有期労働契約を途中解除する際の注意点
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
有期労働契約を締結した従業員については、基本的に会社は契約期間が満了するまで雇用しなければなりません。
しかし、やむを得ない事情があり、契約期間の途中で従業員との契約を解除しなければならないケースもあるでしょう。そのような場合は、途中解除が有効であるかを慎重に検討しなければ、無効とされて損害賠償金を支払うことになるリスクがあります。
このページでは、有期労働契約の途中解除について、概要を解説します。
目次
有期労働契約の途中解除
民法
(やむを得ない事由による雇用の解除)第628条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働契約法
(契約期間中の解雇等)第17条
1 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
有期労働契約とは、会社と労働者が期間を定めて労働契約を結ぶことをいい、その契約期間は基本的に最大でも3年までと定められています(労基法14条1項)。
ただし、例外があり、「専門的知識等」を有する労働者や「満60歳以上の労働者」との労働契約については契約期間の上限が5年とされ、また「一定の事業の完了に必要な期間を定める有期労働契約(有期の建設工事等)」については当該期間が上限とされています。
有期労働契約については、あらかじめ当事者で合意して期間を定めたものであるため、会社側からも、労働者側からも、基本的に契約期間の途中で解除(解雇・退職)することはできません。
ただし、「やむを得ない事由」がある場合は、契約期間中の解除が認められています(民法628条、労働契約法17条)。
なお、契約日から1年を経過した労働者(専門的知識等を有する者など3年の上限が適用されない者は除く)については、労働者側からは自由に退職することが可能です(労基法附則137条)。
「やむを得ない事由」とは
有期労働契約については、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、契約期間の途中に、会社が労働者を解雇することはできません。
この「やむを得ない事由」とは、正社員など無期契約労働者の解雇において必要となる「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる理由」(同法16条)よりも厳しく判断されます。つまり、期間満了を待たずに今すぐ契約を終了させざるを得ない重大な事由であることが必要です。
「やむを得ない事由」の例として、以下が挙げられます。
- 天災等により事業の継続が困難になった場合
- 労働者が就労できなくなった場合
- 懲戒解雇になってもおかしくないような重大な規律違反や非行があった場合
- 雇用の継続を困難とするような経営難
例えば、数回無断欠勤する程度であれば、「やむを得ない事由」には当たらない可能性が高いため、期間途中の解雇はできず、解雇した場合は無効となる可能性があります。
有期雇用契約の途中解除の特約
有期労働契約の場合、「やむを得ない事由」がなければ、契約期間途中の解除ができません。
ただし、労働者と個別に結ぶ雇用契約書などに、中途解約についての特約を設けていて、その特約が正当な理由と認められる場合は、契約途中の解除も可能であると考えられます。
なぜなら、民法628条の「やむを得ない事由がなければ途中解約できない」という規定の趣旨は、労働者と会社が過度に契約期間に拘束されるのを防ぐことにあると解釈できるからです。
なお、中途解約の特約の有効性については、特約の内容が解雇権の濫用に当たらず、限定的でかつ明確な要件を定めている限りでは、有効なものであると考えられます。
一方、例えば、「いつでも、どんな事情であっても、30日前に予告すれば解約できる」といった特約を設けた場合は、そもそも契約期間を定めた意味がなくなるため、無効と判断される可能性が高いといえます。
途中解除する際の解雇予告義務
やむを得ない事由により有期労働契約を途中で解除する場合には、有期労働者に解雇の予告をしなければなりません。労働契約の締結に際し退職に関する事項を書面で明示するほか、解雇する場合、少なくとも30日前にその予告をするか、日数分の解雇予告手当を与える必要があります。
ただし、次の場合を除きます。
- やむを得ない事由による経営破綻等を理由とする解雇の場合
- 懲戒処分を理由とする解雇の場合
- 日雇いの労働者の場合
- 2ヶ月以内の有期契約労働者の場合
- 試用期間である労働者等の場合
