正社員と有期契約社員との待遇格差のうち、賞与や有給休暇を付与しないことが不合理な格差と認められた事例〜大阪高判平成31年2月15日判決〜ニューズレター 2020.10.vol.106

Ⅰ 事案の概要

教員事務員のアルバイト職員(契約期間1年で3回更新、時給制、ほぼフルタイム出勤)として採用された労働者が、①無期労働契約者(月給制)との間に生じている賃金格差、②賞与の支給、③夏季特別有給休暇の付与、④年末年始や創立記念日の給与支給、⑤年休付与日数、⑥私傷病の欠勤の際の賃金(6ヶ月)及び休職給(2割を6カ月)の支給及び⑦医療費補助措置の格差が、同一労働同一賃金の原則を定めた労働契約法20条に違反するとして、無期労働契約者と同一の条件に至る差額賃金の請求及び不合理な条件を適用したことを不法行為として慰謝料の支払いを求めた事案です。

Ⅱ 原判決の要旨

原判決は原告の労働条件と比較する対象を原則として正職員全体としたうえで、原告の労働条件と正職員全体の労働条件のいずれの格差も不合理なものとまでは言えないとして、原告の請求をいずれも棄却しました。

Ⅲ 本判決のポイント

1 比較の対象
正職員は他の部門に配置転換される可能性があり、その労働条件は正職員全体の平均的な労務提供の内容を踏まえて設定されているものとして、原告の労働条件との比較対象は正職員全体としました。

2 不合理な格差であるかどうかの考慮事情
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際の考慮事情について、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されず、個別の労働条件・各種手当や福利厚生の趣旨を踏まえて判断しました。

3 各労働条件の相違に関する判断
(1)賃金格差
正職員は、法人全体のあらゆる業務に携わっており、その業務内容は総務、学務、病院事務等多岐にわたり、業務に伴う責任も大きく、また、あらゆる部署への異動の可能性がありました。一方、原告が行う事務は書類のコピーや製本、仕分け、パソコンの登録等の定型的な事務であり、配置転換も例外的であったことなどから、正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえないとして、2割程度の賃金格差について不合理とは認められないとしました。

(2)賞与の支給
本件における賞与の趣旨を「賞与算定期間に就労していたことそれ自体(一律の功労も含む)に対する対価」であるとして、原告の様なフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理であるとしました。具体的に、正職員に支給される賞与の6割を下回る条件は不合理であるとしました。

(3)夏季特別有給休暇の付与
夏季特別有給休暇の趣旨を「日本の気候に応じた心身のリフレッシュ及びお盆の行事等の実施や、夏休みの子供との家族旅行を確保すること」にあるとして、この趣旨は正職員とアルバイトの職員とで異なることは無いとして、不合理なものであると判断しました。

(4)年末年始や創立記念日の給与不支給
年末年始及び創立記念日の休日について、アルバイト職員は時給制であるため休日が増えればそれだけ賃金が減少するのに対し、正職員は月給制であるため賃金 が減額されるわけではないという相違が生じるが、それは月給制と時給制から生じる帰結であり不合理とは認められないとしました。

(5)年休付与日数
年休付与の運用として、正職員が長期にわたり継続して就労することが想定されていることに照らし、年休手続の省力化や事務の簡便化を図るという点から一律付与の運用であるのに対して、アルバイト職員については雇用期間が一定しておらず、更新の有無についても画一的とはいえない上、必ずしも長期間継続した就労が想定されているとは限らず年休付与日を特定の日に調整する必然性に乏しいことから、個別に年休の日数を計算するものとしました。そして、年休付与に関する運用として付与される年休の相違の日数の差が1日であるという点をも併せ鑑みると不合理であるとは認められないとしました。

(6)私傷病の欠勤の際の賃金及び休職給の支給
私傷病の欠勤の際の賃金及び休職給の趣旨を「長期にわたり継続して就労をしてきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労をすることに対する期待から、生活に対する保障を図ること」にあるとして、このような趣旨はアルバイト職員にもあてはまるとして、一律に支給しないことは不合理であるとしました。そして、不合理となる程度は、私傷病による賃金支給につき1か月分、休職給の支給につき2か月分(合計3か月、雇用期間1年の4分の1)を下回る場合に不合理としました。

(7)医療費補助措置がないこと
医療費補助措置は、恩恵的な措置というべきであって、労働条件に含まれるとはいえず、正職員とアルバイト職員との間の相違は不合理とは認められないとしました。

4  慰謝料
労働契約法20条に違反する労働条件の適用によって被った損害は、不合理が生じた賃金等の損害賠償金によって回復され相当程度に慰謝されるとして、それでもなお慰謝されない精神的苦痛が残存するとは認められないとして、慰謝料は認めませんでした。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

本判決は、正社員と有期労働契約者の労働条件の格差が、不合理な格差を設けることを禁止した労働契約法20条(現パートタイム労働法8条)に違反するか否かについて、各待遇を個別に検討する際には、それぞれの労働条件や規定の趣旨を個別具体的に検討のうえ、①賞与、②夏季特別休暇及び③私傷病の欠勤の際の賃金及び休職給の差異について不合理と判断しました。これは、各種手当や福利厚生などの趣旨が妥当する程度が同一であれば同一、相違があればそれに応じた処遇をしなければならないことを示しています。

そのため、具体的に各種手当や福利厚生の支給趣旨が不明瞭であり、正職員に一律に支払われているなどの事情しかないのであれば、有期労働契約者に対しても一定の待遇が要求される可能性が高いため、無期労働契約者と有期労働契約者の労働条件に相違を設けるにあたっては、相違を設けるだけの特別な趣旨や運用を設ける必要があるため、各種手当や福利厚生に関する運用や趣旨を十分に把握しておく必要があります。

また、無期労働契約者と有期労働契約者の労働条件に相違の合理性を説明できないとしても、相違の程度が小さい場合には、許容可能性がある点にも注意して、相違を設定する必要があります。

なお、本事例は、最高裁に上告され、令和2 年9 月15 日 に①賞与及び③休職給の争点につき弁論期日が開かれ、判決内容が変更される可能性が生じています。したがって、①賞与及び③休職給の争点に関しては、今後の推移を見守る必要もあります。

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