【2024年4月施行】専門業務型裁量労働制の改正点と企業対応

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2024年4月、裁量労働制に関するルール(労働基準法施行規則)が改正されます。
同改正においては、専門型に対象業種が追加されるなど、実務上要注目の内容となっています。
なお、本改正により、裁量労働制の導入又は継続を行うためには新たに手続きをとることが必要となるため、注意が必要です。
本記事では、改正のポイントや必要な手続きについてわかりやすく解説していきます。

目次

専門業務型裁量労働制とは?

裁量労働制とは、実際に労働者が働いた時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分を労働したとみなす制度をいい、企画業務型と専門業務型の2種類に分けられますが、本記事では後者について解説します。

専門業務型裁量労働制とは、専門性の高い業種に対して適用され、あらかじめ労使協定で定めた時間だけ労働したものとみなされる制度です。
この制度の趣旨は、専門性の高い業種は、その遂行方法や時間配分等の決定について、使用者が具体的な指示になじまないという点にあります。

専門業務型裁量労働制の対象となるのは後述する20の業種に限定され、これらの中から対象とするものを労使協定によって定めることとなります。

裁量労働制については、以下のページで解説しています。あわせてご覧ください。

裁量労働制とは|労働時間の仕組みや残業代などをわかりやすく解説

【2024年4月施行】専門業務型裁量労働制の改正点

裁量労働制によって、対象労働者は自身のペースで仕事をしやすくなり、生産性が向上するという効果が期待できます。
一方、裁量労働制では、労働時間や対象労働者の健康について把握することに困難を伴うという側面もあり、使用者側で労働時間をコントロールしづらいがために、長時間労働につながりやすいという問題が懸念されていました。

そこで、以上のような問題の改善に向けて、改正労基法施行規則が改正され、2024年4月に施行されることとなりました。

①対象業務の追加

専門業務型裁量労働制の対象として厚労省により定められていたのは、研究開発職や士業など19の業務でしたが、本改正によって「銀行又は証券会社における顧客の合併および買収に関する調査又は分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務」が追加され、合計20の業務になりました。
20の業務を以下にリストアップするので、確認してみましょう。

  • 新商品、新技術の研究開発の業務
  • 情報システムの分析、設計の業務
  • 新聞、出版、放送における取材、編集の業務
  • 衣服、工業製品、広告等の新たなデザイン考案の業務
  • プロデューサー、ディレクターの業務
  • コピーライターの業務
  • システムコンサルタントの業務
  • インテリアコーディネーターの業務
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • 証券アナリストの業務
  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 大学における教授の研究の業務
  • 銀行又は証券会社における顧客の合併および買収に関する調査又は分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
  • 税理士の業務
  • 中小企業診断士の業務

②労使協定事項の追加

企業において専門業務型裁量労働制を導入するためには、労基法第38条の3第1項各号の定める事項について事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との間で労使協定を締結する必要があります。また、これを労基署に届出をしなかった場合は刑事罰の対象となります。

なお、本改正ではこれら基本的な手続きに加え、導入にあたって対象業務につく労働者本人の同意を得ることや、同意が得られなかった場合にそのことを理由に不利益な取り扱いをしないことを労使協定の内容に含めることが必要とされるようになりました。

また、一度した同意を撤回するための手続きや、同意およびその撤回に関する記録を保存することを労使協定で定めることも必要となります。

③健康・福祉を確保するための措置の強化

裁量労働制においては対象労働者の労働時間および健康管理を把握することが困難であるといった問題点があったため、労基法施行規則と共にこれに関する指針も改正され、健康および福祉を確保するための措置が従来よりも強化されました。
具体的には、以下の2分類の中からそれぞれ1つずつ以上の措置を実施することが望ましいとされています。

なお、この措置は企画業務型裁量労働制では従来から定められていましたが、改正により専門業務型裁量労働制においても同レベルの措置を講じることが求められることとなりました。

※「労基法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」

事業場の対象労働者全員を対象とする措置

健康および福祉を確保するための措置として、事業場の対象労働者全員を対象とする措置は以下になります。これらの中から1つ以上を実施することが望ましいとされています。

  • 終業から始業までに一定時間以上の連続した休憩時間を確保すること(勤務間インターバルの確保)
  • 労基法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること(深夜労働の回数制限)
  • 把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすることおよび当該時間を超えたときは労基法第38条の3第1項の規定を適用しないこととすること(労働時間の上限措置)
  • 働き過ぎ防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること

個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

健康および福祉を確保するための措置として、個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置は以下になります。これらの中から1つ以上を実施することが望ましいとされています。

  • 労働時間が一定時間を超える適用労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法第66条の8第1項の規定による面接指導を除く)を行うこと
  • 適用労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代替休日または特別な休暇を付与すること
  • 適用労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  • 適用労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
  • 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または適用労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

2024年の改正に向けて企業に求められる対応

本改正により、使用者には労使協定の改定および届出、制度導入についての同意および撤回に関する手続きの策定、健康および福祉を確保する措置の整備、適切な制度運用等の対応が求められます。
以下で、それぞれ見てきましょう。

労使協定の改定・届出

本改正により、労使協定事項が追加されることとなったため、改正後に専門型裁量労働制を新たに導入ないし継続する企業は、これらについても労働者側と決議したうえ、新様式の書式の届出を行う必要があります。

新様式では、次の①~④について新たに確認ないし記載欄が設けられました。

  • ① 適用労働者に対して使用者が具体的な指示をしないことについての協定の有無
  • ② 労働者の同意を得なければならないことおよび同意をしなかった労働者に対して不利益な取り扱いをしてはならないことについての協定の有無
  • ③ 同意の撤回に関する手続きの明記
  • ④ 制度の実施状況や同意等に関する労働者ごとの記録の保存についての協定の有無
労使協定の新様式
出典:裁量労働制の概要(厚生労働省)

裁量労働制の導入方法については、以下のページで解説しています。あわせてご覧ください。

継続導入する企業は2024年3月末までに届出が必要

本改正に対応するための手続きについて、継続導入の企業の場合には2024年3月末までに新様式の書式を労基署へ届け出る必要があるため、注意が必要です。
労使協定が難航する場合に備え、早めの対応を心がけましょう。

同意・撤回に関する手続きの策定

制度導入の際、労働者からの同意取得にあたり、同意書等の書面を取り交すことは必須ではありません。もっとも労働者の理解の促進や、後の紛争の防止といった観点から、電子的方法を含め何らかの客観的な資料を作成しておく方がよいでしょう。
また、同意の撤回に関する手続きの策定や、撤回され専門業務型裁量労働制が適用されなくなった場合の待遇や業務内容についても制度導入までに検討しておく必要があります。

健康・福祉確保措置の整備

本改正においては、適用労働者に対してより手厚い健康および福祉確保措置が求められることとなりました。

適用労働者の健康管理を適切に行っていくため、勤務間インターバルの確保や労働時間の上限措置など、使用者にとっての使いやすさも考慮しつつ、望ましい制度設計を検討しましょう。
裁量労働制だからといってほったらかしにするのではなく、まずは適用労働者の労働時間を適切に把握することが重要です。

法改正への対応でお困りの際は、企業労務に強い弁護士にご相談下さい。

本改正に対して適切な対応をとらなかった場合、専門業務型裁量労働制導入が無効となったり、未払賃金等について労使間で紛争が発生するというリスクが懸念されます。また、適切な届出を行わなかった場合には、使用者に罰則が科せられる可能性もあります。

法改正への対応については、厚労省のHP等をくまなくチェックして漏れがないように行う必要があり、専門的な知識が要求される場合もあります。相談する人がまわりにおらず対応に苦慮している担当者も少なからずいることでしょう。

これらの対応に不安があれば、企業労務に強い弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることをご検討ください。

よくある質問

今回の改正で労働者の同意の取得が必須化された理由は何ですか?

裁量労働制においては、適用労働者の労働時間管理があいまいになりがちであり、結果として長時間労働につながりやすいという問題点がありました。

そこで、労働者保護の趣旨で、労働者が裁量労働制について理解したうえで自由な意思に基づいて制度が適用されることを担保するため、労働者の同意が必須化されました。

専門業務型裁量労働制を導入する場合、適用する労働者全員の同意が必要ですか?

労働者の同意については、当該労働者ごとに必要となります。
したがって、同意がない労働者への適用は認められません。

労働者の同意なく専門業務型裁量労働制を導入した場合、ペナルティや罰則はありますか?

労働者の同意なく専門業務型裁量労働制を導入した場合、その導入自体が無効となる場合があります。
また労基署への届出を行わずにこれを実施した場合には、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

専門業務型裁量労働制の対象業務が追加されたのはなぜですか?

理由については一概にはいえませんが、銀行や証券会社へのM&A業務についても、その専門性の高さから、業務の遂行方法等につい労働者に広い裁量を認めるべきとの議論がなされたものと考えられます。
今後も業界団体の意見が反映されるなどして、対象業務が追加されることはあり得るでしょう。

専門業務型裁量労働制を導入する際の労使協定への記載事項を教えて下さい。

適用業務、適用労働者に対しては業務の遂行方法や時間配分の決定等について具体的な指示をしないこと、みなし労働時間、健康および福祉を確保するための措置、裁量労働制適用中止の手続き、勤務状況等の保存、有効期間等について記載する必要があります。

改正後の専門業務型裁量労働制の適用方法を教えて下さい。

改正後の専門業務型裁量労働制を適用するためには、厚労省による新様式での届出を行う必要があります。

専門業務型裁量労働制の改正は、企業にどのような影響がありますか?

既に専門業務型裁量労働制を導入している企業であっても、継続のためには2024年3月末までに新たに手続きをとる必要がありますので、急ぎ対応をとらなければなりません。
また、労働者の同意が必要になったこと等に伴い、より丁寧かつ慎重に労使間で協議を行う必要があるでしょう。

専門業務型裁量労働制の法改正に伴い、就業規則も変更した方が良いですか?

就業規則の変更は必須ではありませんが、就業規則においても裁量労働制に関する規定がない場合には、新設しておくとよいでしょう。個別の労働契約でも足りますが、あらかじめ就業規則に定めておくことでこれを労働契約の内容とすることが可能となります。

健康・福祉確保措置の1つである「勤務間インターバル」とは何ですか?

勤務間インターバルとは、前日の就業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定以上の「休息時間」を設ける制度をいいます。
働き方改革によって、2019年4月以降使用者の努力義務とされています。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

裁量労働制で長時間労働が常態化しないために企業がすべきことはありますか?

適用労働者についてもその労働時間を把握したり、みなし労働時間に見合った目標を定めるなどして、適用労働者の専門性に甘えず、実態に見合った働き方を実現できるような配慮をすることが肝要です。

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執筆弁護士

弁護士 八木原 佑一
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士八木原 佑一(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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