休職をしていた従業員を対象とする整理解雇の有効性~大阪高判平成28年3月24日~ニューズレター 2018.3.vol.75

Ⅰ 事案の概要

航空運送事業等を行う会社であるY社は、経営破綻のため、会社更生手続きを申し立て、企業再生支援機構による支援を受けつつ、事業再生に向けた取り組みを開始することとなり、早期希望退職の募集を行ったが、応募者数が目標に達しなかったため、整理解雇を行うこととなりました。

この整理解雇について、当初は、①平成22年8月31日時点の休職者、②同年度において病気欠勤日数が合計41日以上である者、休職期間が2か月以上である者、病気欠勤日数及び休職期間の合計が61日以上である者、③20年度から22年度にかけての過去2年5か月において、病気欠勤日数、休職期間が一定数以上である者、④人事考課の結果が標準を毎年下回っている者とする人選基準案がY社の各労働組合に対し提示されていました。そして、整理解雇が行われることになる直前の11月15日、最終的に、Y社は、Y社の各労働組合に対し、当初の人選基準案のうちの①から③の基準について、これらの基準に該当する者であっても、9月27日時点で乗務に復帰している者であって、平成18年10月1日から平成20年3月31日までに連続して1か月を超える病気欠勤ないし休職がなかった者は対象外とする旨の基準(以下「本件復帰日基準」といいます。)を付加して一部変更を加えた整理解雇の人選基準案を提示しました(以下「本件人選基準」といいます。)。

原告となったXはY社の客室乗務員として就労していた者です。Xは、平成21年頃から皮膚が赤くなるようになり、平成22年3月頃には状態が相当悪化して年休を取得するなどしながら勤務していましたが、4月に「顔面酒さおよび接触皮膚炎」との診断を受けました。5月には乗客と接することが困難なほどに症状が悪化したため、5月17日から同年10月18日まで病気欠勤しました。

そして、平成22年12月9日、Y社は、Xを含む客室乗務員108名に対し、同月31日付で整理解雇する旨の解雇予告通知をしました(以下「本件解雇予告通知」といいます。)。Xの解雇理由は、本件人選基準の内①平成22年度において病気欠勤日数が合計41日以上、②病気欠勤日数等の合計が61日以上である者に該当することが解雇理由証明書に記載されていました。最終的に、Y社は、本件解雇予告通知後に希望退職に応募した23名と扶養家族に障害者がいる1名を整理解雇の対象から外した上で、Xを含む84名に対して整理解雇(以下「本件整理解雇」といいます。)を行いました。

そこで、XはY社に対し、整理解雇が無効であるとして、労働者としての地位確認を求める訴訟を提起しました。

Ⅱ  判決のポイント

1.配転命令の有効性

(1)一審判決(Xの請求認容)

一審判決は、本件整理解雇につき、仮に人員削減の必要性が肯定できるとしても、本件人選基準の設定について使用者側の裁量が認められることを認めつつも、その設定は恣意的なものであってはならず、解雇されなかった者と比較して、解雇された者に解雇を受忍させるに足りる合理性が必要であるとしました。その上で、本件人選基準の内、病欠・休職等基準は客観的な基準であるから恣意が入る余地はないことに加え、私傷病等により休職・病欠した者も、現実に一定期間就労していないから、他の労働者よりもY社に対する貢献度が劣ると評価せざるを得ないし、将来の貢献度でも相対的に劣る可能性があることもあながち不合理ではないとしました。

更に、年齢基準についても、恣意が入る余地がないことに加え、年齢が高い者を解雇対象者にする方が人件費削減の効果が大きいし、年齢が高ければ高いほど今後の在職期間が短くなるため、会社に対する貢献度という観点から見ても、年齢の高い者を対象者にすることは合理的であるとしました。

一方、本件復帰日基準については、基準日をいつにするかによって、本件整理解雇の対象者に該当するか否かに大きな影響を与えることになるとして、慎重な検討を行いました。そして、本件復帰日基準の要件により退職者を絞っていたことを捉え、Y社は、形式的には本件復帰日基準に該当する者であっても、現在、乗務復帰している者については、将来Y社に貢献してくれるものとして、原則として整理解雇の対象から除外するという判断をしていました。そのような判断をするのであれば、本件解雇予告通知時に近い、手続的にできるだけ遅い時点をもって基準日とするのが、上記趣旨に合致するもので、本件復帰日基準の基準日を人選基準案の公表日としなければならないような積極的な根拠は見出しがたいものであり、本件復帰日基準の基準日とした同年9月27日から復帰日基準を公表した同年11月15日の間に乗務復帰した者を、依然として、本件整理解雇の対象にとどめることには合理的な理由がないとして、本件復帰日基準を不合理なものと判断しました。

(2)二審判決のポイント(Xの請求棄却)

本件整理解雇について、Y社の人員削減を行う必要性、解雇回避努力を認めた上で、人選基準の合理性は、直近の2年5か月間を対象期間とする病欠・休職等基準を設け、当該期間中に病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠勤期間があった者については、過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これによって将来の想定貢献度も低いないし劣後すると評価することは、合理性を有するとしました。本件復帰日基準についても、現在乗務に復帰している者であっても、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間があることには何ら変わりないから、現在乗務復帰している者であって、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間があった者につき、そうでない者に比して将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することを必ずしも妨げるものではないと判断しました。

本件復帰日基準は、病気・休職等基準の趣旨と整合しない一面を有することは否定できないものであると指摘しつつも、Y社が、団体交渉における譲歩として、労働組合の要求を受け入れて本件復帰日基準を設けるに至っており、病欠・休職等基準と、その例外としての復帰日基準の設定は異なる価値基準をどの範囲で採用するかの問題であるから、復帰日基準の適用範囲をどの限度で設定するかについては、Y社に裁量の余地が認められるものと判断しました。

その結果として、本件復帰日基準が基準日を平成22年9月27日として本件復帰日基準の適用範囲を相当程度限定したことについても、上記裁量を逸脱・濫用するものでない限り、合理的裁量の範囲内のものと解されることになりました。

本件復帰基準が加えられる前に提示された当初の人選基準案においても、合計539名という多数の応募があり、希望退職済みの労働者も多数いました。このような状態がすでに形成されていた平成22年11月15日時点において、Y社が乗務に復帰していた者につき解雇の対象外とする旨事後的に変更することは、既に当初の人選基準案に従い退職勧奨の対象となり退職した者にとっては、退職勧奨に応じなくても解雇の対象とならなかったということになりますので、希望退職をした者に対し、信義に反するとして強い不信感を抱かせる恐れがあると考えることには相応の理由があると認められました。その結果、Y社が11月15日時点において、各労働組合の要求を一部受け入れて本件復帰日基準を設けるにあたっては、本件復帰日基準の適用範囲を比較的狭い範囲に限定することには合理性が認められるとし、一審と逆に、Xの請求を棄却しました。なお、その後、上告されましたが、高裁の結論が維持されています(最高裁平成26年6月6日決定)。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

一般的に、整理解雇が有効なものか否かは、①人員削減の必要性②解雇回避の努力③被解雇者選定の妥当性及び④手続きの妥当性の4要素を総合考慮して判断されることになります。

本件では、企業再生の場面において、債権者から債務の一部の免除を得るために人員削減をしなければならず、そのために一旦一定の基準に基づき希望退職者を募り、その後整理解雇を行った事案です。本件は、企業再生の場面で、希望退職者を募ったものの必要な人数に達しなかったために整理解雇を行ったものですから、上記の①及び②は認められる上で、誰を解雇の対象とするかの基準をどのように設定すればよいのか(③)が主要な問題点となりました。

本件では、まず、私傷病による休職の多い人を企業に対する過去・将来の貢献度が相対的に低いと判断することは適切であると判断されました。このことは、被解雇者選定の妥当性に関する重要な判断であり、今後の実務にも影響を与えるものと考えられます。

次に、被解雇者選定の基準を整理解雇に至る過程で変更することについては、今回ご紹介した裁判例では判断が揺れています。本件復帰日基準を設けるに至った過程には、労働組合との協議の結果、労働者にとって有利となる判断基準が追加されたという過程が重視されていますので、選定基準を変更するにあたっては、労働者と十分協議の上で変更するべきでしょう。

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