割増賃金の算定から除外される賃金

弁護士が解説する【割増賃金の算定から除外される賃金】について

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社は、従業員が時間外労働等に従事した場合には、労働基準法に定められた割増率にしたがって割増賃金を支払う必要があります。そして、割増賃金の算定にあたっては、基礎賃金の算出が必要となりますが、基礎賃金からは一部の賃金や手当を除外することができます。

ただし、除外可能な賃金・手当は労働基準法で限定的に定められているため、事業主はきちんとその内容を理解しておく必要があります。
万一、基礎賃金の算出の判断を誤ると、割増賃金の計算にミスが発生し、労働者とトラブルになるおそれがあるため注意が必要です。

本記事では、割増賃金の算定から除外できる賃金や手当の種類、除外の判断基準、判断を誤った場合のリスクなどを詳しく解説していきます。

割増賃金の計算で除外できる賃金・手当とは?

割増賃金を計算する際は、「1時間あたりの賃金額(基礎賃金)」を求める必要があります。

基礎賃金は労働者の賃金額に応じて算出しますが、賃金には「労働と直接的に関係のない個人的な事情に基づいて支払われる手当」なども含まれるため、支給される手当等をすべて基礎賃金として考慮するのは適切ではありません。

そこで、労働基準法37条5項および同法施行規則21条では、基礎賃金から除外できる手当として以下のものを定めています。

  • ①家族手当
  • ②通勤手当
  • ③別居手当
  • ④子女教育手当
  • ⑤住宅手当
  • ⑥臨時に支払われた賃金
  • ⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらの費目が基礎賃金から除外される根拠について、次項から詳しくみていきます。
なお、割増賃金の算定方法について知りたい方は以下のページもご覧ください。

①家族手当

割増賃金の基礎から除外できる家族手当は、以下のように定義されています。

「扶養家族の人数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」

つまり、扶養家族の人数に応じて支給されている手当のみ、基礎賃金から除外することが可能です。例えば、配偶者に対して「月10,000円」子供1人に対して「5,000円」などと定めているケースが考えられます。

また、除外の可否は“名称”ではなく“実態”に即して判断するため、「生活手当」や「扶養手当」「子供手当」などの名称であっても、家族数に応じて支払われていれば除外対象となる可能性があります。

除外されないケース

割増賃金の算定で除外できるのは、「家族の人数に応じて支払われる手当」のみです。よって、以下のような手当は除外することができません(昭和22年11月5日基発第231号、昭和22年12月26日基発第572号)。

  • 家族の人数に関係なく一律で支払われる手当
  • 扶養家族がいる者全員に対して一律に支払われる手当

そもそも、一定の「家族手当」を割増賃金の算定から除外することが許容されている趣旨は、家族の人数など、労働とは直接関係ない“労働者の個人的な事情”まで考慮すると、他の労働者との公平性を欠くと考えられるためです。

しかし、上記の2つの手当は“労働者の個人的な事情”に基づくものとはいえないため、除外可能な手当には含まれないとされています。

同様の趣旨から、例えば、「家族手当」という名称であっても、社員間の均衡上独身者にも一律で支給している部分や、支給額を「家賃の〇%」などと定めている場合、割増賃金の算定から除外することはできません。

②通勤手当

割増賃金の基礎から除外できる通勤手当とは、以下のように定義されています。

「通勤距離又は通勤に要する実際の費用に応じて算定される手当」

よって、労働者ひとりひとりの通勤経路に応じて支給されるものであれば、割増賃金の算定から除外できます。例えば、3ヶ月分の定期券代に相当する額を個別に計算・支給している場合や、後から実費を支給している場合は除外が可能です。

除外されないケース

通勤に要した費用や通勤距離などに関係なく全員に一律で支払われる手当については、“労働者の個人的な事情”によるものとはいえないため、割増賃金の算定から除外することはできません。
例えば、「通勤手当は一律で月10,000円を支給する」などと就業規則等で規定している場合です。

また、同様の趣旨から、一定額までを全員一律で通勤手当として支給しているような場合、一定額部分に関しては割増賃金の算定に含める必要があります。

③別居手当

割増賃金の基礎から除外できる別居手当は、以下のように定義されています。

「転勤などの異動命令により、扶養家族との別居を余儀なくされる労働者に対して支払う手当」

別居手当は、世帯が分かれることによる生活費の増加を補うことを目的としており、「単身赴任手当」と呼ばれることもあります。“扶養家族の有無”という労働者の個人的な事情によって支給の可否が決まるため、割増賃金の算定から除外が可能です。

④子女教育手当

子女教育手当は、労働者の子供の教育費を補助するために支給される手当です。「子ども手当」や「教育手当」と呼ばれることもあります。

子女教育手当は、子供の人数や教育段階(小学校・中学校・高校)によって支給額を決めるなど、支払い基準が明確な場合は割増賃金の算定から除外できます。

一方、子供がいる労働者全員に一律で支給しているような場合は、除外できないのが基本です。

⑤住宅手当

割増賃金の基礎から除外できる住宅手当とは、労働者が居住する住宅に要する費用を補助するために支給される手当です。賃料額やローン額に比例して変動する手当に限り、除外賃金の対象となります(平成11年3月31日基発第170号)。

また、住宅費用を段階的に分け、各段階に応じた金額を支給する場合も、割増賃金の算定から除外できるとされています。

除外されないケース

住宅手当のうち、以下のものは割増賃金の算定から除外することはできません。

  • 住宅の形態ごとに一律に定額で支給されるもの
  • 住宅以外の要素(扶養家族の有無、等級など)に応じて定率又は定額で支給されるもの
  • 全員に一律に定額で支給されるもの

例えば、「持ち家は月3万円、賃貸は月2万円」など、形態のみによって支給額を定めている場合は除外できないのが基本です。
また、子供の数が多いほど、等級が高いほど支給額を上げるなど、住宅以外の要素を考慮している場合も除外することはできません。

⑥臨時に支払われた賃金

臨時に支払われた賃金とは、以下のものをいいます。(昭和22年9月13日基発17号)

  • 臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの(例:私傷病手当、加療見舞金)
  • 支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの(例:結婚手当、退職金)

なお、臨時勤務により一時的に一律支給した手当についても、割増賃金の算定から除外できるとされています。また、創立記念日などに特別に支給される手当なども同様です。
そのほか、店舗の売上目標達成率に応じて支払われる“業績給”についても、その発生が不確実だとして「臨時的に支払われた賃金」と認められた事案もあります。

除外されないケース

臨時的なものでも、ある程度の頻度で支給される手当については、割増賃金の算定から除外することはできないとされています。

例えば、皆勤手当や無事故手当など、労働者の勤務実績に応じて支払われる賃金です。これらは本人の努力次第で毎月支払われる可能性があり、支給が稀なものとはいえないため、割増賃金の算定からは除外できないのが基本です。

もっとも、“臨時的”という明確な基準はないため、除外可能かどうかはケースごとに判断されます。
実際の裁判例でも、精勤手当が労働者の出勤成績に基づいて支給されるものであり、その発生が不確定であることから、「臨時に支払われる賃金」として認められたものがあります。(平30(ワ)384号 大阪地方裁判所 令和元年11月21日判決)

⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金としては、「賞与」や「ボーナス」が代表的です。
また、1ヶ月を超える期間の実績によって支給される「精勤手当」「勤続手当」「能率手当」なども該当します。

これらが割増賃金の算定から除外される理由は、毎月支給される性質のものではなく、支給額が必ずしも確定していないため、割増賃金の算定基礎に参入するのが計算技術上困難だからです。

他方で、上記の除外の趣旨に鑑みて、「賞与」という名称でも、以下のようなものは割増賃金の算定から除外することはできません。

  • 定期的に支払われるもの
  • 支給額があらかじめ確定しているもの
  • 毎月の給与と賞与の合計額を、年俸として定めている場合

賞与の支払いルールについては、以下のページで詳しく解説しています。

割増賃金の算定を誤るとどのようなリスクがあるか?

割増賃金の計算を誤ると、未払い残業代が発生し、労働基準法違反となる可能性があります。残業代の未払いに対しては、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が設けられています(労働基準法第119条第1号、第37条)。

また、労働者から未払い残業代を請求されるなど労働トラブルに発展する可能性もあります。
なお、賃金の未払いについては、「遅延損害金」(労働者が退職した後の遅延損害金は年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項))も発生するため、支払いが遅れるほど企業の経済的負担も大きくなります。

さらに、未払いの態様が悪質と判断された場合は、裁判所から「付加金」の支払いを命じられることもあります。
付加金とは、賃金を支払わないなど悪質な使用者に対する“制裁金”のことです。また、付加金額は「未払い金と同額」まで認められるため、付加金の支払いを命じられると企業の損失は多大なものになります。

このように、割増賃金の算定ミスにはさまざまなリスクがあるため、企業は慎重に対応する必要があります。

なお、遅延損害金や付加金の詳細は、以下のページで解説しています。

就業規則に除外賃金の規定を設ける必要性

除外賃金に該当するか否かは、“名称”ではなく“実態”によって判断されます。
そのため、会社としては割増賃金の基礎から除外する「家族手当」や「通勤手当」として支払う意図であっても、労働者の個人的事情と関係なく、一律に労働者に支給しているなどの事情がある場合には、除外賃金として認定されない可能性があります。

本来割増賃金の算定から除外することができない手当等を除外してしまうと、割増賃金の計算でミスが生じ、未払い賃金が発生するおそれがあるため注意が必要です。

そこで企業は、手当が除外対象の賃金と認められるための体制を整備しておくことが重要です。例えば、「家族手当」の場合、「18歳未満の子一人につき月額〇円」といった文言を就業規則に記載しておくと良いでしょう。

割増賃金の除外賃金の妥当性に関する裁判例

【昭54(ワ)101号、昭55(ワ)20号 奈良地方裁判所 昭和56年6月26日判決、壺阪観光事件】

事件の概要
タクシー及び観光バスによる旅客運送事業を営む企業に雇用されていた労働者は、会社より「家族手当」、「通勤手当」、「乗客サービス手当」、「特別報奨金」などの賃金・手当を支給されていましたが、未払い賃金があるとして会社に対して訴訟を提起した事案です。
裁判では、これらの賃金・手当が割増賃金の基礎となるかどうかが争点となりました。

裁判所の判断
裁判所は、割増賃金算定の基礎となる賃金・手当にあたるかどうか(除外賃金該当性)の判断において、除外賃金に該当するものは、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金・手当に限定されるとしました。

また、これらの賃金・手当の名称のみにとらわれず、労働者の一身的諸事情の存否や労働時間の多寡にかかわらず一律に支給されているものについては、除外賃金にはあたらないと判示しました。

この基準に基づき、裁判所は、本件で争いとなっている各手当は、以下の理由から除外賃金に該当しないと判断しました。

  • 「家族手当」、「通勤手当」→労働者各自の個別的事情にかかわらず、無条件で一律に一定額支払われているものであるため
  • 「乗客サービス手当」→①から⑦の除外賃金いずれにも該当せず、かつ、一定の不行跡がない限り、原則として支給されるものであるため
  • 「特別報奨金」→1ヶ月の売上げが一定水準に達した者すべてに対して、一律一定に支給されるものであるため

ポイント・解説
この裁判例からも分かるように、除外賃金に該当するためには、➀家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金・手当のいずれかに該当するだけでなく、労働の内容や量とは関係ない“労働者の個人的事情”によって支給される賃金・手当であることが必要です。

また、労働者各自の個別的事情に関係なく、一律に支給される賃金・手当については、その名称にかかわらず、除外賃金に該当しないと判断されています。このことから、除外賃金該当性は、賃金・手当の実質が重要視されるとご理解いただけるでしょう。

割増賃金の除外賃金に関する質問

管理職への役付手当や役職手当は割増賃金の算定から除外できますか?

管理職への役付手当や役職手当は、労働基準法37条5項及び労働基準法施行規則21条が規定する“除外賃金”に該当しないため、割増賃金の算定から除外することはできません。

管理監督者の残業代の取扱いについては、以下のページで解説しています。

営業手当は割増賃金の算定から除外できますか?

営業手当は、労基法37条5項及び労規則21条1号が規定する除外賃金に該当しないため、割増賃金の算定から除外することはできません。

ただし、営業手当が「固定残業代」として支払われていた場合、これを割増賃金算定の基礎に加えると割増賃金の二重評価につながってしまうため、割増賃金の算定から除外することができます。

在宅勤務手当は割増賃金の算定から除外できますか?

在宅勤務手当は、基本的に割増賃金の算定から除外することはできません。
ただし、厚生労働省の通達によると、在宅勤務手当が「実費弁償」にあたる場合は例外的に割増賃金の算定から除外できるとしています。実費弁償と認められるには、以下の2つの基準を満たす必要があります。

  • 就業規則などで実費弁償分の計算方法が明示されていること
  • 在宅勤務の実態(勤務時間など)を踏まえた合理的・客観的な計算方法であること

また、計算方法としては以下のものが挙げられています。

  • 国税庁で示されている計算方法
  • 国税庁で示されている計算方法の一部を簡略化した計算方法
  • 実費の一部を補うものとして支給額の単価をあらかじめ定める方法

なお、従前から支給してきた在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎に含まれるものとしていたにもかかわらず、運用を変更して在宅勤務手当を算定基礎から除外することは「労働条件の不利益変更」にあたる可能性があるため、労使間でしっかり協議のうえ決定する必要があります。

割増賃金から除外可能な手当については弁護士へご相談ください

割増賃金の算定においては、一部の賃金や手当を計算から除外することができます。ただし、除外可能な賃金や手当は限定されているため、会社としては適切に制度内容を理解し、割増賃金を正確に計算することが重要です。

しかしながら、割増賃金の算定等においては、労働法に関する専門知識が必要不可欠です。そこで、適切な割増賃金の支給体制の整備にあたっては、労務問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士であれば、自社の手当が除外対象となるか法的に判断し、リスクを未然に防ぐことができます。また、割増賃金の計算もチェックできるため、幅広いサポートが可能です。

弁護士法人ALGは、企業法務の実務経験がたいへん豊富ですので、割増賃金の算定についてお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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