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不当労働行為の支配介入について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

憲法上、労働者には、団結権、団体交渉権、団体行動権といった労働基本権が保証されており、使用者がその権利を侵害することは許されません。他方で、使用者にも、言論の自由や施設管理権等の権利が認められています。

本ページでは、使用者が注意すべき【不当労働行為】の中でも「支配介入」に着目して、どのようなケースが労働者の権利を侵害することになるのか、また、どのようなケースで使用者が有する権利が尊重され得るのかについて解説します。

不当労働行為の支配介入とは

不当労働行為とは、使用者による、労働組合活動に対する妨害行為や不当な干渉行為のことをいいます。
不当労働行為にはいくつか類型がありますが、労働組合法では次のように定義しています。

不当労働行為がこのように法律で禁止されているのは、使用者の干渉により、労働組合が使用者と対等な交渉主体であるために必要な自主独立性、団結力、組織力を損なうおそれがあるためです。

経費援助や黄犬契約等、支配介入以外の不当労働行為について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

不当労働行為について

支配介入の意思

支配介入の不当労働行為の成立には、組合の弱体化や反組合的な行為に対する積極的な意図の有無がなくとも、客観的にみてその行為が組合の弱体化や反組合的な結果を生じ得るという認識があれば足りるとされています。

つまり、“支配介入の不当労働行為をなそうとする意思”ではなく、“使用者がした具体的行為に対する意思”があったかどうかがカギとなります。

支配介入の不当労働行為に該当する事例

不当労働行為である支配介入の例として、以下のようなものが挙げられます。

労働組合の結成を妨害する行為

使用者が労働組合の結成を妨害する行為は、支配介入として禁止されています。
例えば、以下のような行為が妨害に該当すると考えられます。

  • 労働組合の結成に対する非難
  • 組合脱退や不加入の勧告
  • 結成大会参加の妨げ
  • 労働組合結成の中心人物に対する威嚇あるいは懐柔
  • 労働組合結成の中心人物に対する配転や解雇等の処遇

労働組合の運営を妨害する行為

使用者が労働組合の運営を妨害する行為は、支配介入として禁止されています。
例えば、以下のような行為が妨害に該当すると考えられます。

  • 組合員の配転や解雇等の処遇
  • 正当な組合活動や争議行為の妨害
  • 組合幹部の買収や供応
  • 組合分裂のための援助
  • 別組合結成のための援助
  • 役員選挙への介入

組合活動を理由とした不利益取扱い

使用者が、労働者による組合活動を理由として不利益に取り扱う行為は、支配介入として禁止されています。
例えば、組合活動を理由とする以下のような行為は、妨害に該当すると考えられます。

  • 組合員の配転や解雇等の処遇
  • 給与等の差別的な取り扱い
  • 事実上は組合活動を理由とした懲戒処分

使用者の「言論の自由」「施設管理権」と支配介入

使用者には言論の自由や施設管理権があるので、あらゆる言動が支配介入になってしまうわけではありません。
使用者の権利と支配介入の関係について、次項より解説します。

使用者の言論の自由と支配介入の関係

使用者にも「言論の自由」が保証されていますので(憲法第21条第1項)、使用者が組合に対して何らかの言動をしたとしても、それが「言論」の域に留まる限りは、違法とはなりません。

しかし、ストライキへの参加等を理由に組合員に対して不利益取扱いをほのめかすような威嚇的な言動があれば、「言論」の域を逸脱するとして「支配介入」と認定される危険性が高いと考えられます。

組合に対する使用者の言論が果たして不当労働行為に該当するかどうかについては、言論の内容、発表の手段・方法、発表の時期、発表者の地位・身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織・運営に影響を及ぼすか否かで判断されます。

使用者の施設管理権の行使と支配介入の関係

使用者には会社所有の施設を管理する権利(=施設管理権)があるため、施設利用の申出の拒否は可能であり、組合活動の場に会社施設を提供する義務はないといえるでしょう。

したがって、労働組合は原則的に使用者の同意なく会社施設を利用することはできません。使用者の同意なく組合活動のために会社施設を利用した場合、その組合活動は正当なものと評価されません。

しかし、組合の弱体化の意図をもって会社施設の利用を拒否する等、施設管理権の濫用に当たるような “特段の事情”が認められれば、「支配介入」の不当労働行為とみなされるケースがあります。

不当労働行為の支配介入に関する判例

支配介入に当たらないとされた判例

【最高裁 昭和58年12月20日第3小法廷判決、全逓新宿郵便局事件】

事件の概要
次の言動が支配介入の不当労働行為に当たるかどうかが争われた事案です。

①郵便局長が、特定の組合を指して「闘争主義者」と呼称したり、「極力組合にはいかないように、組合の行動にはまき込まれないように」等と発言したこと
②局内施設の利用について無許可で開かれた職場集会に対し、局次長らが解散命令等を行ったこと等

裁判所の判断
裁判所は、郵便局長による➀の発言について、その妥当性が疑われることは否定できないが、いずれも当該事案の事実関係に照らせば、①の発言のみをもって支配介入に当たるとまではいえないと判示しています(ただし、事例判断であり、上記で引用したような発言があってもいかなる場合でも不当労働行為にはならないとしているものではないことに留意が必要です。)。

また、労働組合が、使用者の許可を得ずに使用者の管理する施設を利用して行った組合活動は、特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動に当たらず、使用者においてその中止等の指示、命令を発することができるので、②の解散命令等も不当労働行為には当たらないとしています。

支配介入に当たるとされた判例

【東京地方裁判所 昭和51年5月21日判決、プリマハム事件】

事件の概要
①社長声明文を会社の全事業所に一斉に掲示して、組合執行部の態度を批判したこと、②労働組合による臨時徴収費のチェック・オフの申入れを拒否したことが支配介入の不当労働行為に当たるかどうか争われた事案です。

裁判所の判断
裁判所は、①の社長声明文について、使用者にも言論の自由が認められるものの、「節度ある行動をとるように」との文言が組合員に対するストライキ不参加の呼びかけと捉えられ得るものであり、声明文の掲示後にストライキに反対する組合内部での動きが急に発生したこと等から、組合の内部運営に対する支配介入行為にあたると認めました。

また、②について、労働組合による臨時徴収費の徴収は組合が自主的に決めるべきことであり、会社からの干渉は許されず、チェック・オフを拒否する特段の事情は認められないので、チェック・オフの拒否は支配介入行為にあたると認めました。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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