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パパ・ママ育休プラスについて解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「パパ・ママ育休プラス」は、夫婦がともに育児休業(育休)を取ることで、育休期間を子の年齢が1歳2ヶ月になるまで延長できる制度です。

利用には一定の要件があるものの、育休をとるタイミングを自分自身で決定できるため、夫婦交代での取得に加え、同じ時期に取得して2人で力を合わせて育児を行うことも可能になります。

本記事では、パパ・ママ育休プラスの概要や利用要件、育休の取得可能期間、パパ・ママ育休プラスを利用した育休の取得方法などについて、わかりやすく解説していきます。

パパ・ママ育休プラスの概要

パパ・ママ育休プラスとは、夫婦両方ともが育休を取得する場合に、一定の要件を満たしていれば、子が1歳2ヶ月になるまで延長して育休を取得できる制度です。子供の手がかかる出生間もないころから、父親の積極的な育児への参加を促し、夫婦がともに協力して育児を行っていくことを目的として、2010年からスタートしました。

育休期間は、原則子供が1歳に達する日(誕生日の前日)までであり、保育園に入れないなど、やむを得ない事情があるときに限り、1歳6ヶ月または2歳になるまで延長が可能です。

しかし、パパ・ママ育休プラスを活用すれば、このような特別の理由がなくても、子供が1歳2ヶ月になるまで育休を取ることができます。夫婦で別々に取得したり、2回に分けて取ったりすることも可能です。

ただし、夫婦それぞれが育児休業を取得できる期間は、最大で1年間(出生日以後の産前・産後休業や産後パパ育休と合わせて1年間)となります。

育児休業についてより詳しく知りたい方は、以下の各記事をご参照下さい。

育児休業制度とは|給付金の申請や、改正内容などをわかりやすく解説

制度の目的

パパ・ママ育休プラスは、子育てが母親に偏っていることが多いという現状に鑑み、父親も育児に参加する機会を増やす目的で設けられた制度です。
厚生労働省「令和4年の雇用均等基本調査」によると、父親の育休取得率は17.13%となっており、近年上昇傾向にはあるものの、母親の80.2%と比較すると、かなり低い取得率となっています。

また、少子高齢化が進む現在では、女性の社会進出は欠かせないため、男性が育休を取得し、女性が出産後も働き続けられるような環境を整備しなければなりません。このような背景から、パパ・ママ育休プラス制度が設けられました。

本制度を活用すれば、育休期間が延長できるだけでなく、夫婦で同時期に育休を取ることで母親の負担が減ることや、夫婦がともに協力して育児を行うことが可能といったメリットがあります。

制度の対象

基本的に、1歳未満の子供を育てる労働者であれば、男女を問わず、パパ・ママ育休プラスを利用することができます。正社員はもちろんのこと、契約社員やパート、アルバイトなどの非正規社員も、一定の要件を満たせば、利用することができます。
また、戸籍上の夫婦だけでなく、事実婚のカップルも利用可能です。さらに、労働者と法律上の親子関係がある「子」であれば、実子、養子を問いません。

事業主は、パパ・ママ育休プラスの利用の申し出を拒否することができないため注意が必要です。
なお、日雇い労働者や、労使協定で定められた一定の労働者など、パパ・ママ育休プラスの適用が除外されるケースもあります。詳しくは後述します。

産後パパ育休や育児休業との相違点

育児に関する休業制度として、パパ・ママ育休プラス以外にも、「産後パパ育休」と「育休制度」があります。

「産後パパ育休」とは、産後8週間以内に4週間を限度として、2回に分割して育児休業を取得できる制度です。いわゆる産後休業の男性版で、男性の子育て参加を促すため、2022年10月に新しく設けられました。

また、「育児休業」とは、子供が産まれてから1歳になるまでの間に、労働者が申し出た期間だけ、育児休業を取得できる制度です。男女ともに取得可能で、保育園に入園できないなどの事情がある場合は、育児休業を1歳6ヶ月まで(再延長で2歳まで)延長できます。

これまでは育休の分割取得は基本的にできませんでしたが、2022年10月より、2回まで分割して取得可能となりました。
下表に、「産後パパ育休」「育児休業」「パパ・ママ育休プラス」のそれぞれの特徴についてまとめましたので、ご参照ください。

産後パパ育休 育児休業 パパ・ママ育休プラス
対象期間 子の出生後8週間以内に最大4週間まで 子が1歳になるまで(やむを得ない理由がある場合は最長2歳まで) 子が1歳2ヶ月になるまで
分割取得 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要) 分割して2回取得可能(取得の際にそれぞれ申し出) 分割して2回取得可能
申請期限 原則休業の2週間前まで 原則休業の1ヶ月前まで 子が1歳に達する日までの育児休業給付金の支給対象期間内
休業中の就業 労使協定を結んでいる場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 原則不可 原則不可

※なお、産後パパ育休が創設されたことで、産後8週間以内に育休とは別に休業できるようになったため、「パパ休暇」は2022年10月に廃止されています。

パパ・ママ育休プラス制度の利用要件

パパ・ママ育休プラスを利用するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  • 夫婦がともに育児休業を取得していること
  • 育児休業を取得しようとする労働者(本人)の配偶者が、子供の1歳の誕生日前日までに育児休業を取得していること
  • 本人の育児休業開始予定日が、子供の1歳の誕生日以前であること
  • 本人の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業の初日以降であること

つまり、夫婦ともに育休を取れば、遅れて育休に入った方は、子が1歳2ヶ月になるまで、育児休業を取得することが可能です。ただし、遅れて育休に入る方は、子が1歳になるまでに育児休業に入る必要があります。

なお、通常の「育休」では、配偶者が専業主婦(主夫)でも取得可能です。しかし、パパ・ママ育休プラスは、「夫婦そろっての育児休業の取得」が要件であるため、夫婦どちらかが専業主婦(主夫)の場合は利用できません。

制度利用者の育児休業開始予定日までに配偶者が育児休業を取得しなかった場合

パパ・ママ育休プラスは、制度利用者より配偶者が先に育休を取得する予定であるが、申請した時点では、まだ育児休業をスタートしていない場合でも、申請することが可能です。
この場合、制度利用者の育休開始予定日までに、配偶者が育休を取らなかった場合の取扱いは、以下のとおりです。

  • 制度利用者の育児休業の終了予定日が、子が1歳に達する日以前である場合は、申出どおり育児休業を取ることが可能。
  • 制度利用者の育児休業の終了予定日が、子が1歳に達する日以後である場合は、育児休業の申出はなかったものとみなされる。

パパ・ママ育休プラス制度の利用ができないケース

パパ・ママ育休プラスの要件を満たす場合には、男女とも、子供が1歳2ヶ月になるまで育児休業を取得することが可能です。ただし、要件を満たす者であっても、以下のケースに当てはまる場合は、パパ・ママ育休プラスを利用することができません

【法律により利用できないケース】

  • 日雇い労働者
  • 育児休業の申し出の時点で、子供が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が終了し、更新されないことが明らかな有期契約労働者(契約社員やパート等)

【労使協定を締結することにより、利用できなくなるケース】

  • 入社して1年未満の社員
  • 育児休業の申し出の日から1年(1歳6ヶ月又は2歳まで延長の場合には6ヶ月)以内に、労働契約が終了することが明らかな社員
  • 週所定労働日数が2日以下の社員

対象外となる者については、就業規則等に明記し、労働者に周知しておくことが重要です。

育児休業の取得可能期間

パパ・ママ育休プラスを利用すれば、子供が1歳2ヶ月になるまで、夫婦ともに育休を取得することが可能です。

ただし、夫婦それぞれ育休を取得できる最大日数は、通常の育休と同じく、1年間となります。
1年間の計算は、母親については、出生日以後の産前・産後休業と育休を合わせて1年間、父親については、産後パパ育休と育休を合わせて1年間となります。

つまり、パパ・ママ育休プラスは「子供が1歳2ヶ月になるまでの間に1年間取得できる」という制度です。育休取得期間の期日が延びるというだけで、取得日数が増えるわけではないため注意が必要です。

なお、育休の終了日は、「育児休業等取得日数」が「育児休業等可能日数」を超えた日となります。

  • 育児休業等取得日数:出生日以後の産前・産後休業期間の日数+育休を取得した日数
  • 育児休業等可能日数:子が1歳に達する日までの日数。うるう日を含まない場合は 365 日、含む場合は 366 日

育児休業を1歳6ヶ月まで延長できる場合

パパ・ママ育休プラスを利用して育休を取得している場合でも、以下の要件を満たせば、子が1歳6ヶ月になるまで(再延長で2歳まで)育休を延長することが可能です。
延長の要件は、次のとおりです。

●労働者本人または配偶者が、パパ・ママ育休プラスにより育児休業が1歳以降に延長された期間の末日(2歳まで延長する場合は、子が1歳6ヶ月になる誕生日前日)に育児休業をしていて、かつ、以下のいずれかの事情があること


  • 保育所等に入所を希望しているが、入所できない
  • 子を養育する者の死亡、病気やケガ等で養育が困難
  • 離婚などにより子を養育する者と別居になった
  • 6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定、又は産後8週間を未経過

これらの事情がある場合は、子が1歳6ヶ月になるまで育休の延長が可能です。
1歳6ヶ月の時点で状況が変化していない場合は、2歳まで再延長できます。

パパ・ママ育休プラス制度を利用した育児休業取得方法

パパ・ママ育休プラスを利用しても、夫婦それぞれが取得できる育児休業日数の上限は原則として1年間です。
そのため、「妻が先に1年育休をとり、その後、夫が2ヶ月育休をとる」などとして、夫婦で1年2ヶ月の育休期間を、それぞれの事情に合わせて分担する必要があります。

パパ・ママ育休プラスを利用した育休の取得例(パターン)を、以下でご紹介します。

母親と父親が交互に取得する

子供が1歳になるまで母親が育児休業を取り、母親の復職のタイミングで、父親が2ヶ月の育休を取る。

 

父親と母親が交互に育休を取得する、最もオーソドックスなパターンです。
母親が復職する際に、父親に育児をバトンタッチできるため、母親は安心して職場復帰することが可能です。

母親と父親の育休期間をかぶせて取得する

母親の育休期間の途中から、父親が育休を取得する。2人でともに育休期間を過ごした後、母親は子が1歳になるタイミングで職場に復帰し、父親は子供が1歳2ヶ月になるまで、育休を続ける。

このパターンでは、母親の育休中に、父親が途中から育休に入ることになります。
そのため、夫婦が協力して子育てできる時間を多く確保できるというメリットがあります。

ただし、夫婦それぞれの育休の取得可能期間は1年であるため、産後2ヶ月未満で夫が育休をスタートした場合は、そこから1年間が延長期間となります。

連続して育休を取得しない

子供が生後6ヶ月になるタイミングで母親が職場復帰する。その後、父親が少し間を空けてから、育休を取得し、子供が1歳2ヶ月になるまで育児を続ける。

母親と父親の育休を連続して取得しないため、経済面でメリットのあるパターンです。
ただし、母親の育休終了から父親の育休開始まで間があり、この期間は祖父母などに子供の世話をお願いする必要が生じるかもしれません。

母親が専業主婦の場合

パパ・ママ育休プラスが適用されるのは、夫婦ともに育休を取得した場合になります。
母親が専業主婦の場合は、当然に母親が育児休業を取得することはできません。
そのため、母親が専業主婦で、父親が育休を取得するような場合は、育休の延長はなく、通常の育児休業のルールどおり、子供が1歳になるまでということになります。

制度の申請と企業対応

パパ・ママ育休プラスを利用する場合は、基本的に育休開始予定日の1ヶ月前までに、労働者より申請してもらう必要があります。その後、事業主が、管轄のハローワークに対する育児休業給付金の支給申請の際に、パパ・ママ育休プラスの利用申請も合わせて行います

申請の際は、以下のような書類を提出します。

  • 休業開始時賃金月額証明書
  • 育児休業給付受給資格確認票
  • 出生時育児休業給付金支給申請書
  • 育児休業給付金支給申請書
  • 住民票の写しなど(育児休業給付金の支給対象者の配偶者であることが証明できる書類)
  • 育児休業取扱通知書の写しなど(配偶者が育休を取得していると確認できる書類)

パパ・ママ育休プラスの申請期限は、対象労働者の子供が1歳に達する日(1歳の誕生日前日)までです。

制度利用の拒否による罰則

育休は「育児・介護休業法」により保障された労働者の権利です。
そのため、パパ・ママ育休プラスの要件を満たす労働者が、会社に対して利用したいと申請すれば、当然に利用することが可能です(同法5条1項)。たとえ育休に関する社内規定がなかったとしても基本的に事業主はその申し出を拒否することはできません(同法6条1項)。

なお、「育児・介護休業法」に違反した場合でも、直接的な罰則はありません。
ただし、育休の申出を拒むことは違法行為であるため、厚生労働大臣から報告を求められ、助言・指導・勧告などが行われる場合があります。

また、会社が勧告に従わなかった場合には、企業名が公表される可能性もあります。さらに、報告を怠った会社や、虚偽の報告をした会社には、20万円以下の罰金が科されます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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