カスタマーハラスメント対応について解説

近年、カスタマーハラスメント(略称カスハラ)の件数が増加しています。カスタマーすなわち「消費者」が、商品やサービスを提供している企業の従業員に対して、ハラスメントすなわち「いやがらせ」をすることが増えているのです。 このカスハラによって、商品の評判が落ちたり、他の消費者に対してサービスを提供する機会を失ったりするおそれがあります。また、カスハラ対応により労働者の精神が疲弊してしまい、その程度がひどい場合は退職を余儀なくされることもあります。
それだけではありません。企業は、労働者の生命及び健康等を危険から守るよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っていますので、カスハラを放置してしまうと、企業は、安全配慮義務を怠ったことを理由に、労働者に対して、損害賠償義務を負うリスクが高まります。
ここからは、カスハラを概観したうえで、企業側が行うべき対策等を解説していきます。

目次

企業にはカスタマーハラスメントから社員を守る義務がある

事業主は、ある人と労働契約を結ぶことで、その人と特別な社会的関係に入ることになります。

こういった関係に入った以上、事業主は、労働契約に付随する義務として、労務環境において生じうる危険から労働者を保護するよう配慮しなければならなくなります。

そのため、労働者が顧客や取引先等の外部者から悪質なハラスメントを受けた場合、事業主は、労働者の心身の健康に配慮して行動しなければならなくなります。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

そもそも、カスタマーハラスメントとは何なのでしょうか。

カスタマーハラスメントとは、パワーハラスメントやモラルハラスメントと並ぶハラスメントの一種で、一般的には、「カスハラ」と略されています。カスハラは、消費者や客の立場を利用して、企業に対して、理不尽な要求や謝罪を強要することをいいます。例えば、店員の話し方がなっていないことを理由に、土下座して謝るよう求めたり、コーヒーが熱すぎて舌を痛めたことを理由に、誠意を見せろと言って、多額の金銭を要求したりすること等が挙げられます。

カスハラが増加した背景

カスハラは、どうして増えたのでしょうか。

その原因のひとつとして、SNS等の発達が考えられます。近時、情報発信の機会の増加に伴い、誰もが商品やサービスの評価を行い、すぐに大勢の人に伝達できるようになってきました。そのため、商品やサービスを提供する企業側も、消費者の目を常に気にして、商品やサービスの質に細心の注意を払う必要に迫られるとともに、消費者の権利意識及び要求レベルが高まったことにより、カスハラが増加したと考えらます。

カスハラとクレームはどう違うのか?

カスハラとは、消費者が、事業主に対して、不当又は過剰な要求を押し付けることをいいます。

一方、クレームとは、消費者が、事業主に対して、商品やサービスの至らない点を指摘し、良品との交換や追加サービスの提供を求めることをいいます。

このように、両者の境界線は曖昧であり、両者を明確に区別することはとても難しいと考えられます。

クレームの悪質性を判断する難しさ

クレームは、消費者の事業主に対する期待の表れであり、事業主に迷惑をかけようという気持ちから行われるものではありません。ところが、消費者のキャラクターによって、クレームの態様及び程度が、事業主の経済活動や精神状態に支障を及ぼしうると考えられます。このように、クレームの悪質性を判断すること自体もまた難しいと考えられます。

カスタマーハラスメントについて企業が取るべき対応

マニュアル・対応フローの作成

備えあれば憂いなし。何事も準備をしておけば、何もしていない場合に比べて、良い結果が生まれることが多いと思います。カスハラに対しても同じことが言えます。消費者がカスハラを行う様々なパターンを想定し、それぞれの場面で、労働者がどのように行動すれば良いのかを、予めシミュレートします。

そして、その結果を言語化したもの(マニュアルや対応フロー)を作成のうえ、これを労働者に対して周知しておくことが、カスハラ対策として、必要であると考えられます。

カスハラ対策に関する研修

もっとも、事業主がカスハラ対応マニュアルを作って、労働者に対して周知しただけでは効果は期待できないと思われます。それは、労働者がマニュアルを読まないおそれがありますし、頭では分かるけれども、行動に移せないことも起こりうると考えられるからです。

カスハラ対応マニュアルが機能し、労働者がカスハラを適切に処理できるようにするためには、事業主が労働者に対して、対応マニュアルを説明し、カスハラ消費者を想定した研修を定期的に実施しておく必要があると考えられます。

相談窓口の設置

労働者がカスハラに直面したとき、必ずしも上手く対処できるとは限りませんし、その労働者が、「自分のカスハラ対応が正しいのか…」と不安に思うこともあると考えられます。

そういった場合に備えて、事業主は相談窓口を設置しておく必要があると考えられます。相談窓口に連絡して、専門職員からアドバイスを受けることができれば、カスハラに適切に対処できる機能がアップすることや、労働者の心理的負担を緩和することが期待されるからです。

被害者のストレス対策

カスハラは、大なり小なり、これに対応した労働者の心身にダメージを与えます。事業主は、適切な労働環境を整備して、労働者の心身の安全に配慮しなければなりませんので、カスハラ対応でメンタルヘルスを損ねた労働者を放置してしまうと、事業主の責任問題になりかねません。

そのため、事業主は、労働者がカウンセリングを受ける機会を設ける等、労働者のストレス対策を予め講じておく必要があると考えられます。

カスタマーハラスメントに関する裁判例

事件の概要

原告は、地域の防災訓練に参加するため、会場に向かっている途中、自身が担当するクラスに所属する女子児童を訪問しようと思い、その児童宅に立ち寄ったところ、庭において飼育されていた犬に咬まれ、約2週間の加療を要する傷を負いました。

本件児童の父と祖父は、「賠償しろとは何事だ。」「小学校にはやくざの教師がいるのか。」と言って、原告を責め続けました。校長は、「おまえはちぢこまっていればいいんだ。」と言って、原告の弁解を遮りました。

原告は、約90分間、本件児童の父と祖父に一方的に責められ、土下座をして謝罪しない限り、その場を収められない。」と思い、膝と手を床につけた状態で、頭を下げて謝罪しました。

さらに、校長は、本件児童の父及と祖父が帰った後、原告に対して、明朝、本件児童宅へ行って、本件児童の母に謝罪するよう指示しました。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、校長が、本件児童の父と祖父と面談した際に、被害者である原告に正当な理由なく謝罪を強いた行為は、職務上の優越性を背景に、職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり、原告の自尊心を傷つけ、大きな精神的苦痛を与えたものであるとして、原告の損害賠償請求を認める旨の判断を示しました(甲府地方裁判所 平成30年11月13日判決)。

ポイントと解説

本件は、部下である教師が、児童の父と祖父からカスハラを受けているにもかかわらず、当該カスハラに適切に対応することなく謝罪を強いた校長の行為は、パワーハラスメントに該当すると判断された事例です。事業主が労働者の受けたカスハラを放置し、誤った対応を行うと労働者から責任を問われるおそれがあることを示しています。

職場におけるハラスメントの法改正と企業対応

厚生労働省のカスハラに対する指針

厚生労働省のカスハラに対する指針では、事業主が顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)に関して行うことが望ましい取組として、(1)被害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、(2) 被害者である労働者の心身への配慮のための取組及び(3) 顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組が挙げられています。

防止対策の強化に向けて企業が講ずべき措置

  • (1) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備としましては、①相談先(上司や職場内の担当者等)を予め定め、労働者に周知すること、②①の相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ、適切に対応できるようにしておくことが挙げられています。
  • (2) 被害者への配慮のための取組としましては、事業主が、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させないことが挙げられています。
  • (3)顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組としては、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等及び業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることが挙げられています。

カスハラに関するよくある質問

カスハラ問題で裁判に発展した場合、カスハラの事実を裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?

裁判になった場合、裁判官に対して、カスハラがあったことを伝える必要があります。カスハラ被害を受けた労働者が、過去の記憶を証言する方法が考えられます。また、監視カメラの録画記録、電話の通話記録及びカスハラ加害者とのやりとりを記録したメモ等を提出する方法が考えられます。

悪質なクレームにより、従業員が土下座を強要されました。強要罪に該当しますか?

生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫したり、暴行を用いたりして、人に義務のないことを行わせた場合、強要罪(刑法223条1項)が成立しえます。そのため、消費者が、労働者に対して、「謝罪しなかったら、家族に危害を加える」旨を述べて土下座をさせた場合等には、強要罪に該当しうると考えられます。

カスハラにより従業員がメンタルヘルス不調となった場合、会社はどのような措置を取るべきでしょうか?

上司等が労働者に声をかけ、その心身の状況等を把握し、業務量の調整等で対応できないかを検討し、上司等で対応することが難しい場合は、人事部の専門スタッフや産業医等に対応を引き継ぐ等の措置が考えられます。

客から「家族を傷つけるぞ」等という暴言を浴びせられました。脅迫罪に該当しますか?

親族の生命、身体、自由又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合、脅迫罪が成立しえます(刑法222条2項)。そのため、消費者が労働者に対して、「家族を傷つけるぞ」等と暴言を浴びせた場合、脅迫罪に該当しうると考えられます。

カスタマーハラスメントには毅然とした態度が求められます。ハラスメント問題でお悩みなら、一度弁護士にご相談ください

消費者のどういった言動が犯罪になるのかを知らなければ、カスハラに対して毅然と立ち向かうことは難しいと思います。

加えて、近年の厚生労働省の考えを把握しておかなければ、カスハラに対する有効なマニュアルを策定することも困難を極めるでしょう。

弁護士は、刑法の知識や労働法制の知識を有しておりますので、カスハラ消費者との交渉やカスハラに対応できる制度設計にお力添えすることが可能です。カスハラをはじめ、ハラスメント問題でお悩みでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

執筆弁護士

弁護士 森下 優介
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士森下 優介(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます