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障害者雇用率制度とは|2024年・2026年の段階的な引き上げについて

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

御社の障害者雇用は進んでいますでしょうか?

現在、企業の障害者の法定雇用率は2.5%、2027年7月に2.7%と段階的に引き上げられる予定です。
そのため、現時点では法定雇用率を達成している企業でも、さらに障害者を雇用する必要が生じる可能性があります。

このページでは、法定雇用率の引き上げの詳細、必要な障害者雇用者数の計算方法、引き上げに際して企業が注意するべきポイントなどについて解説していきますので、ぜひご一読ください。

障害者雇用率制度とは

「障害者雇用率制度」とは、法定雇用率に相当する人数以上の障害者を雇用することを、企業等に義務付ける制度です。障害者の雇用機会の確保を目的として設けられたものです。

現行の民間企業における法定雇用率は、2024年の改正により、2.5%となっています。
つまり、従業員数40人以上の企業であれば、少なくとも1人以上の障害者を雇用する義務を負っていることになります。また、今後も法定雇用率は段階的に引き上げられる予定です。

障害者雇用率(法定雇用率)は、以下の計算式で算出されます。

障害者雇用の計算式

例えば、従業員数が400人の企業では、400人×法定雇用率2.5%=10人(小数点以下は切り捨て)となり、10人以上の障害者を雇用する義務があることになります。

「障害者雇用」に関する基礎知識について知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。

障害者雇用

【2024年・2026年】法定雇用率の段階的な引き上げ

2022年の障害者雇用促進法の改正により、障害者の法定雇用率の段階的な引き上げが決定しました。
下表に、事業主区分ごとの法定雇用率の引き上げの推移をまとめましたので、ご確認ください。

現行の民間企業の法定雇用率は「2.5%」ですが、2026年7月より「2.7%」と段階的に引き上げられる予定です。
これに伴い、障害者を雇用すべき義務を負う企業が増えていくことになります。

事業主区分 現行 2026年7月から
民間企業 2.5% 2.7%
国、地方公共団体等 2.8% 3.0%
都道府県等の教育委員会 2.7% 2.9%

障害者雇用の現状と推移

化学物質規制の施行期日
出典:令和4年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

厚生労働省の「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業における障害者の雇用状況について、以下のような結果が出ています。

  • 民間企業に雇用されている障害者数は61万3958人で、19年連続で過去最高を更新
  • 実雇用率(実際に雇用されている障害者の割合)は11年連続で過去最高の2.25%、法定雇用達成企業の割合は48.3%
  • 雇用者のうち、知的障害者、精神障害者が前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が11.9%増と大きかった。

このように、障害者雇用人数や実雇用率は年々増加・アップしています。
法定雇用率を達成していない企業は、障害者雇用を積極的に促進し、必要な措置を講じなければなりません。

障害者雇用率制度の対象となる事業主

現行 2026年7月から
障害者雇用の対象となる事業主の範囲 従業員40人以上 従業員37.5人以上
法定雇用率 2.5% 2.7%

現行では、2.5%の法定雇用率によって算出された「従業員数40人以上」の企業が、障害者雇用率制度の対象となり、40人未満の企業には雇用義務がありません。

ただし、2026年7月から2.7%へと段階的に引き上げられる予定です。これに伴い、1人の障害者を雇用する義務がある企業の範囲が、2026年7月から「従業員37.5人以上」と広がることになります。

法定雇用率の変更により最も影響を受けるのは、「従業員数37.5人以上40人未満」の企業でしょう。これまで障害者雇用に関する取り組みがなかった場合、少なくとも障害者1人以上の雇用が必要であり、就業規則や施設設備の見直しなど、さまざまな措置を講じる必要があります。

なお、支店など複数の事業所を持つ企業では、事業所単位ではなく、企業全体で法定雇用率を満たしていれば問題ありません

グループ会社の場合

本来、企業ごとに法定雇用率を適用し、雇用するべき障害者の人数を算定するのが原則です。

しかし、「企業グループ算定特例(関係子会社特例)」という仕組みでは、一定の要件を満たす“企業グループ”であると厚生労働大臣に認められた場合に、グループ全体において実雇用率を合算することができます。

また、「特例子会社制度」は、障害者雇用の促進や安定を図ることを目的としています。このために、企業が子会社を設立して、厚生労働大臣から認定を受けた場合には、“特例として”、その子会社で雇用されている労働者を親会社が雇用しているとみなすことができます。

厚生労働大臣に認められるための要件については、下の表をご覧ください。

障害者雇用の例外

障害者雇用率制度の対象となる労働者

障害者雇用率制度の対象となる労働者は、「身体障害や知的障害、精神障害があるために、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」です。

てんかんにかかっている者等の例外はありますが、基本的に、「障害者手帳」を所有している労働者が対象となります。

対象となる障害 対象となる労働者
身体障害 身体障害者手帳1~7級の所有者
知的障害 療育手帳の所有者
精神障害 精神障害者保健福祉手帳1~3級の所有者

なお、身体障害者手帳1級・2級の方は「重度身体障害者」に、療育手帳Aの方が「重度知的障害者」に当たります。精神障害者には、雇用人数のカウントの仕方が変わる区分はありません。

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雇用義務のある障害者数と実雇用率の計算方法

自社で雇用義務のある障害者数は、次の計算式で求めます。

雇用義務のある障害者数=(常用雇用労働者数※1+短時間労働者数※2×0.5)× 法定雇用率
※小数点以下は切り捨て

※1「常用雇用労働者」とは、週所定労働時間が30時間以上の者で、基本的に常用雇用労働者1人とカウントする
※2「短時間労働者数」とは、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の者で、短時間労働者1人につき0.5人とカウントする

次に、具体例にあてはめて計算してみます。

【常用雇用労働者200人、短時間労働者50人の民間企業の場合】
{200人+(50人 × 0.5)}× 2.3% = 5.175人

端数は切り捨て、この例の企業では障害者を「5人」以上雇用しなければなりません。
また、自社の実際の障害者雇用率(実雇用率)は、次の計算式で求めます。

実雇用率=(障害者である常用雇用労働者数+障害者である短時間労働者数×0.5)÷(常用雇用労働者数+短時間労働者数×0.5)

障害者の人数のカウント方法

障害の種類 週所定労働時間
30時間以上
(常用雇用労働者)
20時間以上30時間未満(短時間労働者) 10時間以上20時間未満(短時間労働者)
※2024年4月から
身体障害者 1人 0.5人
重度身体障害者 2人 1人 0.5人
知的障害者 1人 0.5人
重度知的障害者 2人 1人 0.5人
精神障害者 1人 1人 0.5人

障害者の人数も、常用雇用労働者は1人短時間労働者は1人につき0.5人とカウントするのが基本です。ただし、特に障害が重いとされる「重度身体障害者」と「重度知的障害者」については常用雇用労働者1人につき2人分としてカウントし、短時間労働者は、0.5人ではなく1人分としてカウントします。

また、2023年4月から、「週20時間以上30時間未満」勤務する「精神障害者」について、雇入れからの期間等に関係なく、1人としてカウントすることが可能となりました。

なお、現行では、障害者雇用率制度の対象となる障害者は、「週20時間以上」勤務する者に限定されています。しかし、2024年4月から、「週10時間以上20時間未満」勤務する「精神障害者」「重度身体障害者」「重度知的障害者」について、1人をもって0.5人とカウントすることが可能となります。

これは、障害の特性上長時間働くことが難しい障害者にも雇用機会を与えることを目的としたものです。

法定雇用率の除外率制度

障害のある方の就労が難しい職務を扱う企業に対して、一律に法定雇用率を適用するのは難しいと考えられたため、「除外率制度」が設けられました。
これは、障害者の勤務が難しい業種については、「常時雇用している労働者の総数」から除外率に相当する労働者数を差し引くことができる制度です。

しかし、ノーマライゼーション(障害者が障害のない人と同じように生活できる社会にしようという考え方)の観点から、2004年に「除外率制度」の廃止が決定しました。当面の間は経過措置として、業種ごとに除外率が設けられていますが、段階的な引き下げとして、2025年4月から、一律に10%引き下げられる予定です。詳しくは下表をご覧下さい。

除外率設定業種 2025年4月1日以降の除外率
・非鉄金属第一次製錬
・精製業
・貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く)
5%
・建設業
・鉄鋼業
・道路貨物運送業
・郵便業(信書便事業を含む)
10%
・港湾運送業
・警備業
15%
・鉄道業
・医療業
・高等教育機関
・介護老人保健施設
・介護医療院
20%
林業(狩猟業を除く) 25%
・金属鉱業
・児童福祉事業
30%
特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) 35%
石炭・亜炭鉱業 40%
・道路旅客運送業
・小学校
45%
・幼稚園
・幼保連携型認定こども園
50%
船員等による船舶運航等の事業 70%
厚生労働省:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について

例えば、除外率30%の業種で、常用雇用労働者数 800人の企業のケースでの、雇用義務のある障害者数は、以下のとおりとなります。

・除外率なし    800人 × 2.5% = 20人
・除外率30%適用 (800人 – 240人) × 2.5% = 14人

法定障害雇用率が未達成の場合のペナルティ

法定障害者雇用率が未達成の場合には、以下のようなペナルティを受けるリスクがあります。

  • ハローワークによる行政指導
  • 企業名の公表
  • 納付金の支払い

これらのペナルティについて、以下で解説します。

ハローワークによる行政指導

実雇用率の低い企業に対しては、ハローワークから、翌年1月を始期とする2年間の雇入れ計画を作成するよう命じられます。
この計画を着実に実行することによって、障害者雇用を推し進めるよう行政指導が行われます。

企業が計画通り実行しない、あるいは計画の進みが思わしくないといった場合には、1年目の12月に「雇入れ計画の適正実施勧告」がなされ、特にその傾向が顕著な企業には、計画終了後に9ヶ月間の「特別指導」が行われます。

企業名の公表

ハローワークからの「雇入れ計画の適正実施勧告」に従わず、「特別指導」を行った企業において、なお障害者の雇用状況に改善が見られない場合には、厚生労働省のホームページで「企業名の公表」が行われるおそれがあります。

公表されると、障害者雇用を達成できていない企業であるとして世間に知れ渡り、企業イメージの低下や業績悪化を招くおそれがあります。また、従業員のモチベーションの低下や採用応募者の減少などにもつながりかねません。

納付金の支払い

障害者を雇用した場合、作業施設や職場環境の整備等、経済的な負担がかかることが多いです。そのため、障害者を多く雇用している企業の経済的負担を減らすこと等を目的として、「障害者雇用納付金制度」が設けられました。

法定雇用率を達成しておらず、常時雇用している労働者が100人を超える企業については、不足する障害者雇用者数に応じた納付金(=1人につき月額5万円)を支払う必要があります。

法定雇用率を上回る障害者を雇っている企業には、障害者雇用率未達成の企業から徴収した納付金を原資として、調整金や報奨金が支給される仕組みとなっています。

障害者の雇用状況の報告を怠った場合の罰則

障害者雇用率制度の対象となる企業(現行は従業員数40人以上)は、毎年6月1日現在の障害者の雇用状況を、7月15日までにハローワークに報告しなければなりません。雇用している障害者数が0人のケースでも報告義務があります。

ハローワークや労働局はこの報告書をもとに、雇い入れ計画の作成命令や雇用達成率の指導、雇用状況の公表などを行います。
仮に、これらの報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、30万円以下の罰金が科せられる場合があるため注意が必要です。

障害者雇用に関する届出ついての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。

障害者雇用の届出

今後の法定雇用率の引き上げに向けた企業の取り組み

法定雇用率の引き上げに向けて、企業が行うべき取り組みとして、以下が挙げられます。

●雇用義務のある障害者数の算出
法定雇用率の引き上げに伴い、何人の障害者を雇用するべきか求める必要があります。(常用雇用労働者数+短時間労働者数×0.5)×2.7%で算出します。

●地域の関連機関との連携
障害者雇用を進めるには、ハローワークや特別支援学校、就労移行事業所など、障害者雇用を支援する地域の機関との連携が必要です。障害者の雇用計画を立てる段階から相談し、必要な雇入れ準備などアドバイスを得ましょう。

●障害者への理解、職場定着のためのサポート体制の整備
支援機関の相談窓口への問い合わせや、障害者の仕事の見学等を行い、障害者の働き方を知ることが大切です。また、障害者本人と障害の特性や必要な配慮等について話し合い、配属先との情報共有や社内研修を行うなどして、サポート体制を整備しましょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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