機密事務取扱者
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
経営者と近い立場で働く労働者は、機密事務取扱者にあたる可能性があります。機密事務取扱者は、一般労働者と異なる労務管理がなされるため、しっかり区別しておくことがポイントです。
ただし、特定の役職が機密事務取扱者にあたるわけではなく、様々な判断基準を踏まえて個別的に検討する必要があります。誤った判断をすると、労働トラブルに発展したりする可能性があるため、きちんと理解しておくことが重要です。
本記事では、機密事務取扱者の判断基準や労務管理について解説していきます。無用なトラブルを避けるためにも、ぜひご確認ください。
目次
機密事務取扱者の定義
機密事務取扱者とは、秘書その他職務が経営者又は監督若しくは管理の地位に在る者の活動と一体不可分であつて、出社退社等についての厳格な制限を受けない者をいいます(昭和22.9.13発基17号)。代表例として、秘書が定められています。
また、機密事務取扱者は、職務の都合上、労働基準法における労働時間等の規制が適用されません。そのため、時間外労働の上限や残業代の支給、休日等について一般労働者と異なる取扱いがなされます。
ただし、機密事務取扱者にあたるかは、肩書ではなく実際の職務内容等を踏まえて判断する必要があります。そのため、秘書に就くすべての労働者が機密事務取扱者となるわけではありません。
では、機密事務取扱者の判断基準を具体的にみていきましょう。
機密事務取扱者の判断基準
機密事務取扱者にあたるかは、機密の事務を取り扱っているか、経営者等と不可分といえるほどに密接な関係にあるか等を踏まえて実質的に判断する必要があります。
また、機密事務取扱者には秘書も含まれますが、経営者との関わりの程度や業務内容によっては該当しない可能性があります(詳しくは後ほどご説明します)。
機密事務取扱者の労働時間等
機密事務取扱者は、労働基準法における労働時間・休憩・休日の規定が適用されません(同法41条2号)。
これは、経営者と密接な立場にあり、突発的な業務も担うことから、労働時間の厳格な管理にそぐわないと考えられるためです。
したがって、機密事務取扱者には“時間外労働”や“休日”という概念がなく、残業代や休日出勤手当も支給する必要がありません。
ただし、深夜労働(労基法37条4項)や有給休暇(同法39条)の規定は適用されるため、一定の労務管理は必要です。
例えば、勤続年数等に応じた法定有給休暇を付与するとともに、年5日以上の有給休暇取得が義務付けられています。また、深夜労働に対しても、一般労働者と同様の割増賃金を支払う必要があります。
なお、労働基準法が一部適用されない労働者には、管理監督者や監視・断続的労働従事者も含まれます。それぞれの詳細は以下のページをご覧ください。
深夜労働の割増賃金
22時~5時の間に勤務した場合、深夜労働として25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、時給1000円の機密事務取扱者を参考とします。この場合、22時までであれば残業代が発生しませんが、22時以降に勤務した場合は、1000円×1.25=1250円の深夜労働手当を支払う必要があります。
なお、一般労働者の場合、時間外労働や休日労働と深夜労働が重複するケースもあります。この場合、それぞれの割増率を合計して算定する必要があります。
例えば、時給1000円の場合、深夜残業については1.5倍以上(時間外労働+深夜労働)、法定休日の深夜労働については1.6倍以上(休日労働+深夜労働)の割増賃金を支給しなければなりません。
労働基準法違反の罰則
機密事務取扱者でも、労働基準法に違反した場合は罰則の対象となります。
まず、深夜残業の割増賃金を支払わなかった場合や、法定有給休暇を付与しなかった場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労基法119条)。
また、有給休暇を年5日以上取得させなかった場合、違反者1人につき30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。例えば、取得が5日未満の労働者が10人いた場合、300万円の罰金となります(同法120条)。
ただし、罰則を負うのは経営者のみであり、個々の労働者は責任を負いません。
機密事務取扱者における秘書の取扱い
秘書も機密事務取扱者に定義されますが、必ず該当するわけではありません。
機密事務取扱者にあたるかは実態に即して判断されるため、秘書の業務や立場によっては機密事務取扱者とならないこともあります。
例えば、電話やスケジュール管理、お茶出し、コピー等の雑務のみ行っている場合、経営者と同等の立場にあるとはいえないため、機密事務取扱者にあたらない可能性が高いです。
したがって、労働基準法の規定も適用され、残業代や休憩、休日について、一般労働者と同様に取り扱う必要があります。
機密事務取扱者の手当等
機密事務取扱者の手当は、業務内容等を踏まえて具体的な金額を定めましょう。また、任意で残業代を支給している場合も、手当と残業代は切り離して考える必要があります。
また、賞与の算定について、「基本給の〇ヶ月分」と定めている企業もあるでしょう。この場合、手当を基本給に算入するかが問題となりますが、これについて法的な定めはありません。そのため、企業内部で決定し、就業規則に明記しておく必要があります。
また、すでに基本給に算入されている手当を除外する場合、労働条件の不利益変更にあたるため、個々の労働者から同意を得る必要があります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある