外国人を雇用するときの雇用契約書のポイント・注意点などを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

少子高齢化が進む中、日本で働く外国人は年々増加しています。令和6年度の調査では、日本の外国人労働者数は230万人を超え、過去最高を記録しました。

外国人雇用では通常と異なる労務管理が求められるため、使用者は必要な手続きや雇用契約書の作成方法について十分理解することが重要です。

本記事では、外国人の雇用契約書に記載すべき事項、雇用契約書を作成する際の注意点などについて詳しく解説していきます。

外国人雇用における雇用契約書の必要性

外国人を雇い入れる場合も、トラブル防止の観点から雇用契約書は必ず締結しましょう。

外国人労働者の場合、口頭で細かな労働条件を説明しても十分理解できない可能性が高く、入社後に労働トラブルを招きやすいのが実情です。
例えば、「聞いていた給与額よりも低い」「合意した業務内容と違う」と主張され、裁判を起こされるケースもみられます。

そのため、入社時は双方が合意のうえで雇用契約書を締結し、労働条件を明示しておくことが重要です。
雇用契約書があれば、合意内容を客観的に証明できるため、紛争に発展した場合の証拠としても役立ちます。

外国人雇用のポイントや、雇用契約書の重要性については、以下のページもご覧ください。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

【雇用契約書】

  • 使用者と労働者が労働条件について合意するための書類
  • 2部作成し、労使双方が署名・捺印のうえ保管する
  • 作成する法的義務はない

【労働条件通知書】

  • 会社が労働者に労働条件を通知するための書類
  • 双方の合意は不要
  • 作成する法的義務あり(絶対的明示事項)

労働条件通知書は、労働基準法15条で交付が義務付けられているため必ず作成しなければなりません。

一方、雇用契約書に法的な作成義務はありませんが、トラブル防止の観点から締結するのが望ましいとされています。
また、労働条件通知書は会社が一方的に労働条件を通知するための書面なので、内容について労働者の合意を得る必要はありません。

外国人の雇用契約書に明示すべき事項

外国人の雇用契約書では、以下のような事項を記載する必要があります。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所・業務内容
  • 賃金・支払い方法
  • 労働時間・残業
  • 休日・休暇
  • 退職・解雇
  • 就業規則等に定めがあれば明示が必要な事項

労働契約の期間

労働契約の期間は、外国人労働者の「在留期間」と合わせる必要があります。
在留期間を超えて就労させた場合、使用者も「不法就労助長罪」などに問われるおそれがあるため十分注意が必要です。

在留期間は外国人が保有する「在留カード」に記載されているため、雇用契約書を作成する前に必ず確認しましょう。

就業場所・業務内容

外国人労働者が従事できる業務は、在留資格(就労ビザ)によって一定の制限が設けられています。
使用者は在留カードを確認のうえ、在留資格を超えない範囲で外国人労働者の業務内容を定める必要があります。

例えば、日本人の雇用契約書のように「その他上記に付随する一切の業務」などと記載すると、在留資格の範囲を超えてしまうおそれがあるため避けるべきでしょう。

就業場所については、勤務地の住所を明記し、転勤や配置転換の可能性がある場合はその旨も忘れずに記載する必要があります。

賃金・支払い方法

賃金については、総支給額と手取り額をしっかり区別して伝えることが重要です。
特に社会保険料や税金の控除は複雑なので、「いくら控除されて、いくら手元に入るのか」を明確に記載しましょう。

賃金の支払い方法は、日本人と同じく通貨(日本円)で、一定期日に支払うのが基本です。「毎月25日に支払う」「月末に支払う」など簡潔に記載しましょう。

なお、外国人労働者にも「最低賃金」や「同一労働同一賃金」は適用されるため、賃金額の設定には注意が必要です。
例えば、職務内容や責任の程度が同じにもかかわらず、外国人だからという理由で日本人よりも賃金を低くすることは“違法”となる可能性が高いです。

国籍による差別の禁止などは、以下のページで詳しく解説しています。

労働時間・残業

外国人労働者についても、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間が適用されます。
36協定の締結があれば残業を命じることは可能ですが、時間外労働が発生した場合は、日本人と同じく一定の「割増賃金」を支払う必要があります。
具体的には、

  • 法定時間外労働、深夜労働 → 1.25倍
  • 休日労働 → 1.35倍

の割増賃金の支払いが必要です。

外国には「定時退社が当たり前」という文化もあるため、残業命令に不満を抱く人も少なくありません。労働トラブルを避けるためにも、「残業した場合は適正な割増賃金が支払われること」をしっかり説明し、残業について理解を求めることが重要です。

労働時間や時間外労働については、以下のページもご覧ください。

休日・休暇

休日や休暇については、以下のように種類と日付を列挙すると分かりやすいでしょう。

  • ①土曜日と日曜日、国民の祝日
  • ②夏季休暇(8月〇日~〇日)
  • ③年末年始休暇(12月〇日~〇日)

また、年次有給休暇やリフレッシュ休暇など、個別で取得できる休暇についても漏れなく記載する必要があります。
外国人労働者の場合、一時帰国などでまとめて有給休暇を取得するケースもあるため、申請期限や申請方法も丁寧に説明することが重要です。

法定休日や年次有給休暇については、以下のページでも詳しく解説しています。

退職・解雇

「退職」については、本人が必要な手続きや申請期限などを簡潔に記載することがポイントです。例えば、以下のような事項について具体的に説明します。

  • 退職の申出方法や期限
  • 返却する貸与物
  • 退職後の手続き(所属機関に関する届出、脱退一時金の申請など)
  • 雇用保険の手続き(ハローワークへの離職票の提出)

「解雇」については、解雇の種類と解雇事由を明確に記載します。

(例)懲戒解雇 → 犯罪行為、無断欠勤、重大な経歴詐称
   普通解雇 → 能力不足、業務命令違反、病気や怪我による就業不能

解雇予告や解雇予告手当の支払いは日本国内のルールなので、制度の目的や概要、手当の計算方法などは詳細に説明しましょう。

外国人の社会保険の手続きについては、以下のページで詳しく解説しています。

就業規則等に定めがあれば明示が必要な事項

労働契約を締結する際、就業規則等に定めがある場合は、以下の事項についても労働者に明示することが義務付けられています(労働基準法15条、同法施行規則5条1項柱書)

労働条件の明示義務は日本人・外国人問わず適用されるため、外国人労働者を雇い入れる際も必ず明示しなければなりません。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

詳しくは以下のページをご覧ください。

外国人雇用契約書を作成するときの注意点

外国人の雇用契約書を作成する際は、以下の4点に注意が必要です。

  • 英語や母国語で作成する
  • 就労ビザ(在留資格)の未取得を停止条件とする
  • 研修期間があれば雇用契約書に必ず明記する
  • 日本の労働に関するルールや慣行を理解してもらう

外国人労働者の場合、認識に誤りがあると“不法就労”などの問題に発展するリスクがあるため十分注意が必要です。

英語や母国語で作成する

外国人の雇用契約書は、英語や母国語で作成するのが望ましいとされています。
特に給与や労働時間、休暇などは労働者の生活に大きく関わるため、正しく理解してもらうためにも母国語で明示しておくと安心です。

会社が適切な配慮を怠り、労働トラブルに発展した場合、仮に双方の合意があっても雇用契約は“無効”となる可能性があります。また、会社が不利な立場になるおそれもあるため、多言語対応はしっかり行うのが望ましいでしょう。

厚生労働省のホームページでは、英語や中国語、スペイン語など8ヶ国語に対応した労働条件通知書のテンプレートが公開されています。雇用契約書を作成する際は、活用すると良いでしょう。

就労ビザ(在留資格)の未取得を停止条件とする

雇用契約の締結時点では、外国人が就労ビザを取得していない(未取得の)可能性もあります。
そのため、雇用契約書では「就労ビザを取得できない場合、雇用契約の効力は生じない」旨を必ず明記しましょう。
また、在留資格と実際の業務内容に相違がないかもしっかり確認することが重要です。

就労ビザ未取得の外国人を雇用した場合、労働者本人が不法就労の罪に問われるだけでなく、雇用した事業主も「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。

研修期間があれば雇用契約書に必ず明記する

外国人の場合、「就労ビザで許可された業務の範囲」と「研修内容」に相違があることがあります。トラブル防止のため、研修を行う際は、研修中の業務内容や研修期間を雇用契約書に明記しておくことが重要です。

例えば、基本的に就労ビザでは単純作業が禁止されていますが、メーカーなどでは本配属前に工場研修を行う会社も多いです。
この場合、日本人も同様の研修を行っており、かつ研修期間が適正(目安として1年以内)であれば、必要な研修の一環として単純作業が認められる可能性があります。

研修の目的や内容、期間などを雇用契約書に明記しておけば、出入国在留管理庁に説明を求められた場合もきちんと対応できるでしょう。

日本の労働に関するルールや慣行を理解してもらう

日本の労働慣行を理解してもらうことは、労使双方にとってメリットが大きいといえます。

例えば、「人事評価制度」の違いには注意が必要です。
日本では勤続年数に応じて基本給が上がる「年功序列」が根付いていますが、外国では本人の能力や成果を基準とする「成果主義」が主流となっています。

成果報酬やインセンティブがない会社では、外国人労働者のモチベーション低下を招くおそれがあるため、評価基準を明確にしたうえで、あらかじめ理解を求める必要があるでしょう。

また、「定時退社が基本」という国も多いので、日常的に残業が発生する場合はその旨も事前に説明が必要です。

その他、職場でのルールやマナーについても、文化的な違いからトラブルになりやすい傾向があります。
例として、挨拶や報告の仕方、業務中の私語や離席、整理整頓などは国によって考え方が異なるため、社内の慣行をあらかじめ説明しておくと安心です。

外国人の雇用契約書を締結し、会社に有利な結果となった裁判例

事件の概要

【平29(ワ)15449号 東京地方裁判所 平成30年11月2日判決】
外国語学校を運営するY法人で働くXが、労働条件の内容を確認するため、使用者に対して就業規則の写しの交付を求めた事案です。

Y法人は「外部に流出するおそれがある」として写しの交付は拒否しましたが、就業規則の閲覧および筆写は認めました。また、Xが外国人かつ英語を母国語とすることから、必要であれば翻訳ができる補助従業員をつける等の対応をしています。

Xは、就業規則の写しを交付しないことは「不法行為」にあたるとして、Y法人に対して慰謝料などを請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、会社が就業規則の写しを交付する義務はなく、交付の要求に応じるかは使用者の裁量に委ねられるとしました。
そのうえで、以下の事実を総合的に考慮し、Y法人の対応に違法性はない(適法である)と判断しています。

  • 入社時に締結した「雇用契約書」には労働条件が詳細に記載されている
  • 日本語が読めないXに配慮し、Y法人は英語に翻訳した雇用契約書を交付している
  • 雇用契約締結時には、校長が通訳を通して契約内容を説明している
  • 就業規則の閲覧時には、通訳補助をつける等の配慮がなされていた

ポイント・解説

本件は、就業規則の写しの交付は認めなかったものの、入社時の雇用契約書を適切に交付していたため、会社側の対応は適法であると判断された事案です。
また、外国人労働者のXに配慮し、英語に翻訳した雇用契約書を交付したうえ、通訳を通じて契約内容をしっかり説明していたこともポイントです。

実務上使用者の裁量に委ねられる事項は多いですが、裁量権を逸脱した場合は違法となり、使用者が損害賠償責任を負うリスクがあります。
外国人労働者とのトラブルを避けるためにも、入社時は母国語に対応した雇用契約書を締結し、契約内容を十分説明しておくことが重要です。

外国人雇用における雇用契約書の作成は弁護士にご相談ください

外国人労働者の雇用契約書は、通常よりも注意深く作成する必要があります。特に契約期間や業務内容については、在留資格を超えない範囲で定めなければなりません。
外国人雇用が初めての場合、英語や母国語での雇用契約書の作成に不安を抱える方も多いでしょう。

弁護士であれば、雇用契約書の内容に不備がないか法的にチェックできます。また、労働慣行やマナーの違いなど、外国人特有の問題についても事前にアドバイスできるため、労働トラブルの未然防止にも効果的です。

弁護士法人ALGは、外国人雇用のポイントを熟知した弁護士が多数在籍しています。雇用契約書の作成方法や雇い入れ時の注意点など、ご不安がある方はぜひ一度ご相談ください。

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執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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