均賃金の計算方法について、見ていきましょう。
①月給制の場合
平均賃金は、以下の計算式で算定するのが基本です。
算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数
「3ヶ月間」については、算定事由の発生した日の前日から起算するのが通常です。
ただし、毎月賃金の締め日がある場合は、直前の賃金締め日を起算日として算定します(労基法12条2項)。よって、例えば、入社後3ヶ月未満であっても、直前の賃金締め日から起算します。
また、基本給・手当・残業代など賃金ごとに締め日が異なるケースでは、それぞれの締め日から3ヶ月前まで遡ることになります。例えば、賃金締め日が4/10で、算定事由発生日が5/1の場合は、4/10から遡った3ヶ月間の賃金総額が使われます。
さらに、「暦日数」とは、労働日数ではなく、カレンダーの総日数を意味します。
なお、平均賃金に端数が出た場合は、銭未満(小数第3位以下)を切り捨てます。
ただし、実際に前述の有給休暇中の賃金や解雇予告手当、災害補償などを支払う場合は、1円未満(少数第1位以下)を四捨五入して計算します。それぞれ算出方法が異なるためご注意ください。
②日給または時給の場合
パート・アルバイト等のように日給または時給の場合も、基本的には月給と同じように計算します。
ただし、労働日数が少ない場合、月給制と同じ計算方法を使うと、平均賃金が少なくなってしまう可能性があるため、日給や時給等の場合は、平均賃金の最低保障額(労働日1日あたりの賃金の60%)が定められています。
具体的には、以下の①原則の平均賃金と、②最低保障額を比べて、高い金額の方を平均賃金とします。
①原則の平均賃金 = 算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数
②最低保障額 = 算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月のうち働いた日数 × 60%
なお、月給と日給等が併給されているときは、以下の①原則の平均賃金と、②最低保障額を比べて、高い方を平均賃金とします。
①原則の平均賃金 = 算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数
②最低保障額 =(算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた月給等の総額 ÷ 3ヶ月の暦日数)+(算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた日給、時給等の総額 ÷ 3ヶ月のうち働いた日数 × 60%)
③日雇労働者の場合
日雇労働者の場合、稼働にむらがあり、日によって勤務先が変わることもあるため、賃金が変動しやすいです。
そのため、一般労働者とは区別して算定する必要があります。
具体的には、厚生労働大臣が定める以下の金額が平均賃金となります(労基法12条7項)。
平均賃金 =(1ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 1ヶ月間の総労働日数)× 73%
平均賃金を計算する上でのポイント
平均賃金を計算する上で注意すべきポイントについて、次項から解説していきます。
算定期間から除外される期間
算定期間に以下の期間が含まれる場合は、その日数とその期間中の賃金は、平均賃金の算定期間と賃金の総額から控除されます(労基法12条3項)。
これは、上記期間は賃金が発生しなかったり、通常よりも賃金額が低かったりすることがあるためです。
上記期間の賃金も含めて計算すると、平均賃金が著しく低くなるおそれがあるため、労働者の生活を保障するため、控除期間が設けられています。
なお、上記の5つに加えて、「正当な争議行為による休業期間」も同じく控除されます(昭 29.3.31 28 基収 4240 号)。
賃金の総額に含まれる手当等
「賃金の総額」とは、平均賃金の算定期間中に支払われる賃金、各種手当、賞与、その他労働の対償として使用者が労働者に対して支払うすべてのものをいいます(労基法11条)。
具体的には、以下のようなものが含まれます。
- 基本給、歩合給
- 3ヶ月ごとに支払われる賞与
- 時間外手当
- 通勤手当、住宅手当、家族手当、扶養手当、精皆勤手当
- 通勤定期券など労働協約の定めに基づき支払われる現物給与
- 年次有給休暇中の賃金
- 休業手当
- 昼食代補助
- 事業主が労働者に代わって負担する所得税や社会保険料など
また、未払い賃金がある場合、すでに支払いが確定しているならば、未払い分も含めて計算します。
なお、賃金の総額とは、税金や社会保険料などの控除をする前の総支給額であり、差し引き支給額ではないことに留意する必要があります。
会社が支給する諸手当については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
賃金の総額から除外される手当等
以下の3つは、“賃金の総額”から除外されます。
- (1)臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金など)
- (2)3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(半期ごとの賞与など。賞与であっても、3ヶ月ごとに支払われる場合は除く)
- (3)労働協約で定められていない現物給与
平均賃金の計算例 (休業手当のケース)
平均賃金の計算例として、以下の具体例を用いて、休業手当を計算してみましょう。
過去3ヶ月 | 暦日数 | 賃金額 |
---|---|---|
1月分給与 | 31日 | 26万円 |
2月分給与 | 28日 | 24万円 |
3月分給与 | 31日 | 26万円 |
合計 | 90日 | 76万円 |
【平均賃金】
・計算方法:算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数
・76万円(賃金総額)÷ 90日(暦日数)= 8444.444
