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派遣労働とは

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

派遣労働者とは、派遣元会社との雇用関係のもと、派遣先会社から指揮命令を受け、派遣先会社のための労働に従事する労働者のことをいいます。派遣社員ともいわれています。

「派遣」という言葉も働き方もすっかり世の中に浸透、定着しましたが、ここではあらためて、その仕組みや対象となる業務、派遣労働について定めた法律の移り変わりなどについて、詳しく解説していきます。

派遣労働とは

派遣の仕組み

派遣労働とは、派遣元会社が自社で雇用する社員を、派遣先会社の指揮命令を受けて、派遣先会社のために働かせることをいいます。労働者派遣法で定められた合法的な制度です。
一般的な雇用契約は、使用者と労働者の二者間で結ばれるものです。しかし派遣労働の場合は、派遣社員、派遣元会社、派遣先会社の三者間で契約が結ばれます。

まず、社員Aは派遣元会社B社と労働契約を結びます。派遣元会社B社と派遣先会社C社は、労働者派遣契約を結びます。B社はC社に社員Aを派遣し、社員AはC社で働きます。つまり、労働契約のうち、指揮命令権を第三者(派遣先会社)に委譲するのが、派遣労働といえます。

ただし、派遣労働を行う派遣元会社は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(労派遣法5条)。

派遣労働者と正社員等との違い

派遣労働者と正社員や、請負、出向との雇用形態の違いを下表にまとめましたので、ご確認ください。

労働者との労働契約 指揮命令権
派遣 派遣元会社
(ただし、具体的事情により、派遣先会社)
使用者(派遣先会社)
正社員
アルバイト
使用者 使用者
請負 請負会社 請負会社
出向 出向先の会社
出向元の会社
出向先の会社

なお、請負とは発注会社が請負会社と請負契約を結び、請負会社が一定の成果物を発注会社に納品する形態をいいます。派遣と請負は会社に労働力を提供する点では同じですが、実態は異なります。

派遣では、労働者は雇用関係のない派遣先から指揮命令を受けますが、請負では、自身の雇用主である請負会社から指揮命令を受けます。

また、派遣と出向の違いは、派遣では派遣先と労働者との間に雇用関係がない一方、出向では、労働者は出向元と雇用関係を保持しつつ、出向先とも雇用関係に入る点が異なります。

派遣元・派遣先の責任の所在

労働者派遣法は、派遣労働者を保護するため、派遣元と派遣先に対して、責任の所在を定めています。

労働契約の使用者としての義務は、基本的に派遣元会社が負います。そのため、賃金の支払いや労働条件の明示、年次有給休暇の付与、災害補償、36協定の締結・届け出などは派遣元が行うことになります。

一方、実際の勤務に関係する事項については、派遣先会社の使用者が責任を負います。
例えば、労働時間・休憩・休日の管理、育児時間の管理、安全衛生管理、公民権の保障などが挙げられます。
もっとも、妊娠・出産等を理由とする解雇等の禁止やハラスメント防止など、派遣元と派遣先両方が責任を負う事項もあります。

派遣労働における派遣先、派遣元のそれぞれの責任については、以下のページで詳しく解説していすので、ぜひご覧ください。

派遣労働における派遣元・派遣先の責任について

派遣労働の種類

派遣労働には、「登録型派遣」「常用型派遣」「紹介予定派遣」と3つの形態があります。

「登録型派遣」
派遣元会社に登録しておき、需要があったときのみ労働者は派遣先会社で働き、派遣元会社から給与をもらう形態です。契約期間が終われば、派遣元会社と労働者の雇用関係も解消され、再び派遣されることになった時に雇用契約を結び直します。

「常用型派遣」
派遣元会社と労働者が「無期雇用契約」を結び、各派遣先に派遣元の社員として勤務する形態です。派遣先の仕事が終了しても、派遣元と労働者との雇用契約が継続するため、次の会社に派遣されるまでの間も、給与や休業手当の支給が必要です。

「紹介予定派遣」
職業紹介事業でもあり、最長半年間、派遣先会社に勤務した後、派遣先会社と労働者の双方の合意があれば、直接雇用に切り替えるものです。ただし、派遣先会社には直接雇用しなければならない義務はありませんので、不採用となることもあります。

派遣労働の対象業務

派遣労働が禁止されている業務に、港湾運送、建設、警備の業務があります(労派遣法4条1項)が、これらを除き、現在では派遣対象業務は基本的に自由化されています。

以前は製造業務も禁止されていましたが、2004年に解禁され、現在では多くの派遣労働が行われています。
また、医療業務についても、一定要件(社会福祉施設等における医業等の業務、育児・介護休業の代替、へき地への医師の派遣等)のもとで認められています。

なお、以下の「専門26業務」は、これまで「派遣上限3年ルール」の対象外でした。
しかし、これらの業務の専門性が高いといえなくなったこと、半永久的に派遣労働を認めてしまうリスクがあることから、2015年に撤廃されました。

