特別休暇とは|有給休暇との違いや種類・給与の有無などを解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
特別休暇とは、企業が従業員に対して独自に付与する休暇制度です。福利厚生の一環として導入されることが多く、働きやすい職場づくりや人材確保にもつながります。どのような特別休暇を付与するかは企業の自由であり、他企業との差別化が可能なため、魅力的な休暇を設けることで求職者へのアピールにもなるでしょう。
そこで、今回は特別休暇をクローズアップし、法定休暇との違いや設けるメリット・デメリット、一般的にどのような種類があるのかなどについて解説していきます。
特別休暇とは
特別休暇とは、企業が独自にルールを定め、従業員に付与する休暇のことです。法律で定められた制度ではないので、福利厚生のひとつとして導入することになります。
なお、休暇は法律で定められた「法定休暇」と、それ以外の「法定外休暇」に分けられます。特別休暇は「法定外休暇」に該当するため、制度を導入するかどうか、取得条件、取得日数などは企業が自由に設定できます。
特別休暇は、従業員が仕事と私生活のバランスを取りながら、心身のリフレッシュやスキルアップを図るために企業が設ける制度です。従業員が気兼ねなく特別休暇を取得できるよう、取得条件等は必ず就業規則に明記し、企業内に周知しておきましょう。
法定休暇と法定外休暇の違い
法定休暇 | 法律で定められた休暇をいい、取得日数や取得対象者なども法律で定められています。また、義務に違反した場合は行政指導や罰則の対象となります。 (例)年次有給休暇、産前産後休暇、子の看護休暇、育児休暇 など |
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法定外休暇 | 法律に定めがなく、企業が任意で付与できる休暇のことです。休暇の種類や取得のルールも企業が自由に設定できます。また、導入しなくても罰則はありません。 (例)特別休暇、夏季休暇、慶弔休暇 など |
労働基準法で定められた休暇や、年次有給休暇については、以下のページで詳しく解説しています。
特別休暇と有給休暇の違い
有給休暇は、労働基準法で付与することが義務付けられている「法定休暇」のひとつです。勤続年数や所定労働日数によって付与するべき日数の下限が定められており、出勤率の要件を満たした従業員には必ず付与しなければなりません。
また、10日以上の有給休暇が付与された従業員には年間5日以上を取得させなければならない、基本的には従業員が希望する日に取得させなければならないなどの規制も設けられています。
これに対し、特別休暇は「法定外休暇」のひとつなので、法律ではなく自社の就業規則の定めに従って運用することになります。どのような種類の休暇があるのか、対象者は誰か、何日付与するのか等のルールは、就業規則にわかりやすく明記し、社内で周知しておきましょう。
なお、特別休暇を何日取得させても、有給休暇の取得義務(年間5日)を果たしたことにならない点には注意が必要です。
また、有給休暇は「計画的付与」によって取得させることも可能です。詳しくは以下のページをご覧ください。
特別休暇の主な種類
特別休暇には様々な種類があり、どれを導入するかは企業が自由に決定できます。一般的に多くの企業で導入されているのは、以下のような休暇です。
- 慶弔休暇
- 病気休暇
- 夏季休暇・冬期休暇
- リフレッシュ休暇
- ボランティア休暇
- バースデー休暇
- 公務員の特別休暇
特別休暇制度があると、従業員のモチベーションアップや生産性の向上、求職者へのアピールなど様々な効果が期待できます。福利厚生の一環として、自社に合った特別休暇を選択し、積極的に導入すると良いでしょう。
また、以下の厚生労働省のサイトでは、特別休暇の導入事例などが掲載されているため、参考にするのもおすすめです。
慶弔休暇
慶弔休暇は、従業員が結婚したり、親族に不幸があったりした際に取得できる休暇です。法律で義務づけられているものではありませんが、多くの企業、特に大企業では導入されています。
企業によっては、「結婚休暇」や「忌引休暇」といった名称で呼ばれることもあります。お祝い事やお悔やみの気持ちを表すために、有給扱いとしている企業が多いのも特徴です。
付与される日数は企業によって異なりますが、一般的には1~2日から、長いところでは3~5日程度が多いようです。具体的な日数は、結婚や忌引の内容、親族との関係性などに応じて決められるのが一般的です。
慶弔休暇について、さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
病気休暇
病気休暇とは、従業員が業務外で怪我を負ったり、病気を発症したりした場合に、治療や通院、療養ができるように付与する休暇です。
企業にとっても、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症が社内に蔓延するリスクを下げられるというメリットがあります。
また、通院が必要な従業員については、時間単位での取得を可能にするなど、柔軟に運用するのが望ましいでしょう。
病気休暇の取得可能期間は、勤続年数に応じて定めるケースが多いです。また、取得期間は“無給扱い”とする場合が多いようです。長期間の欠勤をする場合には、私傷病休職という制度を適用することもあります。
「病気休暇」と「私傷病休職」の意味合いは大きく異なります。私傷病休職について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
夏季休暇・冬季休暇
夏季休暇とは、お盆などの時期に連続して休めるよう、従業員に付与される休暇です。
また、冬期休暇(年末年始休暇)とは、大晦日や元日といった日の前後で連続して休めるように、従業員に付与される休暇です。
どちらも、日数は3~6日程度付与する企業が散見されます。
ただし、企業によっては、特別休暇ではなく「年次有給休暇の計画的付与」によって夏季休暇や冬期休暇を与えている場合があります。
また、特別休暇と有給休暇を併用している場合もあります。
リフレッシュ休暇
リフレッシュ休暇とは、勤続年数が一定に達した、または一定の年齢に達した従業員に対して、心身ともに疲労回復することを目的として付与する休暇です。同時に、長期の勤続者に対する慰労の意味も込められています。 3年や5年、10年といった勤続年数に応じて、3~7日程度付与する企業が多く、勤続年数が長いほど多くの日数を付与するのが一般的です。また、勤続の節目として付与する休暇のため、有給扱いとする場合が多いようです。
ボランティア休暇
ボランティア休暇とは、従業員がボランティア活動に参加するために付与する休暇です。
例えば、
- 社会貢献活動
- 自然・環境保護活動
- 災害復興支援活動
などへの参加が対象となります。
2011年の東日本大震災をきっかけに導入が進み、現在では一定数の企業で導入されています。
付与日数や取得期間は、数日程度とするのが一般的です。
また、従業員に休暇の取得を促すため、取得期間中は“有給”とする企業が多いようです。
バースデー休暇
バースデー休暇とは、従業員の誕生日に付与する休暇です。誕生日当日だけでなく、その前後1週間の間に1~3日の休暇を付与するといった規定を設けている企業もあります。
導入事例は比較的少ないので、導入している場合は他社との差別化を図れる可能性があります。求職者に対して、福利厚生が充実していることをアピールするためにも有効でしょう。
公務員の特別休暇
公務員の特別休暇については、人事院規則で定められています。例えば、結婚や忌引、夏季休暇、ボランティア休暇など一般的な会社員と同じ種類もありますが、それ以外にも以下のような休暇が定められています。
- 公民権行使
- 官公署出頭
- 骨髄等ドナー
- 災害等による現住所の滅失等
- 出勤困難
- 退勤途上
公務員の場合、休暇の取得可能日数や期間、賃金の取扱い(有給か無給か)などは法令の定めに従うことになります。
特別休暇のメリット・デメリット
メリット
特別休暇を導入するメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
- 従業員のワーク・ライフ・バランスを向上できる
仕事と私生活の両立を可能にし、充実した生活が送れるように後押しできます。 - 従業員の心身の健康管理に役立つ
休暇中にリフレッシュできるので、生産性が上がることが期待できます。 - 従業員のエンゲージメント向上が見込める
休暇が取得しやすくなるので、従業員の定着率を向上させることが期待できます。 - 企業自体のイメージ向上による優秀な人材の獲得につながる
休日が多く、従業員を大切にしている企業は、求職者にとって非常に魅力的です。そのため、求人募集の際に応募が集まりやすく、優秀な人材の確保なども期待できます。
デメリット
特別休暇制度の導入には、以下のようなデメリットもあると考えられます。
- 人材不足になる
従業員が少ない企業では、休暇が増えることによって人材不足になるおそれがあります。 - 他の従業員の負担が増える
一度に多くの従業員が休暇を取得すると、出勤している者の業務量が増え、大きな負担となるおそれがあります。 - 利用者が少ない
年次有給休暇の取得率も低く、休暇を申請しづらい環境の場合、特別休暇を導入してもあまり利用されない可能性があります。その場合、導入の手間とコストだけがかかってしまうでしょう。
特別休暇の給料は有給か無給か
特別休暇中、企業には給与を支払う法的な義務がありません。特別休暇に対して給与を支払うか否かは、企業がそれぞれ決めることができます。
例えば、慶弔休暇や夏季休暇などは“有給”として、ボランティア休暇や教育訓練休暇などは“無給”とするなど、特別休暇の種類によって賃金の取扱いを変えることも可能です。
無給の特別休暇を与える場合、給与の計算上は欠勤したことと同じ扱いになってしまうため、給与から特別休暇を消化した日数分の給与が控除されることになります。
また、特別休暇を有給とするのか無給とするのかについては、特別休暇を設ける旨の規定と同様に、就業規則に明記して従業員に周知しなければなりません。
特別休暇制度を導入する流れ
特別休暇の導入の流れは、主に次のようなものとなります。
- 導入目的・内容を決定する
- 就業規則で取得要件等を定める
- 従業員に周知する
- 特別休暇を取得しやすい環境を作る
①導入目的・内容を決定する
特別休暇を導入する際には、自社が抱えている課題や従業員のニーズを把握したうえで、なにを目的として、どのような内容の特別休暇を導入するかを決定するべきです。
そのために、様々な部署の従業員から聞き取りを行ってニーズを把握します。そのうえで、特別休暇を導入する「目的」と休暇の「内容」を検討することにより、労使双方にとって有益な特別休暇を設定することができます。
また、「対象者の〇%以上が利用できるよう促進する」といった数値目標を設定しておくと、より効果的な運用が可能になります。
②就業規則で取得要件等を定める
休暇に関する規定は、必ず就業規則に記載しなければならない「絶対的必要記載事項」に該当するため、特別休暇を導入する際には、その旨の規定を就業規則に追加しなければなりません。
就業規則には、休暇を取得するための要件(入社〇年目以上から取得可能、〇〇の場合に取得できる等)や取得日数、申請手続き、給与の支払いの有無といった詳細な条件についても忘れずに記載しましょう。
なお、就業規則の変更後、労働基準監督署への届出も義務づけられているため、失念しないようにしましょう。
特別休暇の取得条件や対象者の範囲は、企業が自由に設定できます。
ただし、取得要件などを複雑にすると、休暇をほとんど取得できなくなってしまいます。それなりに取得の実績が生まれるような規定にする必要があるでしょう。
対象者 | 対象者にパートやアルバイトを含めるなど自由に設定できるので、雇用形態や勤続年数、退職予定の有無等で労働者を区別することが可能です(ただし同一労働同一賃金の観点にご留意ください。)。 |
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取得日数 | 特別休暇の日数は、企業が自由に決めて付与することができます。休暇の種類にもよりますが、3~5日程度の休暇を設けるのが一般的です。 |
取得期限 | 特別休暇の取得期限は、企業が自由に定められるため、年度内に取得されなかった休暇の繰り越しを認めず消滅させることが可能です。 |
取得制限 | 就業規則に定めた理由で取得制限が可能です。例えば、「企業が多忙である場合には請求を拒否できる」と規定しておけば、実際に多忙を理由として特別休暇を付与しないことも適法とされます。 |
有給・無給 | 有給扱いとするか否かは休暇ごとに定める必要があります。また、無給扱いとする場合には、有給休暇を付与する要件を満たしたかを判断するために、出勤扱いとするか否かについても決めておく必要があります。 |
申請方法 | 就業規則に定めた申請方法(所定の申請書を用いて申請する等)によります。 |
③従業員に周知する
就業規則を変更したら、変更後の就業規則を周知する(従業員が知りうる状態に置くこと)必要があります。そこで、実際に特別休暇を利用してもらうためにも、メールや社内報、社内掲示板、社内SNSなどのツールを活用して、従業員に特別休暇を新設したことを周知することをおすすめします。
また、実際に特別休暇を取得した従業員の感想を企業内に伝えることも、特別休暇の取得の促進に繋がります。そこで、特別休暇取得者にアンケートを実施すると良いでしょう。
④特別休暇を取得しやすい環境を作る
従業員に特別休暇を取得させることは、企業にとって様々なメリットがあります。
そこで、従業員が休暇を取得しやすい環境を整えるために、以下のような取り組みが必要です。
- 引継ぎを実施したり業務マニュアルを作成したりするなど、フォローしやすい体制を確立する
- 経営者や管理職の従業員が積極的に特別休暇の取得を促す
- 企業全体に特別休暇の取得についての理解を深めさせる
特別休暇の導入・運用における注意点
特別休暇を導入して運用する際は、以下の点に注意が必要です。
特別休暇の出勤扱い
特別休暇を取得した日を出勤扱いにするか、または欠勤扱いにするかは、基本的に企業が決めることができます。ただし、出勤率の算定に影響するため慎重に判断しましょう。
出勤率は、年次有給休暇の付与だけでなく、退職金の算出や賞与の評価などに用いられるのが一般的です。そのため、出勤扱いにならない(欠勤扱いとする)場合は、特別休暇を取得する従業員に明確に伝えておくことが望ましいでしょう。
年次有給休暇を付与するときの出勤率の算定方法について知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
人事査定への反映
特別休暇を取得したことを、人事査定にどう反映させるかは、基本的に企業が自由に決めることになります。
ただし、特別休暇を取得すると査定が悪くなるのであれば、休暇を取得する従業員はほとんどいなくなると考えられます。そのため、福利厚生が充実していることをアピールしたい場合には、査定などへの反映は行わない方が望ましいでしょう。
特別休暇を廃止する場合の不利益変更
特別休暇は就業規則に規定されているため、廃止するには就業規則を変更する必要があります。
このような就業規則の不利益変更のためには、次のような事情を総合的に考慮して、この変更が合理的だと認められなければなりません。
- 労働者が受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 労使間の交渉の経緯
- 不利益変更に対する代償措置の有無
(例:段階的に休暇を減らす、休暇を減らす代わりに給与を増額する等)
なお、たとえ特別休暇の廃止が合理的なものであっても、従業員からの反発も起こり得ます。
なぜ特別休暇を廃止するのか、廃止にあたってどのような代償措置を設けるのかを十分に説明し、従業員からの反発をできる限り抑える努力も求められます。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある