テレワーク中でもセクハラは起きる?「リモートハラスメント」の防止策

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

コロナ禍以降、人との物理的接触を最小限にする観点から、リモートワークが多くの職場で導入され、今や当たり前の働き方になっています。
こうした中で、リモートワーク中にハラスメント、いわゆる「リモートハラスメント」が発生し、会社が対応を迫られる場面が増えてきています。リモートワークが柔軟な働き方として脚光を浴びる一方、新しい働き方であるが故に、リモートワークで発生したハラスメントに対して、会社の中でどのように対応するべきかわからないうちに対応を怠っていると、会社に大きな損失が生じることもあり得ます。
以下では、「リモートハラスメント」について概説し、これに対して会社がとるべき対応等について解説していきます。

目次

テレワーク中でも起こり得るセクハラ問題

セクハラと聞くと、会社の上司から性的な言動をされた、同僚から性的な関係を強要された等といったことが思い浮かべられますが、こういったセクハラはテレワークにおいても発生しています。

テレワークで上司や同僚との距離が物理的に遠くなったとしても、音声やチャット等で相互に連絡をとることができる以上、リモートでもハラスメントは十分に起こり得るものといえます。

近年急増している「リモートハラスメント」とは?

リモートワークが浸透しつつある中で、昨今問題となっているのがリモートワークで発生するハラスメント、いわゆる「リモートハラスメント」です。
具体的には次項で挙げるようなケースが「リモートハラスメント」にあたるとされています。

テレワークで起こりがちなセクハラの具体例

体形や容姿等について執拗な指摘を受ける

テレワークでは、オンライン会議等で、カメラ通話を用いて社員同士で会話をする中で、カメラの映像に映し出された会議参加者の体形や容姿等について執拗に言及するということがセクハラの例として挙げられます。

リモートワークであるため、セクハラの典型例の一つである身体的接触は起こらないとしても、音声通話とカメラがある以上、言葉によるセクハラを完全に防ぐことはできません。

自室を映すように執拗に求められる

テレワークならではのセクハラとして、オンライン会議の席上で、自宅から参加している会議参加者の自室をカメラに映し出すように執拗に求めるという例が挙げられます。

従前の働き方ですと、職場に社員が集まって仕事をするので、社員のプライベートを垣間見る機会が殆どなかった一方、テレワークでは、カメラ通話をしながら作業をすることが必須となっています。そうすると、社員のプライベートな空間が自然とカメラに映り込んでしまうため、上司や同僚から自室を映すように執拗に求められて、私的空間に干渉されることも十分にあり得ます。

業務上の必要性がない2人きりでの飲み会を強要される

リモートワークが普及し、社員同士のコミュニケーションが希薄になる面もある中で、上司や同僚から飲み会や食事に誘われるということもリモートハラスメントの一つとされています。

これは、リモートワーク外での対面での飲み会に限らず、オンライン飲み会についても同様に考えられます。例えば、オンライン会議に参加していたところ、上司から会議終了後もカメラや音声を接続したままにするように求められ、そのまま2人きりのオンライン飲み会に移行してしまうということが考えられます。

テレワーク中にセクハラが起きてしまう原因とは?

しかし、幾度もパワハラやセクハラが社会問題として取り上げられる中で、多くの会社はハラスメントに対し、相談窓口を設けたりする等の対策を行っており、決して無対策でいたわけではありません。
では、なぜテレワーク中にセクハラ等のハラスメントが起きてしまうのでしょうか?

テレワークの就業ルールが確立されていない

テレワーク中のセクハラが発生してしまう理由の一つとして、テレワークに関する就業ルールが確立されていないことが挙げられます。

テレワークが普及した一つの要因として、コロナ禍に伴い、物理的な人的接触を必要最小限にするという、ある意味有事における緊急対応として日本の職場に広く導入することが迫られたという面があります。そのため、急ごしらえでオンライン会議等の技術的体制は整えたものの、新しい働き方に対応する就業ルールの策定が追い付いていなかったといえます。

テレワークという働き方に適応できていない

会社及び社員がそもそもテレワークという働き方に適応できていないこともセクハラが起きてしまう原因の一つです。

テレワークは、社員にとって便利な働き方ですが、従前のように人との物理的接触が制限された環境下での労働を求められるため、人によってはストレスが溜まりやすいといえます。また、多くの会社にとっても、リモートワーク環境をコロナ禍以降急ごしらえで整備したという面もあり、リモートワークで生じた問題に対してどのように対処するべきか対応策が定まっていないという点も「リモートハラスメント」を助長していると考えられます。

仕事とプライベートの切り替えが難しい

リモートワークの場合、自宅から私服でオンライン会議に参加ということも十分にあり得る中で、仕事とプライベートの切り替えが難しいという面もリモートハラスメントを助長する一因といえます。

例えば、オンライン会議で、会議参加者の背景に自室の映像が映る等して、各人の私生活が垣間見えてしまうと、日常会話の意識で無意識のうちに会議参加者のプライベートに干渉してしまったりすることが考えられます。

職場であれば気を付けていることでも、自室で私服のままリモートワークをしていると、一気に意識が緩み、セクハラに及んでいたということも十分に想定される事案です。

従業員からセクハラ被害の相談を受けらどう対応すべきか?

新たなハラスメントである「リモートハラスメント」ですが、従業員からリモートワーク中にセクハラ被害を受けたとの相談をされたとき、会社はどのように対応するべきでしょうか?
基本的には、セクシャルハラスメントへの対応と異ならないでしょう。

セクシャルハラスメントへの対応については以下のページをご覧ください。

テレワーク中のハラスメントが企業にもたらす損失

テレワーク中のハラスメントは、会社にとって未知の問題であるとはいっても、従前のハラスメントと同様に、適切な対応を怠っていると大きな問題になりかねません。

仮に、「リモートハラスメント」に対する対応を放置して、いざハラスメントが発生した時に、対応が後手に回ってしまうと、社員から「会社がハラスメントに対して必要な対応をとらなかった」と主張され、会社及びハラスメントを行った当事者に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求等がなされるおそれもあります。

また、金銭的な損害のみならず、「リモートハラスメントに十分な対応をせずに放置した会社」という批判を受けてしまうことにもなりかねず、会社のレピュテーションリスク上からも損失が計り知れないといえます。

ハラスメントが企業経営に及ぼす悪影響について、詳しくは以下のページをご覧ください。

テレワーク中のセクハラを防止するための対策

では、テレワーク中のハラスメントを防止するために会社はどのような対策をとるべきなのでしょうか?以下で考えられる対策を挙げて解説します。

なお、より詳しくは以下のページもあわせてご覧ください。

社内方針の明確化と周知・啓発

職場における身体的接触や性的言動等の従前の類型のセクハラに対して、会社は就業規則等でルールを定め、場合によってはハラスメントを行った社員に対して処分を下すという対応をとってきました。これと同様に、「リモートハラスメント」についても、会社として厳格に対応することを社内に方針として示すことが重要です。

これにより、会社として、「リモートハラスメント」を放置せず、適切に対応している姿勢を示すことができます。また、社内方針を定めるのみならず、下記に述べるセクハラ防止研修等において社内に方針の周知徹底を図り、「リモートハラスメント」をしてはならないという意識を社内に醸成することが肝要といえます。

セクハラ防止研修の実施

「リモートハラスメント」が新しい未知のものであることは、会社のみならず、社員にとっても同様です。
そこで、会社として、「リモートハラスメント」の具体例を交えたセクハラ防止研修を実施することが有効です。研修では、ありがちな「リモートハラスメント」の事例を紹介しながら、会社が定めたリモートワークにおける適切な働き方に関する社内方針を周知し、社員に対して、新しい働き方におけるハラスメントの防止の知見を養ってもらうことが重要です。

テレワークに関する就業ルールの策定

多くの会社では、コロナ禍を契機にテレワークを導入したものの、就業規則等のルールでその運用を定めることができていない現状があります。
そこで、テレワークに対応した就業ルールを新たに策定し、その遵守を社員に求めることが会社のとるべき対策の一つとして挙げられます。例えば、オンライン飲み会に関するルール(開催する場合には所定の社内連絡ツールを用いることや二人きりのオンライン飲み会をすることを執拗に誘わない等)を定めることが考えられます。

相談体制の整備

万一、「リモートハラスメント」が発生した場合、社員からの通報に即応できる体制の整備を行うことが必要です。リモートハラスメント事案が発生した場合、会社は申告を行った社員の相談に対応し、事実確認・調査を行い、ハラスメントの事実が認められるのであれば、就業規則に則って適正な手続の下でハラスメントを行った社員に処分を行うことになります。

テレワーク中のセクハラ対策で不安なことがあれば弁護士にご相談ください。

コロナ禍に伴って普及したリモートワークは、柔軟な働き方として便利な面がある一方、「リモートハラスメント」という新たな問題を発生させています。テレワーク中のセクハラ対策でお困りごとがありましたら、是非弁護士にご相談ください。

テレワーク中のセクハラに関するQ&A

1対1のオンライン飲み会に誘うことはセクハラに該当しますか?

業務上の必要がないにもかかわらず、2人きりのオンライン飲み会に執拗に誘うことは、セクハラに該当する可能性があります。例え、業務上の必要性のある飲み会であったとしても、参加者を広く募る等の対応をとることが望ましいと考えられます。

カメラを常時オンにするよう求めることはセクハラにあたりますか?

カメラを常時オンにすることが直ちにセクハラに該当するものとはいえませんが、業務上の必要性がないのに自室の様子を映し出すように執拗に求めたりすると、セクハラにあたる可能性があります。

WEB会議中、従業員の服装や化粧を話題にすることはセクハラにあたりますか?

ウェブ会議中、会議参加者の容貌が表示される場面が多々ありますが、従業員の服装・容貌等に関わることを話題にすることは、セクハラに該当するおそれがあります。

セクハラ防止措置を講じないことによる企業への罰則はありますか?

セクハラ防止措置を講じないことを理由とした罰則規定はありません。
しかし、男女雇用機会均等法上、国は、同法第11条以下に定められた事業主の講ずべき雇用管理上のセクハラ防止措置等が十分に果たされていない等、同法の施行に関して必要があると認めるときには、事業主に対して報告等を求めることができるとされています(同法第29条第1項)。

また、セクハラを受けた社員が、会社に対して民事上の責任を追及することも考えられます。そうすると、罰則がないとはいえ、会社はセクハラ防止措置を講じる必要があるといえます。

ハラスメントが企業経営に及ぼす悪影響について、詳しくは以下のページをご覧ください

テレワーク中にセクハラをしていた社員を解雇できますか?

就業規則において、セクハラをしたことが懲戒事由に含まれているのであれば、テレワーク中にセクハラをした社員に対して懲戒処分を行うことが考えられます。

しかし、テレワーク中のセクハラの一点のみをもって直ちに解雇が認められるわけではありません。
解雇が有効といえるには、解雇権濫用法理の下、当該解雇に客観的合理的な理由があることに加えて、社会通念上の相当性があることが求められますので、個々の具体的ケースに応じて判断していくことになります。

女性社員から男性社員に対する性的な言動もセクハラになるのでしょうか?

セクハラと聞くと、男性社員から女性社員に対する性的な言動等が問題になりがちです。
しかし、件数は少ないですが、女性から男性に対するセクハラや、女性同士又は男性同士のセクハラも事例として存在します。

会社としては、男性社員及び女性社員全員に対し、女性から男性へのセクハラ及び同性同士のセクハラを含めてセクハラをしないよう周知・啓発することが求められます。

セクハラについて、詳しくは以下のページをご覧ください。

セクハラ防止研修を男性社員のみに受講させることは問題ないですか?

セクハラは男性のみが加害者となるものではなく、前述のとおり、件数は多くありませんが、女性から男性に対するセクハラや、女性同士又は男性同士のセクハラも事例として存在します。

そうすると、セクハラ防止研修を男性社員のみに受講させるのは、会社としてセクハラ防止に関する取り組みを十分に果たしていないとみられるおそれがあります。

テレワーク中のセクハラを早期発見するために何か方法はありますか?

相談窓口の設置も方法の一つですが、オンライン会議を録画する等して、テレワーク中のセクハラを防止、早期発見する方法も考えられます。
録画を行うことで、社員からセクハラがあったとの申告があったときに、証拠資料として録画を活用することができます。

リモートセクハラを防止するため、2人きりでの会議を禁止してもよいでしょうか?

2人きりのオンライン会議を禁止することは、リモートセクハラ防止の観点からは有効であるとは考えられますが、過度に2人きりの会議を禁止すると、実際の業務に支障をきたすことも十分に考えられますので、セクハラの疑いがあるような事案では、事前に会社に許可を求めた上で2人での会議を行うものとする方法も一案です。

テレワーク中のセクハラについて、就業規則にはどのようなことを規定しておけば良いでしょうか?

従前の就業規則において、セクハラ禁止の条項が設けられているのであれば、当該条項で禁止される事項にリモートセクハラも含まれることを明示的に定めることが望ましいと考えられます。

また、オンライン飲み会に関連する規定として、オンライン会議後のオンライン飲み会については、参加が任意であること等を明示的に定めることも一案です。

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執筆弁護士

弁護士 榊原 誠史
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
プロフェッショナルパートナー 弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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