現在では、専門26業務を含めすべての業務について、「派遣上限3年ルール」が適用されているためご注意ください。

  • ソフトウェア開発
  • 機械設計
  • 放送機器等操作
  • 放送番組等演出
  • 事務用機器操作
  • 翻訳・通訳・速記
  • 秘書
  • ファイリング
  • 調査
  • 財務処理
  • 取引文書作成
  • デモンストレーション
  • 添乗
  • 建築物清掃
  • 建築設備運転点検・整備
  • 案内・受付・駐車場管理等
  • 研究開発
  • 事業の実施体制等の企画・立案
  • 書籍等の制作・編集
  • 広告デザイン
  • インテリアコーディネーター
  • アナウンサー
  • OAインストラクション
  • テレマーケティングの営業
  • セールスエンジニアリングの営業
  • 放送番組等における大道具・小道具スタッフ

派遣法違反に対する規制

労働者派遣法50条では、禁止されている業務に労働者を派遣した場合、また、規定の派遣可能期間に違反して派遣し続けた場合などに、厚生労働大臣から、派遣元会社に対しては改善命令、派遣先会社に対しては勧告が行われると定められています。

また、48条1項では、厚生労働大臣が必要と認めるとき、労働者派遣事業の適切な運営のため、派遣元会社、派遣先会社、双方に指導・助言をすると定められています。

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派遣労働の契約期間

派遣可能期間は、1つの事業所で派遣社員を受け入れることができる「事業所単位の期間」も、1人の派遣労働者が同一の組織単位(同じ会社の〇〇課など)で働ける「個人単位の期間」も、3年までとなっています(労派遣法35条の3、40条の2)。

ただし、事業所単位の期間については、派遣期間が終わる1ヶ月前までに、派遣先が自社の従業員の過半数代表から意見を聴取すれば、3年単位で何回でも更新可能です。
また、個人単位の期間については、同じ派遣社員が経理課から総務課など別の課に異動すれば、また同じ派遣先で3年間働くことができます。

なお、派遣社員の雇用の安定化を守るため、「雇用期間が30日以内の日雇い派遣」は原則禁止されています。そのため、労働者を企業に派遣する場合は、31日以上の雇用契約を結ばなければなりません。

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
派遣元事業主は、派遣先の事業所その他派遣就業の場所における組織単位ごとの業務について、三年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣(第四十条の二第一項各号のいずれかに該当するものを除く。)を行つてはならない。

(適正な派遣就業の確保等)第40条の2第1項
派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの業務について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。(後略)

労働者派遣の期間制限について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

派遣対象の業務と派遣可能期間(期間制限)について

派遣労働における雇用安定措置

派遣元会社は、派遣社員が派遣先の同一の組織単位(課)に3年間継続して派遣される見込みのある場合は、以下のいずれかの雇用安定措置をとる義務があります(労派遣法30条1項)。

  • ①派遣先への直接雇用の依頼
  • ②新たな派遣先の提供(経験や能力等に照らして合理的な職場に限る)
  • ③派遣元による無期雇用
  • ④そのほか雇用の安定を図るために必要な措置(有給の教育訓練や紹介予定派遣など)

①の直接雇用が行われない場合は、さらに②~④いずれかの措置が必要です。
また、派遣就業見込みが1年以上3年未満の派遣社員については、①~④いずれかを行う努力義務、派遣元に雇われた期間が通算1年以上の派遣社員については、②~④いずれかを行う努力義務を負います。
なお、雇用安定措置は有期雇用の派遣社員のみに適用されるため、契約期間に定めのない無期雇用の派遣社員は適用外となります。

派遣社員への雇用安定措置についての詳細は、以下のページでご確認ください。

派遣労働における雇用安定措置

派遣労働者の労働条件

派遣労働者へ指揮・命令するのは派遣先会社です。
しかし、派遣社員には、原則として派遣元会社の就業規則が適用されます。派遣社員と雇用契約を結んでいるのは派遣元であるからです。例えば、派遣先で副業が禁止されていたとしても、派遣元で禁止されていなければ、副業は可能となります。
ただし、派遣元の就業規則において「派遣先の就業規則の遵守」を義務付けることも可能であると考えられます。

なお、派遣元の就業規則は派遣元の社員全体を対象とした社内ルールですが、派遣先での業務内容や休憩・休日といった派遣社員個別の労働条件については、契約書(就業条件明示書)に記載されたとおりとなります。つまり、派遣社員に適用されるのは、派遣元の就業規則と契約書になります。

