試用期間中の社員に問題があるときの対応

弁護士が解説する【試用期間中の社員に問題があるときの会社の対応】について

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

新たに社員を採用するとき、会社は試用期間を設けることがあるでしょう。しかし、試用期間中の社員に問題が生じたため、「本採用を拒否したい」、あるいは「試用期間を延長したい」といった事情が生じることもあります。このような場合、会社としてはどのような対応をすべきでしょうか。

試用期間中の社員に問題があるとき、会社はどう対応すべきか?

会社としては、以下いずれかの対応をとることが考えられます。

①試用期間の延長
②試用期間の満了に伴う本採用の拒否(留保解約権の行使)
③試用期間中における解約権行使(留保解約権の行使)

試用期間中の社員と会社の関係

試用期間中の社員と会社は、「解約権留保付労働契約」の関係にあると考えられています。
これは、通常の労働契約関係と異なり、「使用者に解約権を留保されている」という特別な労働契約関係にあるということです。

試用期間中の注意点については、以下のページもご覧ください。

試用期間中に問題視されやすい要因とは?

試用期間中に問題となりやすいのは、以下のような点です。

  • 成績不良
  • 能力不足
  • 欠勤・遅刻・早退等の勤務態度の悪さ
  • 協調性の欠如
  • 指示・命令違反
  • 経歴詐称

これらの問題が発生したときの対応は、以下のページをご覧ください。

問題社員の試用期間を延長することは可能?

試用期間の延長は、基本的に認められません。しかし、就業規則等で延長の可能性について定めていた場合には、例外的に延長が認められると考えられています。
もっとも、この場合も、試用期間の延長が無制限に認められるわけではありません。

延長が認められる基準とは?

試用期間が満了した者については、基本的に本採用する必要があります。
そのため、試用期間の延長は例外的な措置であり、会社が就業規則等で試用期間の延長について定めていたとしても、その適用を「首肯できるだけの合理的な事由」がないと延長は認められないとされています(大阪高等裁判所 昭和45年7月10日判決)。

具体的には、試用期間中に適切な指導・教育を行ったにもかかわらず、その社員が業務に必要な能力を身に着けることができなかった場合、更なる指導・教育を行うために試用期間を延長するケースなどが考えられます。

試用期間中の解雇(解約権の行使)は法的に認められるのか?

試用期間中に社員を解雇する(解約権を行使する)場合も、本採用を拒否する場合と同様に、客観的に合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当といえることが必要です。

もっとも、試用期間中の解雇は、試用期間の満了を待たずに本採用を拒否するものですので、相応の合理的な理由がなければ認められないと考えられており、本採用の拒否に比べてハードルが高くなっています。

解雇時の注意点は、以下のページでさらに詳しく解説しています。

本採用を拒否したい場合は?

本採用の拒否は、解約権留保の趣旨やその目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合に認められます。

本採用拒否の理由としては、成績不良、能力不足、欠勤・遅刻・早退等の勤務態度の悪さ、協調性の欠如、指示・命令違反、経歴詐称等が挙げられますが、本採用を拒否する“合理的な理由”があるかは、これらの行為の程度、回数、会社の指導状況等から判断されます。

本採用を取り消す際の注意点は、以下のページもご覧ください。

不当な処分を行うことのリスク

会社が、合理的な理由もなく本採用を拒否するなど不当な処分を行った場合、当該労働者に社員としての地位を認めなければならない可能性があります。
また、損害賠償責任を負うリスクや、社会的な信用を低下させるリスク等がありますので、処分については慎重に行う必要があります。

試用期間の延長・解雇を行う際の注意点

使用期間の延長・解雇を有効に行うためには、どのような点に注意すべきでしょうか。以下の3点について、適切な対応を説明していきます。

  • 指導・教育の程度
  • 弁明への対応
  • 能力不足の判断方法

どのような指導・教育が必要か

「能力不足」により本採用を拒否するには、試用期間中に適切な指導・教育を行ったにもかかわらず、社員がそれを習得することができなかったという事情が必要です。

適切な指導・教育がどの程度のものなのかについては、会社の業種・規模、その社員の業務内容等に照らして個別的に判断されることになるでしょう。

弁明はどの程度まで受け入れるべきか?

社員の言い分を聞かずに解雇すると、不当解雇とされる可能性が高くなってしまいます。そのため、解雇するかどうかは、社員の言い分も聞いたうえで判断するのが望ましいといえます。

もっとも、本採用後の解雇に比べると、本採用の拒否は緩やかに認められると考えられていますので、拒否事由があるのに安易に弁明を認めて本採用してしまうと、結果的に解雇が難しくなる可能性があります。そのため、弁明を受け入れるかどうかは慎重に判断すべきでしょう。

能力不足はどう判断するか?

能力不足で本採用を拒否、または解雇すると、当該処分の有効性が争われ、訴訟に発展する可能性があります。
訴訟では、「会社による適切な指導・教育がなされていたか」が重要なポイントとなります。具体的には、適切な指導・教育を経ても能力が欠如しているかどうかという観点から、本採用の拒否、または解雇の有効性が判断されることになります。

よって、会社としては、試用期間中の社員に適切な指導・教育を行ったうえで、以下の点から能力不足について判断する必要があります。

  • 当該社員が、試用期間中に職務を行うための能力を得ることができたかどうか
  • そのような能力を得ることができていない場合、今後の教育により改善の見込みがあるか否か

能力不足の社員に対する対応は、以下のページで解説しています。

試用期間の延長・解雇に関する裁判例

本採用の拒否に関する判例として、三菱樹脂事件(最高裁 昭和48年12月12日大法廷判決)があります。

事件の概要

Xは、大学卒業後にY社(三菱樹脂)に採用されましたが、以下の理由から、3ヶ月の試用期間満了直前に本採用しない旨の告知を受けました。

  • Xは、在学中に大学学友会生活部員から選出される「大学生活協同組合の理事・組織部長」を務めていたが、学外団体委員の経験は「なし」と記載していたこと
  • 全学連に加盟していた学生自治会の役員の経験もあり、安保反対闘争を含む学生運動に参加したこともあったが、学内諸団体委員の経験は「なし」と記載していたこと
  • 面接時の質疑にて、「学生運動には興味がない。生活部が忙しく、実際公道も、なにも、やっていない」と答えたこと

Y社は、このような虚偽の申告をする者は管理職要員としての適格性を欠くとして、Xの本採用を拒否しました。

争点

Y社の行ったXに対する本採用拒否の有効性が問題となりました。

裁判所の判断

(1)試用期間の性質

試用期間の性質について、最高裁は、就業規則の規定の文言のみならず、当該会社内における試用契約中の社員に対する処遇の実情、特に本採用との関係における取扱いに関する“事実上の慣行”をも重視すべきであるとしました。そのうえで、Y社の以下の慣行的実態を踏まえ、XとY社との雇用契約を「解約権留保付の雇用契約」であると判断しました。

  • 大学卒業の新規採用者を、試用期間終了後に本採用しなかった事例はかつてないこと
  • 雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ、本採用にあたり当人の氏名、職名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと

そして、Xに対する本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、通常の雇入れ拒否の場合とは同視できないと判示しました。

(2)留保解約権の有効性

XとY社との間の雇用契約では、試用期間中にXが管理職要員として不適格と認められたときは解約できる旨の特約上の解約権が留保されていたことが認定されています。

また、このような解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初はその者の資格、性格、能力等の管理職要員としての適格性の有無に関連する事項を十分に調査・判定することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるとしました。そのうえで、このような解約権の留保も、今日の雇用実情にかんがみると、一定の合理性を持つものとして有効と判断しました。

(3)留保解約権に基づく解雇の有効性についての判断基準

Y社に有効な解約権が留保されていることからすると、当該留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲で有効性が認められるとしました。

一方で、最高裁は以下の点を指摘し、留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨や目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当といえる場合のみ許されると判示しました。

  • 法が企業者の雇用の事由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨
  • 雇用契約の締結に際しては、企業者が一般的に個々の労働者よりも社会的に優越した地位にあること
  • いったん特定の企業との間に一定の試用期間を付した雇用関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇用関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであること

(4)結果

Y社の留保解約権に基づく解雇が“合理的な理由”を有しているかどうか判断するには、以下の点を明らかにする必要があるとしました。

  • Xの秘匿の事実の有無
  • 秘匿した事実の内容(特に違法行為の有無)
  • 態様、程度及び秘匿の動機

また、当該秘匿がXの入社後の行動、態度の予測やその人物評価に及ぼす影響を検討して、それが採否決定に有する意義と重要性を勘案したうえで、それらを総合して合理的理由の有無を判断する必要があるとしました(なお、差戻審にて和解が成立し、Xは職場復帰しています)。

ポイント・解説

(1)試用期間の性質について

試用期間の性質については、種々の事情を考慮したうえで、個別的に判断する必要があることが示されました。そのうえで、本件の事情からすれば、XとY社は「解約権留保付の雇用契約」であると判断されました。

これを踏まえると、試用期間が満了した際に本採用を拒否した事例がなく、また、本採用にあたって新たに雇用契約書を作成する等しておらず、辞令を交付するのみというような運用をしている会社では、本件のY社と同様に「解約権留保付の雇用契約」と判断される可能性が高いでしょう。

(2)留保解約権の有効性について

Y社の留保解約権の留保について、大学卒業者の新規採用では、採否決定の当初は十分な調査や判断を行うことができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるとし、今日の雇用実情を理由に合理性を認め、有効としました。

注意が必要なのは、本判示の射程は大学卒業者の新規採用のみに及ぶものであり、中途採用や高卒者の新規採用などの場合には射程は及ばないと考えられる点です。

また、「今日の雇用実情」、すなわち、新卒一括採用制度を前提とした判示であるため、新卒一括採用制度が廃止された現在においても同様に当てはまるのかは検討が必要と考えられます。

(3)留保解約権に基づく解雇の有効性についての判断基準について

留保解約権の行使による解雇は、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められるとしましたが、同時に、一般基準として、留保解約権の行使に客観的合理性・社会的相当性が求められました。

そのため、使用者は、留保解約権に基づく解雇の合理性を基礎づけることができる具体的根拠や十分な事実を示す必要があるといえます。

試用期間の延長及び解雇を検討される際は弁護士にご相談ください。適切な対応方法や注意点についてアドバイスいたします

(1)試用期間の延長について

試用期間が満了した場合、基本的に会社は当該社員を本採用しなければなりません。例外的に、①就業規則等で試用期間の延長について定めており、②その適用を「首肯できるだけの合理的な事由のある場合」という要件を満たした場合、試用期間の延長が認められると考えられています。

よって、会社としては、就業規則に試用期間の記載があるか、その規定が十分なものかを確認することが重要です。そのうえで、試用期間の延長を適用できる合理的な理由があるか否かについて検討し、試用期間の延長の可否を判断することになります。

(2)解雇について

会社が試用期間中に解雇する場合、あるいは、試用期間の満了に伴い本採用を拒否する場合には、①当該解雇に客観的に合理的な理由があるか否か、②当該解雇が社会通念上相当といえるかどうかを判断する必要があります。

(3)弁護士への相談

「就業規則へはどのように記載すべきか」、「試用期間の延長をできる合理的な理由があるか」、「解雇に客観的に合理的理由があり、社会通念上相当といえるか」等の判断は、専門的な知識や経験が必要となってきます。また、早い段階から弁護士に相談しておくことで、紛争の予防につながりますし、実際に紛争になってしまった場合にも有利な解決ができる可能性が高まります。
試用期間の延長及び解雇を検討される際は、お早めに弁護士へご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士 髙木 勝瑛
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士髙木 勝瑛(東京弁護士会)
弁護士 東條 迪彦
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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