ハラスメントの防止対策とは?企業が取るべき対応をわかりやすく解説

弁護士が解説する【職場でのハラスメントを防止するために取るべき対応策】

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

近年では、職場での多種多様なハラスメントが問題とされています。ハラスメントを放置すれば、離職者の増加や企業イメージの低下につながるおそれがあるため、対策に乗り出す企業が増えています。しかし、職場でハラスメントに該当する言動が習慣化されていると、簡単には改善されません。

そこで、令和2年6月1日に労働施策総合推進法が改正されたこと等により、企業がハラスメントを防止するための措置を取ることが義務付けられました。

本コラムでは、政府の指針や過去の裁判例をもとに、企業がどのようなハラスメント防止策を講じるべきかについて解説をします。

職場で起こり得るハラスメントと企業のリスク

ハラスメントとは、相手に不快感を与えたり、尊厳を傷つけたりする言動のことをいいます。職場で発生しやすいハラスメントとしては、以下のようなものが挙げられます。

セクシュアルハラスメント(セクハラ) 性的な嫌がらせ
パワーハラスメント(パワハラ) 職場での優位性を利用したいじめや嫌がらせ
マタニティハラスメント(マタハラ) 妊娠・出産をきっかけとした嫌がらせや退職強要等
アルコールハラスメント(アルハラ) 社員で飲み会を開き飲酒を強要する等
時短ハラスメント(ジタハラ) 仕事の量を減らさないままで残業を禁止する等

ハラスメントが発生した場合、早急に対処しないと企業にも様々なリスクが生じます。
例えば、以下のようなリスクが起こり得ます。

  • 従業員のモチベーション低下
  • 離職者の増加
  • 採用コストの増加
  • 企業イメージの悪化
  • 顧客や売上、取引先の減少
  • 従業員からの損害賠償請求

よって、企業は日頃からハラスメントの未然防止に努めることがとても重要です。また、ハラスメント対策を行うことは企業の義務なので、違反すると行政指導の対象になる可能性もあります。

法改正によるハラスメント対策の強化

2020年6月に「改正労働施策総合推進法」(パワハラ防止法)が施行され、企業はパワーハラスメントの防止策を講じることが義務付けられました。この義務は当初大企業のみが対象でしたが、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業にパワハラ防止策の実施が義務付けられています。

なお、2020年6月の法改正では「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」も見直され、企業のセクハラ・マタハラ対策についても強化が図られました。具体的には、

  • ①ハラスメントに対する事業主や従業員の責務の明確化
  • ②ハラスメントの相談などをした従業員に対する不利益取扱いの禁止
  • ③保護対象の拡大(顧客や取引先など)

といった内容が追加されています。
また、各種ハラスメント対策は一体的に行うこと(相談窓口の一元化など)が望ましいとされています。

 

ハラスメントを防止するために取るべき対応策

具体的なハラスメント対策については、以下のような取り組みが求められます。

  • 方針の策定と従業員への周知・啓発
  • ハラスメント行為者への対処方針の策定・啓発
  • 相談窓口の設置
  • 社内研修の実施

方針の策定と従業員への周知・啓発

企業には、ハラスメントの内容を従業員に周知して、該当する言動があってはならないという方針を明確にしたうえで、管理監督者を含む従業員に啓発することが求められます。

具体的な方法としては、ハラスメントに該当する言動を就業規則や社内報に列挙して、それらの言動を禁止することを明確にするといったものが考えられます。これらの周知・啓発は、形式的に行うのみならず、社員の人権意識を高めることに本気で取り組む必要があります。

ハラスメント行為者への対処方針の策定・啓発

ハラスメント行為者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を設けて、管理監督者を含む従業員に対し、周知したり啓発したりすることが求められます。

具体的には、就業規則に「ハラスメント行為を行った者は懲戒処分の対象となる」旨を明記し、従業員に周知しておく必要があります。仮に懲戒処分を行う場合、就業規則に根拠が必要となるため、必ず記載しておきましょう。

また、懲戒処分の対象とすることで、従業員の意識が高まり、ハラスメントを未然に防ぐ効果も期待できます。

相談窓口の設置

パワハラ防止法では、すべての企業に対して、ハラスメントの相談窓口を設置することを義務付けています。
相談窓口を設置することで、ハラスメントの早期発見や迅速な解決、被害の拡大防止につながる効果が期待できます。

また、従業員が利用しやすいよう、相談窓口の設置・運営においては以下のような取り組みが求められます。

  • 相談窓口の利用方法について、掲示板やメール、書面などで従業員に周知する
  • 相談しても不利益取扱いは受けないこと、秘密は厳守されることを周知する
  • 相談担当者は男性・女性どちらも対応できるようにする

また、相談担当者に対しても、話の聞き方や相談後の対応について十分指導しておくことが重要です。

社内研修の実施

企業のハラスメント対策については、社内研修などを通して従業員に直接周知することも重要です。研修は入社時だけでなく、年に1度など定期的に行うのが望ましいでしょう。
研修では、主に以下のような事項について説明を行います。

  • ハラスメントを行ってはならない旨
  • ハラスメントを行った者に対しては厳正に対処する旨
  • 被害者や告発者のプライバシー保護に必要な措置を取ること
  • ハラスメントの相談を行った者や、事実確認に協力した者に対する不利益取扱いを禁止すること

特に、管理職や人事を担当する従業員には、ハラスメントに対する意識を高めるための研修を行うと良いでしょう。

社内アンケートの実施

ハラスメントの有無を調べるには、社内アンケートの実施も有効です。「相談窓口は利用しづらい」という従業員も、アンケートであれば気軽に回答できる可能性があります。

また、回答者が躊躇しないよう、アンケートは匿名で実施するのが良いでしょう。秘密厳守とはいえ、氏名を明かすことで「不利益があるのではないか」「加害者から報復を受けるのではないか」などと不安を抱く者は少なくありません。

知っている情報をすべて提供してもらうためにも、回答者を特定できる方法は避けるのが望ましいでしょう。

ハラスメントが発生した際の対処法とは

ハラスメントが発生した際の対処法として、各ハラスメントに関する指針では、事業者に対して以下の措置を求めています。

  • ① ハラスメントに係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
  • ② 事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適切に行うこと。
  • ③ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること。
  • ④ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知・啓発すること。

ハラスメントが発生してしまったときの対応について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

再発防止のために企業が講ずべき措置

行為者に処分を下すだけでは、再び同じような事案が発生するおそれがあります。そこで、企業は再発防止策を徹底し、ハラスメント行為が行われないような職場づくりに努めることが重要です。

再発防止策の具体例としては、以下のようなものです。

  • ハラスメントを禁止する旨や、行為者は懲戒処分の対象となること等を、社内で改めて周知する
  • ハラスメント研修を実施する
  • パワハラ事案が発生したことを管理職に周知し、注意喚起を行う
  • 行為者への指導や面談を定期的に行い、レポートを提出させる
  • 職場環境の改善(コミュニケーションの活性化、長時間労働の抑制など)

なお、実際の事例を研修などで用いる際は、被害者や行為者のプライバシーに配慮したうえで行う必要があります。

ハラスメントに関する裁判例

事件の概要

セクシュアルハラスメントに関する事件を紹介します。


【平成11年(ワ)1052号 岡山地方裁判所 平成14年5月15日判決、岡山セクシュアル・ハラスメント事件】

原告は、X1、X2の2名で、共に女性で支店長でした。
被告は、Y1(専務)、Y2(代表取締役)、Y3(会社)の3名です。

Y1は、X1に対して「君を抱く」などと肉体関係を迫りましたが、X1はこれを拒否しました。
X2に対して、Y1はX1と肉体関係を持てるよう協力を要請するもX2はこれを拒否しました。
X1及びX2は、Y2に対し、Y1の行為を訴えたのですが、Y2は両名に対し、「X1がY1を挑発したのではないか。Y1に対し、隙はなかったのか。」などと差別的な発言をしました。

その後、Y1は、X1及びX2について「女」を使って仕事をしている等と虚偽の噂を流し、Y3は、X1、X2ともに支店長職を解任し一般社員に降格したことから、両名は退職しました。

裁判所の判断

原告らが、被告らに対し、損害賠償請求をしたところ、裁判所は、セクハラ行為を直接行ったY1についてX1に対する慰謝料200万円及び弁護士費用20万円並びにX2に対する慰謝料30万円及び弁護士費用3万円の賠償責任を、また、適切な対応をしなかったY3については、いずれも同額の賠償額について連帯責任を認めました。

ポイントと解説

本件のポイントは、セクハラ行為を直接行った者だけでなく、違法な処分を行ったとして会社にも同額の連帯責任を認めた点にあります。

裁判所は、会社は、原告らからセクハラの訴えがあった際に、事情聴取を行ったものの、事情聴取にあたった役員らは原告らの訴えの審議を公平な立場で聞く姿勢に欠けたものであり、原告らに対してなされた処分は、事実確認が不十分なままなされたものであると認定しました。また、裁判所は、会社が処分を下した後も、原告らが職場に復帰できなくなるほどに、職場環境が悪化することを放置したことも指摘しています。

このように、たとえ会社の組織に属する一個人の行為であったとしても、会社の対応が適切でないと、会社自体の責任が問われることもあるのです。

ハラスメントの防止・対応でお困りの際は弁護士にご相談ください

ハラスメントを未然に防ぐには、平常時からの取り組みが非常に重要です。

また、就業規則その他の服務規律を整え、どのような行為がハラスメントに該当するのか、ハラスメント行為に対する処分なども周知しておく必要があります。これらの手続きには専門知識を要することも多いため、弁護士のサポートを受けると安心です。

弁護士に相談窓口を委託することも可能なので、社内の負担を減らしつつ、ハラスメントを早期に発見・解決できる可能性があります。

弁護士法人ALGは、ハラスメントに関する講義なども行っており、企業法務に精通した弁護士が多く在籍しています。
お困りやお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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