・銭未満は切り捨てるので、8444円44銭が平均賃金となります。
【休業手当】
・計算方法:平均賃金の60%を支給する。
・会社都合で1日休業した場合、8444円44銭(平均賃金) × 0.6 × 1日(休業日数)= 5066.664円
・円未満を四捨五入して計算するので、5067円が休業手当となります。
平均賃金の最低保障額
賃金が日給、時間給、出来高払制等の場合、労働日数が少ないと平均賃金が低額になる可能性があります。また、病気やケガで欠勤した場合も、給与が減り平均賃金が低くなるでしょう。
これらの事情を考慮し、平均賃金には以下の最低保障額が定められています。
最低保障額:(算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月間の実労働日数)× 60%
最低保障額が通常の平均賃金を上回る場合は、最低保障額が平均賃金となります。
以下のケースを使って、実際に比較してみましょう。
過去3ヶ月 | 暦日数 | 実労働日数 | 賃金額 |
---|---|---|---|
1月分給与 | 31日 | 15日 | 16万円 |
2月分給与 | 28日 | 13日 | 14万円 |
3月分給与 | 31日 | 15日 | 16万円 |
合計 | 90日 | 43日 | 46万円 |
①原則の平均賃金
・計算方法:算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数
・46万円(賃金総額)÷ 90日(暦日数)= 5111.111円
・銭未満は切り捨てるので、5111円11銭が原則の平均賃金となります。
②最低保障額
・計算方法:(算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額 ÷ 3ヶ月間の実労働日数)× 60%
・46万円(賃金総額)÷ 43日(実労働日数)× 0.6 = 6418.604円
・銭未満は切り捨てるので、6418円60銭が最低保障額となります。
① < ②なので、平均賃金は最低保障額が適用され、6418円60銭となります。
なお、出来高払制の詳細については、以下のページをご覧ください。
平均賃金計算における例外規定
通常の方法で平均賃金を算定ができない場合、例外規定が適用されます。 例外規定が適用されるケースを具体的にみてみましょう。
雇入れから3ヶ月に満たない場合
雇入れから間もないと、労働期間が3ヶ月に満たないこともあるかと思います。
そのようなケースでは、平均賃金の算定期間は、雇入後の期間を用いることになります(労基法12条6項)。
また、雇入れから3ヶ月未満の場合であっても、賃金締切日があれば賃金締切日から起算します。
さらに、雇入れから2週間に満たない労働者の場合、すべての日数を稼働していれば、その労働者に支払った賃金の総額に6/7を乗じた金額を平均賃金とします(昭和45年5月14日基発第375号)
試用期間中の場合
試用期間については、平均賃金の算定期間から除外するのが基本です。
ただし、試用期間中に“平均賃金を算定すべき事由”が発生した場合は例外です。この場合、試用期間を除外すると、算定期間がゼロになってしまうからです。
そこで、試用期間の日数及び賃金を、通常の平均賃金の計算式にあてはめて計算することとされています(労基法施行規則3条)。
一昼夜交替勤務者の場合
一昼夜交代勤務者の労働時間が2暦日にわたるような場合、暦日単位で取り扱うのが基本です。
ただし、1勤務が2日の労働とみなされる場合は、2日間の労働として計算します。
なお、2暦日目に平均賃金算定事由が生じた場合、2日間のうち1日目に算定事由が発生したものとして扱われます。また、総日数も“1日”とカウントされることになります。
労働時間についての詳細は、下記のページをご覧ください。
平均賃金が争点となった裁判例
平均賃金について労使間でトラブルになった裁判例を2つご紹介します。
【最高裁 平成18年3月28日第3小法廷判決】
(事件の概要)
保育所(被告)で働いていた保母(原告)が清掃業務に配置転換された後、勤務態度不良を理由に解雇されました。そのため、原告が配置転換・解雇は無効であるとして、配転・解雇期間中の賃金の支払いを求めて訴えた事案です。配転と解雇の効力、解雇期間中に原告が得た「中間利益」の控除の可否と程度が争われました。
(裁判所の判断)
裁判所は、配転・解雇ともに権利の濫用により無効とし、以下のことを判示しました。
- 被告は配転・解雇期間中に保育業務に従事していたならば得られたであろう賃金を支払う。
- 原告は、解雇期間中に他社で働いて得た中間利益を平均賃金の4割を上限額として償還する。
- 中間利益が平均賃金の4割を超える場合は、さらに賞与など平均賃金の算定基礎に含まれない賃金についても控除できる。
※解雇無効と判断された場合、使用者は解雇期間中の賃金を支払う必要がありますが、解雇期間中に従業員が他社で得た中間利益を控除することが可能です(民法536条2項)。
ただし、解雇期間は会社都合による休業とみなされるため、休業手当規定に基づき、平均賃金の6割については控除が禁止されています。
【東京地方裁判所 昭和60年12月26日判決】
(事件の概要)
A会社で業務中にケガをした原告が、労災補償における平均賃金の算定方法について訴えた事案です。
原告はA会社の他にB会社でも勤務していましたが、労働基準監督署(被告)は、A会社から支払われた賃金のみによって平均賃金を算定していました。そこで原告は、B会社から支払われた賃金も含めて平均賃金を算定するよう求めました。
(裁判所の判断)
裁判所は、労災補償における平均賃金は、労災が発生した事業場の賃金に基づいて算出すれば足りるとし、B会社は無関係であると判断しました。
その結果、原告に対する労災補償は、A会社からの賃金を基礎として算出した平均賃金を使えば良いとして、原告の訴えを棄却しました。
※2020年9月の法改正により、複数の会社に勤務する労働者については、各就業先で支払われた賃金の合計額が算定額の基礎として用いられることとなりました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある