フレックスタイム制の遅刻、時間単位年休、半日年休

フレックスタイム制において遅刻という概念は存在するのか、時間単位の年次有給休暇や半日年休を付与する場合にはいかなる点に留意すれば良いのか等、フレックスタイム制を採用している、もしくはこれから採用しようとしている会社では、勤怠管理の点で留意すべき事項が複数あるかと思います。
そこで、フレックスタイム制における遅刻の捉え方や、時間単位年休・半日年休を付与するにあたっての注意点等を中心に解説していきます。

フレックスタイム制に遅刻は存在するのか?

従業員が自分で勤務時間帯を決められる制度であるフレックスタイム制の下で、従業員が「遅刻する」ということは考えられるのでしょうか?

この点を考えるにあたっては、「コアタイム」の設定の有無が重要になります。

コアタイムの有無で判断は異なる

フレックスタイム制は、勤務する時間帯を従業員個々人の選択に任せるものなので、遅刻という概念は考えられないようにも思えます。しかし、フレックスタイム制において、コアタイム、すなわち必ず勤務しなければならない時間帯を定めている場合には、従業員は少なくともコアタイム中は勤務していなければならないので、コアタイムの開始時刻までに出社していなければ遅刻ということになります。

コアタイムの遅刻に対して賃金控除は可能か?

コアタイムを設定している場合には、従業員も遅刻し得ますが、遅刻した時間分の賃金を控除することはできるのでしょうか?

ノーワーク・ノーペイの原則がある以上、欠勤控除が可能であるようにも思えるため問題になります。

欠勤控除については下記の記事で説明しています。

総労働時間を満たしていれば賃金控除はできない

フレックスタイム制においてコアタイムを設けている場合で、コアタイムに出社していなかった、すなわち遅刻した従業員がいたとしても、当該従業員が1ヶ月の総労働時間を満たしているのであれば、賃金控除をすることはできません。

1ヶ月の総労働時間を考えるにあたっては、清算期間の設定を確認する必要があります。

コアタイムの遅刻には減給処分等のペナルティを設ける

総労働時間を満たしており、コアタイムの遅刻による賃金控除をすることができない場合であっても、就業規則に「正当な理由なくコアタイムに遅刻した場合には減給処分をする」旨が規定されていれば、総労働時間とは関係なく、コアタイムに遅刻した従業員にペナルティを与えることができます。

コアタイムに遅刻することへのペナルティが何もなければ、コアタイムを設けた意味が失われるおそれがあるので、会社の秩序を維持するためにも、ペナルティを設けることは有用であると思われます。

ただし、減給等の懲戒処分を行うためには就業規則等への規定が必要です。詳細については下記の各記事で説明します。

フレックスタイム制でも年次有給休暇の時間単位や半日単位付与は可能か?

1日の所定労働時間の定めがないフレックスタイム制を採用する場合、年次有給休暇を時間単位や半日単位で付与することができるのか、疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますので、次項以下で解説していきます。

なお、年次有給休暇を時間単位・半日単位で付与することをお考えの方は、下記の記事も併せてご覧いただくことをおすすめします。

時間単位年休・半日年休を付与するための条件

特段の定めがない場合には、そもそも時間単位・半日単位での有給休暇を付与することはできません。時間単位(分単位は認められません。)での有給休暇、もしくは半日単位での有給休暇を付与するためには、就業規則への規定と労使協定の締結が必要となります。

詳しい手続に関しては、下記の記事をご覧ください。

フレックスタイム制における時間・半日単位年休の時間数

フレックスタイム制においては1日の所定労働時間が決まっていません。

そこで、フレックスタイム制において時間単位もしくは半日単位の有給休暇を付与する場合には、1日分の有給休暇が何時間分に相当するのかを定める必要があります。これは、当該有給休暇の賃金を算定する上でも重要です。

下記の記事の該当部分も参考にしていただけます。

詳しい手続に関しては、下記の記事をご覧ください。

フレックスタイム制の時間・半日単位年休はどの時間に充当すべきか?

フレックスタイム制では、コアタイム以外のフレキシブルタイムについて、従業員が出社及び退社時刻を決めることができるので、コアタイムに時間単位もしくは半日単位の有給休暇を充当すべきものと考えられます。

フレックスタイム制の勤怠に関する裁判例

ここで、より理解を深めるために、フレックスタイム制の勤怠に関して争った裁判例をご紹介します。

事件の概要

コアタイムのないフレックスタイム制を採用している会社において、午前9時過ぎに出社する場合には会社に電話するよう指示されていたにもかかわらず、ある従業員が会社に連絡をせずに午前9時過ぎに出社することを繰り返したため、午前9時には出社するという誓約書を書かせたものの、その後も勤務態度が不良であったため、当該従業員を解雇した事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、以下のとおり判示し、フレックスタイム制である会社においても業務を適切に遂行する必要から、午前9時までに出勤しない場合には会社に連絡するよう業務命令を発していたことを認定しました。そのうえで、会社と従業員との間で、毎日午前9時には必ず出勤し、いかなる理由があっても遅刻しない旨が記載された誓約書が存在することも認定しました。

被告は、……コアタイムなしのフレックスタイム制を導入し、出退勤時間を従業員の自主管理にゆだねたが、その後も……被告の営業時間には従前と変更がなかった。このため、被告は、特に顧客との関係で、組織として業務を適切に遂行する必要から、営業が開始する午前九時までに出勤しない場合には出勤時刻を前もって会社に連絡するよう、全従業員に対して指示していた(右指示は、フレックスタイム制の導入に伴って被告が従業員に対して命じた業務命令に当たるものと解される)。しかし、原告は、営業担当者を介し又は直接に顧客と接触することが多いアプリケーション業務に従事していたのに、午前九時までに出勤しない場合に出勤時刻を前もって会社に連絡することをほとんどせず、しかも、午前九時までに出勤しないことが常態化していて、昼近くになってようやく出勤することも多いという出勤態度を続けていた。
引用元:東京地方裁判所 平成8年(ワ)第20054号 雇用関係存在確認等請求事件 〔日本エマソン事件〕 平成11年12月15日

裁判所は、最終的に解雇を有効と認めたものの、午前9時までに出勤していない点については、「コアタイムないしのフレックスタイム制を採用している以上、このような誓約項目を記載しても原告に無遅刻を義務付けることはできないものと考えられるから、午前九時までに出勤しなかったこと自体は、何ら非難されるべき事柄ではなく、これを理由として不利益な処遇を受けるべきものではない」と判示しています。

ポイントと解説

本件は、勤務態度不良の従業員に対し、午前9時以降に出勤する場合には会社に連絡するよう指示していたにもかかわらず、これを怠り顧客等に多大な迷惑をかけたといった事情があったため、会社と当該従業員との間で、午前9時には必ず出勤する旨の誓約書を締結したものです。

しかし、午前9時には会社に出勤するという従業員との個別の合意があったとしても、フレックスタイム制を採用している以上は無遅刻を義務づけることはできないので、午前9時までに出勤しなかったことに関して従業員に不利に判断すべきものではないとしている点で、参考となる裁判例です。

フレックスタイム制の勤怠管理で不明点があれば、一度弁護士にご相談ください

フレックスタイム制における勤怠管理は、様々に交錯する制度をよく理解したうえで、適切な仕組みを構築しなければならないため、なかなか大変です。また、個々の従業員の労働時間等を正しく把握できていなければ、遅刻に伴う減給処分を適切に行うこともできませんし、残業代の未払い等が発生してしまうおそれもあります。

フレックスタイム制は、無駄な残業を減らし、生産効率を上げられる可能性がある点で有用な制度であり、働き方改革の結果、導入する企業も増えてきていますが、メリットが大きい分、導入や運用にあたっては煩雑な手続が必要になります。

自社に導入すべきかお悩みの方や、実際に導入しており問題が発生してしまった方は、お気軽に弁護士にご相談ください。

執筆弁護士

弁護士 田中 真純
弁護士法人ALG&Associates 弁護士田中 真純

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます