普通解雇を適法に行うためには?4つの要件や必要な対応と手続き

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「問題のある従業員をクビにしたい」
経営者の方から、このような相談をされることはしばしばあります。

しかし、いくら問題のある従業員とはいえ、簡単に解雇することはできない場合が多いと考えられています。
きちんと手順をふまなければ紛争に発展する可能性が高く、最悪の場合は高額の金銭を支払うことになる可能性もあります。
このコラムでは、従業員を適法に解雇するためのポイントを解説します。

目次

普通解雇とは?

普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如、就業規則違反、余剰人員の整理の必要性等の理由で行われる解雇をいいます。これらのうち、就業規則違反などの規律違反行為を理由とする解雇は、懲戒解雇の対象にもなり得ると考えられます。

普通解雇事由の具体例

普通解雇の具体例としては、勤務状況が不良で改善が見られない場合の解雇や、心身の障害により業務遂行をするに堪えられない場合の解雇が挙げられます。
また、以下でも述べると通り、事業の縮小等経営上やむを得ない事由による解雇(整理解雇、いわゆるリストラ)も、普通解雇として挙げられます。

正当な解雇事由については以下のページをご確認ください。

普通解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇は、懲戒処分に分類され、その分類の中で最も重い性質のものです。
懲戒解雇は、基本的には従業員側の問題行動(服務規律違反や会社に損害を与える行為等)を懲戒事由として、会社が問題行動を行った従業員を処罰するために行われるものと考えられます。

一方、普通解雇は、懲戒解雇と同様に従業員側に問題のあるケースが多いですが、懲戒処分として行われるものではありませんので、普通解雇と懲戒解雇は同一のものではありません。
さらに、処分の性質以外にも、懲戒解雇では退職金の支給はない場合が多いが、普通解雇の場合は退職金の支給がされる可能性があること、就業規則等の定められ方の違いが挙げられます。

懲戒解雇については以下のページをご覧ください。

整理解雇も普通解雇の一種

整理解雇は、余剰人員の削減を目的とする解雇です。
整理解雇も他の普通解雇と同様に、会社の一方的な意思表示により従業員との雇用を終了させる方法ですが、基本的に会社の事情による解雇である点で、能力不足や無断欠勤などによる解雇とは異なります。

整理解雇については以下のページをご覧ください。

普通解雇を適法に行うための4つの要件

普通解雇は、従業員に対する処罰としての性質がある懲戒解雇とは異なるものの、従業員としての身分を失わせる重大な行為です。
普通解雇は容易にはできず、問題のある普通解雇は、裁判所から「無効」と判断されてしまう可能性が高いです。

普通解雇が裁判所から「無効」と判断されてしまうと、当該従業員は、会社が解雇をした日以降も当該会社の従業員であったこととなり、当該従業員を解雇した日から遡って、従業員への賃金相当額をまとめて支払わなければならなくなり、予想外の金銭的負担を負うこととなります。

①就業規則に定める解雇事由に該当する

就業規則に解雇事由がなければ、普通解雇ができないため就業規則の見直しが必要です。
また、就業規則に規定された解雇事由は、限定列挙と考えられており、解雇事由として規定された事由以外を事由とする解雇は無効と判断される可能性が非常に高いです。

②解雇事由が客観的に合理的であり、社会通念上相当である

解雇するためには、解雇事由に該当する事実が存在するだけでは足りず、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要があります(労契法16条)。

具体的には、勤務態度に問題がある、業務命令や職務規律に違反するなど解雇事由に当たる事実が存在することを前提に、労働者の落ち度の程度や行為の内容、それによって会社が被った損害の重大性、労働者に悪意や故意があったのかなど、さまざまな事情が考慮されて、解雇が正当といえるか判断されます。

例えば、新入社員が勤務初日に5分の遅刻をしたというケースでは、よほど特殊な事情がなければ解雇をしたとしても、事後的にその解雇は無効とされる可能性が高いでしょう。

③解雇予告または解雇予告手当の支払いをしている

解雇にあたっては、
①30日前から解雇予告をした上で30日後に解雇する
②30日分以上の解雇予告手当の支給をした上で即日解雇する
③予告期間の日数と予告手当の日数を合計して30日以上とする(例えば20日前の予告と10日分の予告手当)

のいずれかの措置をとらなければなりません(労基法第20条第1項及び第2項)。

解雇予告・解雇予告手当については以下のページをご覧ください。

④法令上の解雇制限に違反しない

労働基準法第19条第1項本文において、労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間およびその後30日間、産前産後休業の期間およびその後の30日間は、その労働者を解雇してはならないと規定されています。

当該規定は、これらの期間に解雇されると再就職が難しく労働者の生活に脅威を来すことになるため、これを禁止し労働者が安心してこれらの休業をとることができるよう保障する趣旨で定められた規定と考えられています。

その他にも、女性の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業等を理由とする解雇(労基法第9条)、労働基準監督官等に法違反を申告したことを理由とする解雇(同法第104条等)等も、労働関係法令において禁止されています。

普通解雇が不当とみなされるケースとは?

上述の①~④いずれか又は複数を欠く解雇は、不当解雇として無効です。
典型的には、業務上負傷をした従業員に対し、配置転換等検討を全くせず、解雇予告手当の支給もなく負傷したその日に即日解雇をする場合は解雇が無効と判断される可能性が極めて高いです。

普通解雇が無効と判断された裁判例

以下では、解雇が無効となった裁判例について解説していきます。

事件の概要
【昭49(オ)165号・昭和52年1月31日・最高裁判所・判決(高知放送事件)】

Xは、Yのアナウンサーであったところ、昭和42年2月22日午後6時から翌23日午前10時までの間、ファックス担当放送記者と宿直勤務に従事したが、23日午前6時20分頃まで仮眠していたため、同日午前6時から10分間放送されるべき定時ラジオニュースを全く放送することができなかった(以下「第一事故」という。)、また、同年3月7日から翌8日にかけて、宿直勤務に従事したが、寝過ごしたため、8日午前6時からの定時ラジオニュースを約5分間放送することができなかった(以下「第二事故」という。)、第二事故については、上司に事故報告をせず、同月14、15日頃これを知った部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出したことから、YはXを解雇したところ、XがYによる解雇は無効であると主張して、Yにおける従業員としての地位の確認を求めた事案です。

裁判所の判断
裁判所は、Xの行為が、Yの就業規則に規定された普通解雇事由に該当すると認定したものの、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきであると判示しました。

その上で、当該事案においては、Xの起こした第一、第二事故は、Yの対外的信用を著しく失墜するもので、また、Xが寝過ごしという同一態様で、特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、Xに非がないとはいえないが、本件事故はXの悪意・故意によるものではなく、両事故ではファックス担当者も寝過ごしており(同担当者はけん責処分に処せられたにすぎない)、会社として放送の万全を期すべき措置も講じられておらず、Xの平素の勤務成績は悪くなく、Yでそれまで放送事故を理由に解雇された例はなかったこと等の事情を考慮すると、Xの解雇は合理性を欠き、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないとして、同解雇を権利濫用として無効と判断しました。

ポイント・解説
上記事案では、Xの行為は、解雇事由に該当すると判示しながらも、当該事案においては、Xの悪意・故意による事故でないこと、Xを起こすべきファックス担当者も寝過ごしていること、Xの平素の勤務成績は悪くなく、Yでそれまで放送事故を理由に解雇された例はなかったこと等の、労働者に有利な事情を極力考慮して、解雇事由に照らし解雇をもって臨むことの妥当性、他の労働者との均衡、手続の妥当性等、解雇の社会的相当性を厳格に審査し、解雇を厳しく制限する態度をとっています。

したがって、解雇事由に該当するとしても、当該従業員の行為の性質や当該従業員の勤務状況、改善の可能性等の事情から、解雇することがやむを得ないとはいえない場合には、解雇は無効と考えられます。

普通解雇が無効となった場合に会社が負うリスク

上述のように、普通解雇が無効と判断された場合、当該従業員は普通解雇をした日に遡って当該会社の従業員であったこととなり、会社は当該従業員に対し、当該従業員を解雇した日から遡って賃金全額を支払わなければなりません。

従業員は、裁判をしていた期間中働いていませんが、解雇無効となった場合には、「会社都合で働けなかった」という扱いとなるためです。これを「バックペイ」といいます。

従業員の待遇によっても変わり得ますが、紛争が長期化すればするほど、会社が負う経済的なリスクは高まっていくこととなります。

普通解雇を適法に行うために必要な対応・手続き

普通解雇を適法に行うために必要と考えられるのは、解雇をする理由についての検討⇒証拠集め⇒解雇の対象となる従業員との面談です。
また、可能な限り、退職勧奨を実施しましょう。
普通解雇は最終手段として、退職勧奨による従業員の退職を実現できるように検討することが重要です。

普通解雇に至るまでの対応

普通解雇は、懲戒解雇と同様に、会社の判断により従業員がその地位を失うこととなるため、実際には、かなりの準備と配慮が必要となります。

注意指導の実施

能力不足を理由に普通解雇を行うにあたっての重要な点は、会社側から当該従業員に対する注意指導の実施です。
注意指導にあたっては、具体的・客観的事実を淡々と指摘し、改善を求める機会を複数回設け、書面に残すだけでなく録画録音しておくことが重要です。

段階的な懲戒処分

普通解雇の対象となるような人物は、往々にして問題行動を繰り返しているケースが多いと考えられます。
そういった人物に対しては、いきなり普通解雇をするのではなく、最初は、けん責等の軽い懲戒処分で改善を促し、懲戒処分をしたのにも関わらず改善が見られない場合には、出席停止や減給、降格等のより重い懲戒処分を下していく、といったように、段階的に懲戒処分をしていくことによって、少しずつ会社側が強く改善を求めていることをアピールしていきましょう。

以上の前提として、就業規則の服務規律部分の充実と、その違反が懲戒事由として規定されているかを確認しておきましょう。

退職勧奨の検討

普通解雇は、労使双方にとってリスクが高く、しないで済むに越したことはありません。
紛争となった際、解決までに膨大な時間がかかり、経済的・精神的な負担も増えます。
普通解雇は最終手段にして、まずは退職勧奨による退職合意を目指すことが有用です。

普通解雇を行う際の手続き

解雇理由証明書及び退職時証明書の交付

解雇理由証明書とは、労働者から解雇の理由を記した書類発行を要求された場合、解雇予告の日から退職日までの間に、使用者(雇い主)が労働者に対して交付すべき書類となります(労基法第22条第2項)。

退職時証明書は、従業員から退職時に交付を求められた際、速やかにこれを交付しなければなりません(同条第1項)。
従業員から交付の請求をされた際には、以下の項目のうち、要求された事項を記載してください(同条第3項)。

  • 試用期間
  • 業務の種類
  • その業務における地位
  • 離職する前の賃金
  • 退職事由(解雇の場合には解雇の理由)

退職時証明書は、基本的には退職日や退職後に発行することになります。

退職金の支給

会社の就業規則や退職金の支給に関する規程によっては、退職金の支給も必要となります。
多くの場合、普通解雇の場合には退職金の支給がなされ、懲戒解雇になると、退職金の全額ないし一部の支給がなされなくなると定められています。

離職票の作成

普通解雇にあたっては、解雇された従業員が失業保険の給付を受けるために離職票の作成が必要です。
具体的には、雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書をハローワークに提出します。
ハローワークから離職票が送られてきますので、これを従業員に交付します。

普通解雇を検討する場合は、労務の専門家である弁護士にご相談下さい。

普通解雇は、企業にとって大きなリスクを伴うものであり、それ故、普通解雇を巡る法的トラブルは非常に多いです。普通解雇を実施するずっと前の段階から弁護士が関与していれば、会社のダメージをより抑えられたと考えられるケースも数多く存在します。普通解雇のような重要な決断をする前に、是非一度弁護士にご相談ください。

よくある質問

普通解雇はどのようなときにできますか?

普通解雇は、就業規則に規定される解雇事由に該当する事実があり、かつ、当該解雇が、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合に、解雇することができるとされています(労契法16条)。

能力不足を理由に普通解雇はできますか?

就業規則に、能力不足を理由に解雇できる旨の規定が置かれている場合には、解雇の客観的合理性と社会通念上の相当性も考慮して、解雇することができる可能性があります。

能力・適格性が欠如する問題社員対応については以下のページをご覧ください。

就業規則の解雇事由に該当しない場合でも普通解雇はできますか?

就業規則に規定されていない事由によって解雇することは、難しいものとなります。

注意指導を一度しただけでは普通解雇は認められませんか?

注意指導を一度しただけでは、普通解雇が有効と判断される可能性は低く、再三にわたって注意をして、それでもなお改善が見られない、といった事実が必要になると考えられます。

既に戒告や譴責などの懲戒処分を行った事実を、普通解雇の理由にできますか?

既に戒告や譴責といった処分をしたのにもかかわらず、従業員に改善が認められないことを証明する一事情として判断することはできると考えられます。

普通解雇後に別の解雇事由が新たに判明した場合、解雇理由に付け足すことは可能ですか?

解雇後に解雇理由を追加することはできません。

普通解雇で退職金を減額・不支給にすることは認められますか?

退職金に関する就業規則その他の社内規程の定め方によりますが、普通解雇によって退職金を減額・不支給にすることは困難であると考えられます。

退職金の減額・没収・不支給については以下のページをご覧ください。

解雇理由証明書は、従業員から要求されなければ発行しなくてもよいですか?

まず、労働基準法において、次のように規定されています。

「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」(第22条第1項)

一方で、同条第3項において、「前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。」と規定されていることから、従業員から要求されなければ発行する必要はないと考えられています。

解雇理由証明書については以下のページをご覧ください。

普通解雇は「会社都合退職」と「自己都合退職」のどちらに該当しますか?

普通解雇は、基本的には「会社都合退職」と考えられています。

普通解雇した従業員から労働審判や裁判を起こされた場合の対処法を教えて下さい。

まずは、会社のみですべてを解決しようとはせず、労務の専門化である弁護士に相談しましょう。また、解雇の理由となった事情を証明する証拠を記録し、保存しておくことも重要です。

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執筆弁護士

 田中 佑資
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所田中 佑資(東京弁護士会)
弁護士 東條 迪彦
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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