労働基準監督署の調査とは?調査の流れや企業がとるべき対策

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の健康や安全を守るため、労働基準監督署は定期的に企業の調査を行っています。
また、一般的な調査だけでなく、労働者からの通報によって調査が行われるケースもあります。そのため、日頃から労務管理や安全対策を徹底しておくことが重要です。

本記事では、労働基準監督署による調査の流れやポイント、調査に向けた対策などを詳しく解説していきます。ぜひ参考になさってください。

労働基準監督署の調査とは?

労働基準監督署の調査とは、企業が労働関係法令を遵守しているか確認し、違反があった場合は是正させる手続きです。例えば、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、最低賃金法などの法令に違反していないか調べることになります。

なお、対象企業は労働基準監督署によって任意で選出されるため、法令を遵守していても調査対象になる可能性があります。いつ調査が来ても対応できるよう、書類や資料はしっかり保管しておきましょう。

なお、調査は「臨検監督」とも呼ばれ、以下の4つが含まれます。

  • 定期監督
  • 申告監督
  • 災害時監督
  • 再監督

それぞれどのような調査なのか、次項で解説していきます。

定期監督

当該年度の監督計画に基づいて事業所を選定し、定期的に調査を行う方法です。予告なく行われることが多いですが、予告の上で監督が行われる場合や、労基署に呼び出した上で監督が行われる場合もあります。

申告監督

労働者から労働基準監督署に対し、企業の労働法違反等に関する申告(労基法104条1項)がなされた場合に実施される調査です。
証拠隠滅などを防ぐため、予告なく行われるのが一般的です。また、申告者保護の観点から、申告監督であることも明らかにされないケースが多いです。

災害時監督

一定以上の規模の労働災害が発生した場合に、その原因究明及び同種災害の再発防止を進めるために行われます。

再監督

是正勧告を受けた事業所について、状況が改善されたか確認するための調査です。
ただし、是正勧告されたからといって必ず再監督が入るわけではありません。是正報告書を提出しないなど、対応に問題がある場合に実施されるケースが多いです。

労働基準監督署の立ち入り調査を拒否することはできるのか?

労働基準監督署の調査を拒否することは、基本的にできません。
労基署の調査権限は法律で定められているため、拒否すれば「強制捜査」の対象になり得ます。最悪の場合、逮捕や差押え、送検などのリスクもあるため、調査には必ず応じましょう。

また、調査の妨害や虚偽の申告などを行った場合、30万円以下の罰金を科されることもあります(労働基準法120条)。
どうしてもスケジュールが合わない場合や、抜き打ちで来られて担当者が不在の場合、調査日程の変更も可能です。決して無視せず、一度労基署に相談するようにしましょう。

労働基準監督署の調査では何を調べられるのか?

調査では、さまざまな書類や資料をもとに、企業が法令を遵守しているかどうかチェックされます。また、実施が義務付けられている措置をきちんと行っているかなども、調査の対象となります。

具体的な調査項目は、以下のようなものです。

調査対象 調査内容
労働時間
  • 36協定の締結、届出がされているか
  • 時間外及び休日労働の上限がまもられているか
  • タイムカードや出勤簿による労働時間の記録
  • シフト管理は適切か
労働条件
  • 労働契約書を締結しているか
  • 就業規則を作成、届出しているか
  • 就業規則が従業員にきちんと周知されているか
賃金
  • 最低賃金を下回っていないか
  • 残業代や休日手当の計算方法
  • 残業代や休日手当が支払われているか
  • 賃金台帳の管理
年次有給休暇
  • 「年5日間」の最低取得日数を守っているか
  • 取得日数の管理
  • 付与日数に問題はないか
安全衛生管理
  • 衛生管理者を選任しているか
  • 衛生委員会の設置と開催
  • 労働者のメンタルヘルスケア(長時間労働者への面談指導など)
  • 労災の防止措置
健康診断
  • 健康診断の実施状況
  • 健康診断結果の報告

労働基準監督署の立ち入り調査の流れ

労働基準監督署の調査は、以下の流れで行われるのが一般的です。

  1. 予告
  2. 調査
  3. 是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付

それぞれのステップを詳しくみていきましょう。

①予告

立ち入り調査の場合、事前に通知があるかどうかはケースバイケースです。
一般的には、証拠隠ぺいや偽装を防ぐため、予告なく抜き打ちで行われることが多いです。一方、書類の準備や担当者のスケジュール調整のため、あらかじめ日時を通知することもあります。

なお、労働基準監督署が「現地調査の必要はない」と判断した場合、立ち合い調査ではなく「呼び出し調査」が行われます。
呼び出し調査は、企業の担当者が労基署に出向き、ヒアリングや資料確認によって調査を行う方法です。あらかじめ企業に「出頭要求書」が届くため、指定された日時に労基署へ行く必要があります。

呼び出しを無視すると罰金を科されるおそれがあるため、日程が合わない場合は早めに労基署へ相談しましょう。

②調査

立ち入り調査では、労働基準監督署の監督官2名が、以下の流れで調査を行うのが一般的です。

  1. 労働関係帳簿などの書類の確認
  2. 担当者へのヒアリング(書類の不明点などを確認するため)
  3. 現場の視察や労働者へのヒアリング(実態把握のため)
  4. 口頭での指導や改善指示

調査項目は、労働時間、休日の有無や日数、賃金の計算方法、安全衛生対策などとなります。
また、調査にかかる時間は1~2時間が一般的です。ただし、書類に不備があったり、違反が多かったりすると、さらに長くなる可能性があります。

③是正勧告書・指導票・使用停止等命令書の交付

是正勧告とは、法令違反などが発覚した企業に対し、労働基準監督署が改善を求める手続きです。
立入り調査でも口頭の改善指示は行われますが、問題が重大だった場合、以下のような書面による指導も行われます。

  • 是正勧告書
    法令違反があった場合に発行する書面です。是正すべき点と、是正期限が記載されています。
  • 指導票
    法令違反とまではいえないが、改善が必要な場合に発行する書面です。
  • 使用停止等命令書
    問題が特に深刻な場合に発行する、法的拘束力のある書面です。例えば、設備に異常があり、事故や怪我のリスクがある場合などに発行されます。

また、以下の項目は是正勧告を受けやすいため注意が必要です。

  • 残業代未払い
  • 長時間労働
  • 36協定の未締結
  • 労働契約書の未締結
  • 就業規則の不備
  • 健康診断の未実施
  • 安全衛生対策の不備

労働基準監督署の是正勧告に従わないとどうなる?

是正勧告は「行政指導」なので、従わなくても罰則は設けられていません。そのため、仮に是正勧告を無視しても、罰金や懲役が科されることはありません。
しかし、労働基準監督署には強制捜査を行う権限があるため、あまりにも悪質だと逮捕・差押え・送検などが行われる可能性もあります。

もっとも、「是正勧告が行われた=法令違反がある」わけですから、放置すれば労働基準法違反などで処罰を受けることになるでしょう。また、労働者から損害賠償請求されるリスクもあるため、是正勧告には従うのが大前提です。

また、是正勧告書には「是正期限」も定められているため、必ず確認が必要です。

④是正(改善)報告書の提出

是正勧告を受けた企業は、適切な措置を講じたうえで、労働基準監督署に「是正報告書」を提出する必要があります。是正報告書には、以下の事項について記載するのが一般的です。

  • 指摘された違反内容や法条項
    例:労働時間の管理方法、過重労働による健康被害のリスク
  • 是正内容
    例:「タイムカードを導入し、労働時間を正確に把握するようにした」「残業の事前申告制やノー残業デーを設定した」
  • 完了日
    例:〇年〇月〇日より運用を開始

労働基準監督署の調査への対策

労働基準監督署の調査は予告なく行われる場合もありますので、日ごろから法令違反のないように意識する必要があります。また、調査の結果、労働基準監督官から問題点を指摘された場合には、誠意を持った対応を心がけることが重要となります。

調査で確認される書類を用意する

調査では、以下のような書類の提出を求められます。

  • 組織図
  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 就業規則
  • 労使協定
  • 出勤簿
  • 36協定届
  • 雇用契約書
  • 有給休暇の取得状況
  • 衛生管理者や衛生委員会の実施
  • 産業員の選任状況
  • 健康診断の記録

これらの資料は、最長2年分の提出を求められる可能性があります。日頃からしっかり保存・管理するようにしましょう。特に、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3つは、適切に保存していないと罰則を受けるおそれもあるため注意が必要です。

また、36協定や就業規則については、労基署に届け出た控えも用意しておきましょう。

調査前から改善に着手する

調査の有無にかかわらず、法令違反が発覚した場合は速やかに改善を図ることが重要です。法令違反を放置すると、調査で指導や是正勧告を受け、報告書の提出を求められる可能性があります。
また、労働者に法令違反を通報されると、「申告監督」の対象となるおそれもあります。

誠意を持った対応を心がける

調査や是正措置に従わないと、強制捜査の対象となる可能性があります。
調査で問題点を指摘された場合は、労働基準監督官とよくコミュニケーションをとり、是正方法についてアドバイスを受けるのも効果的です。

いつ調査に入られても問題のない体制づくり

いつ調査が入っても良いよう、日頃から法令順守を心がけましょう。
また、労働者が意見を出しやすい、風通しの良い職場にすることもポイントです。

労働者の声を聴くことで、法令違反の実態や隠れたリスクを把握できる可能性があるためです。また、すぐに状況が改善されれば、労働者から労働基準監督署へ通報されるのも防ぐことができます。

弁護士に相談・監査への立ち会いを依頼する

労働基準監督署の調査では、弁護士に立ち会ってもらうことも可能です。弁護士に立ち合いを依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  • 労働基準監督官の指摘が正しいか、法的に判断できる
  • 監督官への説明や交渉、反論などを任せられる
  • 問題点に対し、適切な改善方法を検討できる
  • 是正報告書の書き方についてアドバイスを受けられる

また、弁護士と顧問契約を締結しておけば、日常的に労務管理のアドバイスを受けることができます。例えば、契約書の内容をチェックしてもらえたり、法令違反にあたらないか判断してもらえたりするなど、多くのメリットがあります。
いきなり労基署の調査が入っても、焦ることなく臨めるでしょう。

労働基準監督署の調査に関するよくある質問

労働基準監督署の立ち入り調査は抜き打ちで行われますか?

立ち入り調査は、抜き打ちで行われることが多いです。
事前に日時を通知すると、その日だけ法令を守ったり、証拠を隠滅・偽装されたりするおそれがあるため、予告なく行われるのが一般的です。
ただし、書類の準備や担当者のスケジュール調整を考慮し、あらかじめ調査日時を通知することもあります。

要はケースバイケースですが、企業は抜き打ち調査に備え、日頃から労務管理を徹底しておくことが大切です。

労働基準監督署の定期調査はどれくらいの頻度で行われますか?

定期監督は、各都道府県の労基署で月10回程度行われています。厚生労働省の調査によると、1年間で全国の2%の企業が定期監督を受けているようです。
10年以上定期監督がない企業もあれば、前回調査から3~4年後に調査対象となる企業もあり、頻度はさまざまといえます。

労働基準監督署の調査の結果、是正勧告または指導となるケースを教えて下さい。

調査で“法令違反”が見つかった場合、「是正勧告」の対象となります。
是正勧告では、労基署から是正勧告書が発行され、指定された期日までに是正報告書の提出を求められます。
一方、法令違反にはあたらないものの、問題点や法令違反のリスクがある場合は、「指導」の対象となり指導票が発行されます。

是正勧告書や指導票に法的拘束力はありますか?

是正勧告書や指導票に、法的拘束力はありません。是正勧告は行政指導であり、罰則は適用されないためです。
もっとも、「是正勧告される=法令違反がある」ということですので、放置すれば労働基準法違反などで罰則を受ける可能性が高いでしょう。

労働基準監督署の調査でやってはいけないことはありますか?

調査を無視したり、非協力的な態度をとったりすることは控えましょう。あまりにも悪質な場合、強制捜査や逮捕・送検される可能性もあるため注意が必要です。

また、「調査なんて来ないだろう」と考え、労務管理を疎かにするのも危険です。調査は抜き打ちで行われることが多いため、いつでも対応できるよう、日頃から管理を徹底しておきましょう。

労務管理の方法がわからない場合や、法令違反がないかご不安な場合は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

労働基準監督署の調査への対応で不安な点があれば弁護士法人ALGまでご相談ください

労働基準監督署の調査は、しっかり準備しておけば焦る必要はありません。しかし、いつ来るかわからない以上、日常的な労務管理が非常に重要となります。
弁護士であれば、労基署の調査への対応はもちろん、適切な労務管理のアドバイスや法令違反のチェックなど、幅広くサポートすることができます。仮に調査で問題が見つかっても、その後の対応までサポートしてもらえるため安心です。

弁護士法人ALGは、400社を超える企業と顧問契約を締結しており、豊富な知識や経験、ノウハウを有しています。
お悩みやご不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士 合田 千真
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士合田 千真(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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