なお、現在の派遣法では、同一労働同一賃金が原則となっています。派遣労働者にも、同じような業務に従事する正規社員と同等の待遇が求められるため注意が必要です。

同一労働同一賃金ルールについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。

同一労働同一賃金

労働者派遣法の移り変わり

労働者派遣法は、国内で派遣労働の需要が高まったことにより、1986年に施行されました。
それから現在まで、大きな改正が4回行われています。
当初は規制緩和が進められ、数多くの業種への派遣が可能になりましたが、派遣切りや雇止めの問題により、昨今では規制強化へと舵が切られています。

以下に、労働者派遣法の変遷をまとめましたので、ご確認ください。

1986年:労働者派遣法制定
1996年:対象職種を16職種から26職種へ拡大
1999年:対象業務の原則自由化(ネガティブリスト化)
2000年:紹介予定派遣の解禁
2004年:派遣期間の延長と製造業務への派遣解禁
2007年:製造業務の派遣期間の延長
2012年:日雇い派遣の原則禁止、グループ企業内派遣の規制など規制強化
2015年:派遣期間の上限を3年へ統一
2020年:同一労働同一賃金の適用
2021年:派遣労働者への待遇などの説明義務の強化

2021年の派遣法改正について

2021年の派遣法改正では、派遣社員の雇用安定化を目的として、以下の改正がなされました。
このうち、派遣先会社が負う義務は、②のみとなります。

①派遣社員の雇入れ時の説明の義務化
派遣元が派遣社員を雇い入れる際、「教育訓練」や「キャリア・コンサルティング」の内容を説明することが義務化されました。

②派遣社員の苦情処理の義務強化
派遣社員の労働関係法に関する苦情については、派遣先で誠実かつ主体的に対応することが義務付けられました。

③日雇派遣の契約解除時の措置
日雇派遣社員の過失による原因以外で派遣契約を途中解除した場合、日雇派遣社員に対しても新たな派遣先の提供や、休業手当を支払うといった措置が必要となりました。

④派遣契約書のデジタル記録の有効化
⑤雇用安定措置における派遣社員の希望聴取の義務化
⑥マージン率等のインターネットでの情報提供を原則化

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派遣労働をめぐる問題

1986年に労働者派遣法が施行されて以来、今では一般的な働き方として定着した派遣労働ですが、現在でも様々な問題を抱えています。

見学の名を借りて、禁止されている事前面接を行っている派遣先も多いでしょう。派遣期間の中途での解約や、二重派遣、偽装請負の問題等、派遣労働をめぐる問題は多々あります。

ただし、現在では派遣社員の保護が大幅に強化されています。仮に労働者派遣法が定めるルールに違反した場合は、労基署による指導や罰則の対象となり、さらに企業名が公表される可能性もあります。そのため、派遣社員を受け入れる際には、労働者派遣法を十分に理解し、法に則した正しい派遣契約を結ばなければなりません。

また、派遣社員を受け入れた後も、派遣社員を保護するため、人間関係構築の支援や教育訓練の提供、福利厚生への配慮、直接雇用の義務といった措置を講じるべきでしょう。

派遣労働のメリット・デメリット

需要により広まり、定着した派遣労働という働き方ですが、メリットもあれば、当然デメリットもあります。以下で、それぞれ解説します。

派遣労働者を受け入れるメリット

派遣労働者を受け入れる側の会社のメリットとして、以下が挙げられます。

  • 必要なスキルを持つ人材の確保ができる
    人材を採用・育成する時間はないが即戦力になる社員が必要になった際に、特定の資格保有者や実務経験者など、必要なスキルを持つ人材をすぐに確保することが可能です。
  • 短期的な業務への対応が可能
    派遣社員は即戦力となり得るため、短期的業務への対応が可能です。社員が産休・育休に入ったときの補充や、年末調整時期など繁忙期に限った増員などに活用できます。
  • 採用コストの削減
    直接雇用では、求人広告料や紹介手数料など、高額な費用がかかります。
    一方、派遣社員については、人材の募集・成約時に報酬金の支払いが求められないケースがほとんどであるため、採用コストを削減することが可能です。
  • 労務管理コストの削減
    派遣社員の給与計算や社会保険への加入手続きなどは派遣元が行うため、労務管理に関する費用を削減できます。

派遣労働者を受け入れるデメリット

一方、派遣労働者を受け入れる側の会社のデメリットとして、以下が挙げられます。

  • 責任のある業務を任せることはできない
    派遣労働者は契約期間が決まっており、いずれ会社を離れてしまうため、即戦力でありながら、責任ある重大な業務を任せることができません。
  • 業務のノウハウが蓄積しない
    派遣労働者が行った業務の結果やノウハウは、社内に蓄積しません。派遣社員を多く雇えば、社内での人の入れ替わりが常に発生してしまうことからも、ノウハウの蓄積はされづらいといえます。
  • 突発的な業務には対応できない
    突発的に行わなければならなくなった業務が発生しても、派遣労働者の仕事量を増やしたり、深夜労働や時間外労働をさせたりすることができません。
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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