役員(取締役)の不正行為に対する対応

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社の役員(取締役)は、会社の業務執行の要であり、その責任が大きい一方、会社から、業務執行にかかる権限や裁量については、一般の従業員に比べ、かなり広く与えられているものです。
そのため、役員が起こす不祥事については、一般の従業員が起こすものよりも、会社にとって深刻な事態に発展しやすく、対応を誤ると、会社の存続を揺るがしかねない状況に追い込まれるケースもあります。

今回は、そのような役員が起こす不祥事をテーマに、初動対応から再発防止策について、確認していきたいと思います。

役員(取締役)の不正行為が発覚した際の対応

役員の不正行為が発覚した際の対応については、大まかに、以下のような流れで対応することとなります。

  1. 初動対応(事実調査、資料の保全等)
  2. 対応検討(処分や責任追及の内容検討)
  3. 処分の実施(役員解任や損害賠償責任の追及)
  4. 再発防止措置の検討・実施

会社は、これらの内容を、ゆっくり検討することはできず、速やかに実施していかなればなりません。

以下、それぞれの対応について、ポイントを解説していきます。

初動対応のポイント

まず、初動対応において何よりも重要なことは、適切な事実把握です。
なぜなら、会社が不祥事の内容を誤って把握してしまうと、その後の対応がすべて徒労に帰してしまうおそれがあるためです。

実施すべき事実把握としては、通常、大枠を把握するために、関係者への聞き取りから始め、その内容を裏付ける客観的資料の収集という流れで実施します。
その後も、必要に応じて関係者への聞き取りを実施し、不祥事の詳細まで把握していくこととなります。

なお、関係者への聞き取りについては、録音や議事録を残しておくほか、収集した客観的資料は、後から破棄されたり編集されたりしてしまわないよう、隔離して保存しておく等の保全措置をしておくべきでしょう。

○関係者への聞き取り

○客観的証拠による裏付け

○関係者への聞き取り


(事実関係が十分に把握できるまで繰り返し)

社外に向けた公表は必要か?

役員の不祥事が、あくまで社内的な問題にとどまる場合には、別段社外に向けて公表をする必要はないでしょう。
しかしながら、上場企業での不祥事については、法令等により開示が義務付けられるケースもあります。

また、非上場の企業においても、顧客や取引先との関係において、責任追及を回避ないしその範囲を小さくするために、公表した方がよいと考えられる場合もあります。

社外への公表については、実施する場合は早い方が望ましいですが、思わぬ波及が生じる可能性もありますので、早い時点で専門家へ相談すべきでしょう。

不正行為を調査するうえでの注意点

初動対応においては、適切な事実の把握が何よりも大切であると解説しましたが、“適切な”事実の把握にはいくつかのコツがあります。

関係者の利害関係や人間関係を把握しておく
まず、聞き取り調査を実施する際には、その聞き取り調査を実施する者や聞き取り調査を受ける者と、不祥事を起こした役員との利害関係や人間関係を把握しておくべきです。
とある会社では、職務上中立的な立場にある監査役が、不祥事を起こした役員と個人的な関係がある等して、当該役員をかばうような行動に出たようなケースも見られました。

内部的な資料と外部的な資料とを分けて整理する
また、客観的な資料を収集する際には、外部に公表されている資料(事業報告や各計算書類等)と、内部で保管されている資料(メールや領収書等)との違いを意識して収集する必要があります。
役員の不祥事が絡む調査においては、専ら内部的な資料が有力な手掛かりになるため、その収集に注力すべきですが、うまく隠ぺいされているケースもあるため、外部的な資料から、その手掛かりを探すことを意識すべきでしょう。

役員のパソコンの無断使用について

内部資料としてもっとも有力な証拠の一つが、やはり不祥事を起こした役員のパソコンデータでしょう。
特に、関係者とのメールのやり取りは、不祥事の有無やその内容を明確にする決め手となるような資料となりますので、是非とも収集したい資料のひとつです。

しかしながら、パソコン内の情報を収集する際には、当該パソコンが会社の所有物であっても、そのプライバシーに配慮し、慎重な対応が求められています。
どこまでパソコン内の情報収集ができるかは、パソコン内の情報収集の必要性や、侵害されうるプライバシーの度合いを踏まえ、会社の情報機器の取り扱いに関する各規程を十分に検討し、慎重に判断していく必要があるでしょう。

役員の不正行為に対して会社ができる請求

これまで述べてきた初動対応を踏まえ、問題となる役員に対し、どのような対応をすべきかを検討していきます。
そこで、会社が、不祥事を行っている役員に対し、どのような対応をとることができるかについて、簡潔に解説していきたいと思います。

役員の解任

まず、行われた不正行為が重大である場合、速やかに役員の解任を検討すべきです。
役員の解任は、株主総会の決議によって行う必要がある(会社法339条1項)ため、臨時株主総会を開催し、解任決議をとりましょう。

もし、問題となる役員が一部の株主を抱え込んだりして、解任決議が否決されてしまった場合には、株主は、役員の解任の訴えを裁判所に請求することができます(会社法854条)。

なお、役員の解任の訴えは、解任決議が否決された株主総会の日から30日以内に実施する必要があるため、迅速に準備をする必要があることに注意が必要です。

違法行為の差止め請求

役員が違法な不正行為をやめない場合、株主は、かかる不正行為の差止めを請求することができます(会社法360条)。
なお、裁判所に対して、不正行為の差止めを請求する場合には、具体的な不正行為を特定する必要があります。

職務執行停止の仮処分

役員に対して、解任の訴えを提起したものの、当該役員が不正行為をやめないような場合に、違法行為の差止めだけでは対応できないような場合には、職務執行停止の仮処分(民事保全法23条2項)を検討すべきです。
認められる要件は厳しいものの、役員の職務執行を停止させることができるため、会社の役員としての職務執行一切を阻止することができるようになります。

役員の不正行為に対する責任追及

役員に対しては、その不正行為をやめさせるための請求のほか、不正行為によって会社に生じた損害を賠償させることも検討しなければなりません。

会社は損害賠償責任を負うのか?

まず、代表取締役が、その不正行為により第三者に損害を生じさせた場合には、会社は、その損害を賠償する責任を負います(会社法350条)。
また、問題となる役員が代表取締役でない平取締役であっても、会社として、当該役員の職務執行について監督できていなかったような事情があれば、会社自体が損害賠償責任を負い得るものと考えられます(民法709条)。

監査役への責任追及について

なお、監査役については、その職務が「取締役の職務執行を監査すること」(会社法381条)にあることから、監査役が適切な監査をしていたのであれば、不正行為を未然に防げたことが明らかなような場合には、監査役が責任追及を受けることも考えられます。

役員(取締役)への訴訟を提起できるのは誰か?

役員に対する責任追及を会社が行う場合、監査役設置会社では、監査役が会社を代表することとなります(会社法386条)。

監査役を設置していない会社については、原則として、代表取締役が会社を代表することとなりますが、代表取締役自身に責任を追及する場合等、代表取締役が会社を代表することが不適切な場合は、株主総会で会社を代表する者を定めることができます(会社法353条)。

「株主代表訴訟」について

会社が、役員に対して責任追及をしない場合には、株主が会社を代表して、役員等に対する責任追及を訴え出ることができるとされています(会社法847条)。

その他会社がとり得る処分

これまで検討してきた解任や責任追及以外に、会社としては、役員の減俸処分が検討できます。
もっとも、不正行為があったことのみをもって、一方的に役員報酬を減額することはできない点に注意が必要です。

再発防止に向けて会社が講じるべき措置とは?

会社としては、発生した不祥事の原因を解明し、その原因が改めて生じないような対策を講じる必要があります。

講じるべき対策の内容については、ケースバイケースですが、不正行為は密室で行われることも多いため、業務内容の“見える化”を意識した対策が効果的なものといえるでしょう。

役員(取締役)の不正に関する裁判例

これまで、役員の不祥事に対する対応を検討してきましたが、会社が適切な対応をとらなかったことについて、株主代表訴訟が提起されてしまった「ダスキン株主代表訴訟事件」を紹介します。

事件の概要

株式会社ダスキンは、ミスタードーナツを運営する会社であったところ、ミスタードーナツにおいて、当時食品衛生法上認可されていない添加物を使用した商品を発売してしまいました。
本件では、かかる商品を販売し、役員等が会社の不祥事を把握した後、不祥事を積極的に公表しなかった等、適切に対応しなかったことに責任が生じるかが争点のひとつとなったものです。

裁判所の判断

第1審:大阪地方裁判所 平成16年12月22日判決
第2審:大阪高等裁判所 平成18年6月9日判決

第1審では、役員らが不祥事を把握した時期からして、会社に生じた損害の発生を未然に防ぐことができなかったとして、その責任を認めない判断をしました。
しかし、第2審では、以下のとおり判示して、被告となった役員ら全員に、損害賠償責任を認めました。

未認可添加物の「混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があったことも明らかである。これを怠るならば,厳しい社会的な非難を受けると共に消費者の信用を失い,経営上の困難を招来する結果となるおそれが強い」
引用元:大阪高等裁判所 平成17年(ネ)第568号 損害賠償請求控訴事件 平成18年6月9日

ポイント・解説

本件においては、おそらく、株式会社ダスキンの事業規模や社会的影響力の大きさを前提に、マスコミに公表されてしまった場合のリスクの大きさを認識していたにもかかわらず、それを軽視した経営判断がなされていること(社外取締役から、マスコミに先行して公表すべきことを内容とする提言があったのに、それを取り上げなかったこと等)から、上記のような厳しい判断がなされたものと考えられます。

一般的には、経営判断として不祥事を公表しなかっただけでは、上記のような損害賠償責任が認められるものではないと考えられますが、会社が遂行する事業の影響力や不祥事の内容から、役員が厳しい判断を迫られることがあり得ることを、認識いただくべきでしょう。

役員(取締役)の不正行為への対応に関するご相談は、企業法務に精通した弁護士にお任せください

役員の不正行為については、会社の根幹を揺るがしかねない深刻な事態に発展する可能性が大いにあります。
会社の役員につき、不審な動きがみられた場合には、なるべく早い段階で、企業法務に精通した弁護士に相談すべきでしょう。

弁護士法人ALGでは、企業法務事業部を設けており、企業法務に関する事件を集中的に取り扱っています。些細なことと思われる不明点等もお気軽にご相談いただけますので、ぜひ一度お問い合わせください。

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執筆弁護士

シニアアソシエイト 弁護士 大平 健城
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所シニアアソシエイト 弁護士大平 健城(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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