有期労働契約締結時の明示事項については以下のページで解説していますので、ご参照ください。
解雇予告手当について
解雇予告手当とは、正当な理由があって従業員を解雇する場合に、解雇することを伝えてから解雇するまでの期間が30日に足りないときには、足りない日数分の平均賃金を支払うものです。
平均賃金とは、通常、事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に支払われた賃金のトータル額を、その期間の総日数(休日も含めた日数)で除した金額です。 つまり、解雇の当日に解雇すると伝えたケースでは、解雇予告手当として「平均賃金額×30」を支払うことになります。
解雇予告・手当に関しては以下のページで解説しています。こちらもご参照ください。
途中解除が不当解雇とみなされた場合のリスク
会社が契約期間の途中に、契約社員などの有期契約労働者を一方的に解雇することは、「やむを得ない事由」がある場合でなければ認められず、正社員を解雇する場合よりも厳しい制限が課されています。
そのため、安易に解雇を行うと、不当解雇として労働者から訴えられ、裁判などで解雇が無効と判断されるおそれがあります。解雇が無効となると、解雇はそもそもなかったことなるため、バックペイ(解雇した日から解雇が無効だと判断される日までの賃金)や慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。
また、一人の労働者が不当解雇で訴えを起こすと、他の労働者にも波及し、一斉に多額の支払いが必要となる、訴えられたという事実が広まり、ブラック企業と認知されるといったリスクもあります。
そのため、契約期間途中に解雇しようとする場合には、法的に有効な解雇を行えるのか、あるいは契約期間の満了まで待って、雇止めをすべきなのかを慎重に検討すべきでしょう。
有期労働契約期間途中の解雇に関する裁判例
有期雇用契約の労働者を契約期間中に解雇する場合において、「整理解雇の4要件」と、途中解雇するための「やむを得ない事由」の両方が存在しなければ、解雇は無効となります。
これに関連する、次のような裁判例があります。
【福岡高等裁判所 平成14年9月18日決定、安川電機八幡工場(パート解雇)事件】
事件の概要
当該事例は、原告らが期間3ヶ月の労働契約でパートタイム従業員として雇用されてから10年以上も同様の契約が更新されていたところ、会社が原告らを契約期間中に解雇する意思表示をした事例です。
裁判所の判断
裁判所は、この事例について、解雇の有効性については「整理解雇の4要件」のうち、人員削減の必要性・解雇回避努力・手続の妥当性を認め、原告の1名については非解雇者選択の妥当性も認めました。
しかし、契約の途中解除については、人員削減の必要は認めたものの、原告らの解雇は3ヶ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認めず、無効であると判断しました。
労働者からの解約があった場合
有期契約労働者からの中途解約も、自分勝手な理由では認められません。
この場合も、契約期間中に直ちに解約せざるを得ない「やむを得ない事由」が必要となります。
労働者側のやむを得ない事由の具体例として、以下が挙げられます。
- 会社が労働者の生命や身体に危険を及ぼす労働や法律違反の業務を命じたこと
- 給与の不払いなど重大な契約違反があったこと
- 労働者自身が病気やケガで就労できなくなったこと
- 労働条件が当初の契約と違ったこと
- 家族の介護や配偶者の転勤など
なお、やむを得ない事由がないにもかかわらず、労働者が中途解約する場合や、やむを得ない事由があるとしても、労働者の過失が原因である場合は、会社は労働者に対し損害賠償請求できる場合があります(民法628条)。
契約期間終了後に雇止めを行う場合
雇止めとは、有期労働契約において、契約を更新せずに契約を終了させることをいいます。
有期労働契約の契約期間中の解雇は、実務上ほとんど認められないのが現状です。
そのため、契約期間が終了するのを待って、契約を更新しないようにする方が、会社側が受けるリスクが低いと考えられます。この場合、労働契約の終了は解雇によるものではなく雇止めによるものになります。
ただし、雇止めについても、必ず有効になるわけではありません。
例えば、何度も契約更新が繰り返されて雇用期間が長期に及ぶ場合や、契約の更新が行われると期待させるような言動をした場合など、実質的に期間の定めのない無期労働契約と変わらない事情があるならば、雇止めは無効となる可能性があります。
なお、有期労働の雇止めが無効になる要件等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある